第 3 章 法的クラスタリング分析を用いた ISS 計画協力体制の評価
第 1 節 「義務」
2.2. 各国内法との関連からみた「新政府間協定」の位置づけ
「政府の公式見解」(1974年2月20日)によれば、日本では次の3種類の条約は国会承 認を要する。
1)「国民の権利義務に関係するような国会の法律事項にかかわる条約」、
2)「財政支出を伴う条約」、
3)「国家間の一般的基本関係を規定するような、政治的重要性をもつ条約」37。
これら3種類以外の条約、とりわけ「すでに国会の承認を経た条約や国内法あるいは国 会の議決を経た予算の範囲内で実施し得る国際約束」は「行政取極」として、内閣の外交
34 1988年の「旧政府間協定」においては、日本が批准書を寄託した最初の「参加主体」(Partner)
であったとされる(1989年)。「旧政府間協定」は、米国による批准で1992年1月に効力を 発生したという。「欧州参加国」のうち7ヵ国が1989年から1992年のあいだに「旧政府間 協定」を批准したとされる。カナダは1988年の「旧政府間協定」の批准書を寄託しなかった と説かれた。Farand, op. cit. [“The Space Station Cooperation Framework”] at 52.
『JAXA-SP-10-007』(2011年2月)に示された見解によれば、日本政府は1989年6月に「旧 IGA」(「旧政府間協定」)の締結につき、「国会での審議・承認を得て」、同年9月5日に同協 定を「受諾」したことから、「参加国」のなかで最も早い締結国になったという。同日、すで に他の「参加各国」が締結していた「暫定取極」にも「加入」し、1989年1月30日には、
米国政府もIGA(「旧政府間協定」)を「受諾」したため、日米2国間で「旧IGA」(「旧政府 間協定」)が発効したとされる。米国において憲法上、IGA(「政府間協定」)は「議会承認」
を要しない「行政取極」として取り扱われたことから、上下両院での審議はなされなかった ものの、「特許法」等の関連国内法の改正作業に歳月を要したために、日本よりも3年余り遅 れての「批准」になったといわれている。「欧州参加主体」とカナダの場合は、更に批准手続 に時間を要し、結果的に、「旧IGA」を締結することなく、「旧暫定取極」の下で計画への参 加を続け、「現行IGA」(「新政府間協定」)の「署名」を迎えることになったとされた。佐藤 雅彦、前掲、3-9、3-10、3-11を参照。
35 Balsano A.M. and Wheeler J., “The IGA and ESA: Protecting Intellectual Property Rights in the Context of ISS Activities” in Dunk and Brus (eds.), op. cit. at 67.
36 Farand, op. cit. [“The Space Station Cooperation Framework”] at 52.
37 第七十二回国会衆議院外務委員会議録第五号〔昭和四十九年二月二十日〕(1974年)2頁。
杉原、前掲書〔『国際法学講義〔第2版〕』〕134頁。
関係処理の一環として行政府限りで締結し得るもの38とされた。憲法の明示的規定はない とされるも、日本においては、このように「国会承認条約」とそれ以外の「行政取極」の 区別が採用された。
「新政府間協定」は1998年4月24日に「国会承認」を経たとされることから、前記の 区 分 に 照 ら せ ば 、 前 者 の 「 国 会 承 認 条 約 」 に 分 類 さ れ る も の と 解 さ れ る 。 現 に
『JAXA-SP-10-007』(2011年2 月)においてIGA(「政府間協定」)は、「法律事項を含む 国際約束」に当るために、国会承認を求める必要があるとされたとの指摘がみられる。そ の理由として、具体的には次のふたつの理由が挙げられた。ひとつは 1)「日本の実験棟 JEM」(「きぼう」)の「開発」・「利用」等につき「宇宙開発事業団法」(当時)を維持する との「法令維持義務」があったこと、また2)「ISSの活動から生ずる損害についての損害 賠償請求権の相互放棄」に関し、「国が放棄すること」については、「財政法第8条」によ り「法律(国会承認条約を含む。)」に基づくことを要するといった点である(なお、「了解 覚書」は「行政府限りで締結し得る内容のもの」であったことから「国会承認」は必要とされ ず、「閣議決定」を受けて締結されたという)39。
かたや日本国外に目を向けると、憲法規定により議会承認を要する条約の種類を列挙し ている国は少なくないといわれている。例えば、「フランス憲法」(53条)、「スペイン憲法」
(94条)は議会承認を要する条約の種類を明記しているとされた40。「ドイツ基本法」は「連 邦の政治的関係を規律し、また連邦の立法事項に該当する条約」を議会承認の対象として いるという41。
米国でも「大統領の外交・軍事的権限」の一環として大統領が上院の承認を得ることな く締結できる「行政協定」(executive agreement)と、それ以外に分類される条約との区分 が憲法慣行として確立していると論じられた42。とりわけ米国において、村瀬が論文を執 筆した当時(1987年)、「国際約束」は1)上院出席議員3分の2の同意により承認される
「条約」(treaties)と 2)「条約以外の国際協定」(international agreements other than treaties)、つまり「行政取極」(executive agreements)の2種に区分されていたとされる。
このうち後者は、次の3種類に分類された。
1)「 す で に 上 院 の 同 意 を 得 て 締 結 さ れ た 条 約 の 実 施 の た め に 結 ば れ る も の (treaty implementing agreements)、
38 同上〔第七十二回国会衆議院外務委員会議録第五号〕。「憲法」第73条2号を参照。
39 佐藤雅彦、前掲、3-13を参照。
40 杉原ほか(著者)前掲書〔『現代国際法講義〔第5版〕』〕289頁。杉原、前掲書〔『国際法学 講義〔第2版〕』〕134頁。「フランス憲法」(「フランス共和国憲法」)については、奥脇=小寺
(編集代表)前掲書〔『国際条約集2013年版』〕887頁を参照。Aust, op. cit. at 146-147.
41「ドイツ憲法」(「ドイツ連邦共和国基本法」)については、奥脇=小寺(編集代表)同上、887 頁を参照。Aust, ibid. at 147-148.
42 杉原、前掲書〔『国際法学講義〔第2版〕』〕134頁。
2)上下両院の多数決により承認されるもの(congressional-executive agreements)、
3)大統領がその外交権限に基づいて締結するもの(presidential-executive agreements)」43。
1)から3)のうちのいずれに分類されるかは必ずしも定かではないものの、学説上、米
国において「旧政府間協定」は「行政取極」(executive agreement)に位置づけられる旨の 見解が示された44。「新政府間協定」も「旧政府間協定」と同様に米国では「行政取極」に 分類されるものと解される45。
こういった国内法上の位置づけについては、各国でいかなる扱いがなされていようとも、
「新政府間協定」が主権国家の合意文書(国家間で結ばれ国際法によって規律される書面に よる国際合意)である以上、その国際法上の法的拘束力が損なわれるないとするのが国際 社会の共通認識といえよう46。「アラバマ号事件の仲裁判決」(1872年)で確認されたと指 摘されたように、国家は自国に課された「国際法上の義務を免れるために自国の国内法を 援用することはできない」47。
「国内法援用禁止原則」と称される当該原則の趣旨は、「常設国際司法裁判所」の「ポー ランド人の待遇事件」(1932 年)や「国際司法裁判所」における「国連本部協定事件」で も確認された48。このうち前者について「常設国際司法裁判所」は、「国家は、国際法また
43 村瀬、前掲書〔『国際立法』〕328頁。中村耕一郎は、日本において「国会承認条約」と「行 政取極」の区別があるとしたうえで、米国において「条約」の締結には上院の3分の2(「過 半数ではない」)の同意を得なければならないことが「憲法」(「第2編2節2項」)で定めら れていることとの関係から、「議会の承認」を要しない「行政取極」(executive agreements) は次の3種類に分類されると説いた。1)congressional executive agreements(「具体的な案 件に関して連邦議会の授権があり、これに基づいて締結されるもの」)、2)pure(sole)executive
agreements(「大統領がその最高司令官としての権限及び外交権限に基づいて締結するもの」)、
3)treaty executive(implementing)agreements(「既に上院の同意を得て締結された条約 の条項を根拠としてその実施のために結ばれるもの」)。中村耕一郎、前掲書、39-40頁。「米 国憲法」(「アメリカ合衆国憲法」)については、奥脇=小寺(編集代表)前掲〔『国際条約集2013 年版』〕887-888頁を参照。Aust, op. cit. at 157-160.
44 Sinha H.P., “Criminal Jurisdiction on the International Space Station,” JSL, Vol.30, No.1 (2004) at 102-103.
45 Farand, op. cit. [“The Space Station Cooperation Framework”] at 51-52. 「1988年歳出権 限化法」により「行政府」に対して「宇宙基地計画に係るパートナー諸国」との「協定締結 権限」が付与され、1998年の「新政府間協定」についても、その効力が及ぶものとされたと いわれている。佐藤雅彦、前掲、3-14を参照。
46 Sinha, op. cit. at 103. もっとも、国内法上の位置づけが国によって異なることは、ISS計画 にかかる各国の予算編成に影響を与える可能性があると指摘しえる。「新政府間協定」第15 条2を参照。
47 杉原、前掲書〔『国際法学講義〔第2版〕』〕111頁。和仁健太郎「国際法上の義務の優越 ア ラバマ号事件」小寺彰=森川幸一=西村弓(編)『別冊ジュリスト204号 国際法判例百選[第2 版]』(有斐閣、2011年)16-17頁〔英米仲裁裁 判決1872年9月14日 The Alabama Arbitration, Arbitral Award〕。
48 杉原、同上、111-112頁。Applicability of the Obligation to Arbitrate under Section 21 of the United Nations Headquarters Agreement of 26 June 1947, ICJ Reports 1988, pp.33-35,
は効力ある条約において自国に課されている義務を免れるために他国に対して自国の憲法 を援用することはできない」と判示したと説かれた49。また、後者の「国連本部協定事件」
において「国際司法裁判所」は「国際法が国内法に優越するという国際法の基本原則」は
「アラバマ号事件以来の司法判断」(judicial decision as long ago as the arbitral award of 14 September 1872 in the Alabama case between Great Britain and the United States)により 繰り返し確認されてきた原則であると指摘したと読み取れる50。
「国内法援用禁止原則」と密接に関連するものとしては、ほかに、「ウィーン条約法条約」
第27条や「国際法委員会」の「国家責任条文」(2001年)第3条を挙げられる。「ウィー ン条約法条約」第27条では、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国 内法を援用することができない」と定められた。そして「国家責任条約」第3条では、「国 の行為が国際的に違法とされるか否かは、国際法によって規律される。このような違法性 の確定は、同一の行為が国内法により合法とされることによって影響されない。」と規定さ れた。かかる認識を前提とすれば、国内法上の手続等を理由に各「参加主体」は「新政府 間協定」の法的拘束力を否定しえないとの見解を導きえる51。つまり、国内法上、いかな る位置づけがなされていようとも、「新政府間協定」は国際法上、法的拘束力を有する「条 約」に分類しえると考えられるのである。
第3項 一般国際法の適用可能性(pacta sunt servanda)
さて、「新政府間協定」の国際法上の位置づけを確認したところで、次に「義務」の程度 を測るうえでの評価基準のひとつとして、一般国際法の適用可能性について検討してみよ う。先に指摘したとおり、一般国際法の適用可能性は、条約に対する各締約国の遵守意識 を左右するゆえに、この点は「義務」の程度を測るうえで考慮の外に置くことはできない。
そこで ISS 計画に対して一般国際法の適用が、「新政府間協定」上どのように扱われてい るかにつき整理しておくことにする。
「新政府間協定」第2条1には「宇宙基地は、国際法(宇宙条約、救助協定、責任条約及 び登録条約を含む。)に従って開発し、運用し、及び利用する」と定められた。同様の記載 は、「この協定は、国際法に従って…」と規定された「新政府間協定」第1条1や「発展」
について定めた同協定第14条1にも見受けられる。このほかに「新政府間協定」前文で は宇宙関連諸条約について言及がなされた52。「新政府間協定」第2条や第1条、第14条
para.57. Treatment of Polish Nationals and Other Persons of Polish Origin or Speech in the Danzig Territory, PCIJ Series A/B, No.44 (1932) p.24.
49 杉原、同上、111頁。和仁、前掲〔「国際法上の義務の優越 アラバマ号事件」〕16-17頁。
Schmalenbach, op. cit. at 460.
50 杉原、同上、111-112頁。和仁、同上。ICJ Reports 1988, p.34, para.57.
51 Lukashuk I.I., “The Principle Pacta Sunt Servanda and the Nature of Obligation under International Law,” AJIL, Vol.83, No.3 (1989) at 518.
52 Farand, op. cit. [“The Space Station Cooperation Framework”] at 53.