第 4 章 ポイント付与と値引きのプロモーション効果の推定(研究Ⅱ)
2. 分析データとモデル
2.1. 分析データの概要
使用するデータは,食品スーパーAチェーン101店舗のカード会員の集計された購買履 歴データである。分析期間は,2012年4月から2013年6月の14ヵ月である。分析対象 商品としては,上記の分析期間中に値引き販促とポイント販促の両方の実績があった加工 食品53商品である。分析対象のデータは,スーパーマーケットチェーンの101店舗にお けるポイントカード会員のPOSデータ(ID付きPOSデータ)である。
プロモーションの掲示方法として,値引きについては,POPによる商品名と価格の掲示 であり,POPに二重価格表示や値引率表示は無い。単品ポイント対象商品については,実 際に付与されるポイント数が書かれた「ボーナスポイントセール 通常のポイントに加え てさらにポイントプレゼント! +(プラス)●●ポイント」というPOPが売場に貼付 されている。ポイント付与のPOPに「ポイント●倍」「ポイント付与率●%」等の表示 は無い。また,単品ポイント対象商品のチラシ掲載はない。
チェーンAの概要について述べる。2012年4月時点で首都圏に101店舗を出店してお り,ポイント会員は購買金額の1%のポイントが買物時に付与される。対象とするチェー ンを1つに限定しているため,購買者(対象チェーンのポイントカード会員)にとっての ポイント付与率の参照点は1%と想定される。貯まったポイントは1ポイント1円単位で 使うことができる。チェーンA のポイントカードはTポイントやPontaなどのような提 携型ではなく,当該小売業でのみポイントを貯め,ポイントを使用することができる。
2.2. 使用するデータと変数定義
本章で使用するデータセットとしては,商品×店舗×日で53商品×101店舗×456日のパ ネルデータとなる。ただし,店舗レベルで分析期間内に,値引きかつポイント付与の両方 の実績がある商品のみを対象としている。また,店舗レベルで1日の客数が100人未満の 日は,異常値の日として除去していため,最終的に得られたデータセットのレコード数は,
2,300,619である。
被説明変数は商品別店別日別の売上数量である。説明変数として,商品単価は当該商品 の当該店舗における期間最大売価である。値引率は,商品別店別日別の販売価格と当該商 品の当該店舗における期間最大売価との差額を,当該商品の当該店舗における期間最大売 価で除したものである。ポイント付与率は付与ポイント数を当該商品の当該店舗における 期間最大売価で除したものである。
65
2.3. 分析モデル
カウントデータを被説明変数とする代表的な関数形として,一般化線型モデルのポアソ ン回帰モデルがあげられる。先行研究の例としては,関・亀倉(2012)は小売業の売上デ ータを用いて,商品別日別店舗別の売上数量データを被説明変数とするポアソン回帰モデ ルにより価格弾力性を推定している。
本章におけるポアソン回帰モデルによる値引きおよびポイント付与の弾性値の推定方 法について説明する31。商品i・店舗
s
・第t
日の売上数量y
istがポアソン分布にしたがう と仮定する。ポアソン回帰は,y
istがポアソン分布に従い,y
istの期待値µ
istの対数リンク 関数と線形予測子η
istとの関係が,( )
log µ
ist= η
ist (9) と表せる一般化線形モデルである。ポアソン分布の特徴は,( )
ist( )
ist istE y = V y = µ
(10)と表せる。つまり,平均と分散が等しい。さらに,(13)式右辺の線形予測子
η
istが,以下の式で説明できるものとする。
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( )( ) ( )( )
2 2
0 1 2 3 4
5 6 7
8 9 10 11 log
ist ist ist ist ist
is is ist is ist
ist i i i s s s t t t ist
PR PR PR PR PO PO PO PO
UP UP UP UP PR PR UP UP PO PO
S D D D A
η β β β β β
β β β
β β β β
= + − + − + − + −
+ − + − − + − −
+
∑
+∑
+∑
++
(11)
ただし,
PR
istは商品i・店舗s
・第t日の値引率,PRは値引率の単純平均,PO
ist は商品i・店舗
s
・第t日のポイント付与率,POはポイント付与率の単純平均,UP
isは商品i・ 店舗s
における商品単価(期間最高売価),UPは商品単価(期間最大売価)の単純平均,S
ist値引きとポイント付与の同時実施ダミー,D
i は商品iの固定効果,D
sは店舗s
の固定効果,
D
t は第t
日の固定効果,log A
istはオフセット項である。値引率,ポイント付与率,および商品単価の説明変数から単純平均を引いているのは,交互作用項および2乗項を入 れた場合に発生する多重共線性を避けるためである。
β
0は定数項,β
1は値引率の係数,β
2は値引率の2乗項の係数である。
β
3はポイント付与率の係数,β
4はポイント付与率の2 乗項の係数である。β
5は商品単価の係数,β
6は商品単価×値引率の交互作用項の係数であ り,β
7は商品単価×ポイント付与率の交互作用項の係数である。β
8はポイント付与と値引 きの同時実施に関する係数である。β
9iは商品iの固定効果の係数,β
10sは店舗s
・の固定効果の係数,
β
11tは第t日の固定効果の係数である。
31 ここでの記述は,筒井・平井・秋吉・水落・坂本・福田(2011)を参考にしている。
66 また,
A
ist= y
isであり,y
isは商品iの店舗s
における期間内の売上数量(すなわち,tyist
∑
)である32。y
isは店舗および商品の販売力の違いをコントロールしている。ポアソン回帰モデルでは,
y
istの期待値µ
istが,以下のように指数関数の形でパラメータ 化される。これは(5)式に(6)式を代入し,µ
istについて(16)式が得られる。( )
ist
exp
istµ = η
(12)そして,対数尤度を最大化するように,
β
0からβ
11tまでのパラメータが推定される。なお,マグニチュード効果を導入しているため,弾性値を推定するためには,限界効果 を算出する必要がある。値引きの限界効果は,(17)式によって推定される。
( )
ist ist 12
2(
ist) (
6 is) exp ( )ist
ist ist
E y PR PR UP UP
PR PR
µ β β β η
∂ ∂ = ∂ ∂ = + − + − ×
(13)したがって,例えば価格が100円のときの弾性値は,(18)式によって推定される33。
( ) ( )
1 2
100
2 exp
ist
ist
ist ist
ist PR
PR
β β
PR PRη
µ
× + − × = (14)同じく,ポイント付与が100ポイントのときの弾性値は,(19)式によって推定される。
( ) ( )
3 4
100
2 exp
ist
ist
ist ist
ist PO
PO
β β
PO POη
µ
× + − × = (15)ただし実際には,現実の小売店の売上データでは,分散が平均よりも大きい過分散とな り,ポアソン回帰モデルが適切であるとは考えられないケースも多い。負の二項回帰モデ ルはそのようなデータに対して用いられるモデルで,商品i・店舗
s
・第t日の売上数量y
istが負の二項分布に従い,
y
istの期待値µ
istの対数リンク関数と線形予測子η
istとの関係が,(13)式で表される一般化線形モデルである。負の二項回帰モデルの線形予測子
η
istは,(15) 式と同じである。このときの商品i・店舗s
・第t日の売上数量の期待値は,以下のように なる。( )
ist istE y = µ
(16)売上数量の分散は以下のような2次関数で表される。この分散を使用するモデルは,NB2 と呼ばれる。
α
がゼロであれば,負の二項分布はポアソン分布に帰着する。( )
ist ist ist2V y = µ + αµ
(17)32 オフセット項に商品i店舗
s
の期間内における売上数量yisを入れることによって,商品iの商品力
および店舗
s
の販売力をコントロールすることができる。これは,Bolton (1989)が被説明変数として,売上数量を年間の平均売上数量で除して指数化したことに対応している。このようにオフセット項を使え
ば,Bolton (1989)のように被説明変数を割算しなくとも,モデリングが可能となる。
33 (9)式のβ6
(
UPis−UP)
は,(10)式では商品単価UPisを平均値に固定して評価しているため,UPis =UPとなり消える。(11)式においても同様である。
67
また,
α
をδ µ
に置き換えて,( )
ist ist istV y = µ + δµ
(18)のように,分散を線形関係でとらえる負の二項回帰モデルは,NB1モデルと呼ばれる。い ずれも
α
,δ
がゼロであれば,平均と分散は等しくなり,ポアソン回帰が適切ということ になる。そして,対数尤度を最大化するように,β
0からβ
11tまでのパラメータ,およびα
または
δ
が推定される。なお,負の二項回帰モデルにおける限界効果と弾性値はポアソン 回帰モデルと同様,(17)式から(19)式で算出される。ただし,カウントデータを被説明変数とする場合には,分散が大きいだけでなく,0と いうデータの個数が非常に大きい場合がある。このようなデータはゼロ過剰と呼ばれる(粕 谷2012)。ゼロ過剰ポアソンモデルでは,確率
ω
で0,確率(1 − ω
)でポアソン分布を とる確率密度関数p
ZIP( ) y
ist を考える(0 < < ω 1
)。( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
1 0 , 0
1 , 1
Poisson
ZIP ist
Poisson ist
p y
p y
p y y
ω ω
ω
+ − =
= − ≥
(19)
ただし,
p
Poisson( ) y
ist は,ポアソン分布の確率密度関数である。この(15)式の分布のもとで,対数尤度を最大化するように,パラメータが推定されることになる。なお,ゼロ過 剰ポアソン回帰モデルの限界効果は,(24)式によって推定される。
( )
ist ist 12
2(
ist) (
6 is) ( 1 ) exp ( )ist
ist ist
E y PR PR UP UP
PR PR
µ β β β ω η
∂ ∂ = ∂ ∂ = + − + − × − ×
(20)したがって,例えば価格が100円のときの弾性値は,(25)式によって推定される。
( ) ( ) ( )
1 2
100
2 1 exp
ist
ist
ist ist
ist PR
PR
β β
PR PRω η
µ
× + − × − × = (21)同じく,ポイント付与が100ポイントのときの弾性値は,(26)式によって推定される。
( ) ( ) ( )
3 4
100
2 1 exp
ist
ist
ist ist
ist PO
PO
β β
PO POω η
µ
× + − × − × = (22)負の二項回帰モデルではポアソン回帰モデルと同様に,確率
ω
で0,確率(1 − ω
)で負の二項分布をとる確率密度関数
p
ZINB( ) y
ist を考える(0 < < ω 1
)。( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
1 0 , 0
1 , 1
NB
ZINB ist
NB ist
p y
p y
p y y
ω ω
ω
+ − =
= − ≥
(23)
ただし,
p
NB( ) y
ist は負の二項分布の確率密度関数である。この(19)式の分布のもとで,対数尤度を最大化するように,パラメータが推定されることになる。なお,ゼロ過剰負の 二項回帰モデルにおける限界効果と弾性値は,ゼロ過剰ポアソン回帰モデルと同様,(24) 式から(26)式で算出される。
本研究においては,ポアソン回帰モデル,負の二項回帰モデル(NB2),負の二項回帰