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今後の展望

ドキュメント内 学位の分野 教育学 (ページ 75-86)

1.重度臥床筋ジス患者の「より良い生き方の有りよう」(QOL)の可能性

 身体機能がAさんやBさんのように、比較的長く残存して活動している患者がいる一 方で、確実に病気が進行し、寝たきりに移行しやすい筋ジス患者がいる事も事実である。

 特に療養所の入院期間が長年に及べば、例えば筆者の勤務する病院でも10年、20年は ざらであるが、多くの患者たちは年を取り、病気の進行に身体機能の老化が加わって臥床 状態となり、さらには心肺機能の低Fから気管切開され、人1:呼吸器に終日繋がれた生活 や生き方に拘束されてしまう可能性も高い。

 例えば、川井ら(8)の研究によれば、国立療養所に入院している筋ジス患者の平均年齢は 1994年は305歳、1999年は34.5歳、2001年は35.2歳と、年々高齢化が進み、かつ人一r二 呼吸器装着(気管切開を要しない鼻マスクによる人工呼吸)や気管切開の患者が増加して いる事が指摘された。具体的には、筋ジス病棟に入院しているすべての神経筋難病患者の 中に占める筋ジス患者のみの比率自体も、1994年入院全患者数2135名中、筋ジス患者数 1578名(1578/2135=739%)、1999年1769/2156==82.1%、2001年1831/2161=847%

と増加し、それに伴って鼻マスクなどの人工呼吸療法施行患者も1994年414名(194%)、

1999年810名(376%)、2001年977名(452%)、気管切開患者も1994年197名(92

%)、1999年372名(17.3%)、2001年417名(193%)、と年々飛躍的に増加(悪化)し

ている。

 このように、最近の傾向として、筋ジス患者の高齢化、重症化が進み、例えば筋ジス第 4班の平成ll〜13年(1999〜2001年)度の研究において、5つのプロジェクト中、「入 院ケアのシステム化」・rQOLのシステム化」・「リスク管理とネットワーク」という3つ のプロジェクトで、人工呼吸器装着患者の看護一ヒの問題と、その患者のQOLの課題が大 きな研究テーマとして取り上げられ分析されるようになってきた。そして、既述した如く、

2001年の数値を見ても、入院患者総数の半分近く(452%)の筋ジス患者が人丁:呼吸器 を装着しているという事実は、今後の筋ジス病棟の看護面での重大な問題であるばかりで なく、広く、筋ジス患者のリハビリテーション医療のあり方の再考を促す要因になってい るとも言える。

 従って、臥床して過ごさざるを得ない状況の中で、重度の筋ジス患者たちがどのように

自分の生き方を見つめて日々過ごそうとしているのか、そして、彼らに関わる医療関係者 たちがどのように適切かつ最高に関わるべきなのかが重たく、かつ緊要の課題であろう。

 その場合、確かにADLは全介助であっても、機械に繋がれた患者にとって、人工呼吸 器を装着したり気管切開された状況は何も出来ない状態であると諦める必要はない。

 2004年8月に開催された筋ジス第4班(筋ジストロフィーのケアシステムとQOL向上 に関する総合的研究班)のワークショップC9 )では、まさにこの「呼吸器装着筋ジストn フィー患者の外出・外泊・支援」が討議された。その資料の「序」で福永秀敏班長(独立 行政法人国立病院機構 南九州病院院長)は「ここ10年余り、筋ジストロフィー患者さ んの生命予後は、ケアの進歩や人工呼吸器装着などにより飛躍的に延長した。ところが一 方では、呼吸器をつけての療養生活が長期化するため、生きがいの獲得やQOLの充実と いう新たな課題が突きつけられている」と現状を説明する。

 ワークショップの中で、例えば人工呼吸器を装着した患者の外出・外泊支援の準備・指 導の3年間の、具体的内容と問題点・課題について発表した国立病院機構兵庫中央病院の井 上恵・副看護師長は、患者・家族は外泊中の人工呼吸器の操作と故障の不安はあるが、結 論として、3年間で外泊者数も外泊日数も着実に増加していると述べている。

 また、「自律を高める外出・外泊援助 一訪問看護ステーション利用の試み一 」と題 して発表を行なった国立病院機構西多賀病院の今井尚志医師は「重度の呼吸障害を持ち、

筋ジス病棟に入院中の患者であっても、リスクを自己管理しながら訪問看護ステーション などを利用することで、行動範囲を広げ、QOLを向上できる可能性がある」と結論づけ た。但し、その利用にあたっては入院患者の場合は医療保険や介護保険の適用外になるた め、費用は自己負担となり、かなりの高額な料金を患者自身が負担しなければならない点 を問題点として指摘した上で、「外出・外泊計画書を作成することで、本人・保護者が外 出のイメージを具体的に持つことができるようになり、結果としてリスク管理能力向上の 一助にな」り、「今後、筋ジス病棟に入所していても、病院内ばかりでなく、地域社会の

…員として生き抜くための支援メニューを持っていく必要があるjと考察する。

 現代は国の内外を問わず飛行機を利用して旅行する機会が多い事から、航空機を利用す る呼吸器装着筋ジス者のために、日本航空「フライオリティー・ゲストセンター」の大庭 紀子氏が「航空機内に於ける人工呼吸器対応」と題し、航空機内で使用される医療機器全 般にわたって具体的、詳細に説明された。例えば、2003年度に「プライオリティー・ゲ ストセンター」に診断書を提出した障害者は年間で1245件あり、呼吸器系は全体の約31

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%を占め、呼吸器の問題を抱えた障害者が多い事を物語っている。

 さらに国立病院機構徳島病院の多田羅勝義副院長は「外出・外泊時の呼吸器取り扱いに 関する注意事項 特に飛行機内での人工呼吸を考える」と題し、医学的な立場から飛行中 の航空機内の環境がもたらす影響や問題点を論じ、その上で筋ジス患者たちの飛行機利用 を実現するためのポイントを解説した。

 以上を踏まえて、10歳から国立療養所に入院し21歳で24時間呼吸器装着となった重 度の筋ジス患者・中野裕一.一氏の海外旅行の事例がビデオで紹介された。彼は障害度で言え ぱ最も重度でありながら、インターネットで情報を収集し自らが主体的に準備し、25歳 の時に6泊8日のハワイ旅行、28歳の時に10泊12日のアメリカ・ラスベガス旅行を実 現させた。それらの事が自信となり、2004年4H、29歳で、10歳で入院してから19年 後に退院し、念願の自宅での在宅生活を開始した。彼の事例を発表した国立病院機構鈴鹿 病院の藤田家次療養指導室長は唾症化の中でも夢を実現できた」と結ぶ。

 このように、呼吸器を装着した重度の筋ジス患者でも様々な関係者の支援のもと、外出

・外泊ばかりでなく、何泊にも及ぶ海外旅行が可能となってきた。勿論、その実現のため には、病院の医療関係者ばかりでなく、航空会社、旅行会社、福祉関係者、教育関係者な

ど広範な人々の努力と協力が欠かせないのは当然としても、筋ジスという病気が進行し、

身体機能は重度に障害され、ベッドに臥床する身であっても、生きがいを持って夢の実現 のために生きる事は決して困難な問題ではなくなってきた。特に障害者や筋ジス患者の社 会参加に対しての社会基盤が徐々にではあるが、社会のシステムとして、ないし公共の施 設での当然の設備として少しずっ整備され、一般の人にも理解されるようになってきたと 言えるだろう。

 従って、課題は山積していても、障害の軽重は決して「より良い生き方の有りよう」を 高める障壁にはならず、筋ジス者の側が進んで社会参加しようとする自覚を持ち、周囲の 支援を受けて行動を起こすかどうかに今後の展望がかかっていると要約出来る。

2.入院から在宅生活への流れ

 前記の中野氏の例のように、長期にわたり国立療養所に入院していた筋ジス患者であっ ても、その念願は、嘗て山田富也が力説した如く、家族と自宅で暮らせる事であった。身 体機能は病気の進行に伴い年々低下し、ADL機能も指先の機能を除いてほぼ全介助の状 態であっても、規制される事なく、自分の行動は自分で考え実行し、その結果に関しては

自分で責任を取る、という事が筋ジス患者にとっても理想だったと言えるだろう。しかし、

人.lpug吸器を装着している状態では、っまり、医療にかからざるを得ない人院生活では、

退院して社会の中で暮らす事は極めて困難な事柄であり、その壁ないし制限を打ち破る事 は並大抵の事ではない。それを敢えて自らの責任で計画し実施し、それが励みとなって生 きる目標を形成していく。それが中野氏が夢み、希求した生き方であった。

 退院を阻む因子の一つとして呼吸管理の問題がある。かっては筋ジスという病気が進行 すると気管切開される患者が多かったが、気管切開を要しない鼻マスクによる人工呼吸

(NPPV:Nasal Positive Pressure Ventllatlon)がデュシェンヌ型筋ジス患者では多くなって きており、石原(1⑪)によれば「呼吸不全患者のほとんどにNPPVによる人工呼吸治療が 行われるようになっている1ので、結論として「DMD(デュシェンヌ型筋ジス、筆者註)

では父母が介助にあたれることが多く、在宅呼吸器治療への移行には問題が少ない」と力 説する(しかし、既述した如く、気管切開せざるを得ない患者も年々増加しているのも事 実であり、重度になってしまうと、NPPVではもはや対応出来ないのが現状であろう。石

原は「DMDではNPPV開始後平均約55年で気管切開へと移行せざるをえなかった」と

治療の経験を述べている)。

 筋ジス第4班『平成11〜13年度研究報告書』の「『入院ケアのシステム化』のまとめ」

でも国立療養所の石川悠加(11)医師は「入院と在宅の連動」という点に関して、「独特の 歴史を持っ国立療養所筋ジス病棟の専門ケアレベルを維持向上し、ネットワーク化し、入 院、外来、在宅の患者や地域サポートとしていくかが重要である。これから益々、相補的 に密接に絡み合っていくべきで、患者と家族がそれぞれの地域と時代に、どのような病気 との共存の仕方を選択できるかを模索する」とまとめる。事実、川井らの先の研究による と、2000年と2001年の2年間で国立療養所を退院した、合計136名のうち、Il7名(86

%)が在宅療養となっていた。この事は出来れば自宅へ退院し、元入院していた医療機関 に罹りながらも自宅で生活したい事を推測させる。

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