第4章 総合考察と今後の課題
第1節 全体を通しての考察
本研究の目的は、「児童の原因帰属と自己受容、他者受容感とめ関連につ いて」検討を行うことであった。本研究では、まず、子どもたちの原因帰属、
自己受容、他者受容感を測るものとして、それぞれ尺度を作成した。作成し た尺度をもとにそれらを測定しその関連について検討を行った。
○原因帰属について
子どもたちの原因帰属については、Seligmanら(i991)提唱する原因帰 属の3次元説明スタイル(内在性・永続性・全体性)の理論に基づいて児童 用楽観性質問票を作成した。分析の結果、全体得点では構成概念妥当性、信 頼性ともに確認された。
しかし、児童用楽観性質二二に対する,因子分析の結果,想定した次元ご とのまと、まりにならず,その確認には至らなかった。Seligmanの3次元に 基づく区分による分析では,永続性や全体性など、一部分についてはまとま
りや妥当性も見られたことから、今後さらに検討を重ねることによってより よい尺度となることが期待される。
○自己受容について
自己受容につい』ては、宮沢(1980)の自己受容性測定スケールをもとた した自己受容尺度を作成した。分析の結果「自己への無条件の肯定的な思い」
「自己の特性を知っている」の2因子が抽出された。宮沢では自己受容性と して「自己理解」「自己承認」「自己価値」「自己信頼」を示していた。本研 究と宮沢のスケールとを比較すると、本研究の「自己への無条件の肯定的な 思い」は宮沢の「自己承認」「自己価値」因子によって構成されており、本 研究の「自己の特性を知っている」は宮沢の「自己理解」「自己信頼」因子 によって構成されていた。このことは、宮沢の示す自己受容は無条件の受容 と自己理解とレ}う本研究のような2側面からの見方も可能であることを示
側面の構造とみたときに、宮沢の自己受容の4側面が混在することなく、そ れぞれがどちらにも含まれるのではなくちょうど2側面となったのか一こ
のスケールが測る自己受容性に偏りがあるためのものであるのか、そうでは なく自己受容性の特長と考えられるのか一これらについてはさらに検討し ていく必要があると考える。
○他者受容感について
他者受容感については、そして桜井(1997)の定義のもと先行研究(内
藤・浅川・高瀬・古川・小泉,1987;古川・大江・内藤・浅川,1992;Deci,1995)を
参考にした他者受容感尺度を作成した。他者受容感は、その事実にかかわら ずく本人自身が他者からの受容をどの程度感じられているのかについて問う ものであり、優れた概念であると考える。本研究においても、その点を踏ま えて教示や質問項目作成を行った。因子分析の結果、他者受容感は1因子で あると考えられたが、質問項目を再見すると他者からの無条件の受容と考え られる項目ばかりであった。これは他者受容感の概念から考えると妥当であ ったが、しかし、他者受容感の研究をさらに進めていく上では、他者受容感 にいくつかの側面は考えられないのかを検討する余地がある。つまり、他者 からみれば一般的には受け容れられているように思われる場面でもザルを 水が通り抜けるように本人自身は他者受容感を感じられないこともある。一こ のズレは何が要因どなっているのか。この疑問について、1側面のみの他者 受容感では明らかにできない。本研究において作成した他者受容感尺度をさ
らに改良を重ねていくことによって明らかにしていきたい。
○原因帰属と自己受容・他者受容感との関連について
児童用楽観性質問票、自己受容尺度、他者受容感尺度を用いて高学年児童 に質問紙調査を行った。その結果、児童の楽観性と自己受容、他者受容感に は関連があるという結果を得た。また、同時に行った無気力感(小学生用無
のにしていくために、また、無気力感に陥ることを防止する上で、 受容 という観点をもって働きかけていくことが有効であることを示唆している
と考えた。
さ5に、楽観性への影響を分析したところ、他者受容感が自己受容よりも 影響力を有していることが明らかとなった。このことから、子どもたちの楽 観性が伸びていくためには、子ども自身が他者から受け容れられている感じ を実感できるかかわりが大切であることが示唆された。これらの分析の結果 から、どのような具体的なかかわりが他者受容感をより実感するものである かは明らかとならないが、いくつかの研究をもとに楽観性が伸びていくため のよりよい教育について考えた(第3章参照)。
本研究によって、児童の原因帰属と自己受容・他者受容感との関連が明ら かとなったことから、子どもたちの原因帰属の説明スタイルをより生きやす い楽観的な傾向へと向わせていくとき、自他からの受容、ありのままの存在 を尊重することは重視されるべき観点であると考えられた。
第2節 今後の課題
以下、第1章,第2節での本研究の目的4点に沿って、課題について検討 する。本研究の目的は次の通りであった。
(1)児童の原因帰属と自己受容・他者受容感との関連について検討するた めの尺度を作成する。
(2)作成した尺度をもとに、楽観性と自己受容・他者受容感との関連につ いて検討する。
(3)作成した尺度と、小学生用無気力三尺度を用いて、無気力感と自己受 容・他者受容感との関連について検討する。
(4)子どもたちの楽観性が伸びていくために、学校教育ができることにつ 内いて考察する。
(1)作成した尺度について
本研究の調査において、「小学生用楽観性質問票」「自己受容尺度」「他者 受容感尺度」の作成を行った。調査は、大阪府の2つの小学校の5・6学年
において実施した。実施後のアンケートによって、以下のような感想が得ら
れた。
・問題の意味がわかりにくいものもあり、6年生には難しいところがあρ た。
(具体的には、「○○のせいでというのが理解しにくかった。」1小学生用 楽観性質問表の質問(1)(2)の部分について指摘があったる)
・振り仮名をもつとつけた方がよいと思う。
・思ったよりも時間がかかった。
・教科書のように綴じたほうが見やすい。ド
また、作成者として以下のように今後の課題をまとめる。
○小学生用楽観性質問票について
ずのものも見られたが、安定した因子構造は見られなかった。今後の課題と しては、・この点について改良を重ね、3次元ごとの因子が測定できる質問紙 の作成を目指す。そのために、どのような質問項目が適切であるかについて、
検討を重ねていく。
○自己受容尺度
本研究においては、小学生が回答しやすいように、否定的な表現を避け、
すべて肯定的な表現の質問項目とした。しかしながら、、そのため、すべて最 高評定を選択する被験・者も幾人か見られた。そのため、それらの回答は高い 自己受容を示すものなのか、単に同評定値のみを回答したものなのか判断で きず、分析に用いることができなかった。今後は、小学生にとって適切と考 えられる内容で逆転項目などを設け、それに対応していきたい。
○他者受容野尺度
自己受容尺度に関しては、「条件一無条件」という次元で2つの因子が抽 出されたが、他者受容感尺度では、すべての項目が「無条件」を問うもので あった。研究の目的から考えると、他者受容感においても「条件一無条件」
の次元で異なる因子が得られると、より研究を深めていくことができると考 える。今後は、その点について改良を重ねていくこととする。
以上の課題を踏まえて、今後、よりよい質問紙の作成を目指す。
(2)(3)児童の楽観性、無気力感と受容との関連について
,児童の楽観性や無気力感と、自己受容、侮者受容感との関連については、
概ねその関連が見られた。まず、楽観性と受容との関連が示され、また無気 力感と受容についても先の関連を支持する結果が示された。
これらの結果によって、子どもの楽観性が伸び、無気力感を逃れるために、
受容という観点から捉えていくことは有効であることが示されたといえる。
しかしながら、その研究の積み重ねはまだまだ浅く、これからその因果関係 を究明していくとともに,具体的に楽観性を高め、無気力感を低くしていく にはどのような働きかけに効果が見られるかについても研究を進めていく
(4)子どもたちの楽観性が伸びていくために
子どもたちの楽観性が伸びていくために、楽観主義一悲観主義、学習性無 力感と随伴性、教育における働きかけの可能性、原因帰属と受容との関連、
待つ ことの教育における意義ということについて考えた。子どもたちの 楽観性が伸びていくために、教師としてどのような働きかけができるのかに ついての手がかりとなる先行研究などの結果をもとに考察を重ねた。この度 は、具体的な計画というよりは、その裏付けとなる理論を検討していったが、
それについても一定の成果はあったものの、まだまだ未熟な内容である。今 後、さらに研究を深めていくことにする。
また、 待つ 教育ということについて、さらに研究を進めて明らかにし ていきたい。子どものありのままを受け容れたり、待ったりすることは、か かわる側にゆとりがあることが欠かせない。しかしながら、加速度的に変わ り続ける社会の状況が、それをより困難にざせているようである。とはいえ、
忙しない生活の中で見逃した子どもの思いは、ふと立ち止まって細やかに見 つめないことには寄り添い直すはできないだろう。そして、その思いのズレ から生じた子どもたちの問題に対しては、思いが合っていないままで様々な 方策を講じても無駄に終わらせてしまうことが多いのである。カウンセリン グにおいても、カウンセラーとクライエントとの間にラポール(信頼関係)
が成り立っていることが必須の条件となっている。このことからも、人の内 から力が湧いてくることのために他者ができることは、その本人を尊重し、
信頼し、認めることなのではないだろうかと考える。 待つ ということは、
子どもの自分らしさや内から湧き出る力が出てくることを本人と共にじっ と待つというとても積極的なかかわりであるだろう。そして、これは、子ど もたちをより楽観的な原因帰属の帰属スタイルへと向かわしめていくとき にも、重要な点になるのではないかと考える。しかしながら》 待つ とい
うことは教育的な働きかけとしては三熱として抽象性を含む概念である。今