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問いへの回答

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 110-113)

第 5 章 総合議論 97

5.2 問いへの回答

2章で提起した三つの問いへの回答をおこなう.

問1 提示した地域コミュニティの自発的形成メカニズムは確かか,

に対しては次のように結論する.規範意識が連帯誘因として働くことで,地域コ ミュニティの自発的形成が起こる(56ページ,3.6.1項,図3.4).しかし,規範 意識は逆のバンドワゴン効果も持つので,十分な数の初期の活動主導者が必要で ある.十分な数の活動主導者が居なければ,活動の拡大は起こらずに即座に消滅 する.仮説として提案した地域コミュニティの自発的形成メカニズムは,論理的 な妥当性を持っていると言える.

しかし,二つの問題が更に明らかになった.一つは,規範意識の効果では活動 が集団全体に広がりにくいという問題である.活動に否定的な態度の者まで規範 意識で巻き込むには,活動規模が十分に大きくならなければならない.しかし活 動規模が大きくなるには時間がかかり,その間にも活動は成功して公共財を産出 し続ける.この生み出され続ける公共財が,活動に否定的でタダ乗りする者達に

「活動に参加しなくても益を得られるのだから自分の行動はやはり間違っていな い」という認識を形成してしまう.その結果として,否定的な態度の者はますま す態度を硬化させるので,彼らを巻き込むことは不可能になってしまう.こうし て活動は全体に広がらずに,活動貢献者と非貢献者の集団に二分される(57ペー

ジ,3.6.2項,図3.5左).もう一つは,人口の流動性が活動形成にどういう影響を

与えるかという問題である.本論文では,人々が居住する場所を移動することは 無く,かつ,近隣住民間での助け合いが起こる程度には既に関係性が構築されて いる状況からの,コミュニティ活動の形成を考察した.しかし,人口の流動性の 問題を考えるとき,居住者が入れ替わる状況や関係性が形成されたり消失したり する状況での検討が必要である.構成員が流出入することはコミュニティ活動の 形成にどのような影響を与えるのか,ネットワークの構造が時間変化することは コミュニティ活動の形成にどのような影響を与えるのか,その過程で形成される スケールフリー性やスモールワールド性を持つ複雑なネットワーク構造はコミュ ニティ活動の形成にどのような影響を与えるのか,は未だ明らかでない(62ペー ジ,3.8項,3段落目での問題提起).

問2 動員の拡大を引き起こすトリガーは何か,

に対しては次のように結論する.規範意識が連帯誘因として働く場合には,自己 効力感の醸成がトリガーとなり地域コミュニティの自発的形成が起こる.このと

き自己効力感の醸成は,一時的参加者(中立的態度の者)の参加を繋ぎ止めるこ とで活動拡大のトリガーとなる(59ページ,3.6.3項,図3.6). ゆえに,自己効 力感が中立的態度の人々の間で醸成されることが,地域コミュニティの自発的形 成においては重要である.更に言えば,中立的態度の人々の集団で醸成されるこ とが重要である(60ページ,3.7.1項,図3.7). 以上から地域コミュニティの形 成拡大においては,活動を主導する者達(肯定的態度の者)に加えて,中立的態 度の者達が存在が重要と言える.彼らがたまたま参加したタイミングで,継続的 に参加し続けられる状況であるかどうかが,自発的な活動形成が成功するか失敗 するかの運命を分ける.

問3 移住者のような社会的に孤立した者を統合する仕組みは何か,

に対しては次のように結論する.居心地の良さを作り出す物理的要因と社会的要 因が適切に設計されている場合には,社会的に孤立しがちな個人志向の人々が社 会志向の人々と共存できる場所を作り出せる(90ページ,4.6.3項,図4.11).し かし居心地の良さが慎重に設計されなければ,容易に一方の志向により専有され る.したがって,居心地の良さを作り出す物理的要因と社会的要因が適切に設計 されている場合に限り,サードプレイスは社会的に孤立した者を統合する場とな る.具体的には第一に,個人志向の人々が十分に存在する場合には,物理的要因 からの居心地の良さを提供することが共存を促進する.第二に,二つの志向間の コミュニケーションを促進することが,利用者の流動性を高め,一方の志向によ る専有を防ぐ.

第二の設計から,様々な志向の者にとって居心地の良い場所を作り出すことで 共存を実現するという設計方法だけでなく,場合によってはある者にとって居心 地が悪くなるかもしれないが利用者の流動性を高めることで共存を実現するとい う設計方法があることが明らかになった(92ページ,4.6.3項,図4.12).その メカニズムは次である.公共空間で起こるコミュニケーションは利用者の居心地 の良さを作り出す一因である.この居心地の良さは「今誰がそこを利用している か」によって,つまり利用者の構成によって刻々と変わるものである.この刻々 と変わる誘因が,あるタイミングではあるタイプの人を引き寄せるが,別のタイ ミングではそのタイプの人を退出させるような力を生み出す.これが,あるタイ プの人が多く利用していたと思ったら次の瞬間には彼らは利用しなくなっていた という状況を作ったり,そのような利用非利用が周期的に繰り返されるような状

況を作ったりする(92ページ,4.7節,3段落目での議論).コミュニケーション に由来して生じる居心地の良さは連帯誘因の一つと解釈できる.しかしその効果 は,共感的誘因や既存関係的誘因のように時間的に安定したものではなく,そこ にたまたま誰が居るのかに応じて即興的に生み出され変化する不安定なものであ る.

新たに明らかになった論点を手がかりとしてさらに議論を深める.

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