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日本語教材

  【音声・聴解】

コースデザイン ひとくちメモ

     『留学生のためのアカデミック・ジャパニーズ 聴解 中級/中上級/上級』

東京外国語大学

坂本 惠 中村則子 田代ひとみ 大木理恵 1.教材のねらいと特徴

 この教材はアカデミック・ジャパニーズの聴解能力を伸ばすことを目的としたもので、中級、中上 級、上級の 3 冊構成になっています。

 聴解教材もいろいろなものがありますが、この教材は試験などでよく見られるような会話を聞いて選 択肢から答えを選ぶといったタイプのものとは全く異なります。アカデミック・ジャパニーズとタイト ルにあるように、大学などの場面での日本語の力をつけることを目標にし、中級段階からその力を徐々 につけていくことを目指した教材です。そのため、聞くのは会話ではなく、まとまった内容があり、話 し手が一人で話している「独話」です。日本人同士の会話を傍らで聞くことは現実的ではありませんし、

実際の会話場面であれば聞き返すなど、聞き取りの力以外のスキルも活用することができますが、講義 を聴くといった独話の聞き取りは、ただ流れていく音声を自分で処理して内容をつかむことになるため、

かなり難しいものだと言えます。アカデミックな場面ではこのような聴解力が必要とされています。

 この教材の特徴は以下のようにまとめられます。

1)内容のおもしろさ 

 聞いた後で、おもしろかった、あるいは、聞いてためになったと思えるような内容になるよう配慮し ました。本文のテーマは日本文化から社会問題、自然科学まで、多岐にわたっています。

2)要約

 聞いた内容を自分のことばでまとめさせる要約の問題を設けました。聞いてわかったことを再構 成させることにより、理解をより深めます。中級レベルで聞いた内容の要約を書かせるのは難しい と考える方もいるかもしれませんが、テキストの初めの数課は、穴埋めの要約問題、その後は書く べきポイントを確認した上で要約を書かせるというように、段階的に要約の方法を学んでいきま す。また、ノートや表のかたちで内容をまとめ、文章全体の構成を考えさせる問題も作りました。

3)見ながら聞く練習

 この教材では、スライドを見ながら聞く課を作りました(15 課のうち 5 課程度)。最近はパワー ポイントのような資料を見ながら講義を聞くことが多くなってきました。聞くだけならよく聞ける のに、見ながら聞くと聴解力が落ちてしまう学習者もいます。そこでこの教材では、視覚情報も利 用しながら聞く練習を採り入れました。テキストの最後にもスライドが載っていますが、教室に PC とプロジェクタがあれば、それを使って実際の講義のような聴解練習ができますので、是非試 していただきたいと思います。スライドはウェブサイトからダウンロードできます。

2.教材の使い方 基本的な使い方は以下の通りです。

  1 イラストを見ながらウォーミングアップ(聞く前に)

  2 2 回聞いて〇×問題でだいたいの内容をつかむ(問題 A)

  3 少し詳しく内容について確認する(問題 B)

  4 要約に書くべきポイントを確認してから要約を書く(問題 C)

  5 最後に全体の構成を確認する(問題 D)

  6 内容についてディスカッション(話し合い)

 以上が基本的な授業の流れです。問題 A、問題 B、問題 C の問題に各自答 えた後は、全体で答えをチェックする前に、各自2,3人で答えをチェック させることをおすすめします。この時に学習者は自分の聞けなかったことを 教えてもらったり、わかったことを教えたり、それぞれの答えが違う場合は どちらよいか話し合ったりして、理解を深めていきます。この教材を使った コースが終了した後、学習者にどんなことがよかったかを聞くと、この話し 合いが役に立ったという声が多く出ていました。

 しかし、この通りでなくても、学習者のレベル、状況に合わせて自由にお使いいただければと思いま す。力のある学習者や、上のレベルで使う場合には、問題A、またはBの後、すぐ要約を書かせてもか まいませんし、問題Dの構成表やノートをテキストを見せずに自分で書かせることもできると思いま す。逆に力が十分でない学習者であれば、要約問題や表の問題はやらずに、問題 A、B のみを使い、内 容を十分に確認することを授業の中心においてもいいと思います。

 ただ、事前に語彙リストを用意して、すべての単語がわかっている状態で聞くというようなことは避 けていただきたいと思っています。この教材は、少しくらいわからないところがあっても、考えたり、

調べたり、あるいは話し合ったりして自力で大まかな内容をつかむことを一つの目的としています。実 際の生活の中で聞く日本語は、すべての単語がわかる、ということはあり得ません。わからないことを どうやって補うか、わかるところからどう組み立てていくかが、一つの勉強になります。

 また、別冊の答えと同じ要約を書かせることも強要しないでいただきたいと思います。別冊にあるも のはあくまでも例で、要約や表にもいろいろな書き方があります。どこを中心に書くか、どのように表 現するか、学習者によって違うことをお互いに確認させることもできると思います。数人の学生の要約 を読ませて、どの要約がいいか、話し合うこともできます。実際にすばらしい要約を書く学生もいるの です。学習者の書いたものを大事にしていただきたいと思います。ただ、実際に書かせてみるとびっく りするような誤解をしている場合もあるので、要約を書く作業はできれば授業中に行うことをおすすめ します。

 その他、この本文を口頭発表のスピーチの手本、モデルとして使って、構成表や整理ノートを使って 別の内容でアウトラインを書かせ、スピーチにつなげることもできます。本文の内容を使って、いろい ろディスカッションさせるだけでも楽しいと思います。工夫してお使いいただけたらと思っています。

 各課の最後に「聞き取りのポイント」として、聞く際のヒントをのせてあります。アカデミック・

ジャパニーズの聞き取りの参考にしていただければと思います。これは授業で扱わなくても、学習者に 読んでおいてもらうだけでもいいでしょう。

 また、この教材は、スリーエーネットワークに申し込めば試験として使える問題を提供しています。

聴解問題は自作が難しいので、試験問題として是非使っていただきたいと思います。各冊に中間試験、

期末試験用に 2 題用意してあります。

 以上のように、いろいろ発展的な使い方のできる教材だと思いますので、是非使ってみてください。

*『留学生のためのアカデミック・ジャパニーズ 聴解 中級』では全体の構成を確認する練習が「問 題 C」、要約を書く練習が「問題 D」となっています。