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バイオテクノロジー

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バイオ研究で利用される技術とその進歩

この章では、実際のライフサイエンス研究や医療の現場で使われている基 本的な研究手法を、バイオテクノロジーの歴史や最先端の話を交えながらご 紹介します。

11-1.「核酸」

DNA と RNA の化学的性質は似ているので、これからご紹介する研究手法 はどちらの解析にも使うことができます。RNA は一本鎖のため色々な二次構 造をとりますが、RNA 分子を変性させて二次構造を壊すと DNA と同じよう な分析が可能になります。

核酸の分離

核酸の電気泳動

DNA は水中で負に荷電するリン酸基をもつため、分子全体として大きく負 に帯電しています。DNA を含む溶液に電場を加えると、DNA 断片は陽極の 方へ移動します(電気泳動)。寒天の主成分であるアガロースを溶かして固め たゲルを作り、切断した DNA 断片の混合液を陰極側の穴(ウェル)に入れて 電圧をかけると、短い DNA 断片ほどアガロースゲルの網目構造を早くすり抜 けて移動します。長さが分かっている DNA 断片を分子量マーカーとして同時 に電気泳動すれば、染色後、試料中の DNA のサイズを推定することができま す。DNA は二本鎖 DNA に結合する蛍光色素の臭化エチジウムを添加し、紫 外線照射することにより可視化できます。蛍光の相対的な強さから、混合液 中での濃度や純度も推定できます。

陽極

分子量マーカー

陰極 DNA 断片

DNA 断片のバンド DNA 分子量

アガロースゲル

バッファー

ウェル

DNA が流れる方向

電流の向き DNA が流れる方向

電流の向き 長い 短い

蛍光色素による可視化

電気泳動

核酸同士の相補的な結合を利用した実験手法

サザンブロッティング

目印をつけた短い DNA※ 1で相補的な DNA 配列を検出する方法です(図.

サザンブロッティング)。1975 年にエドウィン・サザンは電気泳動したゲル をつかって、DNA を検出する方法を考案しました。二本鎖 DNA を水酸化ナ トリウムで変性させ、一本鎖にしてからゲル電気泳動をします。電気泳動後、

ゲルを強塩基溶液に浸してゲル内部の DNA の断片をニトロセルロース膜やナ イロン膜に吸着させます。放射性同位体、ジゴキシゲニンや酵素で標識した DNA プローブと反応させると、相補的な配列をもつ DNA に特異的に結合し、

検出ができます※ 2

DNA マイクロアレイ

サザンブロッティングの原理を応用して、多くの遺伝子の発現を一網打尽 に把握できるようにした方法です(図.DNA マイクロアレイの原理)。

スライドガラスの上に数万から数十万種類の DNA プローブを非常に小さな マイクロスポットとして整列させて固定した「DNA マイクロアレイ」に、細 胞から抽出した mRNA を、逆転写酵素※ 3で相補的 DNA(cDNA)※ 4に変換し、

蛍光標識して加えると、発現していた mRNA に対応するスポットだけが蛍光 を発するので、スポットの位置と蛍光強度から発現している遺伝子とその発 現量を知ることができます。この手法を使うと、細胞内でダイナミックに発 現を変化させる遺伝子群を同定することができます。また、遺伝病の原因遺 伝子の同定、SNP※ 5の解析など、様々な研究に応用されています。

PCR(Polymerase Chain Reaction; ポリメラーゼ連鎖反応)

PCR は、1980 年代に特定の DNA 配列を検出可能な量まで短時間で増幅 させる方法として開発されました(次ページ図.PCR の原理)。材料となる のは鋳型となる DNA、2 種類のプライマー(20 〜 30 塩基のヌクレオチド)、

塩類溶液が毛細管現象で ゲルとニトロセルロース膜を 通過し、ペーパータオルまで移動

サザンブロッティング

+

DNA 試料

電気泳動

強塩基溶液

ペーパータオル ニトロセルロース膜 ゲル

スポンジ

ゲル

標識した DNA プローブで ハイブリダイゼーション

シールバッグ 標識 DNA プローブ

緩衝液

標識物を可視化

※ 1  DNA を検出することを目的に用いられ る短い DNA を「プローブ」と呼びます

(probe: 探り針)。

※ 2  サザンを讃えて、サザンブロッティング を RNA に応用した手法はノーザンブロッ ティング、タンパク質に応用した手法は ウェスタンブロッティングと呼ばれていま す。

※ 3  逆転写酵素は mRNA を鋳型として DNA を合成するために使われます。1970 年 にテミンとボルチモアによって RNA ウイ ルスの一種(レトロウイルス)から発見さ れました。

※ 4 逆転写酵素によって合成された一本鎖 DNA は cDNA(complementary DNA:

相補的 DNA)とよばれます。cDNA はタ ンパク質をコードする構造遺伝子の情報 を持っています。

※ 5 個人のゲノムを、ヒトの標準的な塩基配 列と比べると、一塩基だけが違って多様 性(多型)が生じていることがあり、これ を SNP(スニップ、一塩基多型)といい ます。これが遺伝的な個人差を生じさせ る場合もあります。SNP の解析により、

個人別のテーラーメイド医療や先制医療 への可能性が広がると期待されています。

耐熱性 DNA ポリメラーゼです。二本鎖 DNA を高温で 2 本に解離させ、温度 を下げてプライマーを結合させ、DNA ポリメラーゼで相補鎖を伸長させます。

右図に示すように、このサイクルを専用の装置(サーマルサイクラー)で 30

〜 40 回繰り返す反応(PCR)で、理論上特定の DNA 断片を最初の量の 10 億倍以上に増幅することができます。ここで肝心なのは 100℃近い温度でも 活性がある耐熱性 DNA ポリメラーゼです。アメリカのイエローストーンの自 噴泉に生息している超好熱菌から Taq DNA ポリメラーゼが発見されました。

この画期的な技術を開発したマリスは 1993 年にノーベル化学賞を受賞して います。

リアルタイム PCR

リアルタイム RCR は PCR に定量性を持たせる方法です。新しい二本鎖 DNA が合成されたときに、合成量に比例して蛍光を発するような仕組みを加 えておき、蛍光量を PCR 反応中即時的に測定し、増幅の様子を定量化します。

また、RT-PCR(逆転写 PCR)と組み合わせて少量の mRNA を定量するこ ともできます(定量 RT-PCR)。この手法は、特定の時間の細胞や組織での遺

目的組織 A から mRNA を 抽出、逆転写酵素で cDNA を調製(例えばがん組織)

コントロール組織 B から mRNA を抽出、逆転写酵 素で cDNA を調製

赤色蛍光色素で標識 緑色蛍光色素で標識 ハイブリダイゼーション

赤色蛍光で組織 A で発現する mRNA を検出

緑色蛍光で組織 B で発現する mRNA を検出

コンピュータで発現パターンの重ね合せ

赤色のスポットは組織 A のみで発現している遺伝子 緑色のスポットは組織 B のみで発現している遺伝子 黄色のスポットは両組織で発現している遺伝子を表 します。

DNA マイクロアレイの原理

熱変性 熱変性92~97℃

5’

5’

5’

3’

3’

3’

3’

2 本鎖 DNA

5’(鋳型)

5’ 3’

3’ 5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

5’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’

3’ 5’

5’

5’

プライマー結合 50~72℃

プライマー結合

5’

3’

3’ 5’

DNA 合成 72℃

DNA 合成

3’ 5’

5’ 3’

サイクル目サイクル目

  サイクル後 1

2

30 40

1 本のチューブに必要な試薬をいれ 温度を上げ下げするだけで目的の 領域が 10 億倍以上に増幅する

PCR の原理

塩基配列の解析

サンガー法

蛍光色素で標識した 4 種類のジデオキシリボヌクレオチド※ 1(ddATP、

ddGTP、ddCTP、ddTTP)を用いて、DNA 合成を行い、DNA の塩基配列 を決定する方法です。DNA 合成では、dNTP がヌクレオチド鎖の 3' 末端側 の水酸基にホスホジエステル結合で連結され、DNA 鎖が伸長していきます。

ddNTP をこの反応に少量加えておくと、ddNTP が取り込まれた位置で伸長 反応は止まります。例えば、50 塩基の長さの鋳型 DNA と 15 塩基長のプラ イマーを使うと、1 塩基ずつ長さが異なり、3' 末端が蛍光標識された 35 種 類のヌクレオチド鎖ができます。この反応液を DNA シークエンサーにセット したゲルを詰めた細長い管(キャピラリー)で電気泳動し、短いものから順 に何色の蛍光色素が結合しているかを調べれば、鋳型 DNA と相補的に合成さ れた DNA 鎖の塩基配列を決定することができます(キャピラリーサンガー 法)。現在は、高速かつ大量処理が可能な新しい原理の次世代シークエンサー による DNA 塩基配列決定に移行しつつあります。

次世代シーケンサー

キャピラリーサンガー法では同時処理できる DNA 断片は 800 〜 1,000 程度なのに対し、次世代シーケンサー(NGS)では数千万の DNA 断片を平

電気泳動方向

5’TCTTGCTGCTGGTGGTGGCCCTGGGGAT 3’

3’末端の塩基だけが蛍光標識 されている。

AGACGCACGACGACCACCGGGACCCCTA -3’

AGACGCACGACGACCACCGGGACCCCT -3’

AGACGCACGACGACCACCGGGACCCC -3’

AGACGCACGACGACCACCGGGACCC -3’

AGACGCACGACGACCACCGGGACC -3’

AGACGCACGACGACCACCGGGAC -3’

AGACGCACGACGACCACCGGGA -3’

AGACGCACGACGACCACCGGG -3’

AGACGCACGACGACCACCGG -3’

AGACGCACGACGACCACCG -3’

AGACGCACGACGACCACC -3’

AGACGCACGACGACCAC -3’

AGACGCACGACGACCA -3’

AGACGCACGACGACC -3’

AGACGCACGACGAC -3’

AGACGCACGACGA -3’

AGACGCACGACG -3’

AGACGCACGAC -3’

AGACGCACGA -3’

AGACGCACG -3’

AGACGCAC -3’

AGACGAA -3’

AGACGA -3’

AGACG -3’

AGAC -3’

AGA -3’

AG -3’

A -3’

早く反応が止まった塩基数の少ないヌクレオチド鎖 ほど速く移動し、順に蛍光色素の種類を読み取って いく。相補的な塩基が配列になる。

サンガー法の原理 求める塩基配列 5’- AGA……ACGA

5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA 5’- AGA……ACGA プライマー配列

※ 1  ジ デ オ キシ リボ ヌクレ オ チド 三リン 酸

(ddNTP) は デ オ キ シ リ ボ ヌク レ オ チド

(dNTP)の 3' 位の水酸基を水素で置換し たものです。

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