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ポイント付与と値引きの売上効果に関する研究

ドキュメント内 ロイヤルティ・プログラムの消費者行動: (ページ 35-41)

前節ではポイント付与と値引きの知覚価値に関する研究のレビューをおこなった。それ では,実際の小売業において,値引きとポイント付与のどちらの売上効果が大きいのであ ろうか。本節では,値引きとポイント付与が小売業における売上効果に与える影響につい て,議論をおこなう。

3.1. ポイント付与と値引きの売上効果に関する研究(売上データによる実証研究)

ロイヤルティ・プログラムの効果については,これまで多くの研究がおこなわれてきた。

先行研究をまとめたものがTable 6である。セールス・プロモーションの売上効果は,商 品(ブランド)レベル,カテゴリーレベル,店舗レベルの3つの効果に大別される(Neslin 2002,p.7)。これらの先行研究では,ロイヤルティ・プログラムそれ自体の効果をプロ グラムの導入前後や会員・非会員の比較において検証されてきている。ロイヤルティ・プ ログラムによって,購買率,購買頻度,財布シェアといった指標を店舗レベルの平均値で みたときには,おおむね正の変化が確認されている。店舗レベルのポイント付与と値引き の効果を直接比較した研究として,Zhang and Breugelmans (2012)があげられる。Zhang

and Breugelmans (2012)は,従来実施されていた値引き販促を単品ポイント方式のポイン

ト付与に変更した小売業を対象として,仕組みの変更前後,すなわち変更前の値引き実施 時と変更後の単品ポイント販促時の売上効果を店舗レベルで検証した。この結果,値引き 実施時よりも金額換算で同等の単品ポイント販促時の方が売上効果は高いという結果が得 られている。

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Table 6 ロイヤルティ・プログラムの効果測定に関する既存研究

研究 被説明変数 使用データ 効果測定の

分析レベル

Sharp and Sharp (1997) リピート購買率 消費者パネルデータ 店舗レベル

Dreze and Hoch (1998) 売上,利益 売上データ 店舗レベル

Bolton et al. (2000) 購買頻度 購買履歴データ 店舗レベル

Lal and Bell (2003) 購買金額,購買頻度,1回の購買金額 購買履歴データ 店舗レベル

Magi (2003) 財布シェア,訪問シェア 消費者パネルデータ 店舗レベル

Verhoef (2003) 財布シェア 売上データ 店舗レベル

Lewis (2004) 購買確率,収益,注文率,注文量 購買履歴データ 店舗レベル

Van Heerde and Bijmolt

(2005) 店舗売上,利益 売上データ 店舗レベル

Meyer-Waarden and

Benavent (2006) 浸透率,購買頻度,財布シェア 消費者パネルデータ 店舗レベル

Leenheer et al. (2007) 顧客維持率,財布シェア 消費者パネルデータ 店舗レベル

Liu (2007) 購買頻度,取引量,特典請求率 購買履歴データ 店舗レベル

Mayer-Waarden (2007) 財布シェア 消費者パネルデータ 店舗レベル

v. Wangenheim and Bayon

(2007) 購買確率 購買履歴データ 店舗レベル

Lemon and v. Wangenheim

(2008) 提携プログラム間の関連購買 購買履歴データ 店舗レベル

Meyer-Waarden (2008) 1回の購買金額,購買間隔,購買頻度,財

布シェア,店舗スイッチ,来店回数 消費者パネルデータ 店舗レベル

Kopalle et al. (2012) 購買確率 購買履歴データ 店舗レベル

Zhang and Breugelmans

(2012) 1回の購買金額,店舗訪問確率 消費者パネルデータ 店舗レベル

Wei and Xiao (2015) 購買確率,ROI 購買履歴データ カテゴリーレベル

このように,先行研究では店舗レベル(チェーンレベルを含む)の分析に焦点が当てら れたものが多くなっている。というのは,ロイヤルティ・プログラムの最も一般的なポイ ント付与方法であるバスケット方式は店舗レベルの施策であるため,効果測定の分析レベ ルも施策レベルに合わせて店舗レベルとなるためである12。ただし,近年では単品ポイン ト方式によるポイント付与が日本を中心に実施されるようになってきているものの,バス ケット方式と比べればまだ一般的ではない。このような事情を反映して,単品ポイント方 式によるポイント付与の効果検証に関する研究は数少ない。わずかに,カテゴリーレベル による値引きと単品ポイント方式のポイント付与の弾性値の測定をおこなった研究として,

Wei and Xiao (2015)がある。ポイント付与の弾性値とは,ポイント付与数の変化に対する

売上数量の変化の比と定義される。すなわち,1ポイント(1円相当)のポイント付与に

12 これとは対照的に,通常の値引きの場合には商品レベルで実施されるため,効果検証の分析レベル のほとんどが商品レベルである。例えば後述のBijmolt et al. (2005)による価格弾力性研究のメタ分析に よると,対象研究1,851個のうち,SKUレベルが633個,ブランドレベルが1,218個であった。

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よって何%の売上数量がもたらされるか,ということである。Wei and Xiao (2015)は,カ テゴリー単位で単品ポイントが付与される小売業の購買履歴データを用いて,関数形とし ては多変量プロビットモデルによって,ポイント付与の売上効果(弾性値)と値引きの売 上効果(弾性値)をカテゴリーレベルで推定し,分析対象のすべてのカテゴリー(顔の化 粧水,顔のパック,シャンプー,ボディウォッシュ)において値引きの方がポイント付与 よりも売上効果が高いという結果であった。

このように,単品ポイント方式のポイント付与と値引きの売上効果との比較については,

店舗レベルとカテゴリーレベルという分析レベルの違いもあり,既存研究では明確な結論 が得られていない。店舗レベルの分析では,店舗スイッチの効果や店舗内のカテゴリー横 断的な効果を把握することができるが,カテゴリースイッチの効果やカテゴリー内のブラ ンドスイッチの効果を把握することはできない。カテゴリーレベルの分析では,カテゴリ ースイッチの効果を把握することができるが,ブランドスイッチによる商品レベルの売上 の変化を捉えることができない。そして値引きやポイント付与の原資を提供するメーカー にとって,最も関心があるのは商品レベルの売上の変化である。商品レベルにおけるポイ ント付与のプロモーションの売上効果の推定が今後の研究課題として残されている。

3.2. 値引きの弾力性の測定に関する先行研究

ここで,商品レベルの値引きの売上効果に関する研究,なかでも特に価格弾力性の測定 に関する先行研究に焦点を当てる。これまで,小売業の売上データを用いた価格弾力性の 測定に関しては膨大な研究が蓄積されている。これまで,どのような方法で価格弾力性が 算出されているのかを,価格弾力性に関する81の研究(1,851個の弾性値)を対象として メタ分析をおこなったBijmolt et al. (2005)の対象研究を用いて概観する。本章との関連で 特に確認する項目としては,①被説明変数,②弾性値の測定に用いられた関数形,③(値 引き以外の)セールス・プロモーションの効果の考慮,である。

①の被説明変数については,被説明変数として売上の絶対値が用いられたのが555個,

相対的売上(市場シェア,商品選択確率など)が1,296個であった。相対的売上の例とし

てBolton (1989)では,商品i・第t週における売上数量を,分析対象期間の平均売上数量

で除した指標を被説明変数として用いている。

②の弾性値の推定に用いられた関数形は,線形モデルが382個,指数モデルおよび積乗 モデルが810個,魅力モデルが659個であった。以下で,それぞれのモデルについて説明 をおこなう13。線形モデルとは,販売価格Pと売上数量Qとの関係を,

13 ここでの説明は,守口(2002)を参照している。

36 Q= +

α β

P+

ε

(1)

のような線形関数で表すモデルである。ただし,αは切片,βは価格の影響を表す直線の 傾き,εは誤差項を表している。指数モデルとは,販売価格Pと売上数量Qとの関係を,

( )

exp

Q = α β + P + ε

(2)

のような指数関数で表すモデルである。積乗モデルとは,販売価格Pと売上数量Qとの関 係を,

( )

exp

Q = α ε +  P

β (3)

のような積乗型関数で表すモデルである。

β < 1

のときに逓増型となり,

β > 1

のとき に逓減型となる。指数モデルと積乗モデルは,両辺の自然対数をとると,両モデルともに パラメータに関して線形となる。したがって,線形モデルと指数モデルおよび積乗モデル との間には本質的な違いはない。

魅力モデルとは,商品iの市場シェア

MS

i と魅力度

A

iとの関係を,

1 i

i n

j j

MS A

=

A

= ∑

(4)

の関係で表すモデルである。ただし,nは同一の市場に存在すると考える商品の数である。

例えば

A

i を上記の指数モデル

A

i

= exp ( α β + P

i

+ ε )

で表した場合には,多項ロジット・

モデルと呼ばれる。

③の他のセールス・プロモーションの効果については,弾性値の推定時に考慮されたの が820個,考慮されていないのが1,031個であった。ここでの他のセールス・プロモーシ ョンとは,特別陳列(定番と呼ばれる通常の陳列棚とは切り離された場所に商品を陳列す ること)もしくはチラシ掲載のことを指している。

値引きの弾性値とクーポン販促の弾性値の両方を比較計測した研究の例として,Bijmolt

et al. (2005)の研究対象には含まれていない研究ではあるが,本章の問題意識に類似してい

る研究として Kumar and Swaminathan (2005)があげられる。Kumar and

Swaminathan (2005)は指数モデルを用いて,販売価格およびクーポンの額面価格をモデ

ルに組み込み,値引きとクーポンの弾性値の算出をおこなうことによって,売上効果に関 する比較をおこなった。この結果,クーポンよりも値引きの方が高い効果(弾性値が高い)

であることが確認されている。ただし,ここでのクーポンは,日曜日の新聞におけるFSI のクーポンであり,35セントから1ドルまでの値引幅であった14。先行研究では,媒体ク ーポンは統合型SPと認識され,値引きよりも低い知覚価値として認識される傾向が確認

14 FSIFree Standing Insert)とは,新聞に折り込まれる複数枚数の印刷物のことであり,欧米にお けるクーポンの主要な媒体である(恩蔵・守口19947ページ)。

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