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第 6 章  文献調査結果

6.4  ビジネス日本語コースにおける評価設計

実施した。松本・山口・高野(1998)は、前述の

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つのコースにおいて日本語教師と専門家 との連携を行った。「ビジネス・社会」、「政治・経済」は読解、聴解、発話の技能を総合的 に伸ばすことを目標として日本語教師が指導にあたった。一方、「ビジネスクラス」は、日 本経済と金融の専門家により週1回指導した。講義の内容を書き記したハンドアウトが配 布され、内容理解を重点とした講義が行われた。専門的日本語の指導にあたり、日本語教 師には①教材内容の全体像についての包括的な知識、②教材に関連する詳細・最新の情報、

③報道や活字などによらない現場の知識、といった知識や情報の欠如が見られたとしてい る。

(3)専門家との連携方法 

①松下・齋藤(2004)

チーム・ティーチングを行うには、教師間の連携がプログラムの成功の鍵を握る。松下・

齋藤(2004)は、チーム・ティーチングでは、関係者が情報・ビリーフ・方法を共有(ある いは相互に意識する)ことが重要だと述べている。また、現場スタッフの協働の成否が、

授業を中核とするプログラム全体の質に影響し、結果として学習者の学習成果に影響を与 えてしまうとしている。そこで、桜美林大学の日本語教育プログラムではスタッフハンド ブックを開発し情報の共有化を図っている。ハンドブックのなかには、日本語教育プログ ラムの目標構成、各科目の運営、参考となるアプローチ、アイディア、リソース、ツール、

スタッフの役割と意志決定のプロセス、問題への対処などが詳細に記されており、それぞ れの教員のコースに対する意識を一致させようとしている。

②大隈他(2003)

大隈他(2003)は、平成

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年度研究者を対象とした日本語研修(以下、研究者日本語研修)

について報告している。研究者日本語研修では、研究活動を行うという目標を達成するた めの「研究活動支援制度」がコース・デザインに組み込まれた。この制度は、個人単位の 学習活動で専門家(研究アドバイザー)に専門的な日本語学習機会の提供を依頼したり、

個別単位に専門家の指導を仰いだりするものである。この制度では、学習の計画や実施は 研究アドバイザーに任されており、日本語教員はサポーターにまわる形態がとられた。日 本語学習のほとんどが研究アドバイザーに委ねられるといった学習方法は数少ないが、有 効な学習方法の1つであると考えられる。

金澤・三井他(2003)は、授業評価を

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回限りの総括的評価ではなく、学生の伸びを測る ことができる継続的評価が望ましいとして、京都外国語大学留学生別科の上級クラスの修 了発表を例に目標規準準拠評価を目指した評価基準案の作成を試みた。修了発表のクラス では、学習の伸びを測るために発表を複数回行い、学習のプロセスが見えるような配慮が された。評価は取り組む姿勢・読む・書く・話す・聞いて応答する能力の他、情意的観点、

言語知識的観点、認知的能力観点、社会的・文化的な受容に関わる観点に分け、全

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の観 点に基づきポイント別に評価が行われた。

②細川(2002)

早稲田大学の日本語クラスでは問題発見解決学習を主旨とした総合活動型日本語教育を 行っている。総合活動型日本語教育は、学習者主体の教育である。細川(2002)は、評価を めぐる問題について述べ、学習者主体の活動型学習では、各々目標やテーマが異なるため、

一定の評価基準を定めることが難しいとしている。そこで統一感を持たせるために、総合 活動型日本語教育では、共通項目と約束を設定する。それをクラスが共有することによっ て評価の範囲を限定し、評価のずれを少なくする。また、評価を共有することで信頼性と 公平性が守られることにも繋がる。評価は、最終的に教師が学習者の行った自己評価、他 者評価、メタ評価をもとに点数化をしている。

 

6.4.2  自己評価 

①岡崎・吉武(1992)

これまで日本語教育に限らず教育現場では教師のみが評価を行ってきたが、近年では、

学生による自己評価を用いることも多くなってきた。岡崎・吉武(1992)は、学習者の多様 化に対応するために、学習者による自己評価が有効であると提唱している。学習者の自己 評価が必要な理由として、学習者自身が学習にかかわる決定に参加することが求められて きているからだとしている。岡崎・吉武(1992)は日本語教育においては、以下の

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つのよ うな自己評価形式の可能性があるとしている。

① pair autonomousと統合された自己評価

② 教室活動と統合された自己評価

③ 教室活動に内蔵された自己評価

コースや学習目標が具体的に決まっている授業では、自律学習をベースとして自己評価 形式を用いることは困難であると考えられるが、いくつかの項目を用意して学習者に課題 を決定させるような授業スタイルであれば自己評価を用いることは可能であると考えられ る。

②高木(1992)

高木(1992)は、自律学習を効率的に行う土俵作りのために、日本語学習者を対象に自己

評価表を用いたプロジェクト・ワークを行った。自己評価表は、学習者が自ら立てた目標 を達成できたかどうか、プロジェクト・ワークを通して学習者が何を学んだのかを認識さ せるために使用された。また、自己評価表の存在は活動の活性化を左右すると述べており、

自己評価表の設問項目は具体的であるほうが望ましいとしている。自己評価表を導入した 結果、学習者の異文化に対する認識を向上させることができただけでなく、自律的学習を 行っていくための基礎能力をつけることができたとしている。また自己評価表は、学生の 成績評価には直接結びつけずに授業のフィードバックとしてのみ用いられた。

 

6.4.3  産出系評価 

(1) 口頭能力 

①笠原・木山他(1995)

日本語国際センターで行われている海外日本語教師長期研修では、この研修を受講する 研修生である日本語教師の口頭表現能力をどのように伸ばすかが研修開始以来の課題とな っている。長期研修では、研修生の言語運用力の伸びを測るために口頭テストを用いてき た。そこで、笠原・木山他(1995)は、口頭表現能力向上のための口頭テスト改訂に伴い、口 頭表現能力を測定する

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種のテストを分析し、評価・判定方法を比較検討した。その結果、

改訂するための課題として、以下の

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つの要素が挙げられた。

① どんな能力を測定するのか。

各長期研修生は所属機関が異なり、国において教師として教える対象が多様であ るため、特定の日本語使用場面を取り出すことが困難である。また、上級レベルに 達している研修生には「研究目的の日本語」に近いものも必要となるため、「一般 目的の日本語」と「研究目的の日本語」の両方を視野に入れなくてはならない。

② どのように測定するのかについて検討項目を選定する。

研修生の日本語学習の背景が異なるなど、研修生の多様性により測定対象が広範 なレベルに分散しているという問題がある。

②羽太・熊野(2003)

  国際交流基金関西国際センターでは外交官日本語研修、公務員日本語研修(以下、外交 官・公務員日本語研修)が毎年行われている。外交官・公務員日本語研修は、約

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ヶ月の 集中日本語コースであり参加者の大半がゼロ初級者である。研修には選択科目の一つとし てスピーチクラスが用意されているが、この科目は約

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ヶ月(学習時間は約

135

時間)の 基礎的な日本語能力の養成を受けた後に受講が可能となる。

羽太・熊野(2003)は、スピーチクラスの評価法として、教師、クラスメート、発表者が 評価を行う方法を報告している。スピーチクラスの発表は全てビデオに記録されるが、そ のビデオを見ながら

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者がそれぞれ口頭で評価をする。クラスと発表会のパフォーマンス が評価の対象となり、教師は①内容(構成、情報量)、②発音、③話し方(スピード、ポー

ズ)、④視覚情報(写真や地図、ハンドアウトの使用法)、⑤態度(アイコンタクト、ジェ スチャー)、⑥やりとり(質疑応答の内容の適切さ)の観点から採点し、

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段階評価を行う。

また、教師は学習者と個別の評価セッションを行い、ビデオをもとに評価の説明を行うな ど学習者と教師が確認し合える場を設けている。

③熊野・石井他(2005)

外交官・公務員日本語研修では口頭能力の習得に重点が置かれてきたが、熊野・石井他

(2005)は、平成 14

年の最終オーラルテストの分析結果から、初級レベルの外交官・公務員

日本語研修で目標とする日本語運用能力や評価のあり方を考察した。その結果、初級レベ ルであっても、基本的な文型を使用してある程度専門的な用語を含むことで相互交渉のよ うなタスクも達成することが可能であることが明らかとなった。

 

(2) 書記能力 

①菊池(1987)

作文の評価は読みやすさを重視する人、文法や語彙を重視する人など読み手によってば らつきが出てしまう。そのため、評価基準を明確にしておかなくては適切な採点が行えな い。菊池(1987)は、作文の評価方法を、以下の

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つのファクターに分けている。

(1)

趣旨の明確さ

何が書いてあるかを一読して理解できるかどうか。

(2)

内容

原則として日本語能力についての評価は含まない。日本語の誤りには目をつぶり、適 切な日本語で書かれていると想定し、文章能力の面だけを評価する。

(3)

正確さ

日本語能力だけを見る。具体的には、文法・語法、語彙、表記等に関する誤りをチェ ックし、減点法で行う。

(4)

表現意欲・積極性(日本語能力)

難しい(あるいは最近学習した)文法事項、単語、漢字、言い回し等をどの程度使用して いるか。または、失敗していても用いようとしているかを見る。

(5)

表現力・表現の豊かさ(文章能力)

正確さ以上の適切さを評価することを趣旨とする。ある程度の日本語能力がなければ できないことであるため、中級後半以上の学習者のみが評価対象となる。

6.5  ビジネス日本語教材 

本節では、既存のビジネス日本語教材開発に関する文献およびビジネス日本語教材につ いて報告する。

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