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: ケニアでの企業寄付の戦略

ドキュメント内 著者 金子 鋭一 (ページ 73-106)

- ケニアの 6 社の聞き取り調査から

第3章では、サブサハラ・アフリカ11カ国の証券取引所に上場する企業を対象に、web 調査を実施した。その結果、全ての国で企業が貧困や開発という公益に関与している状況が 確認できた。しかし、記述的(descriptive)な表現が採用されており、全体としては効果の獲 得を強く志向した戦略的な取り組みなのか、利益還元の傾向が強いのかは必ずしも明確に 表現されていなかった。またこうした表現は企業の動機をそのまま反映したものなのか、そ れとも情報公開用の表現を採用しているのかなど、動機や効果の獲得への期待、そしてその ための戦略については必ずしも明確になったとはいえない状況であった。英米諸国の先行 研究から考えれば、もし公益への関与の中で、戦略的な効果の獲得が期待できず、利益還元 の傾向が強くなれば、企業が企業寄付を行う動機は限定的になるはずである。しかし、web 上に掲載されている公開情報からは 4 つのリサーチクエスチョンに答えていると判断がで きる十分な表現は確認できなかった。

そのため、第3 章の結果を踏まえ、本章では11 カ国の中で情報公開レベルが最も高く、

効果の獲得への意識が高いケニアを選択し、web 調査の結果と共に、質問表と半構造化面 接の結果を分析する。これによりweb上の表現に対する解釈を行い、企業の公益への関与 を通じて、企業はどのような動機の下で、どのような効果の獲得を期待し、ステイクホルダ ーとの関係の中で、どの程度の公益への負荷を負い、そしてどのような戦略を採用している のかを検証する。

第1節 ナイロビ証券取引所の上場企業の調査対象

11 カ国の調査の一つがケニアであるため、調査の目的と方法は同じであるが、ケニアで の企業寄付に対する「取り組み姿勢」、「支援分野」、「活動形態」、「評価」、そして「公益」

への関与に対して、web上で公開している情報からその表現を確認する。なお、他の10カ 国同様、ケニアの上場企業でも HPがない企業があり、また HP があっても企業寄付に関 する記述がない企業、そして Financial report のみで Annual report や Sustainability

reportがweb上で公開されていない企業が20社あった。よって、この20社は今回の調査

から外し、最終的に43社を調査対象としている。

この調査対象企業を産業別に分類したのが表4-1である。「情報公開あり」とは、上記の

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とおり、HP上でFinancial reportの情報開示があり、さらにAnnual reportやSustainable

reportなど、企業寄付の実情に関する定性・定量での情報が開示されている企業を示す。逆

にFinancial reportのみ情報開示があり、企業寄付に関する情報の開示がない企業を「情報

公開なし」として分類した。また「全体比率」とは「情報公開あり」、「情報公開なし」での 各々の産業の比率であり、「産業内比率」は各産業別での比率を示している。ケニアでは上 場企業全体の中で、「情報公開あり」の企業が68.3%、「情報公開なし」の企業は31.7%であ った。

この数値を表3-9における「11カ国の上場企業数と調査企業数」で再度確認すると、11 カ国平均の62.3%を上回っているが、上位から 7 番目であった。最も情報開示比率が高か ったのはマラウィであり、84.6%となっており、次いで70%代が5カ国(ザンビア、タンザ ニア、ウガンダ、ルワンダ、ナミビア)となっていた。ちなみに、最も情報開示比率が低か ったのはナイジェリアの53.4%であった。

なお、ケニアで最も情報公開比率が高い産業は「資源」、「通信」であり、次いで「金融・

保険」が81.8%、そして「自動車」が66.7%であった。それに対して、「消費財」は40.0%

と最も低く、次いで「農業」と「卸・サービス」が50.0%であった。

66 表4-1: 産業別情報公開比率

著者作成

67 第2節 対象企業のweb調査結果

2-1. ケニアの産業別情報公開の特性

今回の対象 43 社の情報公開の手段とその情報へのアスセスのしやすさを HP から確認 し、まとめたものが表 4-2 である。まず HP 上で「CSR」、「Social contribution」、

「Sustainability」、「Corporate social investment」等の記載があるか(表4-2の「HP」)、

またクリック一回で企業寄付のweb上のページにアクセスできるかを確認した(表4-2の

「One click」)。さらにHP上でAnnual reportやSustainability reportなどにアクセスで きるかを確認した(表4-2の「Annual report」、「Sustainability report」)。その結果、「HP」

で79.1%、「Annual report」で83.7%と、この2つの手段を活用して情報を公開している 企業の比率が相対的に高かった。クリック一回でアクセスできる企業は、「HP」で情報公開 をしている企業34社の内では65%に達し、全体43社の中では51.2%(22社)であった。

表4-2: 産業別の情報公開企業比率とその手段

著者作成

また産業別の情報公開で大きな差が確認できた。情報公開の4項目の内、「平均以上の項 目数」が0~1の産業として「農業」、「金融・保険」の2分野があった。また2項目該当し た産業は「自動車」、「卸・サービス」、「建設」、「資源」であった。これに対して、3項目の

HP (%)

One click (%)

Annual report

(%)

Sustaina-bility report

(%)

平均 以上の 項目数 1 農業 66.7 33.3 33.3 0 0 2 自動車 100 100 50.0 0 2 3 金融・保険 66.7 44.4 83.3 16.7 1 4 消費財 100 100 100 50.0 4 5 卸・サービス 100 33.3 100.0 0 2 6 建設 100 67.7 66.7 0 2 7 資源 80.0 20.0 100 0 2 8 製造業 83.3 83.3 100 16.7 4 9 通信 100 0 100 100 3

79.1

51.2 83.7 14.0 2.2 N=43

全体

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公開が確認できたのは「通信」であり、特に「消費財」と「製造業」は全ての項目で産業別 の平均以上の情報公開が行われていた。なお、「金融・保険」の内訳をみると、ケニアの証 券取引所では「銀行」、「保険」、「投資」の3つに区分されていた。「銀行」は11社中、全て が調査対象となり、「One click」で55%、「Annual report」で91%と2つの項目で平均を 超えていた。しかし、「保険」は6社中5社が調査対象となり、「HP」で80%と1項目で平 均以上であった。また「投資」は5社中2社が調査対象で、「Annual report」で 100%、

「Sustainability report」で50%と2つの項目で平均以上であった。他方、「投資」は「HP」

での掲載は0%であった。このように「銀行」は他の2つの「金融・保険」分野に比べ、情 報公開比率が高い傾向にあった。

なお、ナイロビ証券取引所の上場条件に Financial report の公開が求められているが、

Annual report や Sustainability report に関する公開要求はなく、上場企業でもこれら

reportの公開比率は産業別に大きな差異が見られた。また著者は、HP上でAnnual report

やSustainability reportが確認できなかった企業に直接コンタクトし、情報の提供を依頼 したが、回答は一社からも得られなかった。

2-2. ケニアの企業寄付の特性

各社のHP、Annual report、Sustainability reportなどを確認し、企業の取り組みを5 つの項目で分類した。まず表4-3では企業の「取り組み姿勢」についてまとめているが、「利 益還元」が16.3%と低い状況で、11カ国の調査でも3番目に低い数値であった。

表4-3: ケニアのweb調査における「取り組み姿勢」 (単位: %)

著者作成

それに対して、「インパクト」、「マーケティング」、「レピュテーション」の3つの項目が全 て平均を超えている唯一の国であった。このため、ケニアは11カ国の中で利益還元よりも、

本 業 と の 一 貫 性

イ ン パ ク ト

マー ケ テ ィ ン グ

レ ピ ュ テー シ ョ ン

利 益 還 元

財 団

上場(43社) 34.9 34.9 9.3 7.0 16.3 41.9 取り組み姿勢

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戦略的な効果の獲得を意図している傾向が強い国と考えらえる。しかし、その戦略について は必ずしも明確とはいえない状況である。これは11カ国の調査結果と同じ傾向を示してい るといえる。また「利益還元」と記載する企業の中で、「本業との一貫性」や「インパクト」

についての記載もある企業は4社と限定的であった。他方、「マーケティング」や「レピュ テーション」の記載がある企業の殆どが「本業との一貫性」や「インパクト」の記載もあっ た。しかし、「マーケティング」の記載と共に「利益還元」が併記されている企業が1社あ った。

次に表4-4の「支援分野」を見ると、「医療」が74.4%、「教育」が72.1%と高く、次いで

「環境」が51.2%という順であった。この順位は11カ国の調査結果と類似している。その 後、「児童支援」、「起業家支援」という順で支援比率が推移していた。また「スポーツ」、「若 年層」、「芸術文化」、「交通安全」、「農業」、「野生動物」と幅広い分野の支援も行っていた。

つまり、コミュニティとの関わりをより広く捉え、本業との一貫性に乏しい活動も支援分野 に含めていると考えられる。

他の10カ国と比べた場合、ケニアの特性として、該当項目の平均以上の項目数が最も多 い点が上げられる。11カ国平均で±30%の振れ幅がある項目が7.5項目ある中で、ケニア では平均値から突出して高い数値を示す項目はなく、平均値から±30%の振れ幅を採っても 3項目しか該当しない。つまり、各項目での比率が、11カ国平均より殆どの項目で平均を上 回っており、且つ特定の項目で極度に平均よりも高い、乃至は低いという項目が限定的で、

広い範囲で高い比率が示されている。それに対して、マラウィ、ジンバブウェなど、この振 幅差が項目ごとに非常に大きい国があった。

さらに表4-5で示される活動形態では、「金銭寄付」と「NPO」との協力が80%以上とな っていた。次いで「現物寄付」が46.5%、「従業員派遣」も34.9%と、全ての項目で11カ国 の平均を超えていた。ケニアは11カ国の中で、活動形態の全ての項目で平均以上であった 唯一の国である。しかし、金銭寄付の提供額を開示している企業は限定的であった。このよ うに、いずれの活動形態での支援も高いレベルで実施されているが、「金銭寄付」の位置付 けや、「NPO」との協力を通じた効果の獲得の期待については明確な表現になっていなかっ た。

また「評価」については、表4-6のとおり14.0%であった。評価を実施している企業は限 定的であるが、実施している企業はインパクトが最も出る領域を自社で選定し、それに対し て投資という位置付けで実施していた。評価を実施していた企業のほぼ全てで、「本業との 一貫性」と「インパクト」の両方に対しての表現が記載されていた。逆に14社は評価の記 載がないが、「本業との一貫性」か「インパクト」の記載があった。これらの企業では記載

は記述的(descriptive)だが、提供資金の金額、対象NPO数、参加者数など、定量的な表現

が広く見られた。とりわけ、その取り組みへの参加者数を重視していた。しかし、一部企業 ではインプットとアウトプットまでの記載に留まり、インパクトの分析や表現が必ずしも なく、アウトプットの数値をインパクトと捉えている可能性もある。

ドキュメント内 著者 金子 鋭一 (ページ 73-106)

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