49
3.1 はじめに
本章では、今後の高齢社会の到来を見据え、大規模再開発に伴う容積率の緩和 等によって建築物が大規模化・超高層化する都市において、その場に居合わせた 高齢者等の心肺停止などの重症事案に備えるため、大規模・超高層化した建築物 への救急の現場到達所要時間に関して、(1)計算式の構築、(2)分析・評価を行う。
なお本章は、著者による口頭発表1),2),3)を発展させたものである。
3.2 本章の背景
平成 24 年中の東京消防庁救急隊の出場件数は 741,702 件で、前年と比べ 17,266件、2.4%増加し、救急搬送人員は649,429人で前年と比べ11,336人、
1.8%増加し、ともに救急業務を開始した昭和11年以来、過去最高となっている
注1)。特に、75歳以上の後期高齢者の搬送が前年より、15,583人も増加注2)、出 場から現場建物到着に要した時間(以下「レスポンスタイム」という。)も、前 年より25秒増え、平均7分35秒、また、出場場所から現場建物までの距離は、
2.40㎞から2.50㎞と約100m延伸したことにより、時間と距離が前年比約4% 増加している注 1),注 2), 4)。
レスポンスタイムの増加傾向と相まって、特に、高齢者の救急事案で重症以上 の者が増加している。平成 18年から5年間で救急搬送された約25万人の初診 時程度別では、4 割以上の人が入院が必要とされる中等症以上と診断されてい る。その内さらに、重症以上(重症 5,006 人、重篤 3,217 人、死亡1,319 人)
9,542人は、全体248,758人に対して 3.83%を占めている注 3)。また、東京都統 計局の年齢別人口推移では、高齢者の人口は、平成22年に約264万人であった ものが年々増加し、25 年後の平成47 年には約 1.4倍の 337万人となる。平成 18年から平成23年までの5年間をみると、高齢者の事故は年々増加している。
平成 18 年には、高齢者の救急搬送は 45,368人であったものが、5年後の平成 23 年には1万人以上増加し、56,512 人が救急搬送されている。このことから、
高齢者の人口増加に比例し、日常生活での事故で救急搬送される高齢者も増加 すると仮定すれば、平成47年には高齢者の救急搬送人員が約7万人となると推
3.1 はじめに
本章では、今後の高齢社会の到来を見据え、大規模再開発に伴う容積率の緩和 等によって建築物が大規模化・超高層化する都市において、その場に居合わせた 高齢者等の心肺停止などの重症事案に備えるため、大規模・超高層化した建築物 への救急の現場到達所要時間に関して、(1)計算式の構築、(2)分析・評価を行う。
なお本章は、著者による口頭発表1),2),3)を発展させたものである。
3.2 本章の背景
平成 24 年中の東京消防庁救急隊の出場件数は 741,702 件で、前年と比べ 17,266件、2.4%増加し、救急搬送人員は649,429人で前年と比べ11,336 人、
1.8%増加し、ともに救急業務を開始した昭和11年以来、過去最高となっている
注1)。特に、75歳以上の後期高齢者の搬送が前年より、15,583人も増加注2)、出 場から現場建物到着に要した時間(以下「レスポンスタイム」という。)も、前 年より25秒増え、平均7分35秒、また、出場場所から現場建物までの距離は、
2.40㎞から2.50㎞と約100m延伸したことにより、時間と距離が前年比約4% 増加している注 1),注 2), 4)。
レスポンスタイムの増加傾向と相まって、特に、高齢者の救急事案で重症以上 の者が増加している。平成18年から5年間で救急搬送された約 25万人の初診 時程度別では、4 割以上の人が入院が必要とされる中等症以上と診断されてい る。その内さらに、重症以上(重症5,006 人、重篤 3,217 人、死亡 1,319人)
9,542人は、全体248,758人に対して 3.83%を占めている注 3)。また、東京都統 計局の年齢別人口推移では、高齢者の人口は、平成22年に約264万人であった ものが年々増加し、25年後の平成 47年には約 1.4倍の 337万人となる。平成 18年から平成23年までの5年間をみると、高齢者の事故は年々増加している。
平成18 年には、高齢者の救急搬送は 45,368人であったものが、5年後の平成 23 年には1万人以上増加し、56,512 人が救急搬送されている。このことから、
高齢者の人口増加に比例し、日常生活での事故で救急搬送される高齢者も増加 すると仮定すれば、平成47年には高齢者の救急搬送人員が約7万人となると推
測される注 3)。
一方最近では、救急隊が現場建物に到着した後の建物内での移動距離・時間が 大規模化・超高層化によって増加していると考えられる。現代日本の巨大都市に おいては、建設技術の進歩、容積率緩和などに伴う大規模再開発などによって建 築物の大規模タワー化・タウン化が進展している。第1章で述べたように、東京 都内だけでも 10階以上の建築物は過去 10年間(1999年から2009 年)で 1.6 倍に増加し,このうち30階以上は3.4倍に増加している5)。
また、オフィスビルの就業者は、1人当たり 10から 20㎡程度を利用すると されており、15 万㎡のオフィスがあれば約1万人がその中で働いていることに なる。さらに、超高層オフィスは他の機能との複合化が進んだものであるケース
が多い 6),7)。このことから、大規模タワー化・タウン化した建築物内での、救急
の現場建物内の現場到達所要時間(救急の場合は傷病者接触時間、以下「トラベ ルタイム」という。)に対する距離・時間が伸びていると懸念される。
大規模タワー化・タウン化による移動距離・時間の増加に関する既往研究の例 としては、第2章で述べた通り、次のものが挙げられる。腰塚ら8),9)は、新宿副 都心において垂直、水平方向移動時間を実測している。佐藤ら 10)によるコンパ クトシティへの都市空間分析では、エレベーター使用による垂直方向の移動距 離の増加を指摘し、超高層建築物が林立する市街地に円柱モデルを適用して、見 た目と実際の移動距離の差が非常に大きくなることを明らかにした。これらか ら、「大規模・タワー化・タウン化」における三次元的都市空間における災害ポ テンシャル面での災害発生リスクの増加が懸念される。
以上、超高齢化と大規模タワー化・タウン化に対応した垂直、水平方向の移動 距離・時間の増加に対応した救急対策が不可欠である。
3.3 本章の目的
上記より本章では、都市の安全・安心に関する都市施設の基礎的研究とし て、大規模タワー化・タウン化した建築物内での、トラベルタイムの分析を進 める。
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東京消防庁の統計上の現場到達所要時間は、レスポンスタイムであり、トラ ベルタイムまでのデータ計測は行っていない。なお、救急隊の小隊活動記録表 において、救急隊等が傷病者に接触するまでの時間注4)傷病者接触時間を記録 しているが非公式である。同時に東京消防庁では、「PA連携活動」注5)を平成 12年4月1日から開始して救急隊等が傷病者に接触するまでの時間の短縮化 を図っている。
以上を踏まえ本研究では、大規模タワー化・タウン化した建築物における、
到達時間に着目する。このために現場到達所要時間をレスポンスタイムとトラ ベルタイムに分けた場合、特にトラベルタイムが持つ特質を明らかにするため に、建築物内の垂直・水平移動時間を評価する方法を開発する。さらに、本研 究では、安全性を高めるための緩衝装置(以下「都市装置注6)」という。)とな る公共サービスの拠点の在り方も検討する知見を得ることを目標としている。
トラベルタイムに着目するのは、次の理由による。レスポンスタイムについて は、上記の通り東京消防庁のデータの集計結果が公表されている。また、多数 の既往研究11),12),13),14),15)があり、その性状の予測は必ずしも困難ではない。一 方で、トラベルタイムは、前述の腰塚ら8),9)による超高層建築物の移動時間分 布の研究において、建物内部における垂直移動時間でのエレベーターの性能と 待ち時間の影響が指摘されており、大規模タワー化・タウン化の影響を直接的 に受けると考えられる。従って、本章では、救急時の傷病者発生に着眼して、
この影響の定量化を試みる。
3.4 方法の枠組み 3.4.1 概要
前述の課題解決に資するため、実際の対象都市施設を選定し、実態調査を経て、
トラベルタイムを左右する要因のうち重要と判断されるものを指標化して、分 析・評価を行い、改善に貢献しうる指標の提案に結びつける。特にここでは、都 市装置として、非常用エレベーター(以下「非常用EV」という。)を活用した場 合の垂直移動の時間に着目する。さらに、水平方向の平均移動時間を簡明に算出
東京消防庁の統計上の現場到達所要時間は、レスポンスタイムであり、トラ ベルタイムまでのデータ計測は行っていない。なお、救急隊の小隊活動記録表 において、救急隊等が傷病者に接触するまでの時間注4)傷病者接触時間を記録 しているが非公式である。同時に東京消防庁では、「PA連携活動」注5)を平成 12年4月1日から開始して救急隊等が傷病者に接触するまでの時間の短縮化 を図っている。
以上を踏まえ本研究では、大規模タワー化・タウン化した建築物における、
到達時間に着目する。このために現場到達所要時間をレスポンスタイムとトラ ベルタイムに分けた場合、特にトラベルタイムが持つ特質を明らかにするため に、建築物内の垂直・水平移動時間を評価する方法を開発する。さらに、本研 究では、安全性を高めるための緩衝装置(以下「都市装置注6)」という。)とな る公共サービスの拠点の在り方も検討する知見を得ることを目標としている。
トラベルタイムに着目するのは、次の理由による。レスポンスタイムについて は、上記の通り東京消防庁のデータの集計結果が公表されている。また、多数 の既往研究11),12),13),14),15)があり、その性状の予測は必ずしも困難ではない。一 方で、トラベルタイムは、前述の腰塚ら8),9)による超高層建築物の移動時間分 布の研究において、建物内部における垂直移動時間でのエレベーターの性能と 待ち時間の影響が指摘されており、大規模タワー化・タウン化の影響を直接的 に受けると考えられる。従って、本章では、救急時の傷病者発生に着眼して、
この影響の定量化を試みる。
3.4 方法の枠組み 3.4.1 概要
前述の課題解決に資するため、実際の対象都市施設を選定し、実態調査を経て、
トラベルタイムを左右する要因のうち重要と判断されるものを指標化して、分 析・評価を行い、改善に貢献しうる指標の提案に結びつける。特にここでは、都 市装置として、非常用エレベーター(以下「非常用EV」という。)を活用した場 合の垂直移動の時間に着目する。さらに、水平方向の平均移動時間を簡明に算出
する方法を提案する。
3.4.2 対象施設及び実態調査からのモデル建築物の構築
(1)対象施設、建築物及び実態調査
対象施設としては、東京都港区内の大規模超高層建築物が多数立地する地区 及び大規模超高層建築物と隣接都市施設が大規模タワー・タウン化した都市空 間を選びその内部の4棟の超高層建築物に着目した。実態調査として、①配置図
(緊急車両のアクセス位置がわかる図面)、②非常用EVの性能(台数、定格速 度、加・減速度)、③避難階・基準階の平面図(コアタイプ、非常用EV位置)、
④立面図・断面図を分析しながら、現地調査を実施した。さらに、これらの建築 物について、救急事故が発生した場合の非常用EVの運用について、施設関係者 にヒアリングを行った。結果を表3-1に示す。
表3-1 実態調査結果
建築基準法令では、通常及び非常用EVを問わず、定格速度60m/min以 建物
名称
建築・
延床面 積(㎡)
地下/地 上階数
軒高 (m)
構造 築年
非常用 EVの救 急時運
用
非常用EV台数、
定格速度、加・
減速度
A 16,169 379,451
6/54階 231.750
S造(柱CFT)・
一 部 SRC 造 ・ 制 振構造
2003 有 4基、210m/min 0.8・0.8m/s2
B 7,357 217,752
4/43階 196.360
S 造 ・ 一 部 SRC
造・RC造 2004 有 2基、240m/min 0.7・0.7m/s2
C 3,546 79,819
4/38階 161.000
S造(柱CFT)・
一部SRC・RC造 2003 有 2基、180m/min 0.85・0.85m/s2
D 2,388 47,274
4/24階 109.850
S 造 ・ 一 部 SRC
造・RC造 2003 有 2基、150m/min 0.85・0.85m/s2