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(1) 異議をとどめない承諾による抗弁の切断

民法第468条の規律を次のように改めるものとする。

ア 債権が譲渡された場合において、債務者は、譲受人が権利行使要件を備

える時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することが できるものとする。

イ 上記アの抗弁を放棄する旨の債務者の意思表示は、書面でしなければ、

その効力を生じないものとする。

【賛成】

ファンの会、全相協、平田総合、損保協、全信保連、阪大、埼玉青年書士、日大、親和 会、日司連、裁判所(比較的多数)、一弁、堂島、札幌弁、個人3名

・ 観念の通知にとどまる異議なき承諾に抗弁切断の効力を認める現行の制度は適当 ではなく、しばしば債務者が意図せず抗弁権を喪失してしまう事例を生じさせてい ることから、これを廃止すべきである。

・ 消費者生活相談から見れば、債権譲渡が行われた場合、元の債権者に対する抗弁 を新債権者に対抗できることが非常に重要となる。そのため消費者が債権譲渡を承 諾しただけで抗弁権を失う制度は、消費者にとって不意打ちであり、公平性・妥当 性を失していると言わざるを得ない。積極的に抗弁を放棄する意思表示があった場 合であって、しかもそれが書面でされた場合のみに、抗弁権を失うとすべきである。

・ 一般的には債務者は抗弁を放棄しないのが通常であり、これとは異なる重大な不 利益を債務者に生じさせる効果を易々と認めるべきではなく、債務者の意思を明確 にするためにも抗弁を放棄する意思表示は書面でしなければ効力を生じないものと すべきである。

【包括的な意思表示を認めるという条件付で賛成】

経済法令研、サービサー協、アンダーソン毛利友常、電子決済機構、西川シドリー、西 村あさひ、森濱田松本、流動証券協、長島大野常松

・ 譲受人としては、どのような抗弁が付着しているか認識しようがないので、包括 的な放棄(「一切の抗弁を放棄する」など)を有効としなければ、債権譲渡の当事者 に必要以上の負担を課すものであり、債権譲渡取引を萎縮させることになる。

・ 意思表示の瑕疵に関する一般法理によって個別事案において抗弁放棄の意思表示 の有効性が否定されることはあり得るとしても、およそ一律に包括的な抗弁放棄の 有効性を否定する理由はないものと思われる。包括的な抗弁放棄の意思表示の有効 性に疑義を呈する見解もあることから、その有効性を明文で認めるか、そうでない としても、その有効性を認める趣旨の立法であることを明確化する措置を検討すべ きである。

・ 無数の債権を譲渡、流動化する取引においては、そもそも債務者の承諾を得るこ となくポートフォリオとしての価値を把握して取引を行うことが通例であり、他方、

個別の債権に着目して債権譲渡取引が行われる場合には、抗弁の有無を意識しつつ 抗弁放棄の効果を意図して承諾書が取得されるべきものであり、このような改正に よっても債権譲渡取引を阻害するとまではいえないように思われる。但し、包括的 な抗弁放棄の意思表示の効力を解釈に委ねてしまう場合、実務的には錯誤等による 無効の可能性を保守的に捉えざるを得なくなる場合があり、債権譲渡の取引当事者

に過度の負担を課す結果が懸念される。

・ 債権譲渡構成を採用するデビットカード取引において、加盟店銀行及び発行銀行 が、売買取引債権の発生原因取引の瑕疵の有無を調査することなく、円滑な資金決 済取引を実現するために、発行銀行が利用者に対して提示する約款であるデビット カード取引規定において、売買取引契約が解消されても、利用者は、発行銀行及び 加盟店銀行に対して引き落された預貯金相当額の金銭の支払を請求する権利を有し ないものとされ、預貯金引落しの指図および売買取引債務の弁済の委託の効力等に 影響を与えない旨が規定され、利用者の売買取引契約上の抗弁は、事前且つ包括的 に放棄されている(無因性の確保)。中間試案によると、「書面」が約款で足りるの か判然とせず、また、抗弁放棄の意思表示が個別具体的なものであることを要する と解される余地があることから、デビットカード取引規定という約款に基づく事前 包括的な抗弁の放棄は、その効力が否定されかねない。そうすると、債権譲渡構成 を採用する上記デビットカード取引において、発行銀行及び加盟店銀行が、売買取 引債権の発生原因取引の存否・瑕疵の有無を個別に調査する必要が生じ、デビット カード取引の円滑な実施が著しく阻害される。それ故、デビットカード取引等の債 権譲渡制度を活用した資金決済取引の安全且つ円滑なる運用を妨げないように、債 権譲渡に関する異議なき承諾に係る制度を従前どおり維持し、又は仮に改定する場 合であっても、約款により事前包括的に抗弁を放棄することが可能となるように御 配慮いただきたい。

【包括的な意思表示を認めないという条件付で賛成】

東弁、足立消セン、日弁連消費者委、かわさき、大分弁、東弁全期会、愛知弁司法制度 調査委、日弁連、大阪弁、仙台弁、横浜弁、東弁倒産法、個人1名

包括的な意思表示を認めるべきでない理由について

・ 抗弁の放棄という債務者に不利益な重大な意思表示を行うことを要式行為化する ものであり、債務者に慎重な判断を促すことになるのと同時に、証拠としての明確 化も図ることができるから妥当であるが、イの抗弁権の放棄は、包括的なものを認 めると債務者が不利益を受けるおそれがあり妥当ではない。

・ 本文イにおいて、抗弁放棄の意思表示は一方的な利益の放棄であり、慎重にされ る必要があることに鑑み、抗弁を放棄する意思表示に書面を課すことは有益であり、

賛成であるが、ただ単に書面要件を課すだけでは不十分であると考える。なぜなら、

「抗弁の切断」「抗弁の放棄」「支払停止の抗弁書」等の文言は一般人にとっては意 味不明の言葉である。消費生活相談窓口において、これらの文言についてアバウト でも正確に意味を理解している方は、ほぼ皆無と思われる。今回の民法改正が「わ かりやすい民法」「国民を名宛人」にしたものであれば、「抗弁の切断」という文言 自体もう少しわかりやすいものに変えることができないか検討してほしい。それが 無理であったとしても、イの要件を満たす書面が、ただ単に「一切の抗弁を放棄す る」等の文言で、包括的な抗弁の放棄であった場合は認められないとし、具体的に どのような抗弁権があり、それを実質的に理解させなければならないことを要件と して追加すべきであると考える。そうでなければ、本文イの趣旨は画餅に失すると

思われる。

・ 消費者相談において、キャッチセールやアポイントメントセールスなどで高額な 商品のクレジット契約を締結し、途中までは支払をした後、不当な勧誘行為によっ て契約をさせられたとして、契約解除の申し出をしたが、販売店が応じず、クレジ ットの返済を滞っていたところ、債権譲渡されたという書面が届いたというトラブ ルがある。債権譲渡についての知識は不十分な消費者も多く、債権譲渡が行われた 時に、元の債権者に対する抗弁は譲渡先にも対抗できるということも知り得ない消 費者が大半だと思われる。債務者の抗弁を放棄する旨の意思表示は、書面でしなけ れば効力を生じないとすることは必要であるが、それだけでは消費者の権利は守れ ない。

・ 「消費者が、事業者に対し、権利又は抗弁を放棄する場合には、放棄する権利又 は抗弁を個別具体的に特定して、書面により意思表示を行うのでない限りは、その 効力を有しない」という消費者概念を用いた一般的規定を設けるべきである。この 規定を設けることに反対する立場からは、「譲受人が、債務者が有する抗弁を知り得ない 場合が多く、常に放棄の対象となる抗弁を特定しなければならないとすることは、債権 譲渡取引の当事者に必要以上の負担を課すものであるとして反対する意見がある」との 指摘があるが、「他者間で行われる債権譲渡によって債務者に不利益を生じさせない」と いう意味では、「債務者は、債権譲渡後にも、従来と同様に抗弁を対抗できる」のが原則 であって、「容易に債務者に全ての抗弁を放棄させる方法がなければ、債権譲渡当事者に 必要以上の負担が生じる」という理屈自体が本末を転倒した議論と考えられる。

【反対】

クリフォードチャンス、虎門、貸金業協、クレ協、クレカ協、流通クレ協、信販協、A BL協、慶大、濱口他、個人5名

改正の必要性について

・ 現行法の異議をとどめない承諾という観念の通知の公信力による抗弁切断という 制度には、一面で、譲受人が抗弁について少なくとも悪意の場合には抗弁が切断さ れないという機能があったものであり、債務者の保護が、少なくとも現行法よりも 後退しないようにすることは必要であるが、抗弁の放棄を要式行為とすることに、

実効的な意味があるものとは考えられない。

・ 異議をとどめない承諾による抗弁の切断を認めることによって、債権譲渡の流通 性や取引の安全を図るべきである。

・ 債権譲渡の際の譲受人との関係での抗弁切断は、譲渡人と債務者の間に生じた法 律関係を固定し、この両者間において精算するという機能を有するところ、このこ とは、当該法律関係に係る事情に通じた者の間での精算が可能となるというメリッ トがある。

・ 債権譲渡構成のクレジット取引は、債務者である購入者等の商品の代金等の支払 手段として、購入者等がクレジット会社に対する債務負担の意思を持ちつつ、その 申込みによって行われるものであり、債務者が覚知しないところで行われる債権譲 渡とは根本的に異なる。すなわち、具体的なクレジットカード取引においては、あ