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第 5 章  協同問題解決能力の評価の枠組み

5.2.   領域の体系化

5.2.6.   文脈:問題シナリオ,チーム構成,課題特性,媒体

問題解決が行われる問題シナリオと文脈には,活用される協同のタイプと協同能力(コンピテ ンシー)に影響を与え得る,多くの心理学的側面がある。こうした側面は,解決される問題の文 脈,情報の利用可能性,グループメンバー間の関係,問題のタイプを規定する。

調査において有意義な協同の相互作用と意欲を高める経験が自然に生じることはないが,建 設的な相互作用を促進するために協同は慎重に構築する必要がある。例えば,効果的な協同は,

知識,地位,ゴールに関しては比較的対称的な構造を取るという特徴があるが(

Dillenbourg, 1999

),役割や課題はグループメンバーによって大きく異なる場合がある。知識の対称性が生じ るのは,参加者全員が異なる視点を持っている可能性はあるものの,ほぼ同じ水準の知識を有し ている場合である。地位の対称性には,まとめ役との関係といった相互作用ではなく,仲間との 協同が含まれる。最後に,ゴールの対称性に含まれるものは,対立する恐れのある個人のゴール ではなく,共通するグループのゴールである(

Rosen and Rimor, 2009

)。

課題において成果を出すには参加者間での協同と相互依存が必要となるように,調査問題は 設計されている。例えば,多くの問題タイプ(すなわち,ジグソー,隠されたプロフィール(

hidden

profile

) [この場合,人間が利用できる情報が課題の最初で全部は与えられない])において,チ

ームの各メンバーはそれぞれ情報の一部分を持っており,メンバーが一緒になった時にのみ問 題を解決することができる。こうした問題は,他者との相互作用の過程で重要な情報が得られる ため,静的というよりは動的である。さらに,問題は解決の質にグレイスフルデグラデーション を提供するよう設計されているので,部分的または次善の解決には部分正答が与えられる。別の 例は合意形成(

consensus - building

)の課題で,こうした課題ではリソースは限定されている が,グループは交渉をして,様々な利害関係者の要求を満たす解決に向けてまとまらなければな らない。参加者間の情報も矛盾している場合があり,情報を共有して,どのような情報が問題を 解決するのに最良であるかを決めること(討論)が必要となる。

調査問題はまた,社会において生産的であるために,フォーマルな学校での状況と仕事の場の 両方において若者のグループが解決しなければならないような問題のタイプも考慮している。

問題シナリオは,問題が適用される状況的文脈を提供する。例えば,合意形成の課題における例 として,授業でパワーポイントを使って発表を行う際にグループの生徒がそれぞれ異なる情報 を持ち寄る場合,どのように発表の準備を行えばよいかについて解決するといった教室シナリ オがある。他にも,交渉(

negotiation

)の課題で,新しい学校をどこに建てるかについて討論す るなど,ある文化におけるグローバルな市民政策に関係したシナリオもある。

協同問題解決の調査問題の媒体は,豊富さ(

richness

),指示性(

referentiality

),基盤化

grounding

)のコストなどの側面を規定する。例えば,ある小問では図が豊富で,教室や職場

をシミュレートする没入環境が提供される場合もあれば,簡単なインターフェースに過ぎず,問

題に関するテキスト記述とグループでコミュニケーションする手段のみが提供される場合もあ

る。小問の文脈が外部の世界や現実の世界の文脈について高い指示性を持つ場合があるのに対

ストは,グループのメンバーが互いにコミュニケーションして共通基盤を見つけることがどの 程度容易かによって,高くなったり低くなったりする。最後に,共有文書で作業する場合など,

各チームメンバーの行為が明白に見える共有の問題空間を持つ小問もあれば,別々の課題に取 り組み,コミュニケーションチャンネルを通じてグループに折り返し報告する場合など,チーム メンバーの行為に関する情報が暗示的なシナリオもある。

PISA2012

年調査の単独問題解決の枠組みは,不良定義問題/良定義問題や,静的問題/相互

作用的問題といった課題特性の側面を考察した構造になっている。協同問題解決には本質的に,

相互作用,相互依存,動的といった傾向がある(

Blech and Funke, 2005, 2010; Klieme, 2004;

Wirth and Klieme 2004

)。解決に向けた進捗に対する制御性がほとんどなく,問題状態の可能性

が非常に広範で,問題状態の追跡が複雑になるほど,こうした傾向は調査手法に一層大きな課題 をもたらす。グループにいる個人が他の個人に依存する限り,課題に対する制御にはある程度の 不確実性が存在することになり,ほとんどの問題タイプを完全に定義することは難しくなる。そ のため,ある問題がその問題の設計者の観点では良定義問題であると考えられても,一人あるい は複数人のグループ参加者の観点からはある時点で不良定義問題となり得ることがある。また,

問題の大半あるいは全てにおいて,こうした文脈の側面における変化を反映し得る様々な局面 がある。

図表

5

3

は図表

5

2

の略図を詳しくしたものであり,協同問題解決課題の難易度に影響を

与える文脈の側面と状態の概要を示している。

PISA

調査の文脈において,図表

5

3

に示した

要因を全て評価することは不可能であり,ましてや要因の組合せを考えると膨大な数になる。そ

のため,協同問題解決の調査問題は多くの要因を固定しつつ,少しの要因を変化させることによ

って,総領域の抽出サンプルから構成されている。この枠組みが特定しているのは,協同問題解

決の定義にとって最も中核となる要因である。さらに具体的に述べると,

PISA2015

年協同問題

解決調査は,特定の問題を解決するのに必要な問題解決スキルよりも協同スキルの方に大きな

注意を向けている。その結果,問題の協同スキルに関する難易度は,低,中,高にわたって変化

し,問題解決スキルに関する難易度は,低から中の範囲で変動する。

図表

5

3

協同問題解決の文脈の側面

文脈 側面 状態

問題シナリオ

課題のタイプ 例:ジグソー,合意形成,交渉

状況

私的/公的

テクノロジー/非テクノロジー 学校(フォーマル)/学校以外

(インフォーマル)

領域内容 例:数学,科学,読解,環境,コ

ミュニティ,政治

チーム構成 グループの規模 二人以上(その生徒本人を含む)

対称/非対称 役割の対称性:各チームメンバーに

とって可能な行為の範囲 対称/非対称 課題特性 開放性(

PISA2012

年調査 問題解

決能力を参照) 良定義/不良定義

情報の利用可能性:生徒は必要な情 報を一度に入手しているか?

PISA2012

年調査 問題解決能力 を参照)

静的/相互作用的

相互依存性:生徒

A

は生徒

B

の行

為がないと問題を解決できない 低~高

ゴールの対称性 グループ/個人

解決までの距離(初期状態からゴー

ル状態まで) 小,中,大

媒体 意味的豊富さ 低~高

外部の世界に対する指示性 低~高

コミュニケーション媒体における基 盤化のコスト

相互依存性:生徒

A

は生徒

B

の行 為がないと問題を解決できない

低~高

問題空間:生徒が他のチームメンバ

ーの行為について情報を得るか? 明示的/暗示的

チームメンバーの地位の対称性