自分とよそものを見分ける仕組み
9-1.
外界からからだを守る仕組み「免疫とは」
われわれを取り巻く環境には、ウイルス、細菌、カビ、原虫、寄生虫といっ た病原体や、花粉、ハウスダストといった物質が、異物として数多く存在し ています。免疫とは、こうした異物からからだを守る仕組みのことです。
免疫は、まず異物を「非自己」として認識することから始まり、さまざま な細胞や分子が相互に関与しながら、これら非自己を排除しようとする複雑 なネットワークを形成しています。
9-2.
わたしたちは2種類の免疫をもつ「自然免疫と獲得免疫」
免疫には、体内に侵入した異物を認識してただちに排除する「自然免疫」と、
侵入した異物の情報をリンパ球が認識し、その情報に基づいて特定の異物を 排除する「獲得免疫」が存在します。それぞれの免疫で、主役となる免疫細 胞の種類は異なります(次ページ図.免疫細胞の種類)。
また、ここ三十年ほどの間に、自然免疫による異物の認識という段階がな ければ、獲得免疫が始動しないことが分かり、自然免疫と獲得免疫が相互に 補完して私たちの体を守っていることが明らかになりました。
研究者コラム
エドワード・ジェンナー
「種痘~近代免疫学の父」
牛の乳搾りをして いて手の傷から牛 痘 に 罹 っ た 人 は、
その後天然痘に罹 らないという農民 の 言 い 伝 え か ら、
ジェンナーはこれ を天然痘の予防に使えないかと考 え、1796 年牛痘にかかった女性 の水疱から取り出した液体の一部を 8 歳の少年に接種しました。少年は 若干の発熱と不快感を訴えました が、深刻な症状にはなりませんでし た。その後、細心の注意を払って天 然痘を接種したところ、少年は天然 痘には罹りませんでした。この試み によって、牛痘による天然痘予防法 が成功しました。1798 年、この成 果を発表し、ジェンナーの種痘法は 急速に普及し、彼は「近代免疫学の 父」と呼ばれるようになりました。
その後天然痘ワクチンは改良されて 1980 年には WHO(世界保健機関)
は天然痘撲滅を宣言しました。
細胞傷害性T細胞, ヘルパーT細胞 制御性T細胞,NKT細胞 B細胞
T細胞
NK細胞 形質細胞
多能性造血幹 細胞 自己複製
リンパ系共通 前駆細胞
骨髄系共通 前駆細胞
顆粒球共通 前駆細胞
赤芽球 巨核球
単球
マクロファージ
血小板
赤血球 好中球 好塩基球
好酸球 NK/T細胞
前駆細胞
赤血球系共通 前駆細胞
未知の前駆細胞 樹状細胞
肥満細胞(マスト細胞)
免疫細胞の種類
TLR1、TLR2 TLR4、TLR5
サイトカイン 貪食受容体
ファゴソーム 細菌
細菌
ファゴリソソーム
病原体特異的成分
エンドソーム TLR3、TLR7 TLR8、TLR9
病原体の DNA や RNA
インターフェロン
貪食作用の亢進 細胞内シグナル伝達の誘導
マクロファージ
Pick Up from MBL 抗 TLR/Mincle 抗体
MBL では、自然免疫系の受容体で ある TLR や Mincle に対する抗体を 揃えています。
・Anti-Mincle(Mouse) mAb の使用例
サイトカイン・増殖因子関連製品 MBL では、サイトカインや増殖因 子に対する抗体やキットを揃えてい ます。
IL-33 ELISA キット・抗体 IL-33 は、様々な白血球に作用し、
主に Th2 型のサイトカイン産生を 誘導し、主に寄生虫感染に対する防 御機構に関与しています。
IL-37 ELISA キット
IL-37 は、自然免疫の過度の炎症反 応に対するサプレッサーとして重要 な役割を担っていることが示唆され ています。
関連製品の詳細につきましては MBL ラ イ フ サ イ エ ン ス サ イ ト(http://
ruo.mbl.co.jp/product/
cytokine/)をご覧下さい。
自然免疫
自然免疫とは、受容体を介して、侵入してきた病原体や異常になった自己 の細胞をいち早く感知し、それを排除する仕組みです。生体防御の最前線に 位置している仕組みともいえます。ひとつの分子が、多種類の異物、病原体 の分子に反応することができますが、特定の病原体に繰り返し感染しても、
自然免疫能が増強することはありません。ここで活躍している免疫担当細胞 は、主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といった食細胞です。
病原体を排除する基本的な方法は大きく分けて二つあります。
1) 抗菌分子が、直接病原体に作用し、穴をあける、融解するなどして病原 体を処理する。
2)食細胞が、病原体を貪食、処理する(前ページ図.マクロファージ)。
病原体を直接攻撃する分子には抗菌ペプチド、リゾチーム、レクチン、補 体といった分子があります。
レクチン、補体などは、病原体に結合することにより、食細胞の貪食作用 を促進させる作用も持っています。こうして、病原体が貪食されやすくなっ た状態のことを「病原体がオプソニン化された」と表現します。
自然免疫系では、特定のグループの病原体に共通した分子や構造を認識す る「パターン認識受容体」を介して、病原体の侵入を感知します。パターン 認識受容体には複数の種類があり、病原体を感知した後、貪食を促すタイプ、
細胞内シグナル伝達を起動させるタイプがあります。細胞内シグナル伝達の 結果、サイトカインなどの発現が誘導され、自然免疫系の活性化や適応免疫 系との連携が生じます(前ページ図.マクロファージ)。
受容体の種類 認識する物質 受容体の例
スカベンジャー受容体 変性 LDL など SR-A, CD36 など
Toll 様受容体 (TRL) 細菌、ウイルス TLR1, TLR2 など ヒトでは 10 種類
NOD 様受容体 (NLR) 細胞内寄生細菌 NOD1, NOD2, Nalp3 など ヒトでは 23 種類
RIG-I 様受容体 (RLR) 細胞内ウイルス RIG-1, MDA-5, Lgp2
C 型レクチン受容体 (CLR) 真菌、結核菌 Mincle, Dectin-1, Dectin-2 など 17 種類
獲得免疫
獲得免疫とは、感染した病原体を特異的に見分け、それを記憶することで、
同じ病原体に出会った時に効果的に病原体を排除できる仕組みです。適応免 疫とも呼ばれます。自然免疫に比べると、応答までにかかる時間は長く、数 日かかります。ここで活躍している免疫担当細胞は、主に T 細胞(細胞障害 性 T 細胞※ 1、ヘルパー T 細胞※ 2など)や B 細胞といったリンパ球です。
獲得免疫の主な特徴は、大きく分けると以下の通りです。
1) 特異性と多様性:病原体は無数に存在しますが、生体はそれら全てに対 してそれぞれに特異的に反応できる分子を持ちます。どのような病原体、
異物にも反応できますが、自分自身(自己)には反応しません。これを 自己寛容といいます。
2) 免疫記憶:一度感染した病原体を記憶し、再び同じ病原体に遭遇した際 には感染・発症を防ぎ、あるいは発症しても軽度で済むことができる迅 速で効果的な免疫応答が発揮されます。
自然免疫と獲得免疫の相互作用
自然免疫において、末梢組織内に存在する樹状細胞は、病原体を貪食して 取りこみ、それらをペプチドに分解します。そして、リンパ節や脾臓に移動 して、獲得免疫で働く T 細胞に、抗原ペプチドを提示します(抗原提示)。
樹状細胞から提示された抗原に対して反応することのできる T 細胞のうち、
ヘルパー T 細胞は、自然免疫で病原体を貪食する食細胞に対して、その免疫 反応を増強させるようにも働きかけています(図.自然免疫と獲得免疫の相 互作用)。
MHC クラス II
MHC クラス I CTL
Th1 細胞
Th1 細胞 IFN-γ
IL-2
樹状細胞が MHC と共に提示する ペブチドを T 細胞が認識
Th1 がサイトカイン
を産生 IFN-γによりマクロ ファージが活性化
CTL が IL-2 により活性化、増殖 エフェクター CTL
異常細胞 マクロファージ
CTL は Perforin、Granzyme、IFN-γ、TNF-αな どを産生し、異常細胞にアポトーシスを誘導
マクロファージの活性酸素や分解酵素の産生能が 高まり病原体を殺傷
※ 1 細胞傷害性 T 細胞(CTL、またはキラー T 細胞)とは、抗原を認識すると活性化し、
同じ病原体に感染した細胞を攻撃・排除 する T 細胞です。
※ 2 ヘルパー T 細胞とは、抗原を認識すると 活性化し、同じ病原体を攻撃できる抗体 を産生する B 細胞を選択的に活性化する T 細胞です。
細胞性免疫
9-3.
わたしたちはなぜ予防注射で感染症から身を守れるのか?「獲得免疫と抗体」
獲得免疫は、活躍するヘルパー T 細胞の種類や作用の仕方によって、さら に「細胞性免疫」と「液性免疫」に分けられます。
細胞性免疫
局所的に起こる免疫反応で、CTL やマクロファージが直接細胞を攻撃する 免疫反応です(前ページ図.細胞性免疫)。ヘルパー T 細胞の1種である「Th1 細胞」が、樹状細胞が提示する抗原を認識して、サイトカインを産生し、そ のサイトカインによって、マクロファージ、細胞傷害性 T 細胞(CTL)など の細胞が活性化されます。活性化された CTL やマクロファージは、低分子を 分泌して、病原体に感染した異常細胞を攻撃・排除します。一部の CTL は、
メモリー T 細胞となって、異物に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に 記憶されます。
液性免疫
液性免疫は、B 細胞と抗体が中心となる免疫反応です。ヘルパー T 細胞「Th2 細胞」の産生するサイトカインにより、B 細胞が刺激されると、B 細胞が形 質細胞へと分化し、大量の抗体を産生し、抗体は体液中を循環して全身に広 がります。また、刺激された B 細胞の一部は、抗原の情報を記憶しているメ モリー B 細胞となって、再度の感染の際には、最初の反応より迅速に、そし てより抗原に親和性が高い抗体を大量に産生することができます。
抗体の役割には下記のようなものがあります(図.抗体の作用)。
1)抗体は病原菌に結合し(オプソニン化)、食細胞の貪食を助けます。
2) 抗体には、ウイルスや毒素に結合することで感染力や毒性を失わせる作 用(中和作用)を持つものがあります。
3) 抗原と結合した抗体は補体経路を活性化します。補体はオプソニン化、
食細胞の炎症部位への誘導、血管拡張、溶菌、細胞傷害などをひきおこ します。
Fc レセプター
細菌 抗体
食細胞
オプソニン化 中和抗体
正常細胞 ウイルス
感染細胞
ウイルス 活性を失った ウイルス
C1 C4
C2 C3
補体の活性化
細菌
オプソニン化、食細胞の動員 膜障害複合体 (MAC) 形成による溶菌 補体には 9 つの主成分がある
3 つの経路があるが、抗体は補体 C1 から 次々に補体を活性化していく
食細胞は、Fc レセプターによって細菌 表面に結合した抗体に結合し、効率的に 貪食
補体
抗体の作用