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大動脈疾患

ドキュメント内 digest_sentensei_0218*.indd (ページ 41-45)

5.1.1 はじめに

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト手術は,

1991

年の

Parodi

らの論文により世界的注目を浴びた19).その 後の研究により,手術のデバイスおよびデリバリーシステ ムが開発された.近年の臨床経験では,腹部大動脈ステン トグラフト内挿術(

endovascular aortic repair; EVAR

)は

open surgical repair

OSR

)より安全かつ低侵襲な治療で あると評価されている380).わが国においても

2007

4

月 に企業製造の腹部用ステントグラフトが,

2008

3

月に 企業製造の胸部用ステントグラフトが薬事承認・保険収 載され,現在に至るまで急速に普及しつつある.ステント グラフト手術の施行に際しては,日本ステントグラフト実 施基準管理委員会が,施設基準,実施医基準,指導医基準 を設定し,使用したグラフトは全例登録され,かつ追跡調 査が義務づけられている.

5.1.2

解剖学的適応(表21)

a.上行大動脈瘤

上行大動脈瘤に対する血管内治療の適応は,現在のと ころない.上行から弓部に至る広範囲の弓部大動脈瘤 に対しては,上行から弓部大動脈を人工血管に置換し,

末梢側にステントグラフトを追加する術式[オープンス テントグラフトあるいは

elephant trunk

TEVAR

thoracic endovascular aortic repair

:胸部大動脈ステントグラフト 内挿術)]が可能である.

b.弓部大動脈瘤

広範囲弓部大動脈瘤にストレート型市販グラフトを用 いる場合は,上行大動脈から弓部分枝への人工血管を使用 した(非解剖学的)バイパス手術を併用したハイブリッ ド治療(

debranch TEVAR

)が有用とされている381–385). わが国では弓部遠位に限局する動脈瘤に対して治療が可

5.

後天性大血管疾患

人工弁

図9 経皮的大動脈弁周囲逆流閉鎖術

赤矢印はシースとデバイスの挿入方向を示す.大動脈→左室を経 由して大動脈弁輪にあるparavalvular leakに到達する逆行性アプ ローチ(大動脈弁経由).

能になる開窓型ステントグラフト(

fenestrated stentgraft

Najuta

2013

6

月に薬事承認されている.

c.下行大動脈瘤

下行大動脈瘤は,その解剖がデバイス留置に適合するな ら,外科手術ハイリスク例においては,第一選択の治療と して考慮されるべきである.さらに外科手術低リスク例と 比較しても脊髄神経障害の発生率が低く,

QOL

も保たれ やすいため386–392),その適応は拡大されつつある.

d.胸腹部大動脈瘤

腹腔動脈分枝直上まで,あるいは側副血行が確保された 腹腔動脈を閉鎖するのみで

landing zone

が確保できる胸 腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療は,下行大動 脈瘤と同様の適応と考えられる.腹部主要分枝の再建を必 要とする症例では,術後

QOL

,とくに脊髄神経障害のリ スクが低いことから,手術ハイリスク症例において腹部分 枝バイパスを行ったうえでのハイブリッド治療が考慮さ れる.

e.腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤は,ステントグラフト治療において,解 剖学的適応範囲であれば,良好な成績が報告されてい

393–400).傍腎動脈および腎動脈上大動脈瘤(

Crawford

IV

型)に関しては,現在,その有用性が報告されているデ バイスは少ない.

5.1.3

病態的適応(表22)

大動脈疾患に対するさまざまな病態に対するカテーテ ル治療の適応について,以下に記載する.

a.外傷性大動脈損傷

外傷性大動脈損傷,とくに動脈管索および下行大動脈に 発生する大動脈損傷に対してのステントグラフト治療は,

第一選択とされている401–405).これは,大動脈損傷を伴う

外傷例の大部分は,大動脈以外にも合併外傷を伴ってお り,その状況下で体外循環を用いた手術を行うリスクが高 く,大動脈損傷の治療を短時間で終了させ,付随する合併 外傷の治療に速やかに移行する必要があるからである.

b.大動脈瘤破裂

胸部下行大動脈瘤破裂に対する

TEVAR

の成績は,外科 手術に比べて良好406–409)で,

TEVAR

が推奨される治療で ある.これは前項の外傷と同様,外科手術に比べて,短時 間で破裂部位の出血をコントロールできるためである.た

TEVAR

は下行大動脈においては推奨できるが,解剖学

的に治療困難な上行大動脈,弓部大動脈,胸腹部大動脈に 関しては推奨できない.

また腹部大動脈瘤においては,血行動態の安定を維持し ながら通常手術に移行できる準備をしたうえでの

EVAR

は良好な成績を収めている410–416).ただ慎重な治療戦略が 必要である.

c.A型解離

急性,慢性においても現状のデバイスでは推奨できな い.また遠位弓部(左鎖骨下動脈末梢)からの逆行性解離 においても,中枢側

landing zone

が解離部分となるため,

現状のデバイスではその有用性は明らかではない.

d.急性B型解離

解離により合併症を有する急性

B

型解離(

acute compli-cated type

)においては,欧米のガイドラインにおいても ステントグラフト治療が推奨されており417),その手技は ほぼ確立されている48,418–424).ただ合併症,症状を有さな い症例(

acute uncomplicated type

)に関しては,瘤化防止 に対する治療は推奨されていない.ただ発症時に瘤拡大を 生じている症例においては,ステントグラフト治療の有用 性が報告されている421)

表21 解剖学的適応

大動脈瘤の部位 外科手術のリスク,瘤の大きさ・部位 クラス エビデンスレベル

55 mm以下の胸部大動脈瘤 III C

上行大動脈瘤 III C

弓部大動脈瘤 High risk, inoperative IIa B

Low risk IIb C

下行大動脈瘤 High risk, inoperative I B

Low risk IIa C

胸腹部大動脈瘤 High risk, inoperative IIa B

Low risk III C

腹部大動脈瘤

最大短径 男性 ≧55 mm,女性 ≧50 mm I A 最大短径 40 mm<〜<50 mm IIb B

juxta, supra AAA III C

すべての症例は,TEVAREVARの解剖学的適応内であること.

juxta:傍腎,supra:副腎,AAA:腹部大動脈瘤,TEVAR:胸部大動脈ステントグラフト内挿術,EVAR:腹部大動脈ステ ントグラフト内挿術

e.慢性B型解離

慢性

B

型解離に対するステントグラフト治療の有用 性は明らかでない.ただ外科的治療が必要な症例におい てステントグラフト治療は有用であるとする論文は多 い419,425–430)

2013

年に報告された

INSTEAD

INvestigation of STEnt grafts in Aortic Dissection

)試験(前向き無作為 試験)では,大動脈に限定した死亡率および大動脈拡大率 において,内科的治療に比較して有意に

TEVAR

が良好な 成績を得た431)

f.感染性大動脈瘤,大動脈―気管瘻,食道瘻

状態不良症例に対しての外科手術までの破裂防止を 考慮した橋渡し的使用についての有用性は明らかであ

432–434).根治治療目的としてのステントグラフト治療に

ついては,その有用性は定かではない.また大動脈―気管 瘻,食道瘻に関しては,一時的に破裂状態を修復し,循環 を安定させることに有用性はあるといえるが,根治手術と しては有用性の報告は少ない435)

5.1.4

ステントグラフト治療の方法

TEVAR

は,ステントグラフトを安全に目的部位に運び,

適切かつ十分な

landing zone

を確保して留置することが 手技成功の要点である.

a.術前プランニング

ステントグラフト治療の成功の鍵は,術前プランニング に集約される.術前に

MDCT

で大動脈の屈曲,壁在血栓 の状態や壁の石灰化,主要分枝の位置および径,アクセス ルートの性状を評価するとともに,

landing zone

の径およ び長さと治療長を測定し,適切なサイズのステントグラフ トを選択する.

b.アクセス

TEVAR

施行のためには,胸部ステントグラフト用シー

ス(

20

24 F

)あるいはシース一体型のデバイス本体が 通過するための到達経路(アクセスルート)が必要である.

通常は鼠径部からシースを挿入するが,外腸骨動脈の狭窄 や石灰化により大腿動脈からのアプローチが困難である 場合は,腸骨動脈あるいは腹部大動脈からアプローチする 場合や,腸骨動脈から導管を立てる場合もある.

腸骨動脈の解離に対しては,通常の腸骨動脈用ベアメタ ルステントにて修復可能であるが,破裂している場合はス テントグラフト(腹部大動脈用ステントグラフトのレッ グ)が必要となるため,適切なサイズのものをつねに準備 しておく必要がある.

c.ステントグラフトのデリバリー

通常,胸部大動脈用ステントグラフトは,スティッフタ イプのガイドワイヤを用いてアクセスルートを直線化し,

十分なサポートのもとにデリバリーを行う.

d.Landing Zone

ステントグラフト治療において,最も重要なのは動脈瘤 の中枢側および末梢側において適切な

landing zone

(正常 径大動脈とステントグラフトとの接合部分)を確保する ことである.

Landing zone

の性状がよく,長いほうがエン ドリークの発生が少なく,良好な結果が得られる.

i.左鎖骨下動脈cover

遠位弓部瘤および近位胸部下行大動脈瘤の治療を行う 場合は,動脈瘤中枢側の

landing zone

確保のため,左鎖骨

下動脈の

cover

を意図的に行うことがある.この場合,脳

梗塞や脊髄虚血の合併症が多いことが報告されている436). 左鎖骨下動脈を

cover

する症例では,右鎖骨下動脈および 表22 病態的適応

病態 クラス エビデンスレベル

外傷性大動脈損傷 I B

大動脈瘤破裂

下行大動脈 IIa B

腹部大動脈 IIa B

その他の部位 III C

A型解離 急性,慢性とも III C

逆行性解離 IIb C

急性B型解離

Acute complicated I C

解離による分枝血管閉塞へのstenting IIa B

カテーテルによる開窓術 IIa B

Acute uncomplicated 瘤化防止 IIb C

Acute uncomplicated 拡大病変 IIa B

慢性B型解離 外科的治療適応がある症例 IIb C

Chronic uncomplicated(外科手術適応症例を除く) IIa B

感染性大動脈瘤,大動脈―気管瘻,食道瘻 破裂もしくは破裂予防のためのTEVAR IIb B

根治手術としてのTEVAR III B

すべての症例は,TEVAREVARの解剖学的適応内であること.

TEVAR:胸部大動脈ステントグラフト内挿術,EVAR:腹部大動脈ステントグラフト内挿術

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