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第 5 章 JICA による CCPL の他国への展開

5.2. 受入国の個別の状況を検討する際のポイント

受入国の個別の状況を検討する際の判断基準として、以下のポイントが考えられる。

<政府の公共管理能力>

CCPLは一般財政支援であり、供与資金は一般国家歳入の一部に組み込まれることになる。

すなわち、CCPLは受入国政府の調整・連携・意思決定メカニズム等を活用しながら、実際 に財政支援で供与した資金を受入国の公共財政運営制度の中で使い、政策制度の改善を図 っていくアプローチを採用している。したがって、受入国政府の公共管理能力が CCPL の 効果発現の鍵を握ると考えられる。

ここでいう公共管理能力とは、政府が資金管理を含む「財務管理」及び「有形資産管理」

を中心とする公共部門の総合的なマネジメントを合理的に行うための組織能力をいう。プ ログラムローン/開発政策借款は、(基本的には)使途が限定されないファンジビリティが 高い資金が国庫に入るため、ドナーにとっては信託リスクをいかに低減させるかが極めて 重要であり、そのためには受入国の予算の信頼性、支出コントロールを含む収支管理の状 況、会計システムと財務報告の信頼性、監査の質(これらが「財務管理」に該当)など事 前に把握、検証しておく必要がある。また、インフラ開発事業のアウトプットである道路、

橋梁、鉄道、地下道/地下鉄、空港などの有形固定資産、調達及び生産された材料、製品 等の棚卸資産のデータベース/台帳が整備・管理され(これらが「有形資産管理」に該当)、 維持管理予算の手当てが有効かつ効率的に行われるための仕組みがあるかどうかも見極め ておく必要がある。特にベトナムSP-RCCのような分野横断的でカバレッジが広い改革支援 を行う場合は信託リスクを予めコントロール下に置くことが肝要であり、受入国の公共管 理能力の事前の把握、検証とともに、プログラムローン/開発政策借款を通じた能力強化

が鍵を握ると考える。つまり、ドナーにとって受入国の公共管理能力の十分性そのものが プログラムローン/開発政策借款供与の前提であるとともに、プログラムローン/開発政 策借款の供与を通じて公共管理能力を強化し、かつ、常時モニタリングを行うことによっ て信託リスクの低減を図るというスタンスが重要と思料する。その際、JICAは、JICA独自 の分析調査やモニタリングを補完するため、世界銀行など協調融資ドナーのリソース(既 存の分析調査結果等)を最大限に活用することが効率的である。また、「政府の公共管理能 力」に加えて、「実施機関/調整機関の政府内での調整能力」も重要な検討項目に挙げられ る。特に、対象とする改革分野が横断的かつ多岐にわたる場合、調整コストが膨大である ことから、受入国政府側の負担が大きいことが想定されるため、改革分野を絞り込むなど 調整能力にみあった規模・カバレッジでプログラムローン/開発政策借款を供与し、実績 を積み上げていくというアプローチも考えられる。

<政府の財政支援ニーズ:政策制度改革支援の必要性・マクロ経済(財政、国際収支)上 の必要性>

財政支援の機能は大きく分けて2 つある。1つは、「政策制度改革支援」の側面であり、

CCPLのポリシー・マトリックスで扱う改革分野の実施促進を支援するものである。もう1 つは、「援助資金の財政への投入」の側面であり、財政資金の補填(特に恒常的な財政赤字 のファイナンスを通じた経常支出への貢献)や(一時的な)国際収支ギャップの支援を指 す。受入国によっては、前者:資金面以外の側面(各種改革項目の促進)をより重視する 国や、後者:財政ギャップの補填の側面(国債の代替効果)を重視する国など、借入の主 目的が異なると考えられることから、財政支援ニーズを把握する際は、これら 2 つの側面 を十分考慮することが肝要である149

前者については、受入国のセクター/分野のニーズを十分に把握し、受入国側の優先度 等を踏まえた上で、調整能力にみあった規模・カバレッジで支援内容を精査することが重 要である。その際、受入国の気候変動対策の主流化の度合いや、緩和と適応のどちらのニ ーズが高いかといった点についても留意する。後者については、受入国側の資金ニーズを 十分に把握し、受入国の債務負担は持続的か、債務負担吸収力や将来の返済能力を含めて 精査することが重要である。

<受入国のG77における立場への考慮(政治面での考慮)>

CCPLはグラントではなく、借款(ローン)であることに十分留意し、国際場裏での受入

149 JICAでは過去にタイにおいてCCPLを検討したが、借款による財政支援へのタイ政府の資金需要が無 くなったため実現しなかった経緯がある。

国政府の立ち位置に配慮することが重要である。開発途上国のグループであるG77 は途上 国の気候変動対策を先進国がローンで支援することについて反対のポジションを取ってい る。すなわち、G77は、「気候変動問題は先進国の責任であり、途上国は、なぜ先進国から ローンを借りて気候変動適応策をとらなければならないのか」という議論がある。実際、

インドネシアCCPLの場合、(先進国が原因で生じた気候変動問題に対処するために)ロー ンは受けないとの政治判断が下され、CCPL が終了した経緯がある150。また、JICA では過 去にフィリピンにおいて CCPL を実施しようとする動きがあったが、同様の理由で実現し なかった経緯がある(フィリピン国内でNGOの声が大きかった模様)。

こうしたことから、今後、他国への CCPL の展開を検討する際は、当該国の気候変動対 策に関する政治的スタンスに留意する必要がある。

<実施機関の選定(とりまとめ官庁の能力)>

改革対象分野が多岐にわたり、分野横断的な課題を扱う CCPL の実施機関には、政策立 案・調整機能を持ち、ライン省庁と密接な関係(実質的な影響力)を有する中央経済官庁

(財務省や計画省等)が務めるのが望ましい。

インドネシア CCPL、ベトナムSP-RCC のそれぞれの実施機関の“立ち位置の違い”は、

他国での CCPL 展開を検討するにあたって「実施機関の選定」に重要な示唆を与えるもの である。CCPLへの参加インセンティブが薄いライン省庁に対して強力なリーダーシップが 発揮でき、実質的な影響力・調整力を有する機関は政府内でのレバレッジ効果が高く、CCPL の効率的な運営にもプラスに作用すると考えられる。

インドネシアのBAPPENASの場合、予算配分権を有する開発計画策定官庁として、国家 レベルでの包括的な開発政策・戦略の観点から、ライン省庁との調整・協議を行うことが 可能であったのに対して、ベトナムのMONREは1 ライン省庁であり、他省庁を説得する ことは難しい立場にある。こうした立場の違いが、各実施機関の CCPL の捉え方やスタン スの違いにも反映されている。

インドネシアの場合、既にBAPPENASが有していた省庁横断的調整機能をCCPLが利用 する形で活動が展開された(つまり既存の調整メカニズムを土台として気候変動対策を円 滑に進めるための効果が発揮された)のに対して、ベトナムの場合、SP-RCCの枠組みを通 じて、気候変動対策に係る省庁横断的調整機能や政策対話のプラットフォームが新たに整 備・制度化された。つまりベトナムでは、既存の調整メカニズムを持たない MONRE が実 施機関として、SP-RCCを拠り所に他省庁とのコミュニケーションの強化・促進を図ってき

150 BAPPENAS次官との面談より。

ている。政府内の調整メカニズムが新たに設置されたことは大きな前進であるが、MONRE のリーダーシップや調整能力の弱さは依然として課題である旨、現地関係者から指摘があ った。

中央経済官庁の中でも MOF は資金面での財政支援受入のインセンティブが高く、かつ、

各省庁の予算を握っており、予算プロセスにおいてライン省庁との連絡・調整が継続的に 行われていることから、効率的なCCPLの運営が可能であると考えられる。

<CCPLの実施体制>

CCPLの実施体制を検討する際は、以下の諸点に十分留意し、十分精査することが重要で ある。

• トップレベル(大統領・首相レベル)での気候変動対策へのコミットメントがあること

• 受入国の気候変動対策の主流化の度合い、緩和と適応のどちらのニーズが高いか

• 取りまとめ官庁(実施機関)の能力

• 受入国側に政策アクションの実施とモニタリング能力があること

• 関連する技術協力の供与や関連調査による支援も可能であること

• ライン省庁に派遣されている専門家の層の厚さ

• ハイレベルでの政策対話を行うための仕組み(例えば、インドネシアの場合のような、

CCPL の Steering Committee Meeting とその前後のモニタリング・チームの長としての

IGES理事長とBAPPENASやライン省庁などとの大臣レベルでの意見交換など)

• ローカルリソース(大学、研究機関、NGOなど)の活用の可能性

• モニタリングを JICA が行う場合その体制面の整備(協調融資の場合は、他ドナーとの 協調の観点を含む)

<出口戦略>

CCPLは政策制度改革支援という性格上、ひとたび支援を開始すれば、息の長い支援とな ることが想定されるが、受入国の支援ニーズは状況に応じて変化していく。ドナー側は、(受 入国政府の支援ニーズの変化を踏まえつつも)出口戦略を明確にしておくことが重要であ る。出口戦略を CCPL 支援開始前にあらかじめ明確にしておくことで、受入国政府に対し て一定のレバレッジを利かすことが可能になると考えられる。

他方、ベトナムの場合にように、トップドナーである JICA が支援を終了するとなると、

同国の財政へのインパクトも大きいことから、こうした影響への考慮も必要である。(支援 を“打ち切られた”といわれることのないよう、十分な配慮が必要である。)