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ケース2

5.4 塑性ヒンジ長算定式の提案

以上の検討を踏まえ,塑性ヒンジ長の算定式として,式(5.4.1)を提案する。

1/6 1/3

5

.

9

sy n

L

p (5.4.1)

ただし,

L

p

0 . 15 h

ここに,

L

p:塑性ヒンジ長(mm)

sy:軸方向鉄筋の降伏点(N/mm2)

n:軸方向鉄筋の塑性座屈を拘束するバネ定数(軸方向鉄筋のはらみ出しに対する抵抗を 表すバネ定数)で式(5.4.2),式(5.4.3),式(5.4.4)より算出する。

c s

n

 

  

(5.4.2)

s nd

I E

h

s 3

0

384

0

 

(5.4.3)

0 0

c

c

k

(5.4.4)

s:軸方向鉄筋の塑性座屈を拘束する横拘束筋のバネ定数(N/mm2

c:軸方向鉄筋の塑性座屈を拘束するかぶりコンクリートのバネ定数(N/mm2

E

0:横拘束筋の弾性係数(N/mm2)

I

h:横拘束筋の断面二次モーメント(mm4

n

:横拘束筋の有効長で囲まれるブロックに含まれる圧縮側軸方向鉄筋の本数

d

0:横拘束筋のバネ定数を求める際の有効長(mm)で式(5.4.5)より算出する。

d

d

0

 

(5.4.5)

:有効長の補正係数(矩形断面橋脚;1.0,円形断面橋脚;0.8 とする)

d

:横拘束筋の有効長(mm)で,帯鉄筋や中間帯鉄筋により分割された内部コンクリートの 辺長のうち最も長い値とする。

s

:横拘束筋の間隔(mm)

k

0:かぶりコンクリートのバネ算出係数で 0.01N/mm3とする。

c

0:軸方向鉄筋の純かぶり(軸方向鉄筋の最外面からコンクリート表面までの距離)(mm)

:軸方向鉄筋の直径(mm)

h

:橋脚基部から上部構造の慣性力の作用位置までの高さ(mm)

図-5.4.1 に提案式において算出した塑性ヒンジ長と塑性座屈解析における塑性ヒンジ長(はらみ 出し長)との関係を示す。表-5.4.1はこれらの値を比較したものである。ここには図-5.4.2に示す 実験におけるはらみ出し長と、図-5.4.3に示す式(1.1.2)により算出した塑性ヒンジ長もあわせて示 している。ばらつきを表す変動係数が矩形断面橋脚で約 16%,円形断面橋脚で約 6%,全体で約 15%と 精度良く推定できていると考えられる。なお円形断面橋脚は,実験において曲率を測定していた No.17,18,24 の 3 供試体の結果を示す。

図-5.4.2 に提案式において算出した塑性ヒンジ長と実験におけるはらみ出し長との関係を示す。

矩形断面橋脚に対する結果では,ばらつきを表す変動係数が約 25%である。なお,円形断面橋脚にお いては,実験において目視で確認されるはらみ出し長は,塑性曲率が生じた領域より小さいため,塑 性ヒンジ長との相関もよくないことは自明ではあるが,ここには参考までに示している。

図-5.4.3 に提案式において算出した塑性ヒンジ長と式(1.1.2)により算出した塑性ヒンジ長との 関係を示す。縮小模型では,両者の違いは小さいが,中型模型である供試体 No.5-a~8-a,大型模型 である供試体 No.16,9-a では,道示による塑性ヒンジ長の方が大きめの値を与える。ただし,軸方 向鉄筋径として太径の鉄筋を用いている No.19 供試体では,提案式の塑性ヒンジ長の方が大きい結果 となっている。

表-5.4.1 提案式による塑性ヒンジ長、塑性座屈解析による塑性ヒンジ長、実験におけるはらみ 出し長及び式(1.1.2)による塑性ヒンジ長の比較

1 矩形 436 390 450 300

2 矩形 449 420 300 300

3 矩形 375 350 250 250

4 矩形 375 400 375 250

5 矩形 368 367 250 250

6 矩形 263 350 250 250

7 矩形 174 260 200 250

8 矩形 375 500 250 250

9 矩形 375 500 250 250

10 矩形 375 500 250 250

11 矩形 296 288 360 300

12 矩形 266 272 360 300

13 矩形 350 352 320 300

14 矩形 273 288 320 300

15 矩形 276 272 320 300

16 矩形 791 810 600 1200

17 円形 321 345 75 300

18 円形 399 405 75 300

19 円形 1150 - 356 762

20 円形 375 - 250 282

21 円形 263 - 250 282

22 円形 268 - 100 282

23 円形 322 - 200 300

24 インターロッキング 450 512 240 300

25 インターロッキング 437 - 200 300

26 円形 769 - 600 1000

1-a 矩形 328 355 300 300

4-a 矩形 439 297 300 300

5-a 矩形 427 473 480 600

6-a 矩形 290 303 300 600

7-a 矩形 365 371 375 600

8-a 矩形 430 460 525 600

9-a 矩形 965 1030 1200 1200

11-a 矩形 231 244 270 300

12-a 矩形 214 228 228 257

13-a 矩形 178 163 152 257

14-a 矩形 225 243 228 257

15-a 矩形 247 273 300 300

提案式 式(5.4.1)による

塑性ヒンジ長 (mm) 断面形状

本研究

注2)土研資料第3748号の供試体Noについては、本研究の供試体Noと区別するため「-a」を付している。

注1)土研資料第3748号の供試体の欄において、本研究と重複する供試体は除いている。

注3)供試体No.19~23,24,25については,曲率分布のデータがないため,円形断面橋脚における帯鉄筋の拘   束力のモデル化を見直した後の塑性座屈解析は実施していない。

供試体No.

資料名

土研資料 第3748号

式(1.1.2)(H14道示)による 塑性ヒンジ長

(mm) 実験における

はらみ出し長 (mm) (表-3.2.1より) 塑性座屈解析による

塑性ヒンジ長 (mm)

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

塑性座屈解析による塑性ヒンジ長(mm)

提案式による塑性ヒンジ長(mm)

図-5.4.1 提案式と塑性座屈解析による塑性ヒンジ長

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

実験におけるはらみ出し長(mm)

提案式による塑性ヒンジ長(mm)

図-5.4.2 提案式による塑性ヒンジ長と実験におけるはらみ出し長

矩形

平均 1.083 相関係数 0.854 標準偏差 0.268 分散 0.072 変動係数 0.247 矩形

平均 0.955 相関係数 0.950 標準偏差 0.151 分散 0.023 変動係数 0.158

円形

平均 0.931 相関係数 0.961 標準偏差 0.053 分散 0.003 変動係数 0.057

全体

平均 0.953 相関係数 0.950 標準偏差 0.144 分散 0.021 変動係数 0.152

■:矩形断面橋脚

○:円形断面橋脚

■:矩形断面橋脚

○:円形断面橋脚

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

式(1.1.2)による塑性ヒンジ長(mm)

提案式による塑性ヒンジ長(mm) No.5-a~8-a

No.16、9-a

No.19

図-5.4.3 提案式と式(1.1.2)による塑性ヒンジ長

■:矩形断面橋脚

○:円形断面橋脚

6.結論

6.1 まとめ

本研究では,曲げ破壊型の RC 橋脚の終局変位の算定のための塑性ヒンジ長を合理的に設定する ことを目的として,有限変形理論による FEM 解析を用いて既往の実験供試体における軸方向鉄筋の はらみ出し長を解析するとともに,実験の曲率分布の実測値と矩形ブロックとしてモデル化した曲 率分布との比較を通じて,軸方向鉄筋のはらみ出し長と塑性ヒンジ長の関係について検討した。検 討結果をもとに,土木研究所資料第 3748 号 6)で示された塑性ヒンジ長の算定式を見直し,新たな 塑性ヒンジ長の算定式の提案を行った。本研究により得られた知見をまとめると以下のとおりであ る。

1)塑性座屈解析における軸方向鉄筋の降伏後剛性の影響

鉄筋のひずみ硬化による降伏後の応力の増加の影響を評価するために初期剛性に対する降伏後 剛性の比をパラメータとした塑性座屈解析を行った。軸方向鉄筋の剛性の影響として,剛性が高い とはらみ出し長は長くなる傾向となり,はらみ出し量は小さくなる傾向が見られたが,その差は小 さかった。軸方向鉄筋のはらみ出しに対する帯鉄筋の拘束を帯鉄筋の曲げ剛性としてモデル化した 矩形断面橋脚のはらみ出し長の評価においては,両者に大きな差は見られなかった。一方,軸方向 鉄筋のはらみ出しに対する帯鉄筋の拘束をフープテンション効果による軸引張剛性としてモデル 化した円形断面橋脚のはらみ出し長の評価では,軸方向鉄筋の降伏後剛性を初期剛性の 2%とした場 合に鉛直荷重-鉛直変位関係において,極端に大きな鉛直荷重が見られる場合があり,はらみ出し 長にも大きな差が生じた。ただし,円形断面橋脚においても,矩形断面橋脚と同様に帯鉄筋の曲げ 剛性により軸方向鉄筋のはらみ出しに対する帯鉄筋の拘束をモデル化した場合には,矩形断面橋脚 と同様に両者に大きな差は見られなかった。以上より,帯鉄筋の曲げ剛性により軸方向鉄筋のはら み出しを拘束するモデルを用いる場合には,軸方向鉄筋の降伏後剛性の影響は小さいことが明らか になった。

2)塑性座屈解析におけるかぶりコンクリートによる拘束のモデル化の影響

かぶりコンクリートの拘束を表すバネ定数をかぶりコンクリートが健全と仮定してモデル化し た場合には,かぶりコンクリートによる拘束を過大に評価するため,はらみ出し長は実験値に比べ 短くなる結果となった。また,かぶりコンクリートの剥落を非線形バネによりモデル化した場合に は初期剛性を同じとして剥落を考慮しない場合とほとんど同じ結果が得られたため,剥落をモデル 化することの影響は小さいことが分かった。浅津ら7)の提案によるかぶりコンクリートのバネ算出 係数

k

0(=0.01N/mm3)を用いた線形バネは実験結果を再現するように定められており,これは剥落も 含めた平均的な挙動を線形バネにより表すモデルであるが,これを用いた場合には,円形断面の帯 鉄筋間隔 1 区間以上ではらみ出しを生じた供試体以外のはらみ出し長を精度良く推定することがで きた。

3)RC 橋脚における軸方向鉄筋のはらみ出し長と塑性ヒンジ長の関係

軸方向鉄筋のはらみ出し長と塑性ヒンジ長の関係を明らかにするため,塑性ヒンジ長を終局変位 から逆算し,これとはらみ出し長の関係を検討した。また,実験の曲率分布の実測値と曲率分布を 矩形ブロックにモデル化した場合の塑性曲率が生じる領域の高さの比較を行った。その結果,矩形 断面の供試体については軸方向鉄筋のはらみ出し長と塑性ヒンジ長が概ね一致することが分かっ た。円形断面およびインターロッキング断面の供試体については,塑性ヒンジ長がはらみ出し長の 1~6 倍となり,はらみ出し長により塑性ヒンジ長を直接的には評価できないことが分かった。

4)円形断面橋脚の塑性ヒンジ長の推定

曲げ破壊する RC 橋脚の柱基部の断面のように曲げを受ける場合には,円形断面橋脚の場合も圧 縮領域は断面の限られた領域であるため,矩形断面橋脚の場合と同様に帯鉄筋の曲げ剛性により拘 束する状態の方が実現象に近いと推測され,さらに直径が大きな実大橋脚では,円形の帯鉄筋の曲 率は大きく,帯鉄筋は矩形断面橋脚とほぼ同様の挙動を示すものと考えられるため,矩形断面橋脚 と同様に帯鉄筋バネを帯鉄筋の曲げ剛性を基に設定することを提案した。この仮定に基づき塑性座 屈解析を行うと,塑性ヒンジ長を比較的良く再現できることが分かった。

5)塑性ヒンジ長の算定式

円形断面橋脚の帯鉄筋バネを矩形断面橋脚と同様に,帯鉄筋の曲げ剛性を基に求め,塑性ヒンジ 長の算定式を式(5.4.1)のように提案した。また,軸方向鉄筋の塑性化領域の範囲から塑性ヒンジ 長の上限値として,0.15h(h:橋脚高さ)を設定した。

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