• 検索結果がありません。

営業について-法令の統一及び「営業性」の側面からの適正な対応

第十章 中国「信託業法」制定の必要性-真正なる信託業の展開のため

二 営業について-法令の統一及び「営業性」の側面からの適正な対応

「営業」とは、営利の目的で同種の行為を反復継続することをいう375。営業信託は、

第一に民事基本ルールを定める「信託法」、第二に業者ルールを定める「信託業法」など の業法、第三に投信法、資産流動化法などの特別法の 3 つにより規制されるべきもので ある。なぜなら、信託の引受けを営業として行った受託者に対し、「信託法」に加え、「信 託業法」の規制をかけるのは、反復継続して信託の引受けを行う業者と顧客との間に情報 量や交渉力の格差が生じうること、受託者は信託財産を自己名義で管理運用するという大 きな権限を有することなどから、受託者に対して管理運用上の義務を確実に遂行するよう 一定の義務を課すことで顧客を保護しようというものである376。そのため、「信託業法」

374 曾國烈『信託業法立法資料彙編』(中華民国加強儲蓄推行委員会金融研究小組、2002年)82頁。

375 高橋康文『新しい信託業法』(第一法規、2005年)58頁。

376 金融審議会金融分科会第二部会「信託改正に伴う信託業法の見直しについて」(2006126日)

1頁。

など業法では、「信託法」の定める受託者の行動規範を前提としたうえで、顧客保護のた めの業者規制として、参入基準、行為規制などについて規定する。特に、日本における「信 託業法」上の行為規制については、「信託法が規制する受託者の義務・責任(行動規範)

を前提としつつ、信託法とは別の、かつ、より高度の行為準則を課している。この結果、

信託法が定める受託者の義務・責任(行動規範)についても、強行法規化が図られている

377」。そこで、「信託法」上の義務には違反しないものの、「信託業法」上の義務には違反 するというケースが生ずることがあり得る。このような場合については、原則として受託 者の損失塡補責任などの私法上の効果を生じるものではなく、業務改善命令・罰金などの 監督処分の対象となる378。したがって、民事基本ルールを定める「信託法」のほか、業者 ルールを定める「信託業法」などの業法は、信託業(営業信託)にとって、不可欠な規制 といえよう。

下表12及び13のように、日本と台湾では、「信託法」を中心として、「信託業法」、及 びそれを補充・修正する個別立法で、信託業に関連する法制度が完備されている。

〔表12〕日本における信託業に関連する主な法令

一般法 業法 個別法

信託法

信託業法 貸付信託法

投資信託及び投資法人に関する法律 金融機関の信託業務の兼営等

に関する法律

担保付社債信託法 資産流動化に関する法律

〔表13〕台湾における信託業に関連する主な法令

一般法 業法 個別法

信託法

信託業法 金融資産証券化条例 不動産証券化条例 銀行法 証券投資信託及び顧問法

先物信託基金管理弁法

しかしながら、上述のように、中国の信託業については統一の法律が存在しない。その 代わりとして銀監会が制定した様々な部門規章は、かかる制度を構築するものではなく、

ただ関連する問題点に対する弥縫策に過ぎず、体系性に乏しい。また、このような部門規 章は、数が莫大であり、性質が法律より低いレベルであって、内容においても相互間で不 整合があり379、実行性に乏しいものとなる恐れが高い。さらに、業法の機能をある程度 で担おうとしても、それが部門規章であっては、それなりの規制の役割を発揮することが

377 新井=神田=木南64頁。

378 折原誠「信託法と信託業法の関連ポイント」信託2009年(240)85頁。

379 不整合の具体例については、第五章二(一)を参照。

期待できない。したがって、信託業務の当事者間及び関係者間の法律関係を定めているの は、ごく一部の例外を除いて、もっぱら「信託法」である。上述のように、営業信託にお いては、非営業信託とは異なる「営業性」と格差の実態が関係当事者間に存在するので、

それに応じて適用される法律も異なるべきものと考えられる。業法に関連する法令が未完 備であったために「信託法」及び行政命令と実際に行われてきた信託業との間にズレが生 じており、信託業のリスクが懸念されている。そこで、中国で行われてきた、そして今後 一層発展を遂げると予想される信託業について、①法令を統一する、②「営業性」の側面 からの適正な対応を行うためには、「業者ルール」を充実・整備することが求められる。

信託の本質の明確化並びに法令の統一及び「営業性」の側面からの適正な対応からの観 点より、信託会社をして銀行に付属する局面から打開させ、その役割を十分に発揮させ、

信託業が一層の発展を遂げ、世界的にも競争力を発揮するためには、信託に関連する法令 を体系的に構築し、「信託業法」を制定することが是非とも必要である。

第十一章 中国における「信託業法」の制定

緒 言

中国「信託業法」の立法に当たっては、既述の日本と台湾の知見に基づき、如上受容性 及びアイデンティティーの形成が重要となろう。そして、受容性の対象は、英米法におけ る信託の本質のみならず、日本における「信託業法」に関する制度をも含むと言えよう。

ついては、以下の視点からの「信託業法」の検討が必要であると思料する。

英米法の信託制度の本質との調和

既述のように、現在の英米法の信託制度の本質との調和は不十分であるので、理論面で も立法面でも英米法の信託制度の本質を解明した上で、中国の法制度にそれを調和させる ことが肝要である。これも、如上「真正なる」信託業を展開するためである。具体的には、

「信託業法」の立法では、台湾の知見に基づいて日本「信託業法」を倣い、信託の本質に したがって信託財産の所有権の帰属にかかる法理や信託登記制度及び信託税制を完備し、

英米法系の信託法理を受容する「信託業法」を制定することが最優先と考える。

信託の活用に対するニーズ等への柔軟な対応

信託の最も重要な特性の一つとして、その柔軟性、多様性が挙げられる。すなわち、受 託財産の性状は、信託を通じて様々な形態に変化し得る。日本では、このような信託の特 性を活かし、利用者にとって使い勝手がよく、負担の小さい、分かりやすい制度を設けて

いた。例えば、「信託業法」の改正による受託可能財産の範囲と信託業の担い手の拡大、

及び「信託法」の改正による受託者の義務などの内容の合理化などである。中国において

「信託業法」を立法するに際し、日本の知見を参考とし、関連する規制の緩和が利用者の 利便性及び信託業務の発展することに資するということを認識すべきである。

信託会社の健全かつ適切な業務運営等と受益者保護

信託業が国民の信頼を確保し、信託の活用が促進されるためには、①信託会社が、信託 財産について十分な管理・運用能力を持ち、健全かつ適切に業務運営を行うとともに、② 信託会社が、信託業務を安定的・継続的に行うために財務の健全性を確保することが重要 である。中国「信託業法」の立法において、信託会社の健全かつ適切な業務運営と財務の 健全性を確保することは、信託の受益者の保護に対してのみならず、既述の、様々な問題 点が顕在化している現状の改善に対しても資するものと考えられる。

法制度との整合性

中国において「信託業法」を立法するに際し、上述のように、法制度(特に、私法たる

「信託法」)における受容と社会と整合性のある「信託業法」の制定を目指していく必要 がある。すなわち、社会情勢などを勘案し、中国経済社会に適合する「信託業法」へと改 変することで、個性的な信託業務を発展せしめ、段階的に中国の信託業務を推進させるこ とが可能となろう。

以下では、上述の視点と受容性及びアイデンティティーの観点を念頭に置きながら、3 つの内容、すなわち、①信託業者の参入基準、②信託業者の行為規制、③業際規制につい て、中国「信託業法」の制定を検討する。

一 「信託業法」における業際規制-業務自由化への改革

(一)改革の必要性

既述のように、中国においては、①業務自由化を規定する法律と②業務自由化に対応す る監督の整備の 2 つが欠けているので、中国「信託業法」を制定するに当たって、信託 業への参入規制については、日本の知見に鑑みれば、業態を跨る業務自由化への改革、す なわち、銀行や証券会社などによる新たな信託業参入を、法律面及び監督面で完備するこ とを念頭に置く必要が高まっていると言えよう。以下ではこの必要性380を検討する。

380 金融制度調査会制度問題専門委員会「新しい金融制度について-金融制度調査会制度問題専門委員会 報告-」旬刊商事法務125228-32頁を参照。