-地域を変える「地域の絆」の取り組み -
第 1節 地域包摂・「地域変革」へ向けた「出逢い直し」の実践事例
ここでは、「地域の絆」の運営する拠点のうち、4拠点(事例 1・事例 2・
事例 4 が小規模多機能型居宅介護、事例 3 のみ認知症共同生活介護)による 実践事例を紹介する。これらは、前章の状況的学習論を意図して展開した事 例である。
1.事例 1 「人びと」に対する「無関心」から「支援」への関係変容の 促進2 2
【実践の概要】
ともに暮らしていた長男が病死したため一人暮らしとなった認知症の Aさ んの在宅支援を行う。支援の開始に併せて、職員は、近隣住民を戸別に訪問 する。まず、名刺を提示し挨拶を行い、Aさんの現状を説明した上で、拠点 による支援を開始したことを伝えた。同時に、拠点(小規模多機能型居宅介 護)として、A さんの意思を尊重し 1日 2回の訪問を中心としたサービスを 開始する。
その後、A さんの自宅を訪問する際の拠点車両の駐車場所に対して、挨拶 と説明のために訪問した近隣住民から苦情の電話が寄せられた。Aさんの自 宅には駐車場がなく、職員は路肩に車両を止めていた。職員は、駐車場の確 保をはかるために地域住民に協力を要請する。
その過程において、認知症の症状が生じる以前の状態にとどまっている A さんと地域住民との関係を職員は認識し、地域住民に対して、A さんが以前 とは異なり、認知症により支援が必要な状況にあることを A さんを交えた対 話とかかわりによって理解を促してきた。
結果として、地域住民は、A さんの現状を理解し、また従来のかかわりで は不十分であることに気づき、A さんに対する支援を強化していくかかわり が生まれた。また、地域住民間で支援者の輪を広げることで、職員からみれ ば、間接支援の展開が広がっていく。さらに言えば、これらの支援を経験し た職員に、社会資源を発掘・創出する視点が含意されるようになった。
【具体的な実践】
①近隣住民に A さんの状況説明と挨拶のため戸別訪問を実施し名刺を渡 す。
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②駐車場所の苦情に対して近隣の駐車場を探す。
③A さんから地域住民の情報を聞き取り、その 情報を手掛かりに、近隣の 神社へA さんの現状を伝えることで駐車場を借りることができた。
④神社の宮司に、A さんの現状を伝えると同時に、Aさんへのかかわりを 依頼したことで、宮司のA さんの自宅への訪問が開始される。
⑤その後、神社の駐車場が空いていない時があり、近隣の公民館の駐車場 を借りるために交渉をおこない承諾を得る。
⑥A さん自宅前の寺院の住職が、月 1 回 Aさんのために本を持参している ことを知り、A さんが現在認知症であるなどの現状を具体的に伝えた。する と、A さんの現状を理解した住職は、寺院の駐車場の使用を職員に 提案し、
またそれまで以上に多頻度に A さんの自宅を訪問するようになった。
⑦職員の支援のあり方に共感を抱いた寺院の住職が、近隣の小学生に毎朝
「ドアポスト」に新聞があるかの確認を依頼することで小学生による見守り が始まった。
【実施前の A さんの状況】
①A さんは自宅で過ごすことに対し、転倒など何かあっても誰も気づいて くれないと不安に感じていた。自宅での活動はほぼすべてのことに職員の支 援を必要としていた。
②職員は、Aさんと地域住民の関係は軽薄であるとの認識をもっていた。
③近隣住民は A さんが認知症であるという現状を理解していなかった。
④A さんの自宅には駐車場がなく、訪問時は路肩に駐車していた。近隣住 民に対する職員の配慮が不足していた。
【実施後の A さんの変化】
①自宅への訪問者が増えることで見守りと会話の機会が確保され Aさんに とって安心できる環境となった。職員が訪問時に来客者の話をよくするよう になり、自発的に掃除・皿洗い・洗濯・庭の草取り・風呂に湯をため自ら風 呂に入るなど自宅での活動と役割が増加した。
②駐車場確保のために、地域住民と Aさんの関係を観察することで、職員 が当初思っていたほど、地域との関係が希薄ではな いことがわかった。
③地域住民に A さんの現状と思いを代弁することで、A さんとのかかわり に関心が生じ、支援の必要性に対する認識が広がった。また、途絶えていた 地域住民との関係が復興された。
④A さんの状況を昔かかわりがあった地域住民に伝え、地域住民とのかか わりが再興し、神社と寺院 2 カ所から駐車場を借りることができた。また職
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員が公民館にも依頼することで、最終的に計 3 カ所で駐車場所を確保できる ようになった。
【その他の変化】
Aさん以外には、次のような変化が認められた。
①職員の変化として、この駐車場問題では、当初職員は警察に相談するこ としか考えていなかったが、地域住民とのかかわりを通じて、職員だけでは 対応できない課題も、地域との連携によって解決できる方法があることを体 験を通して理解した。その結果、神社の駐車場が空いていないことがあるこ とから、職員は自発的に新たな駐車場を探し求め、交渉後、公民館から借り ることができるようになった。
②地域住民の変化として、A さんが神社に行けなくなってから、かかわり の途絶えていた神社の神主が、月 1 回 A さんの自宅を訪問してくれるように なった。
月に 1 回本を持参しにきてくれていた寺の住職も、週に 1・2 回見守りと 会話のために訪問してくれるようになった。
また住職は、A さんの隣家の住民に A さんの状況を伝えた上で見守りを要 請し、近隣の小学生にもA さんが新聞を取っているか、「ドアポスト」を毎 日見てもらうよう依頼するなど、間接的な支援者の繋がりが広がっていっ た。
【考察】
旧来のまま停滞していた A さんと地域住民との関係を変容・復興すること によって、A さんは、自らの活動と役割を再構築させながら地域で暮らし続 けることができるようになった。
関係を進展させるために、職員は A さんと地域住民との対話や直接的なか かわりを促し、そのことで、地域住民は、Aさんの現在の思いと置かれてい る状況、職員の仕事に対する認識を深めていった。
サービス開始時に近隣へ名刺を配っていたことで、苦情の連絡が拠点に入 り、そのことを手掛かりに、拠点による地域とのかかわりが「ひらかれて」
いった。
地域住民には、認知症になる前の A さん像の固定化がみられ、彼らは、A さんに対する支援の必要性を全く感じていなかった。そこで職員が、A さん の思いと現状を代弁し、加えて、A さんの暮らしに直接かかわってもらう機 会を創出することによって、地域住民の間で支援の必要性に対する認識が広 がり、かかわりの質と量が高まっていった。
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他方で、A さんにおいても、不安の緩和と自発的行動が再興し、自らの暮 らしにおける主体的な活動と役割が増幅していった。
そして、A さんに対する地域を基盤とした支援を通じて、職員は、社会資 源の発掘・創出の視点を内含するようになり、公民館への接近にみるよう に、その方法を開拓していき、本事例以外の実践の方法にまで影響を及ぼす ようになった。
2.事例 2 逢いたい人に再会する権利を保障する2 3
【実践の概要】
生きる意欲や目標を喪失しかけていた認知症の Bさんに対して、職員は B さんのストレングスを引き出す実践を試みていた。そんなある時、職員との 会話の中で、仕事に一生懸命だった時代が一番楽しかったという思いを吐露 する。加えて、その当時の友人に逢いたいという希望も聴き出した。
職員は Bさんの思いを代弁するべく、B さんの「逢いたい人」とされる元 職場の同僚や自宅の近隣・地域住民(本項において以下「住民」という)と の再会を実現するために、それぞれの対象者へ戸別訪問や電話を介し、Bさ んの身体機能的状況から鑑みて、拠点(小規模多機能型居宅介護)が自宅か ら離れていることから、拠点まで B さんを訪ねてもらうよう依頼した。その 結果、拠点において、B さんは様々な住民との再会を果たすことができた。
拠点は、いつでも面会が可能であり、自宅よりも空間が広く使えるため、
多くの住民が訪れても対応が可能である。そのため、多数の住民が訪れやす く、また、住民の都合のいい時間帯と時機に訪れることができ、加えて、長 時間 B さんのもとに滞在することが可能であった。かてて加えて、B さんと 住民との対話に、いつでも仲立ちができる状態を職員はつくっていた。
これらの再会を通して、B さんの不安が軽減し、食欲が増幅するととも に、身体的不安を訴える回数も低減した。また、昔話を中心に会話量が増加 し、以前より増して主体性が発揮されるようになった。
Bさんと住民との関係が復興し、住民が、定期的に拠点まで B さんを訪ね てくるようになった。また昔は定期的に芋ほりに出かけていた思い出を語り 合い、拠点の畑で芋ほりを実施するように Bさんと住民、職員の間で計画を 立てるようにもなった。
Bさんと住民、職員との対話によって、住民が Bさんの自宅の庭の草木の 水やりや草取りなどを行っていたところ、息子から拒否をされたことで今は 疎遠になっていることが確認できた。拠点に来所した息子に職員がその旨を