中国特派員に対する深層面談に見られる「認識の枠組み」

In document 国際ニュース報道における海外特派員の「認識の枠組み」に関する研究 : 日本の新聞の中国報道を中心に (Page 145-175)

第3~4章の考察から、一方で「中国に対する認識」のカテゴリーにおいては、連載記事 と<書籍・雑誌記事>にみられるディスコース群がかなり一致し、特に第三期の中国特派員 たちは、中国の国内政治に対する取材を最も強く意識していることが分かる。他方で、「中 国報道に対する認識」のカテゴリーの中で、第二期と第三期の中国特派員にみられる差異と 比べ、第三期の中国特派員が言及するディスコース群には、より鮮明な特徴が現れる。

本章は第3~4章の考察で判明した結果との関係に目を配りながら、現在の特派員に対す る深層面談を通じて、第三期の中国特派員の「中国に対する認識」と「中国報道に対する認 識」の関連性、換言すれば中国特派員の「政治的・社会的認識」と「職業的認識」の関連性 をあらためて掘り下げてみる。以下、深層面談のトランスクリプトを総称して<インタビュ ー>とする

第1節 中国特派員に対する深層面談の概要

深層面談の経緯をすでに第 2 章で述べたため、ここでは贅言を要しないが、深層面談で 使った質問状を表16で提示している。深層面談では、中国特派員の日常的な取材活動、特 派員という職業や、国際報道の役割に対する認識などを含め、大きく 6 点の質問をしてい るが、設問は特に朝日・読売二紙の連載記事や<書籍・雑誌記事>であまり反映されていな い点、例えば特派員と所属新聞社とのコミュニケーションや、各社の特派員の選抜基準など、

一記者としての特派員とメディア組織との関係に留意している。なお、状況に応じて質問を 前後にしたり、具体的な質問を追加したりした。

そして、<インタビュー>を独立したテクストとして MAXQDAに導入し、第3章と第 4章と同じコードシステムを使用し、コーディング作業を行った。なお、匿名の記者を識別 するために、社名の略称とアルファベット(大文字)の組み合わせで表示し、一部は年齢層 も併記する。例えば朝日新聞のA記者を「朝日A 40代」と表示する。分析対象としない 特派員の回答を引用する場合は、社名の略称とアルファベット(小文字)の組み合わせで提 示する。例えば東亜日報のa記者を「東亜a」と表示する。

16:深層面談の質問状

1、まず、日本の新聞の国際報道の全体的な状況についてお伺いいたします。

(1)現在、日本の新聞各紙は過去より国際報道を重視していますか。また、あなたの新聞社の状況は どうですか。

(2)インターネット時代、「新聞の国際報道には、一般報道記事と比べ、より深い解説が求められる」

という意見がありますが、あなたはこの意見についてどうお考えでしょうか。

(3)近年、欧米の新聞社は経営状況が悪化したため、常駐特派員や海外支局を減らす傾向があります。

一方で、現地の外国人を特派員として雇ったり、通信員に依頼したり、あるいは重大な事件が起こったと きに、本社から機動特派員を派遣したりしています。日本の新聞社は同じ傾向がありますか。また、あな たはこのような傾向についてどうお考えですか。

2、次に、海外特派員の仕事内容についてお伺いいたします。

(1)1980年代や1990年代の特派員と比べて、現在の中国特派員の仕事の内容やスタイルにはどのよ うな変化がありますか。

(2)現場にいる特派員と本社の編集者との間で、ときどき意見の食い違いも生じると言われています が、あなたの状況はどうですか。また、その場合、あなたはどう対応しますか。

(3)あなたは、自分の関心を持っているテーマに取り組む時間が十分だと考えていますか。この点に ついて、北京以外の取材拠点の特派員は、北京特派員より自由に行動することができますか。

3、そして、国際報道と国内報道の異同についてお伺いいたします。

(1)あなたは、国際報道と国内報道が違うとお考えですか。その理由は何ですか。

(2)(違うと答える方にお伺いします)国際報道の専門性についてどうお考えでしょうか。また、中国 報道には特殊性がありますか。

4、そしてさらに、海外特派員の選抜基準についてお伺いいたします。海外特派員の資質については、言 語力、取材力、国際的な視野という三つの要素が必要だとよく言われていますが、あなたの新聞社は海外 特派員を選ぶとき、どの要素が優先されますか。また、あたなは海外特派員の資質についてどうお考えで すか。

5、また、国際報道と「国益」との関係についてお伺いいたします。国際報道は国家政府に同調する、あ るいは「政府寄りだ」だとよく言われていますが、あなたは国際報道と国益の関係についてどうお考えで すか。また、あなたは日本の新聞の中国報道の論調は、領土問題など、安全保障にかかわる難問を除いて も、「日本政府寄りだ」と思いますか。

6、最後に、国際報道、そして海外特派員の役割についてお伺いいたします。

(1)国際報道は国家の外交政策や、国際関係に影響力があると言われていますが、あなたはこの意見 についてどうお考えですか。

(2)国際報道は国民の国際問題に対する理解を深めるために役に立っているという意見について、あ なたはどう思いますか。

(3)近年、日中関係が悪化し、日本国民の中国に対する好感度もますます低下しています。その原因 の一つはメディアの報道が挙げられていますが、あなたは、日本の新聞の中国報道が日中関係や両国国民 の相互理解に悪影響を及ぼしていると思いますか。

(4)あなたにとっては、「理想の国際報道(中国報道)」はどのようなものでしょうか。

第2節 中国特派員に対する深層面談の全体的な特徴

表 17 は<インタビュー>にみられる「中国に対する認識」と「中国報道に対する認識」

に関するディスコース群を示している。

17:<インタビュー>にみられるディスコース群(コード頻度)

コード(ディスコース) 頻度 コード(ディスコース) 頻度

1 認識の枠組み/実際に中国での取材活動 14 1 一定の進歩 3

2 中国報道の在り方/日本の読者の関心に応える 14 2 言論統制/情報統制・操作 3

3 認識の枠組み 14 3 国内政治/指導者像 3

4 デスクとの日常的なコミュニケーション 11 4 国内政治/権力闘争 2

5 中国報道の難しさ 10 5 異質性 2

6 ニュース価値/中国のニュース価値 9 6 不透明 1

7 中国特派員としてのプロ意識/事実の確認・情報の識別 8 7 長所 1

8 特派員の資質/語学力より問題意識が重要 8 8 驚き 1

9 中国特派員としてのプロ意識/欧米メディアとの比較 8 9 経済/世界と相互依存 1

10 取材活動/情報源へのアプローチ 7 10 経済/政治の介入 1

11 中国報道の在り方/複雑な事象を簡単に説明する 6 11 共通性 1

12 ニュース価値/中国の政治 6 12 途上国 1

13 認識の枠組み/過去の経験 6 13 日本との比較 1

14 取材活動/時間、スペースなどの制約 6 14 国内政治/一党支配(独裁) 1

15 組織/他社との競争 6 15 社会問題/人権問題 1

16 取材活動/現場取材 6 16 対外政策/新しい世界秩序の構築 1

17 本社とのコミュニケーション/プラス面 5 17 中国⇒日本/日米に警戒 1

18 本社とのコミュニケーション/マイナス面 5 18 対外政策/経済力をもとに大国化 1 19 中国特派員の資質/状況判断力 5 19 対外政策/ソフトパワー、国際世論 1 20 情報源へのアプローチ/情報源の説明 5 20 日中関係/経済関係の緊密化 1 21 中国特派員としてのプロ意識/客観的・公平的な報道 5 21 日本⇒中国/日米同盟が基本 1

22 中国特派員の資質/語学力 4 22 米中関係/最重要 1

23 反省/既存の認識に依存する 4 23 国際社会⇒中国/影響力、存在感の向上 1

24 反省/「中国屋」に集中する 4 合計 31

25 中国報道の在り方/国際理解・日中間の相互理解を促す 4

26 自負/独自取材 3

27 中国特派員としてのプロ意識/権力の監視・批判報道 3

28 組織・経営面 3

29 中国報道の在り方/専門分野に集中する 3

30 組織/社内のコミュニケーション 2

31 中国報道の在り方/客観的・公平的な報道 2

32 反省/事実の確認・情報の識別 2

33 中国報道の在り方/中国の実情を伝える 2

34 反省/中国の特異性に注目しがち 2

35 ニュース価値/日中関係 2

36 組織/取材拠点の紹介 2

37 中国特派員としてのプロ意識/事実を伝える 2 38 意図/国際理解・日中間の相互理解を促す 2 39 情報源へのアプローチ/一般人と接触することに努める 2

40 意図/客観的・公平的な報道 2

41 取材環境/取材制限・妨害 2

42 反省/多面性に欠けている 2

43 中国報道の在り方/中国の国民に真実を伝える責任 2

44 意図/現場取材 1

45 反省/中国への配慮 1

46 中国特派員としてのプロ意識/真相を追い求める 1 47 中国報道の在り方/中国人の期待に応える 1 48 反省/複雑な事象を簡単に説明する 1

49 意図/民間人の声を伝える 1

50 自負/読者の中国理解を深める 1

51 情報源へのアプローチ/取材相手への配慮 1

52 反省/複眼的、重層的に捉える 1

53 情報源へのアプローチ/インターネット 1

54 取材制限・妨害/情報公開の遅れ 1

55 意図/読者の中国理解を深める 1

56 取材制限・妨害/盗聴 1

57 意図/複眼的、重層的に捉える 1

58 反省/国内世論・商業主義に影響される 1

合計 234

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