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子どもと学習対象との間で育まれる主体的な学び

ドキュメント内 第1章 移動する子どもたちとことばの教育 (ページ 81-101)

第3章、第4章では子どもが支援者や周囲の子どもたちといった他者と関わる中で主体 的な学びがどのようにして育まれていくかを検討した。一方で、子どもが主体的な学びを 育んでいく過程には、他者との関わりの中で学びを育んでいくというプロセスと並行して、

子ども自身が学びと向き合いながら学びを育んでいくプロセスが存在すると考えられる。

そのため、主体的な学びを育んでいく上で子ども自身はどのように学びと向き合っていく のかを明らかにしたいと考えた。そこで本章では、第3章で対象とした移動する子どもV を再度取り上げ、V自身の学習への関わり方の変容過程から主体的な学びを探っていく。

まず、5-1.では、ことばの学びにおいて子ども自身が学びと向き合いながら学びを育んで いくプロセスがなぜ重要であるのかを理論的知見をもとに論じる。そして5-2.では、筆者 がVに対して行った主体的に学習に参加していくためのことばの支援を取り上げ、支援の 中でVがどのように学びと向き合い、どのようなプロセスを経て学びに主体的に関わるよ うになっていったのかを明らかにする。最後に、5-3.では、子ども自身が学びに向き合う 中で主体的な学びがどのようにして育まれていくのかを本章の議論を踏まえて考察する。

5-1. 子ども自身が学びと向き合うプロセスと主体的な学び 5-1-1. 自分なりの学びを育んでいくプロセスの重要性

そもそも、子どもたちが主体的な学びを育んでいく上で、子ども自身が学びと向き合い ながら学びを育んでいくプロセスはなぜ重要なのだろうか。そこで以下では、移動する子 どもたちの持つ特徴である「成長・発達」と「移動」というキーワードから、子ども自身 が学びと向き合いながら学びを育んでいくプロセスの重要性を論じる。

佐伯(1995)は、学習を極めて個人的なレベルから捉えなおすことを提案している。それ によれば、学習とは「自分探し」であり、自分とは何者であるかが自覚的に明確になるこ と、すなわち「アイデンティティ形成」であるという(佐伯1995:9)。そして、学習は実 践の共同体に参加し、共同体の他の参加者たちとやりとりをする中で自分を探していくこ とに他ならないという。他者とのやりとりを通して自分自身を探していくこと、つまり人 としてのアイデンティティを形成していくことこそが学習なのである。つまり、佐伯のい う学習とは、別の言い方をするならば、人間形成としての学習ともいえるではないだろう か。人として成長・発達の途上にある子どもたちにとって、人間形成としての学びという

視点は重要であろう。また、人間形成としての学習においては、教師や仲間たちは子ども たちの自分探しを支え、橋渡しをする存在として不可欠な存在ではあるものの、最終的に はそれぞれの子どもが自分なりの学びを築いていくことが求められている。

次に、移動する子どもたちの持つもう一つの特徴である「移動」と学びの関係に目を移 してみたい。国境や文化を超えた人々の移動が日常化する中、Kramsch(1993,1998)は、

外国語教育を文化の境界を越えてアイデンティティを構築していく営みとして捉え直して いる。そして、言語教育の中で目指すのは、学習者が目標言語の話される社会で規範とさ れる言語や文化行動のパターンに単純に従ったり、「母語話者のように」話したり行動した りすることではなく、自分がその社会の中でどのような目標を達成しようとしているのか ということに合わせて言語や行動を「自分のものにしていく(to appropriate)」ことである といい、それは、学習者がそれまで育ってきた母語・母文化と新たに参入しようとする社 会の言語・文化との間で、自己の独自の「第三の場所(third place)」を創造していくこと であるという(Kramsch1993:1-14,233-259/矢部訳2007:56)。なお、「第三の場所」とは、

自分のそれまで持っている母語・母文化と新たに参入しようとする社会との間で見つけ出 す自分なりの場所を指し、学習者が与えられた知識を自分の目的のために使い、自分自身 の意味を創り、自分自身との関係を創っていくことである(Kramsch1993: 233-259)。し かし、第三の場所がどこにありどんなものなのかは、教師はもとより本人以外のだれにも わからず、それを意味づけること自体が学習者の主体的な営みであるという(矢部

2007:58)。国や文化、言語の間を移動している子どもたちは、まさにこのような二つない

しはそれ以上の世界の狭間におかれ、その中で自分自身の第三の場所を見つけ出していく こと、すなわち学びに対して自分なりの意味づけをし、自分なりの学びを築いていくこと が日常的に求められているのではないだろうか。そして、この学びに対する自分なりの意 味づけの過程こそが子どもたちの主体的な学びを左右していると考えられる。

以上の二つの議論に共通するのは、学習において、学習者が自分なりの学びを育んでい くプロセスの重要性である。つまり、学習者は周囲の他者や環境とのやりとりの中で学び に主体的に関わっていくための足場を築いていくのと同時に、自分自身で学びと向き合い、

自分なりに学びを育んでいくプロセスが求められているのである。では、このような学び 手自身が学びと主体的に向き合っていくプロセスは、これまでことばの教育の中でどれほ ど注目されてきたのだろうか。

5-1-2. 子ども自身の学びのプロセスに注目する必要性

近年、成人に対する日本語教育の分野を始めとするさまざまな分野において見られる学 習パラダイムの転換には、学習者を教師の与えた知識をそのまま受け取る受身的な存在で はなく、周囲の他者との意味のあるやりとりを通して能動的に学びを構成していく存在と して捉えようとする兆しが見られる。また、発達心理学の見地から子どものことばの発達 過程を追った岡本(1982)は、子どもはことばを発達させる過程で周囲からの刺激をそのま ま受け入れていくのではなく、自らの能動的な活動を通して必要なものを判断して取り込 んでいく存在であることを強調している。そして、子どもの能動的な関わりこそがことば の発達を生み出すのだと主張する。つまり、子どものことばの発達において、周囲の母親 などからの働きかけは不可欠であるものの、それと同時に、幼い子ども自身が自分の意思 で能動的に学びを構成していく過程が重要であることがわかる。

一方、年少者日本語教育研究では、1990年代後半ごろから日本語支援を通して子どもた ちに学習に参加するためのことばの力を育てていく重要性が認識されるようになり、学習 に参加するための日本語支援の方法が教師や支援者の間で模索されてきた。そして、日本 語学習と教科学習を統合的に教える「内容重視アプローチ」(齋藤1999)や子どもたちの 母語を活用して日本語学習と教科学習を統合させるアプローチ(朱2003)、また在籍学級 の参加に向けた足場を与えていくスキャフォールディングの実践(Gibbons2002)などが 効果的な支援方法として提示されてきた。これらの支援方法は子どもたちのことばの教育 を行う上での具体的な道筋や方法を教師や支援者に向けて提示しているという点で、子ど もたちのことばの教育に大きな貢献を果たしてきた。しかし一方で、教師や支援者が創り 上げる言語教育実践に子どもがどう関わっていくのか、すなわち、子ども自身の学びへの 能動的な関わりの様相やプロセスについては、これまでの年少者日本語教育研究において 十分に議論されてきたとは言い難い状況にある。子どもたちのことばの発達が周囲からの 働きかけとともに、子ども自身の能動的な働きかけの中で生じていることを考えると、こ とばの学びを捉える上で、単に教師や支援者の視点からの議論だけではなく、子ども自身 が学びをどう捉え、学びとどう向き合い、どのような学びを創っていくのかという子ども 自身の学びのプロセスに注目していくことが不可欠であろう。

5-1-3. 本章の目的

そこで、本章では、主体的な学びを育んでいく上で、子ども自身はどのように学びと向

き合っていくのかを明らかにすることを目的とする。具体的には、第3章で対象とした移 動する子どもVを再度取り上げ、筆者がVに対して行ってきた主体的に学習に参加してい くためのことばの支援の中でVがどのように学びと向き合い、どのようなプロセスを経て 学びを自分のものとし、学びに主体的に関わるようになっていたのかを明らかにしていく。

なお、以下本論に出てくる支援の内容やVの学びの様子の記述には第3章の記述と重な る部分があるが、それぞれの考察の視点は以下のように異なっている。第3章では、支援 者と子どもの間で生まれることばの学びに注目し、支援者がどのようなことばの学びをデ ザインしたのか、そしてそこでVがどのようなことばの力を育んでいったのかを述べてい る。つまり、「支援者と V の間で主体的な学びが育まれるプロセス」に焦点を当てたもの となっている。一方、第5章では同じように支援者のことばの支援の様子を扱ってはいる ものの、支援の中で V 自身がことばの学びをどう捉え、学びにどう関わっていったのか、

つまり「Vと学習対象との間で主体的な学びが育まれるプロセス」に焦点を当てて考察を 行っていく。

5-2. 「意味創り」を目指したことばの支援

本節では、筆者が行ってきた支援の中でVがどのように学びと向き合い、学びに主体的 に関わるようになっていたのかを明らかにするため、支援者が行った支援の概要および、

そこでのVの学びの様相を示していく。まず、5-2-1.では、筆者がVに対する支援方法を 模索し、「意味創り」に注目したことばの支援をデザインするに至った背景を述べる。その 後、5-2-2.では「意味創り」を目指したことばの支援の概要およびそこでのV のことばの 学びの様相を具体的な事例を交えながら論じる。そして最後に5-2-3.で、支援を通してV にどのような学びが見られたのかを考察する。

5-2-1. 学習への主体的な参加を可能にするもの―「意味創り」への注目―

Vが主体的に学習に参加していくことを目指した支援は簡単なものではなかった。まず 始めに筆者がぶつかった壁は、どのような支援を行えばVの主体的な学びを支えていける のかという課題だった。そこで本節では、筆者がVの支援方法をめぐって模索していた時 期、そして、その過程の中で「意味創り」という支援の方向性を見出すに至ったきっかけ について述べる。

日本語がほとんど話せない状態で学校生活を始めることとなったVは、学校生活が始ま

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