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企業寄付の手法 - 社会的投資化の流れ

ドキュメント内 著者 金子 鋭一 (ページ 136-154)

サブサハラ・アフリカでは、企業が企業寄付という自社のアセットを活用した活動により、

貧困や開発といった公益に深く関与している実態が明らかになった。特に第 5 章を通じて 確認できた「補完戦略」と「支援戦略」の併用の事例の中で、Valente and Craneの静的な 戦略分類では説明できない新しい企業寄付の戦略が検証できた。一つは企業寄付の調整機 能と再構築であり、もう一つは所得獲得の機会とキャパシティ・ビルディングを企業の「仕 組み」として織り込み、「コミュニティにとっての効果」の創出を支援することであった。

このような企業寄付による公益への支援を、対象者や地域的な特性などを踏まえ、「プロジ ェクト支援」、「VP 支援」、そして「コミュニティ支援」の3 つに分類することができた。

その検証を通じて、サブサハラ・アフリカという厳しいビジネス環境の中、企業が企業寄付 を通じた公益への関与を行っても、その負荷は必ずしも高くなく、「コミュニティ支援」で も、本論文で明らかにした諸条件への対応を行うことで、企業はその負荷を軽減できる可能 性が確認された。このことは、企業がさらなる公益への関与に積極的に取り組む余地がある ことを意味する。

上記の検証の中でも、ケニアのKCBの事例は極めて示唆に富んでいる。ケニアでの事例 で明らかになったことは、企業が公益に関与する場合、社会的効果の獲得への期待が高く見 られたが、KCBは公益に関与しながらも、本業との一貫性を持った経済的効果の獲得を目 指し、「VP 支援」を採用していた。つまり、公益に関与しながらでも、「VP支援」で活用 しているベンチャー・フィランソロピーの手法を通じて、経済的効果と社会的効果の両立を 達成できる可能性を示しており、企業寄付の手法について確認しておく意義は高い。

また本論文の第1章第1節の「はじめに」で記載したように、昨今の寄付の社会的投資化 の流れは企業寄付のあり方にも影響を及ぼしている。そのためこうした新たな動向を踏ま え、自社に適した取り組みであればそれを採用することで、企業は企業寄付のポートフォー リオを拡張することも可能となるのではなかろうか。

実際、従来の企業寄付のあり方を超えた新たな手法が世界的に広がり始めている。そのた め、本章ではまず国際的な動向としての社会的投資について概観する。次いで社会的投資の 手法の具体例として、クラウド・ソーシャル・インベストメント(Cloud Social Investment:

CLSI)とソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond: SIB)の2つの事例を確認す る。最後に今回のケニアの事例を踏まえ、企業が社会的投資を企業寄付のポートフォーリオ に組み入れる場合の適合性と課題を確認する。それにより、サブサハラ・アフリカでの企業 寄付の新たな公益への関与におけるインプリケーションとする。

なお、この二つの事例を採用した背景を記載すると、前者は企業寄付における企業側の特

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性を十分に把握した新たな仕組みであり、とりわけ、企業寄付を投資に転換する媒介機能を 提供することで、ソーシャル・ビジネスに取り組む企業やNPO(以下、合わせて社会的企業) を支援するユニークな事例である。また後者は行政の課題に対して、ソーシャル・インパク ト・ボンド(SIB)という手法を通じて、公的分野に市場原理を導入することで、その解決に 取り組む事例である。特に途上国の抱える社会的な課題や、サブサハラ・アフリカで続く人 口増加に対して、それに対応できるだけの資源の分配の課題は益々大きくなるといわざる をえない。そうした中、企業寄付が新たな手法を通じて社会的投資の意義を持ち、社会的課 題の解決に寄与するだけでなく、手法の採用によっては、企業寄付の経済的効果と社会的効 果の両立を達成しうる可能性を秘めていることから本論文で取り上げた。本章では、この二 つの事例を通じて、企業寄付で採用する手法により、企業寄付のあり方に新たな広がりをも たらす可能性があることを示す。

第1節 社会的投資

日本財団(2015)は「日本における社会的投資の最前線」の中で、「「貧困」や「社会的課題」

が大半の日本人にとって無関係だった時代は既に過去のものとなってしまった」70と述べ、

災害、子供の貧困や教育格差、コミュニティの崩壊などを例示する。そして、もはや先進国 でも公的サービスだけでは十分な解決を生み出すことはできず、市場原理に基づくビジネ スでの解決も十分成立していないとし、社会的投資によるソーシャルイノベーションの発 揮とそのスケール・アップを促進する資金循環モデルの形成を重視する。日本財団はこれを

「社会的価値を生み出しながら経済的な循環も可能にするハイブリッド型の金融」と位置 付け、その市場規模は2020年までに100兆円規模に成長すると予測する71。こうした動向 は政治的なイニシアティブにもつながり、2013年にはG8インパクト投資タスクフォース が形成されている。さらにその流れを受け、日本でも2014年に同諮問員会が発足している。

日本財団(2015)によれば、社会的投資の領域は一般的な投融資とフィランソロピーの間の ギャップを埋める新たな領域であり(図6-1)、資金提供の手段や投資対象、社会的リターン を 優 先 す る な ど 、 複 数 の カ テ ゴ リ ー が 存 在 す る 。 例 え ば 社 会 的 投 資 責 任(Social responsibility investment:SRI)、ベンチャー・フィランソロピー(Venture philanthropy:

VP)、そしてインパクト投資(Impact investment)を実例として上げている。またその受け手 として社会的企業が上げられる。

70 日本財団(2015)「日本における社会的投資の最前線」日本財団 p.4.

71 日本財団(2015) p.4.

129 図 6-1: 社会的投資のセグメント

日本財団(2015)「日本における社会的投資の最前線」p.8から抜粋

SRIは、歴史的には武器、ギャンブル、たばこ、アルコールに関連する企業を投資対象か ら外すという、一定の価値観をベースとした例外的な対象の選定であった。しかし、近年で はESG投資とも呼ばれ、環境への取り組み(E)、社会的課題への取り組み(S)、そして企業 ガバナンス(G)へと対象が広がることで、全ての企業が考慮すべき事項がカバーされたとい える。また、世界7地域を代表するSRIの普及団体が中心となって立ち上げた国際的な組 織、Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)によれば、SRIを以下の7つの取り組 みに分類している。まず上記に記載した1)ネガティブ/排他的スクリーニングであり、歴史 的には一番古いスクリーニングである。次に2)ポジティブ/最高クラス(best-in-class)のスク リーニングであり、ESGから見て望ましい企業を積極的に選択し、投資対象とするスクリ ーニング方法である。また3)規範を基にした(Norm-based)スクリーニングは、国際的に見 て一定の規範に準拠している企業かどうかを投資の判断基準とする。そして4)ESGの統合 は、財務分析に2015年9月の国連持続可能な開発サミットで採択されたSDG(Sustainable

Development Goals)の17の目標と169のターゲットを投資先の決定の基準として加味す

る方法である。また 5)持続可能なテーマに対する投資は、クリーン・エネルギーやグリー 高い

低い

低い 高い

社 会 的 イ ン パ ク ト

財務的継続可能性 慈善団体

社会的

企業 一般の投融資

CSR的 ビジネス

活動

一般 企業 社会的インパクトと財務持続可能性の両立

社 会 的 投 資 の マ

❘ ケ ッ ト

・ セ グ メ ン ト

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ン・テクノロジーなど、特定の持続可能性を対象とした投資先の選定であるため、4)よりも さらに項目を絞りこんだ方法といえる。さらに6)インパクト/コミュニティ投資であるが、

社会や環境への目的に対する投資のみならず、伝統的に十分サービスが行き届いていない コミュニティをターゲットとした社会・環境問題を解決するための投資である。最後に 7) 企業への関与と株主行動である。これは株主の持つ企業への権力を行使し、ESG ガイドラ インの履行を株主として要求するものである72

それに対して、ロックフェラー財団が中心となって設立した国際的機関である Global Impact Investing Network(GIIN)によれば、インパクト投資とは、経済的なリターンと共 に、社会的、そして環境的なインパクトを創出する意図を持つ企業、団体、そしてファンド への投資である73。より詳細に見ると以下4つの中心的な特徴がある。まず「意図的にポジ ティブな社会・環境上のインパクトを創出すること」である。次に「経済的なリターンを生 み出す期待」がある。そしてそのために「多様な資金需要への対応」を行うことが上げられ る。最後に「インパクトの評価」は投資家へのコミットメントであり、投資成果を明確にす る上で不可欠である74。最近では、インパクト投資は特に途上国に焦点を充てている。

そしてVPであるが、既に本論文でも触れているとおり、社会的課題にビジネスの手法を 導入し、成果を明確化する考え方である。助成金や寄付を投資的手法で活用するのみならず、

ハンズオンで支援も行うことで社会的インパクトの拡大を目指す。VPに定まった定義はな いが、European Venture Philanthropy Association (以下、EVPA)は、以下7つの特徴を 示している。a)支援活動への高い関与、b)複数年にわたる支援、c)適切な資金提供、d)キャ パシティ・ビルディング、e)資金以外での支援、f)ネットワークへの参加、そしてg)成果の 評価である75。また、VPによる効果的で、高い関与と長期のコミットメントによって、社 会的インパクトを生みだすための 3 つの核となる実行面での特性(three core practices)が あると指摘する。それはまず「柔軟な資金提供」であり、無償資金、有利子資金、株式やそ れらの組み合わせ(ハイブリッド型)など、資金需要者に柔軟に対応できることである。次に

「組織支援」であり、キャパシティ・ビルディング、経営支援やスキルの改善が含まれる。

最後に「成果の評価」である。特にインパクトの拡大に寄与した事項やそうでない事項を確 認し、次につなげていく活動である76

これらの社会的投資のカテゴリーを図式すると、図6-2の通りである。VPは「社会的イ ンパクトのみ」を意図する取り組みから「社会的インパクト優先」を意図する範囲での活動

72 Global Sustainable Investment Alliance (2017) “2016 Global sustainable investment review”, p.6.

73 Global Impact Investing Network: https://thegiin.org/impact-investing/

74 Global Impact Investing Network: https://thegiin.org/impact-investing/need-to-know/#s2

75 Hehenberger, L. (2013) “European venture philanthropy and social investment 2011/2012”, EVPA p.14. なお、John, R. (2006) “Venture philanthropy: The evolution of high engagement

philanthropy in Europe”, Skoll Center for Social Enterpreneuership, Oxford Said Business School, June 2006, p.10や日本財団(2015)ではEVPA2006年時点での定義として紹介しており、そこでは

「f)ネットワークの参加」がない6つの特徴を提示している。

76 European Venture Philanthropy Association: http://evpa.eu.com/about-us/what-is-venture-philanthropy

ドキュメント内 著者 金子 鋭一 (ページ 136-154)

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