107.開けよう
共通語における下一段活用動詞の代表として「開け る」を取り上げ,その意志形を見ようとした地図である。
各地にラ行五段活用を予想させるアケロー・アケロなど の分布が現れているが,106図「起きよう」のオキ ロー・オキロや,108図「寝よう」のネロー・ネロと比較 して,特に九州地域を中心に分布が狭いことがわかる。
また,108図のニョー・ニューに比べて,九州地方の他,
中国・四国地方でアキョー・アキューの勢力が強くなっ ている点も注意される。
さて,語形の採用にあたり,終助詞付き回答で不採用 にしたものは次のとおりである。いずれも,終助詞の付 かない同形が併用で回答されており,そちらを採用とし ている(終助詞の扱いに他の活用形と異なる点があるが,
それについては1.1.「語形の採用と統合」を参照)。
2734.05 [agerugana].
3725.49 [agembe:na:]
3784.65 [agenbe gana]
5651.04 [akezulina:]
7431.34 [akjo:ka]
8331.60 [akukai]
9313.46[akembad3ana:]
上記のうち,5651.04についてはna=の部分.を,9313.46 についてはd3ana:の部分を終助詞とみなした。ただし,
後者の回答にはくこれがよい〉という話者の注記が付い ており,採用した[akemba]より不採用の[akemba−
d3ana:]の方が自然な言い方である可能性がある。
「意志形」の定義に合わなかったり,調査文の文脈か らはずれていたりするために不採用としたのは次の回答 である。まず,
1725.35[agedemigana:]
0246.88[?ih6:tippo]〈「開けてみよう」〉
は,「開けてみるかな」「開けてみよう」にあたる回答で ある。
7266.14[ake?mukana◎]
も「開けてみるかな」ではないかと考えられる。また,
1801.80 [aketara indenaikana:]
4710.55 [ag皇daho皇na].
は,「開けたらよいのでないかな」「開けた方がいいな」
にあたる回答,さちに,
2072.20 [agirukirariru]
は,「開け+ぞ+しられる」で可能の形式と考えられる。
一方,
6500.66 [akete] (P)
〃 [akete:] (P)
も適当な回答かどうか疑問が残るが,話者が〈これが自 らの動作を促す表現である〉と言っている点を尊重して,
採用とした。なお,調査者の観察によればこれちの形態 のアクセントは,トオ アケテ(一)である。また,
4619.63 [agefotla:]
も採用としたが,話者の内省として,〈命令形も同じだ が,プロミネンスによって違う〉という注記があったこ とを紹介しておく。同地点の命令形には[agefe]の他
[agefO]が回答されており,それとの違いを指摘して いるものと考えられる。次に,
4761,07[agef田]〈こういう時はつぶやかずに黙っ ているのが普通だ。>
6422.93[aklo:]〈#,実際に使うことはない。〉
はいずれも採用したが,上記のような話者の注記がある ことに注意してほしい。「窓を開けよう」という内容を つぶやくという場面が,現実離れしていることを指摘し ていると考えられるが,「開ける」の意志形としてこの ような形が存在することまで否定しているものではない とみなした。
丁寧な形式であるため不採用としたのは次の回答であ
る。
5623.94 [akejalo]
使用状況から見て採用できなかった回答は,次のもの である。話者自身は用いないため不採用となった。
5667.18[akebja]〈こう発音する人もいる。〉
参考話者の回答として補助記号付きで地図に載せたの は,次の回答である。
1942.62[akejo:](斉藤氏)
一方,次の回答は,参考話者回答の採用条件に合わない ため不採用とした。
5463.73 [akjo:ka]
5624.84[atlo:](ゆ)〈おばあさんが使う。〉
音声の統合については,次の回答に注意しておきたい。
5565.12[アケヨ]
調査者によれば,この小文字のヨの意味は,ヨが弱い発 音であることを意味したものであるという。統合規則に したがって,この小文字を普通の文字に直し,<akejo>
として統合した。
語形の記号化は,1.2.に述べた意志形全体に統一的な 方法に従った。ただし,「後前部」の違いを表す【一本 線の向き】のみは各図ごとに指定することになっており,
表Ha・bには示していなかったので,以下にその一覧 を掲げる(円形記号を例にとる)。表Ha・bと対比しや すいように,記号の色大きさについてもあらためて示す。
表1−4 緑一小{
水一小{
小{
茶︷
大{
榿 小
大
小
紺
O e
6ε
O i
6i
O jo Cトjつ
6u
O ju 6i,。
O ero 6e・。
つ e6ro
(>oro O erつ
Q、ira
σera ρura ρora 6iru
O eru
66,1。<⊃ 芭6rju
O一εru
O−oru O eQ
beN O−UQ
108.寝よう
共通語における下一段活用動詞の一例として「寝る」
を取り上げ,その意志形を見ようとした地図である。
107図「開けよう」と比較して,九州を中心にラ行五段 活用を予想させるネロー・ネロが色濃く現れている点な どが注目される。琉球地域はネブル(眠る)にあたる形 が使用されており,第2集にならって語彙的回答として 採用した。
さて,語形の採用にあたり,終助詞付き回答で不採用 にしたものは次のとおりである。いずれも,終助詞の付 かない同形が併用で回答されており,そちらを採用とし ている(終助詞の扱いに他の活用形と異なる点があるが,
それについては1.1.「語形の採用と統合」を参照)。
2734.05 [nerugana]
2791.57 [ner亡αgana]
3649.73 [nenebananena:]
3725.49 [nembe:na:]
3754.59 [nebe:na]
4652.79 [nero:kana]
4753.76[neppewana]
4763.11[neppej a][neppewa][nembewa]
〃 [nembeja]
5584.79 [nejo:kana]
5672.89 [nezuka]
6477.12[ネローカナー]
6494.07[ネロカ]
6615.89 [nebe:kana:]
6655.44 [nebe:kana:]
7347.54[ネローカ]
8248.18 [∫1【u:ka]
8350.57 [nerokai].
9313.46[nembad3ana:][nero:kaina:]
上記のうち,9313.46の[nembad3ana:]については,
他の項目同様d3ana:の部分を終助詞とみなした。また,
助詞部分の認定に関して,
3733.31 [nerulbeli]
のbelfは,古典語の「べし」につながる可能性もあるが,
ここではlfを終助詞として切り離して処理した。
「意志形」の定義に合わないために不採用としたのは 次の回答である。まず,前記1.1.「語形の採用と統合」
のところで,注記により勧誘形式と考えられる回答を不 採用としたことを述べたが,その他にも,次の回答は形 態から見て共通語の「寝ようよ」にあたる勧誘形式と思 われるため,不採用とした。
5558.21 [nejoja]
5670.47 [nejoja]
また,
1942.62 [nere]
は命令形であり,
5558.21 [nerul其〕aj adzo]
も,「寝るのだぞ」にあたる言い方で,命令のニュアン スが強いと判断した。さらに,
2072.20 [nindidukirafiru]
は,「眠り+ぞ+しられる」で可能の形式と考えら.れる。
この他,
0776.88 [neruエnerul]
1868.21 [nerulneruエ] [nerulgarana]
は,調査文とは異なる文脈の中で使用される形式である 可能性が高いと判断して採用しなかった。
一方,次の回答の形式は見慣れないものであるが採用 とした。まず,
2068.07 [nini] .
は,終止形(66図)が[ninil]であるところがら見て,
同地点の「開ける」が[akil](終止形64図),[aki](意志 形107図)と活用するのと同じタイプの活用型に属する と思われる。語源的には他の琉球語形と同様「寝る」で はなく「眠る」の系統であろう。また,
0294.66[niburanumu]
は,numuの部分が不明であるが,.他の項目.にも一貫し て現れる点を重視して採用とした。同地点は,.[nibura:]
との併用となる。
「眠る」類のほか,第2集にならい「語彙的回答」と して採用したのは次のものである。
0717.50[jas{umul]
2791.57[doNbtαs曲gana]〈古>
4684.77[jasumo7]
7344.26[ヤスモー]
2791.57の回答は,「ど(強調の接頭語)+伏す」と考えら れる。
丁寧な形式のため不採用としたのは次の回答である。
2822.49[nema∫o:](共)
5623.94 [nejalo]
ただし,前者の回答には,〈前も. チて心に決めている時〉
という話者の注記があり,同地点の[nejo:]および[ne−
rugana]〈今すぐ寝る時〉とは意味的にも.違いのある可 能性が残る。
使用状況から見て採用できなかっ.た回答は,次の2つ である。注記から見て,いずれも話者自身は用いないと 判断されるものである。
3721.11[nebbe:]〈若年>
6572.14 [nejo:] 〈若〉
また,
5681.22 [nesukana:] (ゆ)
については,調査者の再調査の結果,話者が使用を否定 したので不採用とした。なお,
7249.35[pu:]〈子供ことば〉(古)
は,話者の言う「子供ことば」の意味が幼児に特有のこ とば(いわゆる幼児語)ということならば不採用である が,調査者が「古」という注記をわざわざ付けているこ
とからすれば,子供の時代に使用した言い方という意味 にも取れるので,採用とした。他の項目でも,[aklu:]
(107図),[lu:](111図)のように同様の形式が回答さ れているが,そちらには特別幼児語である注記はない。
参考話者の回答として補助記号付きで地図に載せたの は,次の回答である。
1942.62[nerulgana:](斉藤氏)
一方,採用条件に合わないため不採用とした参考話者の 回答は次のとおりである。
5463.73 [njo:ka]
7383.98 [nezzo:] [nuzzo:]
8321.58 [nerannara]
音声の統合については,次の回答に気をつけたい。
5517.75[ネヨ]
5565.12[ネヨ]
5566.37[ネヨー]
5566.95[ネヨ]
調査者によれば,この小文字のヨの意味は,ヨが弱い発 音であることを意味したものであるという。統合規則に したがって,この小文字を普通の文字に直し,〈nejo>
〈nejoo>として統合した。この点,107図のアケヨと同 様である。
命令形と同じ形をとるものの,アクセントが異なる旨 指摘のあった地点を紹介しておく。6572.94と6580.88で は[nejo]が回答されたが,調査者によれば,これはネ ヨーの単音化した形であり,アクセントはネヨであって,
命令のネヨとは異なると言っ。
語形の記号化は,12.に述べた意志形全体に統一的な 方法に従った。ただし,「後前部」の違いを表す【一本 線の向き】のみは二二ごとに指定することになっており,
表Ha・bには示していなかったので,以下にその一覧 を掲げる(円形記号を例にとる)。表1−ia・bと対比しや すいように,記号の色,大きさについてもあらためて示
す。
表1−5 緑一小一 茶{工1
O e Ojo
6・ Oju
㎝a℃㎜㎝㎞㎝㏄㎝㎜eQuQ㎝ 06σDσσQOσ○σb
小
榿
紺 大 小
語彙的回答である琉球の「眠る」類は,凡例上「寝な ければならない」の類の後に示した。その記号は色と塗 りつぶし方を除いて「寝る」類の記号化にできるだけ倣 うようにした。この点,第2集の「寝る」を扱った地図
(66図「終止形」,79図「否定形」)と同じ方針をとった。
なお,「眠る」類にも「眠らなければならない」の類が あるが,それは「眠る」類の一般的な回答に続けて掲示 した。その他の語彙的回答の位置は末尾とした。
109.書こう
共通語における五段活用動詞の代表として「書く」を 取り上げ,その意志形を見ようとした地図である。他の 地図と比較して,西日本の語形にバラエティーが乏しく,
ほぼカコー・カコで統一されている。カ二一・カカが山 陰地方の他,秋田,愛知,琉球地域に分布しているのも 興味深い。
さて,語形の採用にあたり,終助詞付き回答で不採用 にしたものは次のとおりである。いずれも,終助詞の付 かない同形が併用で回答されており,そちらを採用とし ている(終助詞の扱いに他の活用形と異なる点があるが,
それについては1.1.「語形の採用と統合」を参照)。
1778.45 [kako:kana]
1920.05 [kak{ukana ] 2743.86 [kag{ヵgana:] (ゆ)
2791.57 [kag敬gana]
3702.37 [kag亡霞gana]
3725.49 [kag亡αbe:na:]
3791.09 [kagoga] [kagogana]