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第 4 章 ポイント付与と値引きのプロモーション効果の推定(研究Ⅱ)

3. 分析結果

3.1. 記述統計量

分析を開始するにあたって,被説明変数および説明変数の記述統計量をまとめたものが

Table 11である。被説明変数である売上数量についてみると,分散は平均の約17倍であ

り,平均と分散が大きく乖離している。したがって,過分散の問題が発生している可能性

がある。Figure 16は加工食品カテゴリーの日別店別商品別の売上数量のヒストグラムで

ある。すべてのデータによるヒストグラムが上段であり,最大878まで右裾が広がってい る。グラフを見やすくするために売上数量を50以下に限定したものが下段である。0が1 割以上を占めており,1~3の周辺に集中しているものの,右裾が広い分布をしていること が確認できる。

値引率の方がポイント付与率よりも平均および標準偏差が大きいのは,値引率がポイン ト付与率よりも高く,かつ価格販促がポイント販促よりも頻繁に行なわれていることを反 映している。商品単価は,最大980円で最小88円となっている。

Table 11 被説明変数および説明変数の記述統計量

N Mean S.D. min max

売上点数 2,300,619 6.04 10.14 0 878

値引率 2,300,619 7.90 10.08 0 88.84 ポイント付与率 2,300,619 0.92 2.48 0 25.25 商品単価 2,300,619 232.96 148.89 88 980

値引率 1,336,666 13.60 9.87 0.009 88.84 ポイント付与率 399,689 5.30 3.50 0.627 25.25 値引きとポイント付与の同時実施 245,700 - - -

-<プロモーション実施時>

34 モデルの選択の手順としては,Cameron and Trivedi (2005),北村(2009)や筒井・平井・秋吉・

水落・坂本・福田(2011)を参考にしている。

69

Figure 16 売上数量のヒストグラム

3.2. 分析モデルにおける推定結果

このデータに基づいて,一般化線形モデルによる回帰分析をおこなった結果がTable 12 にまとめられている。推定のために使用するモデルは,前節で説明したポアソン回帰モデ ルおよび負の二項回帰モデル(NB2),負の二項回帰モデル(NB1),ゼロ過剰ポアソン 回帰モデル,ゼロ過剰負の二項回帰モデルの5種類である。

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Table 12 パラメータ推定値

被説明変数 ポアソン回帰 負の二項回帰

(NB2)

負の二項回帰

(NB1)

ゼロ過剰 ポアソン回帰

ゼロ過剰 負の二項回帰

売上点数 係数

(z値)

係数

(z値)

係数

(z値)

係数

(z値)

係数

(z値)

説明変数

値引率 0.05706 0.04734 0.04224 0.05641 0.04719

(1093.01)*** (465.54)*** (461.91)*** (1061.64)*** (465.01)***

値引率×値引率 0.00025 0.00072 0.00012 0.0003 0.00076 (130.77)*** (125.26)*** (34.54)*** (154.96)*** (132.10)***

ポイント付与率 0.05056 0.03435 0.04085 0.04854 0.0339 (160.42)*** (61.78)*** (76.55)*** (152.92)*** (61.22)***

ポイント付与率×ポイント付与率 -0.00153 -0.00072 -0.00133 -0.00145 -0.0007 (-72.69)*** (-20.29)*** (-36.41)*** (-68.37)*** (-19.72)***

商品単価 -0.01161 -0.01477 -0.00848 -0.01183 -0.01504

(-531.71)*** (-320.33)*** (-221.91)*** (-533.06)*** (-325.29)***

値引率×商品単価 0.00000 0.00004 0.00001 0.00000 0.00004 (9.22)*** (53.99)*** (11.78)*** (5.18)*** (52.89)***

ポイント付与率×商品単価 -0.00005 -0.00004 -0.00003 -0.00005 -0.00004 (-36.64)*** (-17.64)*** (-13.48)*** (-39.30)*** (-17.81)***

-0.12849 -0.02225 -0.06828 -0.12526 -0.01913

(-97.61)*** (-8.90)*** (-30.43)*** (-94.46)*** (-7.68)***

(固定効果は省略)

定数項 -6.8003 -7.3974 -6.7019 -6.8012 -7.4277

(-1167.17)*** (-575.24)*** (-626.97)*** (-1156.10)*** (-579.92)***

レコード数 2,300,619 2,300,619 2,300,619 2,300,619 2,300,619

LR chi2(627) 962464.25 700450.25 700450.25

Log Likelihood -7,191,551 -5,622,059 -5,847,191 -7,081,969 -5,620,617 AIC 14,384,359 11,245,375 11,695,641 14,165,195 11,242,494 BIC 14,392,302 11,253,331 11,703,597 14,173,151 11,250,462

α 0.3408232 0.3342031

δ 2.411245

LR test of α=0:

LR test of δ=0:

ω 0.0324 0.0020

Vuong test of zinb

vs. standard negative binomial

z = 13.02 p<0.001

* p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001 値引き・ポイント付与の同時実施 ダミー

chi2(1) = 3.1e+06 p<0.001

chi2(1) = 2.7e+06 p<0.001

まず,ポアソン回帰モデルに関しては,尤度比検定の結果,

α = 0

および

δ = 0

は棄却

され,対数尤度やAICについても,ポアソン回帰モデルは負の二項回帰モデルよりも大き い。したがって,ポアソン回帰モデルは採択されない。また,AICによれば負の二項回帰

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モデルよりもゼロ過剰負の二項回帰モデルの方がよりよいモデルと判断される。また,

Vuong testの結果から,通常の負の二項回帰モデルよりもゼロ過剰負の二項回帰モデルの

方が支持される。これらのことから,5つのモデルのなかでゼロ過剰負の二項回帰モデル が最もよい,予測力の高いモデルであることが確認される。したがって以降では,ゼロ過 剰負の二項回帰モデルの推定結果にしたがって,プロモーション弾力性の推定をおこなっ ていく。

ゼロ過剰負の二項回帰モデルの係数はすべて有意水準0.1%水準で有意である。値引率× 値引率の2乗項が正で有意であるのに対し,ポイント付与×ポイント付与の2乗項は負で 有意になっている。これは,値引率が高くなるほど値引きの弾性値が高くなる一方,ポイ ント付与率が高くなるほどポイント付与の弾性値は低くなることを意味している。したが って,値引率・ポイント付与率に関するマグニチュード効果が確認され,仮説3は支持さ れた。

さらには,値引率×商品単価の交互作用項の係数が正で有意になっている一方で,ポイ ント付与率×商品単価の交互作用項の係数が負で有意になっている。これは,商品単価が 高いほど値引きの弾性値が高くなる一方で,商品単価が高いほどポイント付与の弾性値は 低くなることを示している。したがって,値引きとポイント付与については商品単価に関 するマグニチュード効果が確認され,仮説4は支持された。

また,値引き・ポイント付与の同時ダミーは負で有意であった。値引きとポイント付与 を同時に実施することによって,効果が相殺されていることが明らかになった。

次に商品単価ごとに,および値引率・ポイント付与率ごとに,値引きおよびポイント付 与の弾性値を算出し,デルタ法によって推定値の標準誤差の計算をおこなう 35。商品単価 としては,商品単価の平均が232.96であり,その±1SD(±148.89)をカバーする範囲と して,100円,150円,200円,250円,300円,350円を設定した。値引率・ポイント付 与率としては,1%から5%まで1%刻みで,5%以降は5%刻みとする。ただし,値引率 とポイント付与率のとる範囲が商品単価によって大きく異なるため,各商品単価の前後25 円におけるポイント付与率が最も高い値までをフルで取り得る範囲を分析範囲とする。中 央値が100円から350円までの各商品単価の範囲において,値引率およびポイント付与率 の記述統計量をまとめたものがTable 13である。例えば商品単価が100円の場合,ポイ ント付与率の最大が11.36%であるため,値引率・ポイント付与率10%までを分析範囲と する36

35 デルタ法については,Cameron and Trivedi (2005)231232ページを参照した。なお,値引率・

ポイント付与率ごとの弾性値を推定する際に,商品単価を平均値に固定して評価している。

36 値引率・ポイント付与率が5%刻みのため10%の次は15%となり,15%ではポイント付与率の最大

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Table 13 商品単価ごとの値引率およびポイント付与率の記述統計量

商品単価 SP 観測数 平均 標準偏差 最小 最大

値引き 5.41 5.42 0 50.00

ポイント付与 1.00 2.55 0 11.36

値引き 6.66 9.52 0 51.81

ポイント付与 0.54 1.44 0 11.90

値引き 7.72 8.39 0 54.55

ポイント付与 0.55 2.22 0 25.25

値引き 7.29 9.36 0 58.06

ポイント付与 0.36 1.35 0 21.93

値引き 7.92 9.90 0 84.28

ポイント付与 1.88 3.33 0 17.36

値引き 14.88 11.60 0 61.88

ポイント付与 1.10 1.99 0 6.10

325円以上375円未満

(中央値350円)

75円以上125円未満

(中央値100円)

125円以上175円未満

(中央値150円)

175円以上225円未満

(中央値200円)

225円以上275円未満

(中央値250円)

275円以上325円未満

(中央値300円)

73,269 647,496

96,072

642,022

151,474

420,031

商品単価が100円,150円,200円,250円,300円,350円の場合の値引きおよびポ イント付与の弾性値の推定結果が,Figure 17に表されている。それぞれのエラーバーは,

95%信頼区間を表している。

商品単価が100円の場合,1%から3%までの範囲において,ポイント付与の弾性値の 方が値引きの弾性値を上回っている(1%,2%,3%でそれぞれ

z = 11.06

z = 7.34

2.76

z =

)。しかし4%以降は,値引きの弾性値の方がポイント付与の弾性値を上回り,

値引率・ポイント付与率が高くなるにつれて,値引きの弾性値とポイント付与の弾性値の 差が開いている(4%,5%,10%でそれぞれ,

z = − 2.76

z = − 9.15

z = − 36.38

)。

商品単価が150円の場合,1%ではポイント付与の弾性値の方が値引きの弾性値を上回 っているが,2%では有意差がなくなっている(1%,2%でそれぞれ

z = 5.31

z = 0.96

)。

3%以降は,値引きの弾性値の方がポイント付与の弾性値を上回り,値引率・ポイント付 与率が高くなるにつれて,値引きの弾性値とポイント付与の弾性値の差が開いている(3%,

4%,5%,10%でそれぞれ

z = − 4.48

z = − 11.21

z = − 19.30

z = − 51.89

)。

商品単価が200円の場合,1%では,ポイント付与の弾性値と値引きの弾性値の間に有 意差がなくなっている(

z = − 0.58

)。2%以降は,値引きの弾性値の方がポイント付与の 弾性値を上回り,値引率・ポイント付与率が高くなるにつれて,値引きの弾性値とポイン ト付与の弾性値の差が開いている(2%,3%,4%,5%,10%,15%,20%でそれぞれ,

5.43

z = −

z = − 11.47

z = − 18.98

z = − 28.15

z = − 66.36

z = − 60.75

z = − 53.48

)。

値をフルに範囲を取り得ないため10%までとする。

73

Figure 17 値引き・ポイント付与の弾性値の推定結果

商品単価が250円,300円,350円の場合,すべての値引率・ポイント付与率において,

値引きの弾性値の方がポイント付与の弾性値を上回っており,なおかつ値引率・ポイント 付与率が高くなるにつれて,値引きの弾性値とポイント付与の弾性値の差が開いている。

250円の場合の1%,2%,3%,4%,5%,10%,15%,20%におけるz値はそれぞれ,

5.80

z = −

z = − 10.79

z = − 16.85

z = − 24.20

z = − 32.96

z = − 72.86

z = − 67.94

58.86

z = −

であった。300円の場合の1%,2%,3%,4%,5%,10%,15%におけるz

74 値はそれぞれ,

z = − 9.98

z = − 14.77

z = − 20.39

z = − 26.96

z = − 34.48

z = − 70.91

71.42

z = −

であった。350円の場合の1%,2%,3%,4%,5%におけるz値はそれぞれ,

13.14

z = −

z = − 17.55

z = − 22.56

z = − 28.21

z = − 34.47

であった。

以上みてきたように,値引率が高くなるにつれて値引きの弾性値が高くなる一方,ポイ ント付与率が高くなるにつれてポイント付与の弾性値は低くなっており,仮説3が支持さ れていることはここでも確認されている。また,商品単価が高くなるにつれて値引きの弾 性値が高くなる一方,ポイント付与の弾性値は低くなっており,仮説4が支持されている ことはここでも確認されている。 これらの効果の結果,(100円や150円といった)低 い商品単価において,低い値引率・ポイント付与率のときに,ポイント付与の方が値引き よりも売上効果が高くなることが確認された。

4. 考察

4.1. 分析結果の解釈

本章では,小売業の集計された購買履歴データを用いて,0以上のカウントデータであ る売上数量を被説明変数とする一般化線形モデルのゼロ過剰負の二項回帰モデルによって,

値引きおよびポイント付与の弾性値にベネフィット水準によるマグニチュード効果を導入 し,値引きおよびポイント付与の弾性値の推定をおこなった 37。分析結果の解釈として,

以下の3点があげられる。

まず第1に,本研究の推定結果は,ベネフィット水準によって値引きとポイント付与の 弾性値が異なるという,本研究の仮説を支持するものである。ベネフィット水準(商品単 価および値引率・ポイント付与率)によってマグニチュード効果が確認された。このこと は,ベネフィット水準の高低によって,現金およびポイントのとらえ方が異なるという,

中川(2015)によって提示された現金およびポイントに関するメンタル・アカウンティン グ理論の仮説と整合的である。

第2に,低いベネフィット水準というのは,商品単価が低く,なおかつ値引率・ポイン ト付与率が低い場合だけであるということである。値引率・ポイント付与率が低くとも,

商品単価が高ければ消費者はベネフィットが大きいと認知される。また,商品単価が低く とも,値引率・ポイント付与率が高ければベネフィットは高いと認知される。すなわち商 品単価もしくは値引率・ポイント付与率のどちらか一方が高い場合には,高いベネフィッ

37 本学位論文における研究Ⅱは,売上数量というカウントデータを扱うのに適切な一般化線形モデル を用いて,日次のデータを使って分析している点で,関・亀倉(2012)と共通の問題意識をもつが,過 分散のデータの特徴からポアソン回帰ではなく(ゼロ過剰)負の二項回帰モデルを用いている点が特に本 研究の貢献の特徴である。

ドキュメント内 ロイヤルティ・プログラムの消費者行動: (ページ 70-80)