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第 1節 「地域の絆」の概要

1.経営理念・沿革・組織構造・役員及び職員体制 1-1.組織理念

まず「地域の絆」の組織理念を確認しておきたい。ただし、ここでは、組 織理念の内容についての確認にとどめておく。この理念が、組織においてど のように位置づけられ、いかなる場面で用いられているのかは次節及び 5章 に譲ることにする。「地域の絆」の組織理念は、「経営理念」と命名され組織 において共有されている。

特定非営利活動法人地域の絆の「経営理念」

経 営 理 念

経営理念は<法人理念>、<運営理念>、<運営方針>、<環境理念>の 4 つで構成されています。

<法人理念>

基本的人権の尊重

利用者の人間としての尊厳を守る。

地域住民・法人職員の人権を尊重する。

憲法第13 条・第 25条を遵守する。

地域主義

地域との絆を大切にする。

地域の一員として、地域住民と共に、誰もが自分らしく安心して暮らせる地 域社会を構築する。

平和主義

ひとり一人の人権が尊重されている社会は、平和で満ち溢れている。

<運営理念>

①人間としての尊厳を守る。

※利用者・地域住民・職員間においてもその人権を尊重する。

② 地域再生・地域活動の拠点となる施設運営。

※ソーシャルワーク・コミュニティケアを念頭に置いた施設運営。

③自立支援を念頭に置いたサービスの提供。

④思いやりと向上心の確立。

⑤専門的職業意識の確立。

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⑥ソーシャルチェンジ・ソーシャルアクションの視点を持つ。

※既成概念にとらわれない支援方法の追求。

⑦近隣他事業所と協働の視点を持つ。

<運営方針>

①住み慣れた地域で、末永く本人らしい生活が送れるように臨機応変な支援 を行う。

②きめ細かくひとり一人の方を大切にするサービスを提供する。

③ご本人の自立能力と残存能力及び地域の介護力の維持・向上を支援する。

<環境理念>

環境問題は人権問題である事を自覚し、持続・再生可能な社会環境の構築に 寄与する。

生命地域主義(バイオリージョナリズム)

①生命地域における生態系の維持と回復。

②持続可能な方法の追求。

※人間の基本的な欲求を満たすための食物やエネルギー・水・その他の資源 を使いながら、 資源が枯渇しない持続可能な生活を考える。

③「住み直し」。

※自分たちが、その地域や生態系と一体となって生きる者として、自分を認 識すること。

※米国サンフランシスコ 環境 NGO「プラネット・ドラム」設立者ピーター

=バーグ提唱

その内容を少し確認しておこう。まず「法人理念」である。この 3本柱を みればわかるように、ミクロ(基本的人権の尊重)・メゾ(地域主義)・マク ロ(平和主義)の 3 つの領域を対象としていることが示されている(もちろ ん、この 3領域は常に有機的・一体的な関係にある)。これはまさにソーシャ ルワークの対象領域と符合する。

次に「運営理念」であるが、ここでも人間の尊厳保障のみならず、まちづ くりへの関与と「社会変革」の要素が含意されている。 ソーシャルワークの 中核的な役割としての「社会変革」へ向かう意志と、それを具体的に進めて いくための「地域変革」を実践の中心に据えていることが窺える。

更には、「環境理念」が設けられており、 そこでは、「持続可能な社会」を 希求する姿勢がみられ、6章でも示していくように、この点においても、国 際社会におけるソーシャルワークの動向と整合 点が認められる。

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以上の点を鑑みれば、この「地域の絆」の組織理念は、ソーシャルワーク の理論に裏打ちされていることがわかるだろう。

1-2.沿革

「地域の絆」の沿革を確認しておきたい。現在では、13 の拠点を広島県内 に有する組織となっている。以下の沿革表をみれば、概ね 1 年に 1 つの拠点 を整備する経過を辿ってきたことがわかる。すべての拠点では、介護保険の 事業を展開しており、その財源をもとに、職員を雇用し、「人びと」への支援 のみならず、地域福祉・まちづくりの活動を展開している点に特徴がみられ る。端的に言えば、介護保険を“道具”として用いて、すべての人間の尊厳 保障を志向したまちづくりを進めているのである。

2006年 2 月 20 日 特定非営利活動法人 地域の絆 設立 2006年 11 月 地域福祉センター仁伍 開設

2008年 2 月 地域福祉センター向永谷 開設 2009年 3 月 地域福祉センター宮浦西 開設 2010年 12 月 コミュニティホーム仁伍 開設 2011年 4 月 地域福祉センター鹿川 開設 2013年 4 月 地域福祉センター幸崎 開設 2014年 6 月 地域福祉センター佐方 開設 2014年 9 月 地域福祉センター北吉津 開設 2015年 10 月 すまいる川内 開設

2016年 3 月 KIZUNA(特定)福祉用具貸与・販売事業所 2018年 4 月 すまいる仁伍 開設

2018年 4 月 三原市デイサービスセンターさぎうら 2019年 4 月 ちいきのいえ保育園

1-3.組織構造と役員・職員体制

役員の構成は、理事 8 名・監事 1 名となっている。9 名の内訳としては、

医療法人・社会福祉法人の現事務局長及び元事務局長が 1 名ずつ、専門職団 体の現副会長及び元会長が 1 名ずつ、他の NPO の役員が 2 名、元大学教授が 1名、看護師が 1 名、一部上場企業の元幹部が 1名となっている。

組織構造は、代表理事を中心に理事会・法人本部(3-4 名)・統括管理者(1

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名)が法人の経営に直接従事している。代表理事・理事・統括管理者は、「社 会性」・「専門性」と「事業性」・「組織性」の双方を担当し、法人本部は主と して「事業性」・「組織性」を担当している。

また拠点ごとに、管理者・主任・副主任を配置しており、これら役職者は、

拠点内における「社会性」・「専門性」と「事業性」・「組織性」を担っており、

その他の職員は主に「社会性」・「専門性」を念頭に置いた実践を展開してい る。現在の職員数は、約130 名である。詳しくは、別表 3-1 に示しておく。

2.事業内容

中核となる象徴的な事業は追って詳述するが、介護保険事業の内、「地域の 絆」は以下の事業を展開している。

・小規模多機能型居宅介護 8 拠点

・認知症対応型共同生活介護 1 拠点

・定期巡回・随時対応型訪問介護看護 2拠点

・サービス付き高齢者向け住宅 2 拠点

・(特定)福祉用具貸与・販売事業所 1拠点

・企業主導型保育施設 1 拠点

介護保険事業以外には、地域交流事業と総合相談を行っている。地域交流 事業は、社会福祉等の領域や対象者に限定することなくまちづくりにかかる 事業を指す。具体的な内容としては、地域住民と協働で行う催し物や一人暮 らし高齢者の見守り活動、サロン活動、健康講座、福祉マップづくりなど地 域性に応じて多岐に渡っている。

総合相談では、高齢者に限定しない暮らしの相談窓口を設けている。こち らは、無料相談を謳っており、であればこそ、ワンポイントの相談で解決す る問題や、それで解決しない場合は、他の専門機関に繋いでいくことまでを 職務としている。

3.収支状況

社会的企業として「地域の絆」を捉えた場合、「事業性」、即ち、「継続性」

に着目する必要がある。まちづくりは、10年の期間で評価していく必要があ るため、持続性が担保されていなければ、却って、地域に混乱をもたらすだ

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けの存在に変質してしまうからだ。その実、学会で受賞された組織が、10年 も持たずに閉鎖された例も存在する。

そこで開設年度の 2005 年度から直近の「売上高」と「経常利益」の変遷を 捉えておきたい。表 6-1 とそのグラフをみれば一目瞭然であるが、「地域の 絆」の売上高は急速に伸びている。経常利益についても、2006 年度と 2013年 度、2014 年度に赤字を計上しているがその他は黒字で推移していることがわ かる。経常利益も、累積すれば、一億七千万ほどの金額となる。

以上のことから、「地域の絆」は、「事業性」と「継続性」には問題がない ばかりか、この点にも強みがあることが確認できる。

表 2-1

NPO 法人地域の絆 売上高・経常利益推移

(円)

年度 売上高 経常利益

2005 0 0

2006 16,268,957 -3,026,919 2007 70,800,305 7,981,051 2008 121,144,926 3,699,789 2009 170,824,347 10,734,575 2010 237,519,609 53,009,849 2011 343,321,416 24,988,041 2012 375,416,578 3,203,136 2013 395,477,624 -26,513,215 2014 432,467,422 -12,978,009 2015 497,756,345 9,966,769 2016 559,484,189 45,917,617 2017 602,458,602 34,709,563 2018 689,202,299 16,814,791

97 第 2節 法人の基盤となる実践

1.目的を共有する-組織理念の共通理解をはかる-

次章では、「人びとの関係構造の変容」に関連する「出逢い直し」による具 体的な実践事例を遡上に載せ、ソーシャルワークが意図する「 地域変革」の 方途について深めていくことにする。その前に、本章で、「地域の絆」におけ る実践の共通基盤について確認しておく。

その理由は、「出逢い直し」の展開は、飽く迄も、私たちの多様な実践の一 部であり、また「出逢い直し」に特有な実践とそれ以外の様々な実践が有機 的に連関して「地域の絆」の実践が構成されているから である。従って、私 たちの「出逢い直し」は、その他の様々な実践を後ろ盾に展開さているし、

逆に、「出逢い直し」がその他実践の後押しをする関係にある。少なくとも、

「出逢い直し」だけが、単独で展開さているわけではないことは押さえてお かなければならない。

私たちの法人は、2006 年 2 月に設立した NPO である。現在広島県内の 13 の拠点で、「すべての人間の尊厳が守られるまちづくり」を志向した実践を展 開している(図 3-1)。13 の拠点は、政令市・中核市・島嶼部・沿岸部・山間 部といった地域性の異なる場所にある。さらに言えば、拠点間で最も隔 たり のある所で、直線にして約 120 ㎞の距離がある。そして、このような地域性

(40,000,000) (30,000,000) (20,000,000) (10,000,000) 0

10,000,000 20,000,000 30,000,000 40,000,000 50,000,000 60,000,000

0 100,000,000 200,000,000 300,000,000 400,000,000 500,000,000 600,000,000 700,000,000 800,000,000

NPO法人地域の絆 売上高・経常利益推移(円)

売上高 経常利益

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