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4. 微燃性冷媒の安全性研究・九州大学の進捗

5.3 事故シナリオごとの研究進捗詳細

5.3.1 シナリオ#1:暖房機器と同時使用の場合

5.3.1.1 概要

シナリオ#1では、暖房機器を使用している室内に、空調機器からA2L冷媒が漏洩した場合(ケース(i))と、

A2L 冷媒が漏洩・滞留した室内で、暖房機器を動作させた場合(ケース(ii)) の 2 つのケースについて、そ れぞれ実験的にハザード評価を行った。詳細は昨年度のプログレスレポート(今村ら,2013)及び文献(今 村ら,2012)に記載してあるので、ここでは概略だけ述べる。

図1 サブテーマ(II)“事故シナリオに基づく 微燃性冷媒の危害度評価”の構成

A2L冷媒の規制緩和

起こりうる事故シナリオを想定した燃焼性評価に基づいた、

リスクアセスメントが必要

Case1 暖房機器とA2L冷媒 搭載機を同時に使用し た場合の危害度評価

Case2 A2L冷媒のサービス、

メンテナンス時の危害 度評価

Case3 ビル用マルチエアコン使 用時の危害度評価

冷媒漏洩時にライターを使用した場合 冷媒がピンホールから漏れた場合 冷媒が回収機から漏れた場合

5.3.1.2 実験

一辺2800 mmの立方体形状の実験室内に、市販の6畳用空調機器を、天井下700 mm, 側面壁から1400 mm

の位置に吹き出し口の中心が来るように設置した。冷媒は、空調機器の吹き出し口から、下方向へ向かって 漏洩させた。ケース(i)では、室内で既に動作している暖房機器として、反射式石油ストーブ(出力2.4 kW, 13m2) 及び石油ファンヒーター(出力3.2 kW, 16m2)を用いた。ケース(ii)では、滞留したA2L冷媒を乱さないため に、着火源を遠隔で制御する必要があるため、市販暖房機器の代わりにセラミックヒーター(出力約1 kW)

を用いた。

対象とした冷媒は、R1234yf, R32及び現行冷媒のR410Aであり、現行の家庭用空調機器の冷媒搭載量を考 慮((独)製品評価技術基盤機構,2010)して、漏洩量は800 gとした。漏洩速度は10 g/min及び60 g/minの 2パターン設定した。

測定項目は、暖房機器直近の冷媒濃度およびフッ化水素(以下HF)濃度で、FT-IRにより計測した。

5.3.1.3 得られた成果

本実験により得られた成果は以下のとおりである。

(1) 家庭用空調機器に搭載される冷媒全量が4畳半面積相当の室内に漏洩した場合でも、暖房機器との同 時使用による火炎伝播は認められなかった。

(2) 漏洩した冷媒が高温熱源に接触すると、許容濃度3 ppm(日本産業衛生学会,2013)を超えるHFが 発生するが、HFの発生能力は、現行冷媒(例えばR410A)並み程度である。

(3) 反射式石油ストーブを使用した場合、空調機器運転時に高いHF濃度を示した。しかし、石油ファン ヒーターの場合は、空調機器運転により必ずしもHF濃度が高くなるわけではなかった。

(4) 石油ファンヒーターを使用した場合の方が、反射式ストーブの場合よりもHF濃度が高かった。

5.3.2 シナリオ#2:サービス・メンテナンス時のフィジカルハザード評価

5.3.2.1 サブシナリオ(a):喫煙動作時のフィジカルハザード評価

概要

このシナリオでは、サービス・メンテナンス時に冷媒が漏洩・滞留した雰囲気下で、市販ライターを使用 した場合の着火可能性及びフィジカルハザードを評価した。2012年度は電子ライターを使用した評価を行い、

A2L 冷媒滞留下で電子ライターを使用しても、滞留冷媒全域に火炎が伝播する現象は認められないことを報 告した。2013年度は、電子ライターに比べてより予混合燃焼に近い、ターボライターを使用して、着火可能 性及びフィジカルハザードを評価した。

対象とする冷媒組成

対象とする冷媒組成の決定方法の詳細は、昨年度のプログレスレポート(今村ら,2013)及び文献(今村 ら,2013)に記載してあるので、ここでは概略のみ説明する。

ライターの燃料をn-ブタンと仮定し、Le Chaterierの式を用いてn-ブタン/A2L冷媒/空気混合気の燃焼範 囲を算出した。n-ブタンはライター着火口極近傍では、必ずLFL程度以上の濃度であるから、A2L冷媒がLFL 程度以下の濃度で滞留した場合に、ライター着火口極近傍のn-ブタン/A2L冷媒/空気混合気は燃焼範囲に 入る可能性があることが分かったため、これを実験対象組成とした。

実験

空圧シリンダー(CKD製SSD-X)と治具により構成したライター押付装置を、一辺1000 mmの立方体ア クリルプール内の、床面から高さ300 mmの位置に設置した。空圧シリンダーへの空気供給圧力は0.15 MPa とし、電磁弁で制御した。対象とした冷媒はR1234yf, R1234ze(E)及びR32である。冷媒はプール底面から高

さ750 mmの位置から、鉛直下向きに漏洩させた。漏洩速度は10 g/minである。ライター押付動作に先立ち、

プール底面から高さ0, 100, 300, 500, 750, 1000 mmの6地点の冷媒濃度を、FT-IRにて計測し、高さ500 mm 以下の領域では、冷媒濃度分布は高さに寄らずほぼ均一になっていることを確認した。ライター押付動作は、

2秒ないし10秒を1サイクルとして、5回ないし9回行った。ライター近傍の様子は、デジタルビデオカメ ラ(Xacti, 30 fps)にて撮影した。

得られた成果

(1) 電子ライター使用の場合

A2L冷媒がLFLで混合された場合は、ライター着火口で一瞬白い発光が確認されたが、その1/30秒 後には白い発光は消滅しており、周囲の冷媒への火炎伝播は認められなかった。A2L 冷媒がLFL/2の 濃度で混合された場合は、ライターに着火する場合があったが、周囲の冷媒に火炎が伝播することは なかった。これは、いずれの冷媒種の場合も同様の結果であった。

(2) ターボライター使用の場合

R32, R1234yfの場合は、電子ライターと同じ傾向を示したが、R1234ze(E)の場合、ライター周囲の冷

媒への火炎伝播が認められたケースがあった。ほぼ同じ冷媒組成・湿度条件(71% R.H.)で、複数日 にわたって計 27回の押付動作を行ったところ、着火が認められたのはある一日のみの3回であった。

周囲冷媒へ火炎が伝播した詳細な理由は現時点では不明であるが、押付動作の繰り返しにより着火口 近傍での冷媒濃度が薄まってライターに着火し、これが周囲冷媒に伝播した可能性がある。しかしプ ール内全体の冷媒に火炎が伝播するわけではなく、1~2秒の後に自動的に消炎した。

5.3.2.2 サブシナリオ(b):ピンホール漏洩時のフィジカルハザード評価

概要

このシナリオでは、サービス・メンテナンス工場等において、配管等に生じたピンホールや破断口からA2L 冷媒が漏洩した場合を想定する。これは定置用空調機器のサービス・メンテナンス時のみでなく、カーエア コンと回収機の接続ホースでの漏洩など、広く類似の事故に応用可能である。本シナリオでは、噴出漏洩し た冷媒周辺に電気スパークなどの着火源が存在した場合に、着火してジェット火炎を形成するような可能性 があるか否か、また、ジェット火炎を形成した場合、その危害度はどの程度になるか、実験的に評価した。

実験

(1) 冷媒漏洩系統

冷媒ボンベに1/4インチ銅管を取り付け、銅管先端にピンホールユニットを取り付けて、冷媒の自 圧あるいは減圧弁により調整した圧力で噴出漏洩させた。ピンホールユニットは1/4インチキャップ 型継手(Swagelok SS-400-C)の中央に穴をあけたものを使用した。ピンホールの形状は円形及びス リット状とし、特にスリットの場合は、縦長と横長の 2 パターンの実験を行った。ピンホール径は 0.2, 1.0, 3.0, 4.0 mmϕ, スリットの場合は1.0 mm×4.0 mmである。ピンホール径4.0 mmϕは配管の破 断を想定している。冷媒の漏洩量は重量計(最小秤量単位5 g)により測定した。冷媒の漏洩圧力は、

ピンホールユニット手前に取り付けたブルドン型圧力計(Swagelok, PGI63B-MG2.5-LAQX)及びスト レインゲージ型圧力トランスミッタ(共和電業製PGS-20KA)によりモニターした。

(2) 濃度計測系統

噴出漏洩した冷媒の濃度分布を取得するため、着火実験に先立って冷媒濃度を計測した。計測には 超音波式ガス濃度計測計(第一熱研㈱製US-II-T-S)5台を用いた。測定位置は図2に示すように、漏 洩口から下流側に50, 100, 150, 250, 500 mmの5地点、高さ方向には漏洩口中心を基準に+50, 0, -50

mm(鉛直上方がプラス)の3地点,計15地点である。測定ラインは下流位置ごとに、鉛直方向の濃

度測定用に3本分岐している。冷媒濃度は概ね30秒未満で定常値に達したので、高さごとに5つの 各下流位置で同時に30秒ずつ濃度を計測した。

(3) 着火実験

直流単発放電,交流連続放電,裸火を着火源とした。直流単発放電は、2 mmϕのタングステン対向 電極と高圧電源装置(㈱ジェネシス製MEL1140B)を用いて発生させた。放電エネルギーは概ね10 J,

放電時間は500 μsである。交流連続放電では、ネオントランス(小寺電子㈱製CR-N16, 15 kV)を電 源として用いた。裸火の燃料はLPGであり、火炎の長さが約30 mmになるよう流量を制御した。こ れらの着火源はいずれも、漏洩口と同じ高さで下流側90 mmの位置に設置した。着火実験では、冷 媒噴流周囲の温度(25地点),熱流束(9地点)および爆風圧(3地点)を計測した。温度は線径0.32 mmϕのK型熱電対にて、熱流束はガードン型サーモゲージ(Vatell製TG-2000)にて、爆風圧はマイ クロフォンセンサ(PCB製378B02)にてそれぞれ計測した。

(4) 実験条件

対象とした冷媒種はR1234yf, R1234ze(E)及びR32である。冷媒はすべて気相状態で漏洩させた。

本実験のような条件では、噴出した冷媒の断熱膨張に伴いタンク内の温度が低下するので、噴出圧力 も時間とともに低下する。そのため質量流量の再現性は必ずしも良好ではないが、実際に配管等の亀 裂などからの漏洩事故の場合も、断熱膨張に伴う質量流量の低下が生じると推測される。また、実際 の空調機器運転時の圧力は、最高圧力においては本実験の圧力よりもやや高い圧力になっていると想 定されるが、サービス・メンテナンス時においては、空調機器の運転は基本的に停止している。これ らのことから、本実験は漏洩圧力においては、極めて厳しい事故シナリオを模擬している。

得られた成果

図3は測定冷媒濃度をもとに作成した、漏洩口周囲の等濃度線図である。図3の等濃度線は2.5 vol%ごと

(図3(d)のみ1.0 vol%おき)に引いてあり、燃焼範囲に入る直前の等濃度線(R32: 12.5 vol%, R1234yf: 5.0 vol%)

を太線で示している。図3(a), (c)に示すように、R32であってもR1234yfであっても、4 mmϕの漏洩口から自 圧で漏洩した場合、可燃域となるのは漏洩口から下流側へは高々100 mmであり、高さ方向へは上下50 mm 程度でしかなかった。一方、配管などに形成された溶接欠陥等のピンホールからの漏洩を想定した、0.2 mmϕ の場合は、図3(b), (d)にあるように可燃域そのものが認められなかった。

Concentration meter 500

5050

250 100150 50

Refrigerant Regulator Pressure gagePressure transducer

Nozzle 50

50100

100 100

50100 150 250500

505050 K-type thermocouple

φ0.32 mm Heat flux gage (Vatell, TG2000-0-2) Sound pressure sensor (PCB 378B02)

Ignition source Nozzle

(a) concentration measurement (b) ignition experiment

図2 濃度および温度計測位置(シナリオ#2・サブシナリオ(b))