• 検索結果がありません。

第 6 章  文献調査結果

6.3  ビジネス日本語コースにおける教師の資質

本節では、産業界の人材ニーズに即したプログラムに携わる教師に必要な資質は何かを 見極め、教師育成・研修の参考とするため、ビジネス日本語コースにおける教師研修、教 師力量の観点から報告する。

6.3.1  教師の役割 

①津村・石田(2004)

津村・石田(2004)は、ファシリテーターを教師の役割の一つとして提唱しており、ファ シリテーターとしての学習支援に必要な基礎知識、対人関係能力を育成するための基礎知

識など、ファシリテーター・スキル養成のための基本的枠組みを提示している。

②マルカム(2005)

学習者自身の自律的学習姿勢を促すという考えに基づいて、教師の役割をファシリテー ターやリソース提供者と位置づけ、学習方法では「学習契約」を用いる実践例を紹介して いる。

③池上(1995)

個別化授業をメインテーマとしてはいるが、学習者を主体とし教師は支援者であるとい う自律学習の考え方は成人を対象とするビジネス日本語コースに参考になる。池上(1995) は、学習者の多様化に対する一つの方法として学習過程の個別化について考察した。その 結果、以下の

4

つの提案によって積極的に個別化を取り込むことが十分可能だとしている。

まず、1つ目に学習者の特性を生かせる形態、即ち個別指導もしくは小集団指導と一斉指 導を組み合わせることで、効率と個別対応という双方の利点の共存を図ること。

2

つ目に、

指導を行う際の個別化はカリキュラム開発の発想に基づいた役割拡大の方向に向かう積極 的なものであること。3 つ目は、カリキュラムを開発し、設計するプロセスに学習者が参 加し、教授者は支援者としてそれを支援していくこと。最後は、これら

3

つの実現のため に、教授者同士が連携を保ち情報交換を行い、所属する組織の内部にも外部にもネットワ ークを作ることである。以上のことを実施すれば、個別学習をすることで起こる可能性の あるコース全体の能率の低下を回避することが可能になるばかりではなく、これまで以上 に学習者と教師間のつながりが築けるとしている。

 

6.3.2  専門家との連携、チーム・ティーチング 

(1)大学の専攻、専門科目関連 

①中村(1991)

専門日本語教育を教える現場では、日本語教員と専門科目教員との連携が一つの課題と なっている。大学の留学生に対する日本語教育では、アカデミック・ジャパニーズに主眼 が置かれているが、それでも留学生からは日本語の授業以外の学部の専門的な授業につい ていくことが難しいという悩みが聞かれる。その原因の一つとして、留学生は授業がなか なか聞き取れず要点がつかめないことを挙げられるのではないか。

中村(1991)は、一橋大学で社会科学分野の「専門のための日本語(以下

JSP)」教育の一

環として、専門科目教員と日本語教員との協働による上級日本語クラスを開設した。留学 生の多くが聴解力に難点を持つことに配慮し、クラスは聴解に重きが置かれている。授業 の流れは以下の通りである。

① 学習者が専門科目教員による講義のビデオを視聴する。

② 視聴したビデオに関する自分の見解、疑問点を加えたレポートを提出する。

③ 

(可能な場合のみ)専門科目教員が JSP

クラスに出席し、講義ビデオと学生のレポ    ートをもとにゼミ(または講義)を行う。

④ フィードバックを行い、自己の日本語をモニターする能力を高める。

学習者のアンケートからは、各自の専門分野が異なる点、読解、フィードバックのやり 方への問題点が挙げられていたが、全般的には満足しているとの回答が得られた。

②五味(1996)

五味(1996)は、東京工業大学の聴解練習を目標とした「科学技術日本語」のクラスで日 本語教員と専門科目教員によるチーム・ティーチングを実践した。このクラスは日本語中 級レベル以上の電気・電子工学系の大学院留学生が対象であった。授業は日本語教員によ る専門用語、漢字、文法事項等の言語要素、表現を取り上げ、自習時間に専門科目教員が 専門教育の講義をするという方法で行われた。また、日本語教員も専門科目教員も双方の 授業を見学しあいそれぞれの認識を深め合った。学生からの評判は非常に良かったが、初 めての試みということもあり、教材開発、日本語教員と専門科目教員の役割分担などの課 題が残ったと述べている。

③仁科(1997)

  仁科(1997)は、ある専門分野の知識修得の手段としての言語(LSP:

Language of Specific Purpose)を習得する場合の、専門教員と日本語教員の連携について国内外の現状を考察し

ている。そこでは、慶応大学、東工大、金沢工大の例から、日本語教育の立場からは①専 門教育に必要な日本語がどのようなものであるかという情報を得られる機会が少ない、② 専門教員は留学生の言語運用上の問題を見過ごしがちである、という問題点が挙げられて いる。その解決法の

1

つとして、二者の他に専門用語の理解を助ける辞書などの学習ソフ トを開発できる

CAI

システムの専門家(専門工学教員)との三者間の連携が挙げられている。

(2)ビジネス関連

①丸山(1991)

丸山(1991)は、上級ビジネスコースにおけるビジネスパーソン教師の役割の重要性につ いて述べており、日本語教師とビジネスパーソンとの役割分担を明確にし、互いの専門知 識が有効に使えるようコースを運営すべきであるとしている。

②松本・山口・高野(1998)

アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター(以下センター)は、アメリカおよびカナ ダの大学生、大学院生を対象に学術的、専門的使用に耐えうる高度な日本語習得を支援し ている機関である。センターでは、1997年度から

1998

年度まで経済分野に関連するコー スとして、「ビジネス・社会」、「政治・経済」、「ビジネスクラス」という

3

つのコースを

実施した。松本・山口・高野(1998)は、前述の

3

つのコースにおいて日本語教師と専門家 との連携を行った。「ビジネス・社会」、「政治・経済」は読解、聴解、発話の技能を総合的 に伸ばすことを目標として日本語教師が指導にあたった。一方、「ビジネスクラス」は、日 本経済と金融の専門家により週1回指導した。講義の内容を書き記したハンドアウトが配 布され、内容理解を重点とした講義が行われた。専門的日本語の指導にあたり、日本語教 師には①教材内容の全体像についての包括的な知識、②教材に関連する詳細・最新の情報、

③報道や活字などによらない現場の知識、といった知識や情報の欠如が見られたとしてい る。

(3)専門家との連携方法 

①松下・齋藤(2004)

チーム・ティーチングを行うには、教師間の連携がプログラムの成功の鍵を握る。松下・

齋藤(2004)は、チーム・ティーチングでは、関係者が情報・ビリーフ・方法を共有(ある いは相互に意識する)ことが重要だと述べている。また、現場スタッフの協働の成否が、

授業を中核とするプログラム全体の質に影響し、結果として学習者の学習成果に影響を与 えてしまうとしている。そこで、桜美林大学の日本語教育プログラムではスタッフハンド ブックを開発し情報の共有化を図っている。ハンドブックのなかには、日本語教育プログ ラムの目標構成、各科目の運営、参考となるアプローチ、アイディア、リソース、ツール、

スタッフの役割と意志決定のプロセス、問題への対処などが詳細に記されており、それぞ れの教員のコースに対する意識を一致させようとしている。

②大隈他(2003)

大隈他(2003)は、平成

14

年度研究者を対象とした日本語研修(以下、研究者日本語研修)

について報告している。研究者日本語研修では、研究活動を行うという目標を達成するた めの「研究活動支援制度」がコース・デザインに組み込まれた。この制度は、個人単位の 学習活動で専門家(研究アドバイザー)に専門的な日本語学習機会の提供を依頼したり、

個別単位に専門家の指導を仰いだりするものである。この制度では、学習の計画や実施は 研究アドバイザーに任されており、日本語教員はサポーターにまわる形態がとられた。日 本語学習のほとんどが研究アドバイザーに委ねられるといった学習方法は数少ないが、有 効な学習方法の1つであると考えられる。

関連したドキュメント