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➢ 2030年以降の行動強化は、世界の炭素収支に影響を及ぼすであろう。最近のIPCC 第5次評価報告書(AR5)には、地球温暖化を+2℃以内に制限できる(50%以上 の確率で)とする一連の予測シナリオが盛り込まれている。これらのシナリオは、

他国の行動と協調すれば、中国の排出削減要件が中国NDCが設定した目標にほぼ 一致することを明らかにしている。図2.18は、NDCのコミットメントが2030年 まで含まれている中国の排出量経路を示しており、この分析で明らかなようにそ の後は大幅に減少している(点線で表示)。図2.18は、NDCのシナリオがIPCC AR5シナリオにおける中国の排出量の範囲と一致し、よって+2℃目標が達成され ることを示している。

Enhanced post-2030 actions will have implications for the global carbon budget. The recent IPCC Fifth Assessment Report (AR5) includes a series of forecast scenarios that have a likelihood (of at least 50%) of limiting global temperature increases to within 2°C. These scenarios identify emissions-reduction requirements for China that, if combined by action by the rest of the world, are largely consistent with the targets set by China’s NDC. Figure 2.18 shows the pathways for China’s emissions in which NDC commitments are included to 2030, with strong reductions thereafter as identified in this analysis (depicted as dotted lines). This figure shows that the NDC scenario is consistent with the range of emissions for China in the IPCC AR5 scenarios and therefore the attainment of the 2°C goal.

➢ 中国の自国が決定する貢献(NDC)は、革新的発展経路および「新常態」への転 換を促進する重要な手段となりうる。エネルギーを脱炭素化し、GDPのエネルギ ー原単位を低下させる適切な措置が取られた場合、NDC目標の達成が実現可能で あることを示している。成功すれば、気候変動に対する中国の迅速な行動は、経済 成長を炭素排出から切り離すことを促し、国内のエネルギー部門の根本的再編を もたらす可能性がある。

China’s nationally determined contribution (NDC) can be a critical vehicle in driving the shift onto the innovative development pathway and towards the ‘new normal’. This report shows that meeting the NDC targets is feasible when appropriate measures to both decarbonize energy and reduce the energy intensity of GDP are taken. If successful, the country’s accelerated action on climate change will facilitate the decoupling of economic growth from carbon emissions and could lead to a fundamental restructuring in the country’s energy sector.

➢ 中国のNDCは、+2℃の目標に向けた国際的進展を支援する上で重要な貢献をす

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る可能性がある。中国の革新的発展経路への移行を支援するだけでなく、NDCの 達成に成功することで、2030 年以降の緩和の強化に不可欠な 2020 年代の実施可 能条件を育てることができるだろう。この分析では、中国のNDCとそれに伴う排 出量の削減が +2℃目標を達成する地球規模の排出シナリオと一致することを示 している。

China’s NDC can make an important contribution in supporting international progress towards the 2°C goal. As well as helping China make the transition to the innovative development pathway, successful implementation of the NDC can foster the enabling conditions in the 2020s that will be essential for enhanced mitigation beyond 2030. The analysis shows that China’s NDC, and the subsequent emission reductions it will allow, is consistent with global emissions pathways that meet the 2°C goal.

➢ 中国のNDCは、長期的な、本世紀半ばの排出量削減戦略を進めていくための基本 ともなりうる。この戦略では、長期的・短期的思考と、排出削減量と他の発展目標、

特に社会的、経済的および環境的目標との相互関係を統合する必要がある。次に取 り組むべき重要な問題は統合された費用便益分析の策定であり、それによって適 切に設計された政策枠組みを策定・調整するとともに、最近の経済動向がNDC達 成に与える影響と、グローバルな長期的目標を達成する上での世界と地域の状況 における中国の役割をより詳細に分析する。

China’s NDC can also be the basis for the country to develop its long-term, mid-century low emission development strategy. This strategy will need to integrate both long-term and short-term thinking and the interlinkages between emission reductions and other development goals, especially social, economic and environmental goals. The key issues to be addressed next are to develop an inte-grated cost-benefit analysis, so as to develop and coordinate a well-designed policy framework, as well as undertaking more analysis of the impact of recent economic trends on NDC attainment and China’s role in the global and regional context of achieving the global long-term target.

8-2排出削減目標(部門別、位置づけ)

➢ 2015年6月30日、中国政府は2020年以降の気候変動緩和と適応への確約を詳述 した(目標とする)自国が決定する貢献(NDC)を提出した17。NDCの主旨とし

17最初の提出時点では「自国が決定する貢献目標」(INDC)であった。その後「自国が決定する貢献」

(NDC)になったため、本報告書では全編通じてそのように呼ぶ。

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て、以下の具体的な目標が掲げられている18。

- 2030 年頃までに CO2 排出量のピークを迎えるか、より早期にピークを迎え るように最大限努める。

- 2030年頃までに、2005年比で GDP当たりのCO2排出量を60%から65%

低減する。

- 一次エネルギーミックスに占める非化石燃料の割合を約20%に高める。

- 2030年頃までに、2005年比で森林の蓄積を約45億立方メートル増やす。

- 今後も気候変動に積極的に適応する。具体的には次の方法による。

- メカニズムの強化とキャパシティ・ビルディング。

- 農業、林業、水資源などの部門、都市部・沿岸部、生態学的に脆弱な地域にお ける気候変動リスクの効果的管理などである。

- 早期警戒システムや緊急時対応システム、災害予防・緩和メカニズムの改善に も努める。

8-3想定される産業・エネルギー需給構造、対策、技術

➢ 中国が経済成長を維持しながらNDCを満たすためには、GDPのエネルギー原単 位とエネルギーの炭素原単位を低下させる必要がある。さらなる経済発展の重要 性は、経済成長が引き続き中国の排出量の重要要因となることを意味している。経 済成長予測は、中国の1人当たりGDPが大幅に増加することを示している。2005 年と比較して、中国の1人当たりGDPは2020年、2030年、2050年までにそれ ぞれ3.2倍、5.2倍、11倍になると分析されている。人口も排出量の増加要因とな り、2030 年まで上昇が見込まれているが、その後は 2050 年まで横ばいと予測さ れている。

➢ NDC 目標を達成しながらこの経済成長および人口増加に対応するには、GDP の 単位当たりエネルギー原単位の大幅な向上が必要である。2030 年まではGDP の エネルギー原単位の削減が排出量の増加を抑制する上で中心となる。エネルギー 原単位は2030年までには2005年水準の約40%まで低下すると予想される。2030 年以降、エネルギー原単位はさらに低下し、2050年までには2005年水準の20%

にまで達する可能性がある。分析によれば、この変化は次の表2.3に示すように経 済構造のシフトによって根底が支えられる。

➢ エネルギー消費の炭素原単位の低下は、2030 年の排出量を制限する上では重要で

18気候変動に対する強化行動:中国の「自国が決定する貢献目標」、2015年。

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はなく(2030年水準はおそらく2005年水準の80%)、2030年以降でかなり重要 となることを示唆している。エネルギー供給の脱炭素化は、2030年以降、特に2040

〜2050 年の期間に重要要因となる。これらのパターンは、中長期的に低炭素技術 が利用可能になると予想される成長を反映している。

表2.2. NDC分析シナリオにおける主な仮定と予測

2005 2010 2015 2020 2030 2040 2050

人口(百万人) 1,308 1,341 1,375 1,408 1,467 1,442 1,409 都市化率 43% 50% 56% 62% 68% 73% 76%

1人当たりGDP、(米ドル、2010年価格) 2,708 4,505 6,429 8,639 14,026 21,539 29,985

GDP成長率 11.3% 7.9% 6.6% 5.4% 4.2% 3.2%

住宅用および商業用床面積(10億m2 38.6 46.7 52.2 58.8 70.0 74.1 76.3

1人当たりの居住面積(m2) 25.2 29.0 31.1 33.8 37.7 39.3 40.3

貨物輸送量(10億トンキロ) 9,394 14,454 21,070 27,686 42,337 61,398 75,660 旅客輸送量(10億人キロ) 3,446 5,163 7,610 10,056 16,085 20,849 26,019

(エネルギー供給部門)

➢ 新たな発展経路の下で求められる脱炭素化の水準を達成するには、一次エネルギ ーの使用を従来の石炭から、ガスと電気へと転換していく必要がある。一次エネル ギー消費における石炭の割合は、2010年の71%から2030年には50%に低下する と予想され、一方で非化石燃料および天然ガスの割合は、2010 年の 7.9%および

3.8%から2030年にはそれぞれ22%および9.2%まで増加すると予測されている。

総最終エネルギー消費量における電力の割合は、電気自動車の普及率増加などの 要因によって、ほぼ4分の1まで増加することが予測されている(図2.13)。

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➢ 大規模な電化によって電力部門の脱炭素化は決定的となる。このシナリオでは、コ スト削減に関する研究資金の投入、非化石燃料発電所の優先的新設、再生可能エネ ルギー発電所の固定価格買取制度などの継続的支援政策と措置の推進によって、

非化石燃料が電力部門を徐々に支配するようになる。総発電量に占める全再生可 能エネルギーの割合は、2030年には30%に増加すると予想され、原子力エネルギ

ーも12%の増加が見込まれる。火力発電におけるCCS(炭素回収・貯留)の適用

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と合わせると、2030 年の単位発電量当たりの CO2 排出量は 2010 年の水準から

40%以上削減される可能性がある(図2.14)。これは、中国におけるエネルギー使

用単位当たりの炭素原単位の削減に大きく寄与する。2030 年までに、中国の非化 石燃料の設備容量は、2014年水準よりも900ギガワット以上増加し、その増加分 だけで 2014 年の全国の火力発電の総設備容量にほぼ匹敵すると予想されている。

表2.4に示すように、非化石燃料の年間平均設備容量は2005〜2020年で年間約42 ギガワットから、2020〜30年で66ギガワット、2030〜2050年で87ギガワット まで上昇することが予想される。

表2.4. 2005~2050年の非化石燃料エネルギーの展開

2005-20

2020-30

2030-50

非化石燃料発電の年間平均新設設備容量(GW) (内訳は下 記のとおり)

41.8 65.6 87.1

風力発電 (GW) 14.2 23.8 35.6 太陽光発電 (GW) 7.0 25.0 36.4 原子力発電 (GW) 3.4 9.2 10.6 出典:NCSCと中国人民大学が共同開発したPECEモデルのNDCシナリオ

(最終消費部門)

➢ 産業化と都市化に関わる中国独自の開発状況を考慮すると、NDCシナリオにおけ るエネルギー消費量と排出量の両方に関連して、各最終用途部門で異なる傾向が あると予想される。産業は2030年まで常に最大の最終消費エネルギー需要家であ ると予測されている。その最終エネルギー消費量は2010年比で52%の増加、その 排出量は2020年から2025年にかけて約7,100 Mtに達すると予測されている。都 市化に密接に関わる運輸と建設の 2 部門については最終エネルギー需要に著しい 増加が見込まれており、2030 年の最終エネルギー消費量が 2010 年比でそれぞれ

133%と 102%の増加が予想され、排出量は 2030〜2035 年の期間にそれぞれ約

2,650と1,850 Mtでピークに達する。

➢ 中国の生活水準向上と貧困追放に向けた発展へのニーズは経済成長の原動力とな っているが、同時にそれはエネルギー消費量とCO2排出量を増加させる大量生産 とサービス需要を生み出す。したがって、サービス需要の増加を管理可能な水準に 維持し、より持続可能な方向へ工業生産パターンを転換することは、中国の低炭素 開発の前提条件であり、生産者と消費者双方を導く政策と測定方法が必要である。

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