第 2 章 先行研究の整理
2.1 日本語学習観と学習方略面から概観する中国の日本語学習の現状
2.1.3 中国の日本語教育における学習観・方略の実践の試み
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力の育成といった実社会に密接に関連するような,より広い視野に立った日本語学習 観が求められるという傾向が見てとれる.
この点について,于(2012)は「中国国内の外国語専攻で養成された学生は,しば しば単一な人材であると言われている」と述べ,詰め込み式教育から考えさせる教授 法へ重視する必要がある点を指摘している.また,徐(2010)は,「これからの日本 語教育は,社会と実際の状況と密接に結びつかなければならない.学生の総合的能力 を育成するのに,力を入れなければならない」と提言している.
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レイを行っている.その結果,学習者の発話分析から,表現の不自然さと表現の唐突 感,および表現内容の硬さと単調性が共通した問題であることを明らかにしている.
福永は,学習者に誤用の訂正や会話内容の指導および知識の補充が必要であると述べ,
日本の実社会に住んだことがない中国人大学生の日本語学習者にとって,表現の優高 さとよりよい方向に向かうには,「彼らの身近ではないテーマであれば一層困難になる」
と指摘している.この点に関しては,第1章に取り上げた中国人日本語学習者の学習 動機は経済性が有利であり,すぐに実用的なメリットを見出せることが日本語学習の 動機づけになる傾向が見られることから,中国人大学生の日本語学習者に新たな学習 形式を取り入れるためには,学習者に身近な社会で共感している物事を包括するよう な文脈であることが必要であると考えられる.
また,劉(2007)と鳥井(2012)は,中国人大学生の日本語学習者の中上級者を対 象に,作文教育にピア・レスポンスを取り入れた実践を報告している.劉(2007)は,
日本語専攻学習者 36 名を対象に 5 回の作文授業にピア・レスポンスを実施し,学習 者の実施後の作文学習観を調査したところ,従来の「書き手」意識のみ強く持ってい た学習者の「読み手」意識が高まった作文学習観の変容が見られた点を報告している.
しかしながら,学習者同士の作文以外の関わる日本語学習観の変容については検討さ れていない.「仲間作文への寄与」の傾向を持つ学習者同士では,作文の助言以上の情 報を持つことが推察される.したがって,「中国社会が情報化社会になりつつあり,昔 のように教師だけが日本語をはじめとするさまざま知識の情報源であった時代ではな くなり,学生も多様なルートから知識や情報を手に入れられるようになった」(劉,
2007)ことからも,作文にとどまらず,それ以上の学習情報交換により新たな発見や 行動が促進され,より広い日本語学習観が得られると考えられる.こうしたことから,
中国人学習者同士が関わりながら行う学習行動を通して,日本語に関わる知見がどの ように獲得されていくのか,その詳細を検討する必要があると考える.
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また,鳥井(2012)は,中国人大学生の日本語学習の作文中の自律的推敲を促進す ることを目標に,中国の大学3年生の一クラスの「日本語作文」授業で 1年間ピア・
レスポンスを実施している.その中で,学習者の自律的学習は見られたが,読み手か らのフィードバックを促進するための支援の在り方に関しては,活動中の分析的・批 判的読みの支援や教師による支援,グループ仲間の調整が必要である点が指摘されて いる.こうした点から,中国人大学生の日本語学習観に関しては,ピア・レスポンス のような学習者同士で行う協同学習では,学習フィードバックのやり取りを強調する 学習の「場」あるいは「環境」が必要である点が推測される.
更に,楊(2008)は「総合日本語」授業の能動性を改善する目的で,グループワー クを会話活動と翻訳活動に取り入れている.そこでは,新たな活動を教室に導入する 際に,翻訳活動では学習者の学習変容が見られ,会話活動では学習者の学習認 識に合 致するような活動を修正する必要がある点を指摘している.しかし,そうした指摘は 学習者の学習視点から活動に対する学習認識にそぐわない会話活動の学習活動に限っ た指摘であり,グループワークのような学習者同士における協同相互作用によって変 容するといった視点から如何に活動を補い合うかといった議論には至っていない.日 本語の知識,学習者,学習と関わる学習活動,どのような相互作用,どのような変容 過程で学習者の認識に「修正」を行うか,といった点に関しては検討の余地があると 考えられる.
以上の先行研究から,これまでの中国の日本語学習改善としては,口頭コミュニケ ーション,学習者同士協同学習,自律性を促す手法が多く試行されているが,次のよ うな課題がみてとれる.
1)学習者の学習方略変容の詳細分析が十分になされていない
2)学習者に身近である実社会における共感する文脈での学習が必要である
3)学習者間の学び合う相互作用の中で日本語習得との関係を検討する必要がある
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4)協同学習の「場」あるいは「環境」の構築の検討が必要である.
こうした点から,学習者のある一定程度の学習期間に渡って,より深い社会文化的 相互作用で学習が行われる詳細を検討する必要があると考えられる.