第Ⅱ章 デジタルコンテンツの制作環境調査
3 制作環境の諸問題
3.1 作業工程変化に関する問題
3.1.1 アニメーションのデジタル化とFLASH制作
デジタル化の利点として、用紙の運搬がない、背景の色替えなどが容易で数種類対応できる、材料 費(セル・カーボン・絵の具)がない、現像費がないなどがある。
しかし、こういった工程変化で材料を取り扱う会社が廃業する事になり、撮影会社がフィルムを使わ ずにコンピュータ合成処理をするようになり基本的なミスはなくなった。
デジタル彩色など、数名で多くの枚数を塗れるようになったために制作工程は変容していき、逆にス ケジュールが圧迫されるようになった。
FLASH のデータはメールでも送れる程データ量が小さくて済むため、運搬に適している。キャラク
ターはベクトルで作画できるが、背景にはラスターデータが必要となる。
しかし、FLASHのSWFデータのTU/TDは微妙な誤差でぶれる事があり、そのままTV用には使用 できない。
QuickTime や AVI のような安定したフォーマットに変換するため、一端フレームに分解して再合成
レンダリングをする必要がある。
FLASH ではごく簡単にデータを動かす事が出来るため、意図的か事故かを問わず、絵コンテにない
動作を現場で入れてしまう事もある。演出手法を制作前に確立しておかないと編集などで修正する事 となり、かえって手間やコストがかかる場合もあるため注意が必要である。
3.1.2 映画制作現場での作業工程変化
デジタルカメラでの撮影が主流になりつつあり、安価な映画用デジタルカメラRED-ONEの登場や 民生用でも業務用に迫るCANON EOS5Dなどのデジタル機材の進化は止められず、フィルム工程の 作業フローは変化してきている。
3.1.3 制作会社が必要でなくなる場合
クライアントと代理店が事前に構成を作成して制作プロダクションやディレクタを通さずにポスプ ロに直接データを持ち込んで制作を依頼するなど、制作工程を飛ばすようなやりかたも出てくるよう になった。
これは、WEB制作を行う会社がクライアントに依頼されて、CMやDVDコンテンツを制作する場合 などによく見かけられる。
最初に文字や写真の情報量が決まっており、その情報量をまとめるための道具としてWEBページ制 作のように動画制作を手がけるわけである。
しかし、ポスプロでは、作品に対する演出や責任が不明瞭となるため、ディレクタを立てる必要があ り、フリーディレクタなどの需要が今後出てくるかもしれない。
制作環境が低コストで買える時代になり、いろいろな分野に制作ラインも多様化している。
3.1.4 映画作成制作工程 オフオンライン化
HDV 規格は DV でハイビジョンが取れる独自の圧縮形式だったが、ネイティブで扱えるソフトウ エアがなかった。(HDV規格は日本ビクター・ソニー・キヤノン・シャープの4社により策定され、
2003年9月30日に発表)
ただし、各社のコーデックには微妙な違いがあり、各社のハードウエアを使わないと完全表現ができ ないため混在が難しかった。それに対し Apple 社の FinalCut6 ではそれらが全部扱えるように
Prores422というコーデックを搭載し、各HDVフォーマットはPreres422に変換が可能となった。
従来のやり方では、オフライン編集を経てオンライン編集を行う方法がとられている。
撮影機材であるHD-CAM(4:2:2)やHD-SR(4:4:4)では独自のフォーマットで収められる。
そのネイティブフォーマットのデータはオフライン編集で扱うにはデータが大きすぎるため、一端 DVコーデックに圧縮してオフライン編集を行うが、DVコーデックのままでは品質が低く最終データ としては使えないため、EDL(編集データ)を出力してオンライン編集を行っていた。
このやり方では、カメラマンの事情でHD-CAM/SR/P2等のいろいろな機材が使われるが、オンラ イン編集では、全部同じ機材で統一しなければならない。
低い規格に合わせる事はできないので、アップコンバートして最大の規格 HD-SR に変換する。
全データをアップコンしても良いのだが、予算の問題で使っている分だけアプコンする事を求められ る。結局、編集段階では各コーデックは混在して扱わなければならない。
オフオンライン(繋いだものがそのまま使えるやり方)編集には無駄がなくて良いのだろうが、スト レージ(HDD)の量が膨大になりマシンの負荷も高くなり作業効率の低下を招く。
この負荷に対し十分な予算がとられない場合が多く、オンラインは最終ポストプロダクションである イマジカ等にまかせ、編集マンはオフラインのみの作業をするように住み分けを行っていた。
将来的にPCの速度が速くなり、ストレージ量が増えていけばオフオンライン作業も標準となるかも しれないが、現在でもProres422を用いればFinal Cut Proでオフオンラインが可能になる場合があ る。
映画では35mmフィルムの情報量は圧倒的に多く、品質的にはトップにある。
このデータを使うには、本来ならば 4K スキャニングが良いとされ、それを凌駕する RED というデ ジタルカメラも今後注目されている。
日本沈没はフィルムの4Kスキャニングをやった最初の作品だが28テラバイトものデータ量を必要と し、最終ポスプロであるイマジカでも6テラしかもっていない量であった。
しかし、結果として監督は、部分的に4Kであれば基本は2Kでも十分であると結論づけた。
2KであればスキャンではなくHD-SR444 のSR テレシネでも良く、またSRテレシネはリアルタイ ムで処理できるため、速く、コストも安い。
更に、Final Cut Pro6のProres422をそのままフィルムにして劇場でテストしてみたところ、アクシ ョン映画など動きの早いカットが多い作品では使えそうだという評価が出た。
データもProres422で圧縮をかけると、4テラバイトのデータも500キガバイトまで圧縮できるため、
運搬にも適している。MacのFinal Cut Proでオフオンラインができる環境が整ったように思える。
このワークフローの別の利点として、CG パートの作業は編集で編集ロックするのを待ってから、作 成部分を取り出してカラーコレクションし、カラーグレーディングデータをつくらないと合成できな かった。Prores422を用いる方法では、カラーコレクションもFinal Cut Proのカラーエフェクト機 能を使用して作成できるため、カラーグレーディング作業へと変える事ができる。CG も色補正をし ながら作成できるので効率も色のマッチングも良い。全データを SR テレシネにするコストはかかる が、総合的なコスト削減、スケジュール圧縮は十分に見込める。
同じApple社のハードウエアを使用する事になるため、モニターも統一できる事によるメリットもあ
る。Final Cut Proの導入は、ソフトウエア・ハードウエア的にも安価で抑えられるため、(オプショ ンにもよるが100万円程度)このようなオフオンライン編集のワークフローが広がる可能性があると 思われる。
3.1.5 単価構造の崩壊
従来、CM やアニメ制作、編集室では作業単価が設定されていた。現在では、そういった単価での ビジネスモデルはほとんど存在しない。コマーシャル協会(JAC)が単価をまとめた単価表の冊子が あり、それをベースに映画に適用した単価設定を行おうとした事もあったが、各企業や団体の思惑も あり、実際には策定できなかったという経緯もある。
CM 制作会社がアニメやテレビ番組のプロダクションよりもマシと思われるのは、業界団体による価 格協定の歴史があったためだと考えられるが、現在では公正取引委員会にJAC価格を「カルテル」と 指摘されて廃止となり、この価格基準もなくなった。しかし、一応の基準としての商慣行は確立でき ているようである。グロス請けには良い部分もあるが構造変化に対応しにくいのではないだろうか?
3.2 機材導入に関する問題
3.2.1 機材が安価になった事による問題
演出家が個人のPC で映像を簡易作成できるようになって、そのデータをポスプロに持ち込まれる 事がある。持ち込まれたデータが読めない場合やその演出家の PCのみに入っているフォントを使用 するなど、複雑な個別の問題が発生する事がある。また、HDD の価格が下がりデータの移動が楽に なったが、USBメモリが挿されるだけでウイルス感染の恐れがあるため、その気軽さの反面、その分 のセキュリティ対策も重要となる。
3.2.2 機材の償却が早くなってきている問題
インテルのゴードン・ムーア氏が提唱したムーアの法則にあるように、毎年のように新機種が発表 されCPUの速度のみならずストレージの量も加速度的に増えている。このため、PCの効果的な利用 期間はどんどん短くなっている。また、ソフトウエアも毎年のようにバージョンアップされ、同じソ フトウエアを何年も使い続ける事が難しくなっている。このための機材の入れ替え費用、保守料金や バージョンアップ費用は、定期的に発生し人数の多い会社程、負担差は多くなる。
また、機材の変更により古いメディアが読めなくなる事やソフトウエアのバージョンアップによりデ ータフォーマットが異なり、データが読めなくなる事もある。
ポストプロダクションにおいて、アナログ編集は無くなったが、テープ・リフォーマットなどの作業