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中国食品安全における法体系づくり

―国際的な視点をふまえて―

2.1 はじめに

近年、食品安全にかかわる問題は、ますます広域化、多様化を呈してきている。世間の注 目を大きく集め、また、それは民生や国家信用とも深く関係している。中国においては、

2009年の「食品安全法」が成立して以来、食品安全状況が改善しつつある。一方、国内外 においては「中国製」食品事件は頻発している。中国で生産される食品などの安全性に対す る疑念が国の内外に広がり、中国の経済発展を支える製品輸出にも影響を及ぼすこととな った。

このような中国の食品の安全性をめぐる内外の動きに対応して、事態を重くみた中国政 府は危機感を強めたものと思われ、法規の整備、違法行為の取締りなどを行った。

しかし、中国における現行の食品安全法律・法規は統一性、系統性を欠き、また、食品安 全管理体制は混乱し、安全基準も統一性を欠いている。中国における現在の食品安全法規は 厳密さに欠け、また他の法規との分散・重複、そして規定内容の衝突もみられる。さらに、

法律の空白地帯も多くみられ、新しい経済や社会発展に適応できない状態にあるといえる。

そこで、本章においては、先進国の立法上の成功経験を参考にして、中国食品安全法体系 づくりのための法整備の全体的な構想と方向性を明らかにする。

2.2 中国食品安全法律法規の変遷

中国の食品安全政策は、建国初期において手つかずの状況にあり、主に工業衛生と疾患予 防だけに集中していた。しかし総じてみれば、新中国初期の食品安全政策は一定の成果をあ げたといえるのではないだろうか。1958年1月、中央人民政務院第167回会議で批准され た「衛生部による全国衛生行政会議と第2回全国衛生会議に関する報告」で正式に「衛生監 督制度」が提出され、「衛生監督管理機構間の協調を重点にして進む」ということもはっき り提出された。

1958年、衛生監督などを実施し、各級政府衛生機関のもとで、各級の衛生防疫センター によって環境衛生、労働衛生、食品衛生、学校衛生と伝染病予防を担当する監督管理体系を 築いた。この時期の食品安全政策は違法行為において追及される関連法律責任を明確に規 定している。

1966~1976年は新中国の歴史上のプロレタリア文化大革命時期であり、中国の食品安全

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監督管理は停滞した。この時期に、食品衛生立法、衛生監督体系の建設と衛生検査防疫作業 は、ほとんど停止し進展はなかった。

図表2-1 中国食品立法改革の経緯と国内食品合格率

年別 食品立法及び概要 監督部門による

食品合格率 198211 全国人大委員会発布

「中国食品衛生法

(試行)

◆身体の健康や体質増強 (衛生部)食品 衛生合格率 61.5%

19932 全国人大委員会発布

「中国産品品質安全 法」

◆産品品質に対する監督管理を強化

◆産品品質の責任を明確

◆消費者の合法的権益を保護

◆社会経済秩序を維持する

——

199510 全国人大委員会発布

「中国食品衛生法」

◆身体の健康や体質増強

◆食品、食品添加物、食品容器、包装材 料などの衛生に関する基本的方策、食 品衛生の監督管理に関する方法などが 規定されている

(衛生部)食品 衛生合格率 83.1%

2002 全国人大委員会発布

「輸出入商品検査 法」

◆輸出入商品に対する検査が必要

◆輸出入商品の監督管理及び法的責任

(衛生部)食品 衛生合格率85%

20064 全国人大委員会発布

「中国農産品質量安 全法」

◆安全基準に満たない農畜産物を追跡調 査、違反者への罰則強化

◆生産記録の義務化や包装・表示につい ても規定

(質検総局)食 品抜き取り検査 合格率77.9%

20078 全国人大委員会発布

「中国動物防疫法」

◆重大な動物感染症の応急措置や緊急予 防接種・予防的処分についても規定

(質検総局)食 品抜き取り検査 合格率87.4%

20092 全国人大委員会発布

「中国食品安全法」

◆食品トレーサビリティ制度(営業許可 証その他必要な書類の提示・確認)

◆強制検査制度

◆食品リコール制度

(質検総局)食 品抜き取り検査 合格率93.5%

20154 全国人大委員会発布

「中国食品安全法

(2015改正版)

◆食品の安全管理制度

◆従業員の健康管理制度

◆トレーサビリティ制度

◆自主検査制度

◆食品リコール制度(改正)

◆法的責任は全面的に加重

(食品薬品質検 総局)食品抜き 取り検査合格率 96.8%

出所:衛生計画委員会による食品衛生合格率、農業部、質検総局HPより筆者作成

1978年改革開放以前の社会主義計画経済時において、中国の食料政策は基本的に品質面 よりも量的な充足確保に重点が置かれ、必要な量の食料の供給を確保することが主要な政 策目的であった。このため、食品衛生面は軽視又は無視され、食品衛生に関する制度面に関 する整備は十分になされず、国民への衛生観念の浸透も進まなかった。とりわけ、農村部で は、貧困のため十分な教育を受けることができず、衛生に関する意識は希薄であった。

1978 年に開催された中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議は、新中国における 歴史のターニングポイントであると言われているが、党政策の重点は社会主義体制の建設

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に転じた。食品安全政策もこれをきっかけに速やかに、かつ全面的に進展する時期を迎えた。

中国の食品安全政策の進展は、まず法規制度の完備化や国際化を実行することであった。

1982年以来、衛生監督作業が法律的に定められ、衛生監督の内容と範囲も含めて定めら れた。衛生監督の手段と方式も、現有制度を基にして、法律に依る監督、行政監督検査、行 政処罰などの法的手段が加えられた。総じていえば、衛生監督はすでに法制化と系統化の発 展時期に入った76といえる。

中国で食品衛生法(試行)が制定されたのは改革開放後の1982年のことであり、同法の

「試行」がとれ、正式の食品衛生法となったのは1995年のことである。中国では、ようや くこの時に食品衛生に関する基本法が成立したのである。その後、食品安全に関する法規は、

急速に整備されている。

1994年には「食品安全性毒理学評価プロセス(GB 15193)」が国家基準として正式に公 布された。この基準制定は、長期にわたって中国の食品安全評価に基準がない状況を終了さ せ、中国の食品安全管理をさらに一歩進ませた。同年、国家はさらに 179 条項の食品栄養 強化剤使用の衛生基準、食品企業の衛生規範、食品中の鉛の基準値、などの国家衛生基準を 発表した77

1996年3月、衛生部は「食品衛生法」の執行主体の変更に応じるため、「公共衛生監督執 法体制を一層改革改善する通知」を公布した。当該文書は食品衛生監督執法体制の改革を先 頭にして、公共衛生監督執法体系の構築を目的として制定された。

これ以降、食品安全に関する各種の制度的整備が積極的に進められるようになるが、中 国での食品安全に関する取り組みの本格化は、2000年前後の食品安全に関する世界的な関 心の高まりを重要な契機としている。

EU は、2002 年、残留薬品の基準を超えていることを理由として中国の動物由来食品の 輸入を禁止した。また、日本も同年、残留農薬基準値違反を理由として中国産ホウレンソウ の輸入禁止措置をとった。

中国政府は各国の食品安全基準を満たすことが必須であることを認識し、そのための取 り組みが優先的に、かつ急速に進められた。輸出食品検査の基本法として2002年に輸出入 商品検査法が制定され、次いで食品の生産企業の管理を強化していった。「食品生産加工企 業品質安全監督管理方法」(質検総局2003年7月18日公布)を施行している。それによれ ば、食品生産企業は、原材料・添加物などの使用、生産のための設備などについて一定の基 準を満たさなければならず、また、主管行政庁に申請し食品生産許可を受けなければ食品を 生産することができない(同方法第4条、第9条、第11条)。

検査 に合格し なければ食品 を出荷す ることができ ず、合格 したものには 品質安 全

(Quality Safety)を意味するQSマークを付けなければならない(同方法第34条、第36 条、第39 条、第40条)。さらに、農産品品質及び動物防疫などに対する法整備を行った。

76 前掲書(旭日干・龐国芳 2015)、374頁。

77 史永麗・姚金菊ら「食品安全基準法律体系研究」食品科学28(6)

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2008年、中国の粉ミルク企業のメラミン混入事件を発端に食の安全問題がしばしばマス メディアに取り上げられるようになった。こうした報道は国内外において、消費者の不信感 をつのらせ、中国生産の食品のイメージは大きく損なわれた。こうした事情に対応して、中 国は食品安全状況の改善に向けて何らかの具体的措置をとることが求められたのである。

こうした中で、各先進国で食品安全に関する制度の見直しや基本法の整備が進められた ことにも対応して、中国でも食品安全のための基本法が必要だとの認識が高まり、所要の検 討を経て、2009年に食品安全法が制定された。この様に、食品安全を重大問題と位置づけ て様々な対策を採ってきたが、さらに2015年には現行食品安全法が改正された。

なお、中国食品安全法体系の構築に伴い、食品合格率は年々上昇してきている(図表2-

1参照)。1982年、食品合格率は61.5%であったが、経済発展と法体系の整備とともに、

2015年の食品合格率は96.8%に達した。

2.3 中国食品安全法体系の現状と課題

2.3.1 食品安全法体系の現状

中国の法制建設が始まった1982年11月19日に、「中国人民共和国食品衛生法(試行)」 が制定され、食品安全法律法規体系の構築がスタートした。「中華人民共和国製品品質法」、

「中華人民共和国基準化法」、「食品衛生行政処罰弁法」、「中華人民共和国消費者権益保護 法」、「中国人民共和国伝染病予防法」、「中華人民共和国農産物品質安全法」、「中華人民共和 国国境衛生検疫法」と「中華人民共和国動物防疫法」などが含まれている。

近年、食品安全事件が多発する状況に対して、2009年2月28日に中華人民共和国第11 回全国人民代表大会常務委員会第7回会議で「中華人民共和国食品安全法」が通過した。

統計によれば、今まで、全国人大により作成された食品安全に関する法律は約21部、国 務院により作成された食品安全に関する行政法規は約40部、各委員会により作成された食 品安全に関する規則は約 150 部ある。これだけを見れば、中国ではすでに食品生産と流通 に関する安全品質基準、安全品質検出基準及び関連法律、法規、規範性文書で構成する食品 安全法律フレームワークが形成されているといっても過言ではない。

最近の立法などの動向をふまえつつ、本研究にかかわる分野「企業管理」、「生産過程中の 管理」、「食品衛生管理」に関するものに3分類し、それぞれについて制定されている主要な 法令名及びその主な内容を図表2-2に示す。

その中で主要なものは、2006年公布の「農産品質量安全法」と 2015 年公布の「食品安 全法」である。「農産品質量安全法」は農作物の品質と安全について「生産点から食卓まで」

の全工程を管理することを目的としている。

中国の食の安全問題は、2009年に食品安全法が制定された後にも十分な改善はなされず、

依然として大きな問題が発生している。2015年に同法の改正作業が進められた。食品安全