1.4 健全度評価
1.4.4 変状連鎖による機能低下
構造物の機能低下は,変状の進展段階(変状連鎖)を捉えることが重要である。今後,
護岸構造物の変状連鎖を考慮した機能低下の評価を確立し,「予防保全」の概念を取り入 れた維持・管理を行うことが重要である。
【解説】
点検毎の変状から直接的に健全度を評価すると,変状だけの評価となってしまい,
結果的に事後対策になる。このため,今後は「なぜ変状が起こっているのか?」や「そ の変状が進行していくとどうなるのか?」というような不明点を明確にし,変状が機 能低下へと進行して「変状連鎖」を健全度評価に反映させることが重要である。
これより,河川護岸では困難とされている劣化予測を視野に入れた「対策工法の選 定」や「優先度評価(対策実施の優先度評価)」が可能になると考えられる。
さらには,「点検結果を修繕等に反映させるルールづくり」や「予防保全への移行」
といった問題を解決するための方法になると考えられる。
河川施設の変状機構は,種々の要素が絡み合い複雑であり,その変状機構を理解す るためには,変状の発生原因,変状の発生,変状の拡大,そして機能低下へと変状が 進行してゆく過程を変状連鎖として整理する必要がある。
変状の連鎖とは,変状等の発生原因毎に,
[変状の発生と顕在化]→[変状の結果生じる影響]→[機能低下]
というように変状が進行していく過程のことである。
以下に示すような主要な変状連鎖の進展段階を理解することで,発生している変状 の種類によって,施設全体としての変状の進行状況と危険性を判断することができる。
StepⅠ:健全な状態
↓
StepⅡ:軽度の変状
↓
StepⅢ:進行した変状
↓
StepⅣ:安全性・機能が損なわれた状況
↓
StepⅤ:破壊,機能停止
変状の形態(突発型変状,進行型変状)によって区分して作成した変状連鎖図を図 1.4.7,図 1.4.8に示す。
今後は,この変状連鎖を健全度評価に反映させるよう,被災事例の収集や各部位の 破壊進行過程の検討,劣化予測手法等を総合的に検討することが望まれる。
図 1.4.7 変状連鎖図(突発型変状)
図 1.4.8 変状連鎖図(進行型変状)
*
* **
*
**
*印は、変状に進行発見に重要な指標。**印は特に重要な指標。
水位変動
(起伏堰等)
亀裂・ズレ・開き
護岸工 の破壊・陥没
護岸工 の破壊・陥没 浸透流による
背面土砂移動
背面土砂 水位変動
の発生
の沈下
護岸背面 上載荷重 堤体
(自動車荷重等)
護岸工の 圧密沈下 基礎地盤
の沈下
の吸出し 空洞化 破堤 の吸出し 空洞化 破堤 背面土砂 護岸背面
Step Ⅰ Step Ⅱ Step Ⅲ Step Ⅳ Step Ⅴ
* * * **
* **
*
*印は、変状に進行発見に重要な指標。**印は特に重要な指標。
側方侵食 河床洗掘
の破壊・陥没
空洞化 の破壊・陥没
根固工 根固工
の破壊・陥没 破堤 護岸工
破堤 護岸工 破堤
護岸工
の移動 の散乱
流水-流水力 護岸工 護岸背面 護岸背面
の亀裂・損傷 土砂の吸出し 空洞化 土砂の吸出し
護岸基礎工 護岸背面 護岸背面
の沈下・損傷
流水-洗掘 根固工の 護岸前面の
沈下 洗掘
Step Ⅰ Step Ⅱ Step Ⅲ Step Ⅳ Step Ⅴ
【参考】 マルコフ連鎖モデルを用いた劣化予測の検証例
構造物の機能低下は,図 1.4.9のように時間経過による健全度の低下で表すことが できる。
図 1.4.9 時間経過による構造物の機能低下のイメージ図
河川護岸では,台風や地震等の大きな外力による損傷で健全度の低下が短時間で進 行することがあり,初期欠陥や外力による短時間での健全度低下に対しては異常時点 検による判断が重要となる。ここでは変状が時間経過により徐々に進行する場合の劣 化予測手法例を示す。
港湾施設のライフサイクルマネジメントにおいては,マルコフモデルという確率論 的な考えを用いて変状の進行を劣化・変状予測に適用する手法がある。
このモデルは,ある施設における変状は,A,B,C,D の独立する変状度(部材単 位では,a,b,c,d)のいずれかに存在し,1年経過すると遷移確率Pxで変状度が 1 ランク進行し,残りの施設は確率 1-Px で同じ変状度に留まるというものである(図 1.4.10 参照)。
図 1.4.10 マルコフ連鎖モデル
河川護岸についても,この方法を用いて性能低下の進行を予測することが有意であ ると考えられるため,参考に適用の検討を行った。次頁以降に検討例を示す。
A B C D
1 1-Px
1-Px 1-Px
Px Px Px
健全度ランク 推移確率
Px
Aランク(問 題 なし)
Bランク(重 点 点 検)
Cランク(重 点 監 視)
Dランク(要 対 策)
健全 年数
度
( 構造 物 の 機能)
外力による損傷
対象範囲として,「護岸構造と建設年次の一致する延長 2km の区間」を想定する。
点検結果として,「区間を10スパン(200m×10スパン=2km)に分割し,各スパンの ブロック積みを点検した場合」を想定する。また,変状ランクの分布の傾向として,
下記の2ケースを想定する。
護岸A-3(CASE1):変状ランクの分布にばらつきがある場合
変状ランクの個数 項目 健全度
a b c d 供用年数 点検結果 C(c≧1個) 4 4 2 0 30年
護岸B-3(CASE2):特定の変状ランクに分布が集中している場合
変状ランクの個数 項目 健全度
a b c d 供用年数 点検結果 C(c≧1個) 0 6 4 0 30年
想定CASEのイメージを下図に示す。
施設名称 護岸A-2 護岸A-1
護岸構造 ブロック積み 石積み
建設年次 1972年3月 1962年3月
点検年次 2012年3月 2012年3月
点検時供用年数 40年 50年
スパン ・・・ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ・・・
a a b c c b b b a a
←
5.0km 5.2km 5.4km 5.6km 5.8km 6.0km
b b b b b c c c c b
スパン ・・・ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ・・・
点検時供用年数 40年 50年
点検年次 2012年3月 2012年3月
建設年次 1972年3月 1962年3月
護岸構造 ブロック積み 石積み
施設名称 護岸B-2 護岸B-1
30年 護岸A-3(CASE1)
ブロック積み 1982年3月
点検時の評価 ブロック積みの不同沈下
(供用年数30年)
・・・
健全度C c≧1個(d0個,c2個,b4個,a4個)
(距離票)
2012年3月
・・・
・・・
護岸B-3(CASE2) ブロック積み
1982年3月 201230年年3月
健全度C c≧1個(d0個,c4個,b6個,a0個)
(
左 岸)
点検時の評価 ブロック積みの不同沈下
(供用年数30年)
・・・
(
右 岸)
図 1.4.11 検討 CASE イメージ
計算条件として,「個々の遷移確率(pa→b,pb→c,pc→d)(変状分割数 8 の場合:
pa1→a2,pa2→a3,…,pd7→d8),は全て一定の遷移確率 px であり,初期状態(建設ま
たは補修直後)で全部材の変状ランクが a(変状分割数8の場合:a1)である」と 仮定する。
CASE1での劣化予測結果(遷移確率0.028,変状分割数1)と健全度の推移を以 下に示す。
時間経過とともに,変状ランク(a,b,c,d)の分布にばらつきが生じる。また,
健全度の推移より,建設後 4年で変状が発生(健全度 A→Bへ推移)し,その後徐々 にB→Cへと推移して供用40 年目に健全度Dとなる。
変状ランクの個数 項目 健全度
a b c d 供用年数 点検結果 C(c≧1個) 4 4 2 0 30年
A(全てa) 10 0 0 0 00年
B(d+c+b≧1個) 9 1 0 0 04年
C(c≧1個) 6 3 1 0 22年
D(d≧1個) 3 4 2 1 40年
予測結果
D末期(d≧2個) 2 3 3 2 56年
図 1.4.12 CASE1 劣化予測結果(変状分割数 1)
次に,CASE2での劣化予測結果(遷移確率0.494,変状分割数8)での劣化予測 結果と健全度の推移を以下に示す。
時間経過とともに変状ランク(a,b,c,d)の分布のピークがa→b,b→c,c→d へ推移する。また,健全度の推移より,建設後から徐々に A→B→C→D へと推移 し,40年経過(健全度 D)以降に変状ランクdの箇所が急増する。
変状ランクの個数 項目 健全度
a b c d 供用年数 点検結果 C(c≧1個) 0 6 4 0 30年
A(全てa) 10 0 0 0 00年
B(d+c+b≧1個) 9 1 0 0 11年
C(c≧1個) 0 9 1 0 25年
D(d≧1個) 0 1 8 1 40年
予測結果
D末期(d≧2個) 0 0 8 2 43年
図 1.4.13 CASE2 劣化予測結果(変状分割数 8)
検討結果のまとめを以下に示す。
護岸A-3(CASE1):変状ランクの分布にばらつきがある場合
変状ランクの個数 項目 健全度
a b c d 供用年数 点検結果 C(c≧1個) 4 4 2 0 30年 予測結果 D(d≧1個) 3 4 2 1 40年
護岸B-3(CASE2):特定の変状ランクに分布が集中している場合
変状ランクの個数 項目 健全度
a b c d 供用年数 点検結果 C(c≧1個) 0 6 4 0 30年 予測結果 D(d≧1個) 0 1 8 1 40年
施設名称 護岸A-2 護岸A-1
護岸構造 ブロック積み 石積み
建設年次 1972年3月 1962年3月
点検年次 2012年3月 2012年3月
点検時供用年数 40年 50年
スパン ・・・ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ・・・
a a b c c b b b a a
↓劣化予測↓ ・・・ ・・・
a b c d c b b b a a
←
5.0km 5.2km 5.4km 5.6km 5.8km 6.0km
b c c c c c d c c c
↑劣化予測↑ ・・・ ・・・
b b b b b c c c c b
スパン ・・・ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ・・・
点検時供用年数 40年 50年
点検年次 2012年3月 2012年3月
建設年次 1972年3月 1962年3月
護岸構造 ブロック積み 石積み
施設名称 護岸B-2 護岸B-1
30年
・・・
護岸A-3(CASE1)
ブロック積み 1982年3月
点検時の評価 ブロック積みの不同沈下
(供用年数30年)
・・・
健全度C c≧1個(d0個,c2個,b4個,a4個)
劣化予測結果イメージ
(供用年数40年)
(距離票)
2012年3月
・・・
・・・
護岸B-3(CASE2)
ブロック積み 1982年3月
・・・
2012年3月
・・・
健全度D d≧1個(d1個,c2個,b4個,a3個)
健全度D d≧1個(d1個,c8個,b1個,a0個)
30年
健全度C c≧1個(d0個,c4個,b6個,a0個)
・・・
(
左 岸)
↓劣化予測↓
↑劣化予測↑
点検時の評価 ブロック積みの不同沈下
(供用年数30年)
・・・
(
右 岸)
劣化予測結果イメージ
(供用年数40年)
図 1.4.14 検討結果
上記の様に区間を限定し点検時から予測時の変状ランクの個数の推移を見比べ