第 1 節 リスクヘッジ
企業は事業活動を継続していく上で様々なリスクを抱えている。例えば、原材料の調達や製品売却の際の価格変 動リスク、資金調達・運用のリスクなど、企業活動の側面には多様なリスクが存在する。
リスクヘッジとは、このようなリスクを回避することである。例えば価格変動リスクについては、先物市場を利用して将来の 価格変動から生じる不確定要素を排除することが可能である。リスクヘッジ機能は、先物市場における最も重要な役割 の一つである。企業はリスクヘッジを行うことにより、将来の価格変動から生じるリスクを回避し、利益の確保を図ることが できる。また、受け入れたくないリスクを回避することにより本業に資源を集中させることもできる。
商品先物市場におけるヘッジ取引は主に、生産リスク(原材料の購入価格の変動リスク)や販売リスク(製品の販 売価格の変動リスク)を回避するために行われている。
*ヘッジ(Hedge=保険つなぎ)
第 2 節 買いヘッジと売りヘッジ
現物市場と先物市場の価格連動性を利用して、双方の市場で反対の取引を行うことにより、互いの利益と損失を 相殺するのがヘッジ取引である。つまり、現物取引で損失が発生する場合には、先物取引の利益でその損失を相殺させ るというポジションをつくる取引である。
基本的なヘッジ取引には、将来の購入のため値上がりに備える「買いヘッジ」と、将来の売却のため値下がりに備える
「売りヘッジ」の 2 種類がある。
第 1 項 買いヘッジ(ロング・ヘッジ=Long Hedge)
将来のある時点で原材料の購入を予定しており、今後の価格変動に係りなく現在の価格に近い価格で原材料を購 入したい場合に用いるのが買いヘッジである。
<買いヘッジの例>
飼料メーカーである A 社は、12 月時点において、6 ヶ月後の 6 月に飼料用に用いる大豆 1,000t を購入する計画 がある。12 月時点の現物価格(45,000 円/t、税抜き)であり、6 ヵ月後もこの値段で購入できれば利益は充分に確 保できるが、大幅に上昇すると採算が採れなくなる可能性もある。
そこで、A 社は 6 ヵ月後に大豆価格が値下がりして、その分、コスト低減による収益増加が図れる可能性を犠牲にして も、大豆の値上がりによる採算割れ(損失)を回避することが望ましいと考え、大豆先物市場で 6 ヶ月後の 6 月限
(46,000 円/t)の取引を利用してリスクヘッジを行うことにした。
<ケース 1>
① A 社は一般大豆先物 6 月限(46,000 円/t)で 40 枚(25t/枚×40 枚=1,000t)買い建てた。
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その後、南米が天候不順で生産量が減少したことや、中国が旺盛な大豆ミール需要を背景に大量に大豆を買い付け たことを受けて大豆需給が逼迫し、大豆現物価格は上昇して、6 月の大豆現物価格は、52,000 円/t(税抜き)に 値上がりした。現物価格と先物価格は連動するという前提で、大豆先物価格も 53,000 円/tになり、買建玉を手仕 舞った。
② 先物取引の利益: 700 万円=(53,000 円/t-46,000 円/t)×25t×40 枚
③ 大豆の購入費用: 5,200 万円=52,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,500 万円=5,200 万円-700 万円
つまり、A 社は当初の計画通り、1tあたり 45,000 円で大豆を仕入れることができたことになる。
<ケース 2>
反対に、南米の豊作により、6 ヶ月後の大豆現物価格が 42,000 円/t に値下がりしたとする。現物価格と先物価格 は連動するという前提で、大豆先物価格も 43,000 円/t になったとする。
② 先物取引の損失: ▲300 万円=(43,000 円/t-46,000 円/t)×25t×40 枚
③ 一方、現物の購入費用: 4,200 万円=42,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,500 万円=4,200 万円-(▲300 万円)
つまり、この場合も A 社は計画通リ 1tあたり 45,000 円で大豆を仕入れることができた。
<ケース 1>、<ケース 2>の結果、A 社はヘッジ取引により購入費用を 1t あたり 45,000 円で価格を固定できたとい うことになる。
ここで、当初の時点で A 社は大豆を購入して保管しておくという選択肢よりも、先物取引を利用した方が有利である 点に注目したい。
もし、当初の時点で大豆を購入していれば、購入価格は 1t あたり 45,000 円で、その他にも金利や保管費用までも 負担することになり、さらに、6 ヶ月後までその商品が不要であれば、保有することにより生じる便益(コンビニエンス・イー ルド)の価値もないからである。
第 2 項 売りヘッジ(ショート・ヘッジ=Short Hedge)
将来のある時点で商品の売却を予定しており、今後の価格変動に係りなく現在の価格で商品を売却 したい場合に 用いるのが売りヘッジである。現在保有している商品の価値が下がることに対する、価格下落リスクを避けるためにも使用 される。
<売りヘッジの例(1):価格下落リスクのヘッジ>
小豆の問屋である B 社は、製餡会社との間で、(ア)3 ヶ月後に小豆 24t(800 袋、袋=30kg)を売却する、(イ)
価格については 3 ヵ月後の現物価格の時価とする、販売契約を結んだ。
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現在の小豆現物価格は 12,500 円/袋であり、この価格を基準にすれば、B 社は 3 ヶ月後の小豆現物価格が現在よ り 1,000 円/袋上昇すれば収益が 80 万円(1,000 円/袋×800 袋)増加し、逆 1,000 円/下落すれば収益が 80 万円減少することになる。
そこで、B 社は値下がりによる収益の減少を回避するために、小豆先物取引を利用して、リスクヘッジを行うことにした。
<ケース 1>
① B 社は小豆先物市場で 3 ヶ月後の限月(12,700 円/袋)で 10 枚(1 枚あたり 80 袋、24t)売り建てた。
3 ヶ月後、B 社の懸念通り小豆価格が 12,000 円/袋に値下がりしたとする。現物価格と先物価格は連動するという 前提で、先物価格も 12,200 円/袋になったとする。
② 先物取引で得られる利益: 40 万円=(12,200 円/袋-12,700 円/袋)×80 袋×(-10 枚)
③ 現物売却の収益: 960 万円=12,000 円/袋)×800 袋
④ 先物取引とあわせた収益: 1,000 万円=40 万円+960 万円
つまり、B社は当初の計画通り、800 袋の小豆を 1 袋あたり 12,500 円で販売できたことになる。
<ケース 2>
反対に、小豆現物価格が 3 ヶ月後に13,000 円/袋に値上がりしたとする。現物価格と先物価格は連動する前提で、
小豆先物価格も 13,200 円/袋になったとする。
② 先物取引の損失: ▲40 万円=(13,200 円/袋-12,700 円/袋)×80 袋×(-10 枚)
③ 現物売却の収益: 1,040 万円=13,000 円/袋×800 袋
④ 先物取引とあわせた収益: 1,000 万円=1,040 万円+(▲40 万円)
つまり、この場合も B 社は 1 袋あたり 12,500 円/袋で小豆を売却することができたことになる。
<ケース 1>、<ケース 2>の結果、B 社はヘッジ取引により売却価格を 1 袋あたり 12,500 円/袋で販売価格を固定 できたことになる。
今までの例でみたように、ヘッジ取引によって価格変動リスクを回避して、将来の現物取引に伴う利益を確保すること ができるが、反対に利益増大の機会も失うことにもなる。しかし、ヘッジ取引の目的は、将来の不確実性を取り除き利益 を確保するということであるから、その目的が満たされている点を評価するべきである。
<売りヘッジの例(2)現物の売却リスクと価格下落リスクの両方をヘッジ>
C商社は、顧客である飼料メーカーD社から 40,000 トンのとうもろこし、搾油メーカーE社から 12,000 トンの大豆の 注文を受けた。C商社は、とうもろこしと大豆の合計 52,000 トンを輸入するにあたって、パナマックス(積載量約 55,000 トン)の船を傭船することとなるが、傭船料は積載重量に関わらず同一料金である。C商社は、トンあたりの傭 船料を引き下げるために、取りあえず余っている 3,000 トン分のスペースを埋める目的で、販売先の決まっていない 3,000 トンの大豆も購入して一緒に輸入することとした。なお、C商社はこの合計 55,000 トンのとうもろこしと大豆につ いては、CBOT を利用して値決めを行っており、為替についても為替予約を済ましていることとする。
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現在の大豆価格は 45,000 円/t である。アメリカから日本への輸送期間は約 33 日あるが、この間、販売先の決まっ ていない 3,000 トンの大豆の買い手が見つかり、価格も現在の価格以上で売却できれば十分採算が合うが、買い手が 見つからなかったり、買い手が見つかったとしても大豆価格が下落して現在の値段を大きく下回ったりする採算が合わなく なる。
そこで、C商社は、(ア)販売先の決まっていない 3,000 トンの大豆を日本に輸入した後に販売先が見つからないリス クと、(イ)輸送期間中に大豆価格が値下がりするリスク、の 2 つのリスクを回避するために、大豆先物市場で 2 ヶ月後 の限月(46,000 円/t)の取引を利用してリスクヘッジを行うことにした。
① C商社は大豆先物市場で 2 ヶ月後の限月(46,000 円/t)を 120 枚(1 枚あたり 25t、3000t)
売り建てた。
日本への輸送期間中、3,000 トンのうち 1,000 トンの大豆の販売先が見つかった。しかし、大豆価格は下落してい て 44,000 円/t で決まった。この結果、1,000 トン分の大豆については先物市場でヘッジしておく必要が無くなったので、
40 枚分の売建玉(25t/枚、1,000 トン)を手仕舞った。なお、現物価格と先物価格は連動するという前提で、先物 価格も 45,000 円/t になったとする。
② 先物取引で得られる利益: 100 万円=(45,000 円/t-46,000 円/t)×25t×(-40 枚)
③ 現物売却の収益: 4,400 万円=44,000 円/t×1,000t
④ 先物取引とあわせた収益: 4,500 万円=4,400 万円 + 100 万円
つまり、C商社は 1,000t 分について 45,000 円/t で大豆を売却したことになる。
その後、残りの 2,000 トンについては、最後まで販売先を見つけることができなかったので、日本で荷下ろしした後、大 豆先物市場で現物受渡しを行うことにした。このとき、大豆現物価格はさらに値下がりしていて 43,000 円/t になってお り、大豆先物市場の納会値段(受渡値段)も 44,000 円/t になったとする。
⑤ 先物市場での値洗い差損益と受渡代金の合計; 9,200 万円
・値洗い差益: 400 万円=(44,000 円/t-46,000 円/t)×25t×(-80 枚)
・受渡代金(税別): 8,800 万円=44,000 円/t×25t×80 枚
つまり、C 商社は、残りの 2,000 トンについては 46,000 円/t で大豆を売却したことになる。
このように、売却先が決まっていない場合でも、先物市場で売りヘッジした後に、現物受渡しを行うことによって、価格下 落リスクだけでなく、現物の売却リスクもヘッジすることができる。
第 3 項 ベーシスリスク(Basis risk)
これまで、先物市場でのヘッジ活動により、「先物の利益(+)=現物の損失(-)」あるいは「先物の損失(-)
=現物の利益(+)」が成り立つため、価格変動リスクを回避することが可能であると説明してきたが、これは、現物価 格と先物価格がヘッジ期間を通じて完全にパラレルに変動する、即ち、現物価格と先物価格の差が一定のときにのみ成 り立つことであり、実際には、そのようなことは稀で、「先物利益(+)<現物損失(-)」や「先物損失(-)>現