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日本医療コーディネーター協会 理事 水木 麻衣子

3章は、「意思決定支援場面の関わりの実際」を共有すること。実際の事例を用いて意思決定支 援とは何かを共有するのである。ここでは本研究プロジェクトで使用した「意思決定支援の必要 な場面」の事例検討を紹介している。在宅医療コーディネーターが何を察知し、何を考え、どの ように支援をするのかについて、事例を通してイメージしていくところである。

1. 事例検討の課題

日本医療コーディネーター協会 理事 水木 麻衣子

今回の研究の事例検討で使われた事例を紹介する。事例の選択については、意思決定支援を 積極的に行っていくことが好ましい場面として、以下の二点を提示した。

①患者・家族・医療提供者・介護関係者等で意見、価値観、方針が対立している、あるいは 対立しそうな場面。

②治療選択、療養場所の選択、看取りなど顕在化した対立はないが何らかの判断、決定が必 要な場面。

事例検討会では、検討会委員の介護支援専門員に「意思決定支援に関われたと認識した」

事例を提示してもらった。介護支援専門員が意思決定支援に関われたと認識する事例の特 徴は、①退院時に初対面だった患者で、②がんという病名あるいは聞きなれない病名がつい ている、③在宅医療チームとの協働があったというものである。自分のかかわりが「意思決 定支援」なのか?という迷いがあり、医療的な処置がありそれがうまくいった事例、あるい はうまくいかなかった事例という選定になったと思われる。これらの事例検討を行うと、介 護支援専門員は関係調整の選択肢はあげられるが、優先順位やその具体的方法(対話のレベ ル)を検討することが苦手であることがわかった。それらは、意思決定支援のタイミングの 遅さや意思決定支援の浅さにあらわれていた。意思決定支援のタイミングが遅れる、意思決 定支援が浅くなる理由は、個人の資質というよりは、医療コーディネーションが実践されな い理由とほぼ一致すると思われる。つまり①物理的な距離、時間的制約があり、意思決定に 関わるような関係性が作りにくい②意思決定支援の過程でみられる対立や葛藤に対処する 自信がない。③時間がかかる意思決定支援をしてもしなくても報酬が変わらないためメリ ットがないという点である。

事例検討会の際に委員から「退院のタイミングは病院が決めるものであり、地域が介入で きるものではない」「業務の範囲外のため、じっくり意思決定する時間がない」という声が 聞かれた。一方で、意思決定支援は大事だと思ってはいるようであった。総合して考えると、

現在の介護支援専門員の意思決定支援の現状は、関心はあり取り組んでみたいと思うが機 会が乏しく訓練不足だということである。その結果、提供者側の自己満足的な意思決定支援 になっている可能性もある。具体的には、意思決定支援を単純化したプロセスと考え、その プロセスをたどることで意思決定支援をしたという感覚で終わるということである。今後 は、本来の意思決定支援の体験が必要になる。そのために、意思決定支援事例の検証を多職 種で行うことは、有意義であると考える。特に、介護支援専門員が大切にしていることは「自 立支援」である。それはどの職種よりも徹底している。それは、本人の意思をなるべく尊重 できるように努力することでもある。実際に検討会では、介護支援専門員は本人が帰りたい といったら、どうしたら帰れるか考えるということを多職種より徹底できていた。それを見 た時に、介護支援専門員が意思決定支援を担っていくことの価値を見たような気がした。

【事例検討の例(進め方例)】

今回の事例検討の枠組みは、下記の通りで行った。事例検討会で多職種の立場からの意 見を聞くことは、「発見」も多いが、それをどのように意思決定支援にいかしていくの か、について、を検証していくのには、ファシリテーターの力量が必要になる。今後、意 思決定支援の枠組みの検討と事例検討の進め方については検証を続けていかなければいけ ない。

① プロフィールの確認と経緯の確認

患者家族の意向、大切にしていることを知っているか、意思決定支援者としての存 在感があるか

患者家族の病気の理解、状況の理解

患者家族がどのように病気を理解しているのか、現実とどのくらいの乖離があるの かを把握する。

② 選択肢の把握と検討

患者家族の意向に関する現実検討 合意に至る調整(戦略)

③ 本人の意思と当事者たちの合意 合意すべき内容の決定

【例1】「意思決定支援が困難」だと思った事例

意思決定支援者自身が「積極的に介入できなかった」と認識していた事例。病状が「待 ったなし」になって初めて本人の意思を尊重する合意形成が図られた。そもそも向き合う ことに大きな葛藤が生じる ALS という病気の特殊性もある。意思決定支援のタイミングが なかなかとれない状況での支援者本人の認識は「医療側の情報提供不足とご家族の意向が 合わなかった事例」というもの。意思決定支援の観点から、議論になることは、二点。① そもそも意思決定の難しい病気であり、向き合わせようという恣意的な働きかけは容易に かわされる、という点、②「医療者側の情報提供不足」が具体的にどのような情報が不足 しているかの確認をしていないという点、が挙げられる。

【プロフィールの確認と経緯の確認】

性別 女性 年齢 72 歳 支援者

病名 筋萎縮性即索硬化症 経済状態 自立

診療科 大学病院神経内科 介護保険 要介護2、ケアマネ、車椅子貸与 概要 病名告知されてから1年半で永眠。どこでどのように最期を迎えるかの意思決定と合意形成

が難しかった例。在宅医療サービスは使用せず最期は病院にて永眠。

【選択肢の把握と検討】

夫から、妻も私も自然のままで逝きたいと希望しているが、娘が寝たきりでもよいので 長生きして欲しいと強く希望している。

本人 延命措置はしない 夫 延命措置はしない 長男 どちらでもよい 長女 延命措置を希望

【本人の意思と当事者たちの合意】

呼吸器をつけての施設入所は遠方の上、費用負担が大きいとのことで、本人と夫が拒否。

娘が受け入れ、近医病院に入院決定。

【コーディネーションの課題】

・家族を支え、情報提供をしてきたが、本人家族が意思決定の課題に「直面」できなかっ た事例。本事例では、「なぜ直面できなかったか」を本人家族と介護支援員の関係性を 振り返ることも大切であった。

・病院の医療者のかかわりが不十分であったと評論家のように語ることは尤もらしいが、

意思決定支援を行う医療コーディネーターの立場からすると、病院の医療者が十分に関 われて、患者家族が意思決定の課題に直面することができるようになるためには、どの ような支援がありえたか、と考える必要がある。

【例 2】告知のない状況での意思決定支援の事例

がんの治療継続中、併診の形で在宅移行。本人家族へは症状が改善できれば化学療法を再 開すると説明。ターミナル移行の可能性については、入院や外来で本人の状況を見ながら 治療や今後について説明していく予定であった。しかし、医師からケアマネにはターミナ ル期にあると説明。

【プロフィールの確認と経緯の確認】

性別 女性 年齢 72 歳 支援者

病名 子宮頸がん、関節リウマチ、脊柱管狭 窄症

経済状態 自立

診療科 大学病院:婦人科・往診医 介護保険 要支援2、ケアマネ、ヘルパー 概要 現在進行形の意思決定支援。

注目する患者状態

膀胱洗浄が必要(膀胱洗浄は自分で出来ている)、貧血に対する輸血が必要。

入院前から週1回の家事支援あり。退院時ADL変わらず。

【選択肢の把握と検討】

一日でも早く家に帰りたいという本人の意向は確認。

病院側は24時間緊急自対応の訪問看護を希望

⇒退院への障壁は“24時間対応の訪問看護師“が見つけられない”こと。

【本人の意思と当事者たちの合意】

24時間対応訪問看護がなくても退院することを合意

⇒本人が膀胱洗浄できること、家族が訪問看護介入日以外手伝ってくれること確認 ⇒結果的に訪問看護は不要だった

【コーディネーションの課題】

・意思決定には関われず、サービス調整にとどまった支援であった。

・意思決定支援ができなかった理由は、告知をされているか否か、ではない。(告知はケア マネが意思決定支援するためになされるものではない・・・。)。退院時は意思決定支援 のタイミングではなかったという認識のほうが妥当。

・病院がなぜ24時間訪問看護にこだわったのか、吟味がなされていない。

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