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中国における新規制定の「信託業法」の展望

第十章 中国「信託業法」制定の必要性-真正なる信託業の展開のため

四 中国における新規制定の「信託業法」の展望

(一)真正なる信託業の展開

日本においても、信託にかかる法制度が整備されていない時代には、「信託」は曖昧な 意味で使われていた。大正11年の旧「信託法」及び旧「信託業法」が信託の概念・本質 と当事者の法律関係などを明確にしたことにより、現在の意味での信託制度及び真正なる 信託業務が構築されたのである。台湾も、日本の立法を倣って「信託業法」を制定した後、

真正なる信託業務が展開され、業務量が急速に進展するに至った。

中国においては、実務で信託会社が受託者としての役割を発揮することができなかった り、信託業の位置付けが不分明であったり、信託の本質に反した業務が行われたりするこ とが多発し、法律としての「信託業法」が存在せず、体系性に乏しい様々な部門規章が銀 監会により発出されているに過ぎない。

したがって、商業銀行・信託会社間の法律関係に関連する対応策として、日本と台湾の 知見を基づき、英米法の信託制度の本質との調和により、信託財産の所有権の帰趨や信託 登記・信託税制等に関するシステムの整備並びに「信託業法」の制定が、中国における業 法に関する法令を統一させ、信託会社をして銀行に付属する局面から打開させ、その役割 を十分に発揮させ、信託業が一層の発展を遂げ、世界的にも競争力を発揮することを保障 することになろう。

(二)各理財業務の健全な遂行

既存の徹底した分業主義と金融業務自由化の現状との間で明確なコントラストが生じ ている。①業務自由化を規定する法律と②業務自由化に対応する監督の整備の 2 つの欠 缺が業務の健全性を阻害し、種々の問題を生ぜしめている。

したがって、顧客・商業銀行間の法律関係に関連する対応策として、業際規制の整備を 含む「信託業法」の制定を通じて、信託の性格を有しながら法的性質が不分明であるとこ ろの理財商品を信託業務と認めることにより、既述の「実質的な信託法制度」とともに統 一的な「信託業法」となり得る。また、銀行、証券会社などの金融機関を「信託業法」の 監督の下に置くことにより、理財商品の機関の大部分に「信託業法」を適用することがで き、統一的な基準による金融機関相互間の平等な競争の促進につながる。さらに、それら の理財商品の機関は、「信託業法」の行為規制が課されるので、それらの健全かつ適切な 業務運営と財務の健全性を確保し、信託の受益者の保護のみならず、既述のような様々な 問題点が顕在化している現状の改善にも資することになり、国民経済的な観点から望まし

いものであると言えよう。

したがって、中国「信託業法」の制定は、理財商品及びそれにより圧倒的な存在感を放 っているシャドーバンキングにまで大きな影響を及ぼすことになる。

営業信託は、第一に民事基本ルールを定める「信託法」、第二に業者ルールを定める「信 託業法」などの業法、第三に投信法、資産流動化法などの特別法の 3 つにより規制され るべきものである。本稿では主に中国「信託業法」の制定の必要性及び内容について論じ たが、特別法については、特に資産流動化業務が1990年代に芽生え、関連する法制度が 2005年から施行されているので、同業務が頗る発展している日本と台湾との比較を通じ て、その特別法及びこれらの業務を如何にして整備するかについて、今後の研究課題とし たいと思っている。

参考資料:中国における銀信理財商品に関連する主な法令及び内容

1.商業銀行理財商品に関するもの

〔表15〕

公布年 名称 制定機関及

び性質 主な内容

2005

商業銀行の個人向け理 財業務のリスク管理に 関する手引き

銀監会 部門規章

商業銀行の理財業務について、リスク 管理システムの完備を求めた。

商業銀行の個人向け理 財業務の管理に関する 暫定弁法

銀監会 部門規章

商業銀行が個人顧客に対し、理財業務 を行うことを正式に容認した(理財業 務の定義及び分類、職責、リスク管理、

監督、並びに法律責任を明確化した)。

2006

商業銀行による顧客を 代行した海外理財業務 の管理に関する暫定弁 法

銀監会・中 国人民銀行 及び国家外 貨 管 理 局

420

部門規章

QDII(適格国内機関投資家)業務の解 禁に伴い、顧客資産の一任勘定による 海外の固定利付商品(海外の株式及び 関連商品を除く)への投資を可能とし た。

商業銀行の個人向け理 財業務のリスク警告に 関する通知

銀監会 部門規章

理財商品の投資対象の拡大及び理財商 品の複雑によってもたらされた名誉リ スク・法務リスク・市場リスク・オペ レーションリスク等の警告について、

10か条の要求を定めた。

420 国家外貨管理局は、国務院の直轄下にあり、外国為替の収支・売買、国際決済及び為替レート・為替 相場等の管理を行う。

2007

商業銀行による顧客に 代行した海外理財業務 の海外投資範囲の調整 に関する通知

銀監会 部門規章

QDII業務において、海外の株式及び関 連商品での運用を解禁した。

商業銀行の個人向け理 財業務の管理規定の調 整に関する通知

銀監会 部門規章

審査認可が必要であった収益保証型の 理財商品については報告制に変更し、

全ての理財商品を監督機関に報告すれ ば販売することができることとした

(規制緩和の推進)。

2008

商業銀行の個人向け理 財業務をさらに規範化 する問題に関する通知

銀監会 部門規章

理財商品の設計、投資家の評価、商品 の宣伝・販売、顧客への情報開示、経 営陣の理財業務への認識レベルの増進 について、具体的な要求を定めた。

商業銀行による顧客に 代行した海外理財業務 のリスク管理をさらに 強化する通知

銀監会 部門規章

商業銀行による顧客に代行した海外理 財業務において、リスク管理システム の完備を求めた。

2009

商業銀行の個人向け理 財業務の報告管理をさ らに規範化する問題に 関する通知

銀監会 部門規章

理財商品を発行する際の報告義務を具 体化した(商業銀行が理財商品を発行 する10日前までに、理財商品に関する 情報を銀監会又はその派生機関に報告 しなければならない)。

商業銀行の個人向け理 財業務の投資管理をさ らに規範化する問題に 関する通知

銀監会 部門規章

理財業務の投資対象421、及び投資家の 資格を明確にした(顧客を理財の経験 ある者と経験のない者とを区別し、そ れぞれに応じて適用な理財商品を販売 すべきである。なお、集合資金信託プ ランへの投資の場合は、集合資金信託 プランにおける「適格投資家」制度422が 準用される)。

2011

商業銀行理財商品販売 管理弁法

銀監会 部門規章

一部の銀行において理財業務の急速な 発展の過程で現れた販売への誤った指 導や販売ミスを是正するものである。

商業銀行の理財業務の リスク管理をさらに強 化する問題に関する通 知

銀監会 部門規章

銀行に対して、理財商品の情報開示の 透明度を高め、理財商品の独立計算と 規範的管理を求めた(リスク管理に関 する規制強化)。

2013

商業銀行理財業務の投 資運用に関する問題の 通知

銀監会 部門規章

銀行は各理財商品と投資資産を対応さ せるようにし、各理財商品を単独で管 理し、記帳し、計算しなければならな い。

非標準化債権資産については、その状 況の開示を求め、それに投資を行う前 のリスク審査、投資後リスク管理を求 め、その残高の制限をも定めた。

2014年 銀行理財業務の組織管 理体系を完備する問題

銀監会 部門規章

銀行の理財業務経営部門の他部門から の隔離につき初めて規定を定めた。こ

421 理財業務の投資対象については、第二章一1.を参照。

422 「適格投資家」制度は、前掲注(78)を参照。

に関する通知 れは、理財業務経営部が経営、財務、

人事などについて、銀行のほかの部門 から独立せられることを求めるもので あり、当にチャイニーズウォールの構 築を義務付けるものである。

2.銀信理財商品に関するもの

〔表16〕

公布年 名称 制定機関

及び性質 主な内容

2008年 銀行及び信託会社の 業務合作の手引き

銀監会 部門規章

銀信合作業務の内容、リスク管理及びコ ントロール等について、定めた。

(銀信合作業務を創設し、銀信理財商品 の仕組みを構築した-銀信理財商品に 関する最初の政令)

2009

銀信合作の関連事項 をさらに規範するこ とに関する通知

銀監会 部門規章

銀信理財商品の投資対象、投資家の資 格、及び信託会社の自主管理能力を明確 した。

銀信理財商品は発行銀行自身の貸付金 に投資してはならない。

エクイティ型の金融商品又はエクイテ ィの特徴を有する金融商品への投資の 場合の投資家の資格については、集合資 金信託プランにおける「適格投資家」制 度を準用する。

信託会社が自己で管理職責を履行する ことを要求し、信託会社が有する財産管 理に関する役割を銀行又は第三者に移 転することを禁止した。

2010

銀信理財合作業務の 関連事項の規範化に 関する通知

銀監会 部門規章

銀信理財商品の商品設計、業務規模、投 資対象、リスク管理等に関する規制、及 び信託会社の自主管理という原則を明 確にして強化した。

銀信理財商品の期限は1年以上とする。

信託会社において、融資型の銀信理財合 作業務の残高は銀信理財合作業務の残

高総計の 30%以上を占めることを禁止

した。

銀信理財商品はリスクの高い非上場会 社に投資することは禁止された。

オフバランスシートの資産を2010 年、

2011 年の 2 年間でオンバランスシート 資産にするよう求め、同時に貸倒引当金

150%まで積むよう求め、合わせて自