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第 2 章 JICA による気候変動対策プログラムローンの取り組み

2.3. ベトナム気候変動対策支援プログラム( SP-RCC )

(1) プログラムの背景・概要 1) プログラムの背景58

ベトナムは急速な経済成長により、1995年から2011年の間にエネルギー消費量が約2.8 倍に増加し、同国のGHGの排出量増加率(1995~2010年)はASEAN主要諸国の中で最 上位である。一方、約3,400kmに及ぶ長い海岸線や広大なメコンデルタを有し、世界銀行 等の調査によれば気候変動の影響を最も受けやすい国の一つに挙げられている。ベトナム 政府が 2009年に公表した気候変動の影響シナリオによれば、2100年までに平均気温は2

~3℃上昇、海面は75cm上昇、年間降雨量は5%増加と見込まれている(いずれも1980-1999 年比)。仮に 1mの海面上昇が起こると、メコンデルタの40%、紅河デルタの 11%が浸水 し、GDPの10%を失うと予測されている。洪水・台風の頻発・深刻化、干ばつの長期化、

塩水溯上等、将来の気候変動に伴う災害の発生頻度の増加・深刻化は、同国の持続的な開 発にとっての重要なリスク要因となることが懸念されている。実際、過去 10 年間(2001

~2010年)において発生した自然災害による死者・行方不明者の数は9,500人に上り、毎 年の被害総額はGDPの1.5%に相当する規模であったと報告されている。特に、ベトナム は世界第2位の米輸出国であるが、2050年には気温上昇によるメコンデルタの米の生産性 が15%低下すると予測されており59、輸出先の国々への影響、さらには世界的な食料価格 高騰への影響も懸念される。

以上より、気候変動による悪影響はベトナムの経済・社会開発、環境にとって脅威とな り、特に、相対的に適応能力の低い貧困層にはより被害が大きくなることが予想されるた め、分野間・地域間の連携が肝要である。従って、社会経済や地方開発の戦略及び計画策 定における気候変動の観点の主流化を進め、気候変動対策に係る活動実施のインセンティ ブを向上させることのできる財政上の仕組みの構築や能力強化の取組みが必要である。

58 出所:JICA提供資料。

59 「メコンデルタ沿岸地域における持続的農業農村開発のための気候変動適応対策プロジェクト最終報告書

JICA)」(20134月)。

ベトナム SP-RCC は、NTP-RCC を始めとするベトナムの気候変動対策を推進すべく、

日本の主導の下2009年に開始され、ドナーとベトナム政府の政策協議を通じて、①緩和、

②適応、③分野横断的課題の3つの重点課題における政策アクションの形成・実施促進を 図ってきた。その結果、2011年にはベトナム政府は、包括的・分野横断的な気候変動対策 の戦略として NCCS を策定し、2012 年には首相を議長とする「国家気候変動委員会」

(NCCC60)を設立したことに加え、同年、日本をモデルとした省エネラベル制度が導入 される等の成果をあげてきたが、更なる推進を促すために2013年以降、第2フェーズ(2013

~2015年)を開始した。現在は、第2フェーズの最終年度にあたり、目下、世界銀行が主 導する第3フェーズ(2016~2020年)の枠組みを議論しているところである。

2) プログラムの概要

本プログラムは、ベトナム政府の気候変動対策について財政支援と政策対話等を通じて 支援することにより、①GHG の吸収増大・排出抑制による気候変動の緩和、②気候変動 の悪影響に対する適応能力強化、③気候変動に係る分野横断的課題への対応を図り、もっ て同国の気候変動に伴う災害等リスク低減による持続的経済発展に寄与すると同時に、気 候変動緩和にも寄与するもの61

表 2-9 SP-RCCの事業費、借款金額及び条件等

SP-RCC I SP-RCC II SP-RCC III SP-RCC IV SP-RCC V 円借款承諾額/

貸付実行額

10,000百万円/ 10,000百万円

10,000百万円/ 10,000百万円

15,000百万円/ 15,000百万円

10,000百万円/ 10,000百万円

15,000百万円/ 15,000百万円

借款契約調印 2010年 6月18日

2011年 11月2日

2013年 3月22日

2014年 3月6日

2015年 3月31日 借款契約条件

1

金利:0.25%、 返済40年(う ち据置10年)、

一般アンタイド

金利:0.3%、 返済40年(う ち据置10年)、

一般アンタイド

金利:0.3%、 返済40年(う ち据置10年)、

一般アンタイド

金利:0.3%、 返済40年(う ち据置10年)、

一般アンタイド

金利:0.3%、 返済40年(う ち据置10年)、

一般アンタイド 借入人/

実施機関 ベトナム社会主義共和国 / 天然資源環境省(MONRE62出所:JICAプレスリリースより作成

1)金利は気候変動対策円借款の条件を適用

60 National Committee on Climate Change

61 出所:JICA提供資料。

62 Ministry of Natural Resources and Environment

(2) 主な政策アクションの成果

SP-RCCは、前記のとおり、2009年の開始当初はNTP-RCCに基づく形で実施され(第

1フェーズは2009~2012年)、現在の第2フェーズ(2013~2015年)においてはNCCS及 びNGGSに掲げられた政策に基づき、緩和、適応、及び分野横断的課題を8つのテーマに 分類し、政策アクションの達成状況を評価した上で一般財政支援の形態で資金供与を行っ ている。8つのテーマにおけるSP-RCCの主な政策アクションの成果は以下のとおりであ る。

表2-10 SP-RCCの主な政策アクションの成果 1. 災害リスク軽減、早期警告と気候モニタリング

<水/水資源>

・ 国家水文気象システムのアップグレードのための詳細な投資計画と自然災害防止及 び制御法が策定された。その他堤防改良プログラムの承認、移転計画作成のための災 害常襲地域の確定等、実施に向けての具体策も進みつつある。

<森林>

・ 沿岸林・特別利用林等の保護計画が策定され、一部が実施された。

<インフラ(交通)>

・ 交通開発戦略及びマスタープラン(道路・鉄道)が改定(適応・緩和策の反映)され た。

<インフラ(建設)>

・ 気候変動の影響評価と適応策の検討及び主要な建築基準への反映がなされた。

2.食糧、水資源安全保障

<水/水資源>

・ 水資源法の策定、及び本法に基づいた国家行動計画等が策定された。

<農業>

・ 作物生産に関する適応策が研究・適用された。

3.脆弱な地域での海面上昇に対する適切な予防的対応

<水/水資源>

・ 気候変動のインパクトのレビュー、また防災、環境、開発の統合的見地からの沿岸管 理を目的とする統合的沿岸管理の枠組み作成、10省の統合的沿岸管理計画の承認、及 び海域と沿岸の空間計画作成のガイドラインの作成等がなされた。

<インフラ(交通)>

・ 交通開発戦略及びマスタープラン(道路・鉄道)が改定(適応・緩和策の反映)され た。

<インフラ(建設)>

・ 気候変動の影響評価と適応策の検討及び主要な建築基準への反映がなされた。

4.森林の保全及び持続可能な開発

<森林>

・ 森林管理の実施手続きがいくつか明確になった(持続的森林管理、森林環境サービス 支払、森林保護・開発に対する違反や森林火災に対する罰則等の実施手続)。生物多 様性保全の枠組・方針を示す基礎的な文書が策定された(生物多様性法のガイドライ

ン、生物多様性保全マスタープラン)。国家REDD63+行動プログラムが策定された。

5.社会経済開発プロセスにおけるGHG排出削減

<農業>

・ 2020年までのGHG排出削減目標が設定され、緩和策が研究・適用された。

<インフラ(交通)>

・ 公共交通、代替燃料の導入等の計画・実施に係る政策文書が策定された。

<インフラ(建設)>

・ 省エネルギー建築に係る技術基準が改正された。

<エネルギー(エネルギー効率)>

・ エネルギー効率化に関する規定や手続き文書が策定された(エネルギー消費活動全般 の効率化を図る「省エネルギー法促進」に係る詳細規定、「産業活動におけるエネル ギー効率化」に資する省エネ活動定量化に係るガイドライン、エネルギー診断・管理 のためのエネルギー管理・診断士の教育・資格発行の手続続手順)。エネルギー効率 基準及びラベリング制度の開発のための省エネラベル手続基準の開発等が進められ た。

<エネルギー(再生可能エネルギー)>

・ 電力市場における再生可能エネルギー利用及び投資促進のために、2020年までの都市 における再生可能エネルギーマスタープランが作成された。風力発電事業促進に係る 支援制度及び風力事業計画のためのガイドラインの開発がなされた。

<廃棄物>

・ 統合的廃棄物管理に係る国家戦略(2025年)及び2050年構想が策定された。

・ 州・市及び州をまたがる広域レベルでの廃棄物マスタープランの策定及び3Rに係る パイロット事業が計画・実施された。

・ 2011~2020年における廃棄物処理施設整備投資プログラムが策定された。

・ Waste-to-Energyプロジェクトを推進するための制度整備(電力の優先的買い取り制度

に係る首相決定の承認)がなされた。

6.気候変動対策における政府の役割

<主流化>

・ 気候変動における主要なアンブレラ政策が策定され(NCCS、NGGS、社会経済開発5 ヶ年計画(SEDP64)・社会経済開発戦略(SEDS65)、その他各分野における国家戦略や 行動計画等)、気候変動政策実施において重要な組織が設立された(NCCC、SP-RCC プログラム調整ユニット(SPRCC PCU66等))。また、普及啓発の為のワークショップ や研修が開催された(対象:共産党関係者、政府関係者、研究者、及び一般市民等)。

7.コミュニティの能力構築

<保健>

・ 保健リスク対策のツールが作成(地域保健ハザードマップ、早期警報システム、災害 医学・救命救急ガイドライン等)され、保健分野における行動計画及びガイドライン が策定された(保健分野における気候変動対策行動計画(2010~2015)、及び同行動 計画の地方実施のためのガイドライン)。

<教育>

・ 教育分野における行動計画が策定され(教育分野における気候変動行動計画(2011~

63 Reduction of Emission from Deforestation and forest Degradation

64 Socio Economic Development Plan

65 Socio Economic Development Strategy

66 ProgramCoordination Unit