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単独 単独

第六章 総合考察

1.単独課題と集団課題の比較

 ふたつの実験から,同期タッピング課題においては,単独で課題を行った場合の応 答と他者と協調して行った場合の応答に差異がみられた.特に,他者の存在はタッピ ング応答の正確性,つまり先押し傾向に影響を与え,より早いタイミングで応答する ことが示された.この結果は実験1,実験2で一貫していたため,複数人での同期タ ッピングにおける一般的な応答特性であると考えられる.また,先押し傾向が強まる この現象は,参加者の主観的な達成度(クリック音にうまくタイミングを合わせられ たかどうか)や課題の難易度とは独立して生じていた.つまり,参加者には明確には 意識されないレベルでの変化であることが示唆された.先行研究( s,eta1.,1995)で は,メトロノーム音に対して単独でタッピングを行わせた後に,途中でメトロノーム 音を消して被験者自身のタッピング応答をフィードバックした音に対して同期タッ

ピングを維持させると,タッピングのテンポが徐々に速くなることが報告されている.

この知見に鑑みると,集団課題において先押し傾向が強まったのは,ターゲットとな る音刺激と同時に他者の応答の負の非同期に同調した結果であると考えられる.

2.集団間の比較

(1)成員構成の違いによる影響

 単独課題と集団課題それぞれの応答を既成集団と非既成集団で比較したところ,タ ッピング応答の正確性については集団間に違いがみられなかった.しかし,タッピン グ応答の変動性について既成集団と非既成集団の間に異なる傾向がみられた.非既成 集団では単独課題・集団課題で個々人の応答の変動性は変わらなかったが,既成集団 の成員は集団課題において応答の変動性が増大した.高橋・渡邊(2010)は二者を対面

して座らせ,互いに指先を近接(非接触)させた状態で相手の指を見ながら,できるだ け指を静止させるという課題を用いて,静止動作中の指先の微細運動を測定した.そ の結果,他者の動きを意図的に追従するという練習を経験することによって,他者の 情報の影響が強まり,二者の動きの同期が促進されたことを報告している.また,そ の原因として,相手の動きを追従するという顕在化された経験により相手との心理的 距離が縮まったため,他者の視覚情報の潜在的な処理に変化が生じた可能性を指摘し ている.このことから,本研究の実験2の結果については,実験課題前にインタラク ションが経験されている既成集団の成員は,非既成集団の成員よりも他者の応答の尚 早や遅延の影響を受けやすかったために応答の変動性が増大したと考えられる.

(2)競技経験と競技特性の影響

 実験条件として設定した既成集団・非既成集団には,集団成員構成の違いとともに,

スポーツトレーニング経験の違いが含まれている.特定の鍛錬を重ねるごとによる感 覚運動同期(SMS)の正確性向上については音楽経験による知見が報告されており,音 楽経験を積んだ人は,そうでない人と比べて非同期量や応答の変動性が小さいと言わ れている(Repp,2004;Repp&Pene1.2002).本研究においては音楽経験の有無によ

る影響はみられなかったが,鍛錬によってSMS応答が変化するという知見に鑑みる と,バレーボール部と野球部において集団課題でも非同期量が増大しなかったことは,

集団での協調運動が要求される競技(バレーボール・野球・バスケットボール等,相 互作用型の競技)の経験を積んでいることによるものであるという可能性も考えられ る.チームでの協調運動を鍛錬することによって,他者と」緒に課題を行っても,外 界の刺激に対するタイミング動作の正確性は変わらず,ひとりで行った場合と同程度 の正確性で応答できるようになるのかもしれない.また,二人での協調を要するタッ ピング課題においては,「他者の動きに注意を向け,他者に合わせることが重要」だ と考えている参加者同士のペアにおいて協調がうまくいくことが報告されている

(Pecenka&Ke11er,2011).スポーツにおいては,チーム内の他者の動きを参照する ことが要求される競技を行う集団では,個々の成員がもつ「他者に注意を向ける」傾 向が強いと考えられる.そのため,個々人が単独でもっている応答の正確性は維持し ながら,応答の変動を大きくすることで他者の応答に適応していたと推察される.た だし,本研究で明らかとなった既成集団の特性がスポーツ種日特性によるものなのか 個人特性によるものなのかは不明であり,スポーツ種目による特性に関しては今後さ

らに詳細に検討すべきであろう.

3.今後の展望

 円滑な対人協調運動は,他者の行動を予測する能力と,先行する他者の行動にミリ 秒単位で柔軟に対応する能力によって達成される(Sebanz,et a1.,2006;Konva1inka et a1.2010).また,スポーツにおいて,他者の動きの予測の正確性はその競技の経験 量によって向上すると言われている(Jackson,Warren,&Abemethy2006;Sebanz

&Shi舐er,2009).集団競技におけるプレーを対人協調運動として考えると,競技中 の連携は(1)競技経験によって獲得された他者の動きを予測する能力と(2)他者の動き に合わせて柔軟に対応する能力によって円滑になるといえる.他者の動きを予測し,

他者の動きに合わせるためには,他者の動きに注意を向けることが必要である.集団 凝集性の高い集団では成員同士が互いに他者の動きにより強く注意を向けており

(Tick1e−Degnen&Rosentha1.1987),他者の応答を参照しているため,予測がより正 確になる.他者の応答の予測がうまくいくことによって,円滑な協調運動,つまり息 のあったプレーが達成されると考えられる.このような協調運動は,特に相互作用型 の競技におけるメンバー間の連携で重要であると考えられる.したがって相互作用型 競技の集団においては,協調運動特性が集団凝集性の程度の違いを反映し,集団凝集

性の高さと競技パフォーマンスのよさを媒介する要因になっている可能性ある.

 本研究では,実験2で用いた既成集団が実際に高い凝集性をもっているか,非既成 集団が本当に凝集性が低い集団であるか,という点については不明であった.しかし ながら,実験2の状態不安得点(図31−32)をみると,集団課題において非既成集団よ り既成集団の方が課題前の不安・緊張度が低く,また,既成集団では課題の前後で得 点がほとんど変化しなかった.このことは,非既成集団に比べて既成集団の方が緊張 感なく同じ課題に取り組めたことを示している.本研究で明らかにできなかった点と して,同期タッピング課題で得られる認知行動特性が従来使われている集団凝集性の 測定法,すなわち質問紙調査の結果と整合性をもつのかどうか,あるいは言語的に得

られた回答とは異なる結果を示すのかどうかの問題が残されており,さらなる検討が 必要である.

 また,本研究で用いた課題の特性として,集団課題ではタッピングの順番が回って くることが視覚的に予測できたのに対し,単独課題では参加者白身がクリック音の回 数を数えていなければならないという負荷があった.このことが,参加者の主観的な 難易度や達成度の評価に影響を与えないレベルで,応答を変化させていた可能性が考 えられる.実験装置も独自のものを用いたため,非同期量の大きさに関しては先行研 究(Ke11er&RepP,2004;小松&三宅,2003.2005;Konva1inka,et a1.,2010;三宅

ら,2002;恥s,eta1.,1995)と直接比較できなかった.そのため,今後の実験では,他 者のタッピングが視覚的に見えないようにする,あるいは単独課題時にもタッピング の順番に関する手がかりを与えるなど,装置や課題を洗練していくことが必要である.

また,タッピングターゲット呈示の間隔やフィードバックの条件を変え,難易度を操 作することで,他者の応答の予測や,他者の応答に合わせた自己の応答の調節といっ た成員間の時間的協調の特性と,集団の質的な違いが協調運動特性との関連がより明 確になることも考えられる.

第七章 結論

 本研究では集団凝集性に着目し,同期タッピング課題を用いて成員構成の違いが協 調課題における個々人のタイミング制御応答に及ぼす影響を検討した.実験1,実験 2の結果から,課題を他者と」緒に行うことによってタッピング応答の先押し傾向が 強まることが明らかになった.また,タイミング制御応答には成員構成の違いが反映 されることがわかった.特に,集団凝集性が高いと考えられる既成集団の応答特性は,

非既成集団とは異なり,他者の応答の尚早や遅延を参照しながら柔軟に自己の応答を 調節していることが明らかになった.したがって,成員構成という集団の質的な違い は,成員の協調運動特性に影響を及ぼしていると考えられる.

 さらに将来検討すべき展望として,従来の「集団凝集性の高い集団は競技成績がよ い」という一般的認識は成員間の時間的協調という要因が媒介している可能性が考え られた.とくに,協調課題における応答特性には競技特性が影響を及ぼしており,特 に球技を始めとする相互作用型の競技では,時間的協調の巧みさが息のあったプレー を生み出し,高いパフォーマンスに繋がると考えられる.

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