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ヒートポンプにおける冷媒回収時にはポンプダウンを行うが,その際に想定される事故として,冷媒潤滑油 混合気に空気が混入,断熱圧縮され温度上昇し,自己着火燃焼が考えられる.ルームエアコン冷媒回収時の室 外機破壊事故の報告例もある(TRK, 東京都庁, 2012).低GWP冷媒として注目されているR1234yfやR32は微 燃性を持つため,従来の不燃性冷媒 R410Aと比較して,安全性の評価が必要と認識されている(JFMA, 2012).

本研究ではディーゼル爆発を想定した実験装置を製作し,冷媒による燃焼の発生条件の違いを検討した.

なお,本実験では事故を再現するために,ディーゼル爆発を誘発するような条件を意図的につくりだしてい るため,この結果によって各冷媒の危険が示されるものではないことをここに述べておく.

3.4.2 実験装置と実験方法

図 3.4.1 に実験装置の概略を示す.装置は主に,空気供給系,冷媒供給系,温度調節系,潤滑油供給系,及び

モーター駆動によるコンプレッサー(模型エンジン)から構成されている.

Fig. 3.4.1 Experimental apparatus

(a) 空気供給系 空気はコンプレッサー(オイルレスエアーコンプレッサー39L/ACP-160SL:EARTH MAN

製)で 0.7 MPAに圧縮し,除湿機(エアードライヤーGK3103D-AC100V:CKD

製)を通り,減圧弁(AR20-02BE:SMC 製)で 0.3 MPa に減圧した.流量はマスフローコントローラー(MODEL8550MC-0-1-1:コフロッ ク製)で制御した.

(b) 冷媒供給系 冷媒はボンベからガス状態で減圧弁(SRSERIES:ヤマト産業製)に入り0.3 MPAに減圧し,

マスフローコントローラー(FCST1500FC-8J3-F400L-N2:フジキン製)で流量制御し,空気と混合される.

(c) 温度調節系 空気と冷媒の混合気を,シース熱電対を用いて測定し,ヒーター1

と温度調節器(FHP-201:東京硝子機器製,TC-1000:アズワン製)で温度制御した.またヒーター2で後述の模型エンジンの温度制

御をし,エンジン吸気側気体温度とエンジン壁面温度が等しくなるようにした.本実験では,このヒーターに よって,ディーゼル爆発を誘発するような条件を意図的につくりだしている.

(d) 潤滑油供給系 潤滑油はオイルタンクから流量計(MODEL213-311/295:東洋コントロールズ製)を通り,

燃焼噴射システム(コモンレール電子制御燃料噴射システム:FCデザイン製)により,圧力150 MPaから噴霧 状に供給した.噴霧のタイミングは,模型エンジンの軸に取り付けたエンコーダーと行程センサーの信号から 決定した.

(e) コンプレッサー コンプレッサーとして模型エンジン(R155-4C:ENYA 製,4 サイクル,行程容積

25.42 cc,圧縮比 16.0)を用い,クランクシャフトに直結したモーター(MELSERVO-J3:三菱電機製)により

駆動した.回転数はコンピューターにより制御した.

(f) 計測系 計測は,コンプレッサー(模型エンジン)の吸気・排気の気体温度をシース熱電対により,コ ンプレッサー内の圧力は圧力計(6045A:KISTLER 製)により,エンジンクランク角をエンコーダーにより行 い,オイル流量,インジェクタ信号等と共にデータロガー(データ収集システムNR-2000:KEYENCE製)を介 してパソコンに収録した.また排気をFT/IR(フーリエ変換赤外光光度計FT/IR-4700:日本分光製)により分析 した.

(g) 実験方法 使用した冷媒と潤滑油は表 3.4.1 に示す.現行主要冷媒である R410A,新冷媒の R32,

R1234yfに加え,比較のため不燃性純冷媒である R134a,不活性ガスである窒素を用いた.潤滑油の流量は,エ

ンジンの回転数と行程容積で決まる空気流量から理論空燃比を基準に決定した.SVC東京による潤滑油の CHO 成分の分析結果を元に,PAG(VG46)の理論空燃比は 9.5 となった.実験パラメータは,回転数,使用冷媒,

冷媒体積濃度とした.

Table 3.4.1 Refrigerant and lubricant oil

実験 1では,空気と潤滑油の混合気体における自己着火燃焼を調べた.実験条件を表 3.4.2に示す.潤滑油流 量は理論空燃比となるように設定した.潤滑油噴霧の有無によるエンジン内圧力の変化を計測した.

Table 3.4.2 Conditions of experiment 1

実験 2 では,実験 1 を踏まえ空気,冷媒,潤滑油混合気の自己着火燃焼を,冷媒体積濃度を変化させて測定 した.実験条件を表3.4.3に示す.潤滑油の量は冷媒濃度にかかわらず一定とした.

Item Test substance

Refrigerant R1234fy, R32, R410A, R134a, N2

Lubricant oil PAG (VG46)

Number of revolutions, rpm 500 ~ 1500

Air flow rate, l/min 6.3 ~ 18.8

Inlet gas temperature, °C 250

Oil flow rate, l/min (0.765 ~ 2.295) ×10-4 Air-oil mixing gas

Table 3.4.3 Conditions of experiment 2

実験 3 では,空気,冷媒,潤滑油混合気の自己着火燃焼時における排気ガスを,FT/IRを用いて測定した.実 験条件を表 3.4.4 に示す.生成物の同定には,PNNLのデータ(2012)を参考にした.またHFの定量分析には,

H2OやCO2によるノイズを避けるため,4039 cm-1のスペクトルを用いた.

Table 3.4.4 Conditions of experiment 3

3.4.3 実験結果

本実験では,実験 1 で潤滑油の有無によるエンジン内圧力の違いを調べた.実験 2 では冷媒濃度を変化させ て実験することで,ポンプダウン時に空気が混入する状況を再現し,エンジン内圧力の変化を調べた.実験 3 では燃焼が発生した際の排気ガスを分析することで,圧力上昇に対する冷媒の寄与を調べた.

(a) 実験 1の結果 図3.4.2に空気と潤滑油の混合気を圧縮した際の,代表的なエンジン内圧力変化を示す.

実験条件は回転数1500 rpm,吸気側気体温度250℃である.図の横軸はクランク角であり,360°で圧縮上死点と なる.潤滑油を噴霧していない時はエンジンは滑らかに動いており,燃焼は発生していないと考えられる.潤 滑油を噴霧すると圧縮過程の途中で圧力の急激な変化が起こることが分かる.この時エンジンからは白煙が発 生し,大きな音や振動が観測された.これは昨年度の先行研究の結果とも一致しており,断熱圧縮による温度 上昇のため,潤滑油が自己着火を起こしたと考えられる.

Fig. 3.4.2 Pressure in the engine

(b) 実験 2 の結果 図 3.4.3および図 3.4.4に空気,冷媒,潤滑油混合気を圧縮した際の,代表的なエンジン

内圧力変化を示す.実験条件は回転数1500 rpm,使用冷媒は図3.4.3がR1234yf,図3.4.4がR134aである.

Number of revolutions, rpm 500 ~ 1500 Refrigerant concentration, vol% 0 ~ 100 Mixing gas flow rate, l/min 6.3 ~ 18.8 Inlet gas temperature, °C 260

Oil flow rate, l/min (0.765 ~ 2.295) ×10-4 Air-refrigerant mixing gas

Number of revolutions, rpm 1500 Refrigerant concentration, vol% 20, 30 (R32) Mixing gas flow rate, l/min 18.8 Inlet gas temperature, °C 260 Oil flow rate, l/min 2.295×10-4

Air-refrigerant-oil mixing gas

0 1 2 3 4 5

180 240 300 360 420 480 540

Pressure[MPa]

Angle[degree]

without_oil with_oil

冷媒濃度0 %では,実験1の結果と同様に燃焼が発生し,圧力が上昇した.またこの時白煙が発生した.冷媒

濃度が30 ~ 40 %以上の範囲では,急激な圧力上昇は見られず,白煙も少量しか発生しなかった.冷媒濃度が上

がるのに従って,最大圧力は減少した.

冷媒濃度が低い範囲では,冷媒濃度0 %と比べて大きな圧力上昇が発生した.この時最大圧力は50 MPa程度 まで上昇した.激しい音や振動が発生し,大量の黒煙が観測された.燃焼が発生する冷媒濃度領域では冷媒濃 度が下がるに従って最大圧力も低下した.潤滑油を噴霧しない時は,いずれの冷媒濃度でも燃焼は発生しなか った.黒煙,白煙共発生せず,回転も静かだった.以上の現象は,R1234yf,R32,R410A を用いた際の実験結 果において同様の結果となった.

一方 R134aと N2の実験結果では,冷媒濃度 70 %以上では,燃焼が発生せず,回転も静かであった.冷媒濃

度 50 %以下では燃焼が発生した.白煙が発生し,多少の振動が起きた.既述の冷媒のような,大量の黒煙と激

しい震動は確認されなかった.冷媒濃度が下がるのに従って最大圧力が上昇し,冷媒濃度0 %で最大圧力が最大 となった.

Fig. 3.4.3 Pressure in the engine at R1234yf mixture gas Fig. 3.4.4 Pressure in the engine at R134a mixture gas

図3.4.5および図34.6に,実験2の結果をまとめたグラフを示す.横軸が冷媒体積濃度,縦軸が最大圧力であ

り,これは冷媒濃度0 %を基準として正規化したものである.また冷媒と空気の比熱比を元に,断熱圧縮を仮定 して理論値を計算した.

R1234yf のグラフにおいて,冷媒濃度 50 %以上では自己着火が発生せず,最大圧力も潤滑油無しの場合とほ

ぼ同等であった.冷媒濃度の減少に従って最大圧力が上昇しているが,これは空気と冷媒の比熱比の違いによ るものだと考えられる.冷媒濃度が更に低くなると,自己着火が発生する.この時の最大圧力は空気のみと比 べて大きくなっている.冷媒自体が燃焼反応を起こしていると考えられる.R32,R410Aについても,同様の結 果が得られた.

R134aのグラフでは,冷媒濃度が高い範囲ではR1234yfと同様に自己着火が発生しなかった.冷媒濃度が低く なると自己着火が発生したが,最大圧力はR1234yfと比べて小さく,冷媒濃度 0 %で最大となった.冷媒自体の 燃焼反応は起きていないと考えられる.N2についても同様の結果が得られた.

Fig. 3.4.5 The maximum pressure in the engine Fig. 3.4.6 The maximum pressure in the engine in each concentration of R1234yf in each concentration of R134a 0

1 2 3 4 5

180 240 300 360 420 480 540

Pressure[MPa]

Angle[degree]

0%ref 20%ref 89.3%ref

0 1 2 3 4 5

180 240 300 360 420 480 540

Pressure[MPa]

Angle[degree]

0%ref 30%ref 100%ref

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

0 25 50 75 100

Pressure[-]

Concentration[vol%]

theoretical value with_oil without_oil

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

0 25 50 75 100

Pressure[-]

Concentration[vol%]

theoretical value with_oil without_oil

(c) 実験 3 の結果 図 3.4.7に,空気,R1234yf,潤滑油混合気を圧縮し,燃焼が発生した際の,排気ガスの FI/IRによる分析結果を示す.混合気の自己着火が発生している時,排気における冷媒濃度の減少や,冷媒の分 解を起因とするHFやCOF2の発生が確認された.以下にR1234yfと酸素の反応式を示す(JSRAE, 2013).他の 3 冷媒についても同様にHFやCOF2の発生が確認された.R410Aについては,特にR32 濃度の減少が見られ,これ が燃焼反応を起こしていると考えられる.

2 2

2 4

2

3

O 2CO 2HF COF

2 F 5 H

C + → + +

HFの濃度については表3.4.5のようになった.

Fig. 3.4.7 Infrared absorption spectrum of exhaust at R1234yf mixture gas Table 3.4.5 HF absorbance at each refrigerant

3.4.4 ヒートポンプ・ポンプダウン時のディーゼル爆発の安全性研究のまとめ

空気,冷媒,潤滑油混合気を圧縮した際の,冷媒濃度と最大圧力の概略図は図 3.4.8 になる.これは横軸に冷 媒濃度,縦軸に最大圧力を取っている.高冷媒濃度領域ではいずれの冷媒でも燃焼は発生せず,冷媒濃度の低 下に従って最大圧力は上昇した.低冷媒濃度領域では,まず潤滑油の自己着火が発生する.この際冷媒の燃焼 性が高いと冷媒自体が燃焼反応を起こし,最大圧力は大きくなる.一方冷媒の燃焼性が低い場合冷媒自体の燃 焼は発生せず,最大圧力は小さい.

Fig. 3.4.8 Schematic diagram of the concentration of refrigerant and the maximum pressure 0

1 2 3

0 25 50 75 100

Pressure[-]

Concentration of refrigerant[vol%]

Combustion range (inflammable refrigerant) Combustion range (noninflammable refrigerant) Non-combustion range

Refrigerant HF concentration [vol. %]

R1234yf 0.361

R32 0.182

R410A 0.261

R134a 0.126