先ずハ ンチ ン トン論 文 の記 述 の問題 点 を見てみ たい。
(1) 記述 その 1 :「君 主、国民 国家 、イデオ ロギー に よる紛争 のす べて は西欧 文明諸 国 に よるものであ り、 これ らはいわば西欧 の内戦だった。冷戦 も西欧 の内戦 だった。 だが冷 戦終結 とともに、国際政治 は西欧 文明 とい う枠組み を超 えた広 が りを見せ 、問題 の中枢 は 西欧文明対非西欧文 明 とい う構 図 に よって規定 され るよ うになった。 これ までの よ うに非 西欧諸国の政府や 民衆 が植 民地の対象 とされ ることもな くな り、歴 史 の構築者 として西欧 文明 と肩 を並べ る よ うにな った」 。
対立の構 図の原 因 を脱植 民地、 自立 に求 めてい るが、 この傾 向は冷戦終 了 とい う時期 に 発生 したので はない。従 って、冷戦終 了 と対立の発生 の相 関関係 につ いては根拠 が薄 い。
(2) 記述その 2 :「い まや政 治 ・経 済 システムや経済発展 の段 階 に よって国家群 が区分 され てい るわ けでな く、文化 ・文 明 に よって国家 が ま とま りをみせ てい る。」
この記述は部分的に該 当 して も国際情勢全般 にあてはまる現象 とす るのは正 しくない。イ ラク問題 を巡 って、西側 に米 国 と独仏の考 え方に差があることをみ て もかかる一般化は出来 ない。
(3) 記述そ の 3 :「今後 の世 界 は 7つ 、あるいは 8つ の主要 な文明の関係 に よって規定 され てい くこ とにな ろ う。 主要 な文明 とは西欧 、儒教、 日本 、イス ラム、 ヒンズー、ス ラ ブ、 ラ米 、 アフ リカ」。
各国動 向の認識 を このカテ ゴ リーで正確 に認識す るこ とは不可能 であろ う。経済発展及 び政治 の成熟度 か らくる類似性 と歴 史的に同一文化 圏に属 していた こ とか らくる類似性 に お いて後者 が強 固 と断定 は出来 ない。
(4) 記述その 4 :「世界の経済 の近代化 と社会の変化は地域的アイデ ンテ ィテ ィを希薄 に し、国民単位 のアイデ ンテ ィテ ィを弱 めてい る。 これ に代 わ り世界 の多 くの地域 で宗教 が 重視 され始 めてお り、原理主義 に積極的な態度 をみせ てい るのは大学教育 を受 けた人 々だ」
前者 の現象 は出ていて も宗教 が これ に代 わる とい うのは正確 ではない。原理主義 と教育
孫崎 享 「文 明 の衝 突」 と米 国軍事戦 略
の関連 について も一面の記述である。以降、ハ ンチ ン トン論文の記述 に問題 あるとみ られ る 部分 の続 けるが、スペー スの関係 で、何故 問題 であるかの記 述 は避 ける。
(5) 記述そ の5 :「日本 が内向 きにな りアジア化 を進 めてい る」
(6) 記述その 6
:
「非西欧文 明のエ リー トは脱西欧化 をめ ざす」(7) 記述そ の 7 :「文 明的 な特質や違 い を克服 してい くのは容 易 で な く、政治経済 問題 に もま して妥協や解決 を図 るのが難 しい」 (筆者注 :違 いの存 在 は武 力 的対 立 に発展す る こ とは意 味 しない)
(8) 記述そ の8 :「中国経 済 はす で にアジアの屋 台骨 と称 され てい る」
(9) 記述そ の 9
:
「強 く強調 してお くべ きは、西欧 文明諸 国 が民主主義 ・リベ ラ リズム を普遍 的価値 と して促進 し、軍事 プ レゼ ンスを維持 し、 自らの経済 的利 益 の促進 を図 ろ う とすれ ば、逆 に他 の文 明 の反発 を招 く危険 がある とい うこ とだ」(筆者 注 :イ ラク攻撃等 現在 の米 国政策 が批判 を招 いてい る主た る理 由は米 国が リベ ラ リズム等普遍 的価値 を追求 す る こ とな く自己の価値 を追求 してい るこ とにあ る)(10) 記述その 10:「冷戦 時代 、危機 や流血 を伴 う抗争 の発火 点 は政治イデ オ ロギー上 の 境界線 に存在 した が、い まや 文 明上 の断層 ライ ンがそれ に取 って代 わ りつ つ あ る」
(ll)記述その 11:「端 的 にい ってア ラブ世界 にお ける西欧流 の民主化 は反西欧的政治勢力 を招 いてい る」
(12)記 述そ の 12:「現在 はイ ス ラム対 キ リス ト教 とい う構 図 に変化 して る」
(13)記述その13:「日米の経済摩擦 は両国の文化的な隔た りによって更に深刻 になっている」
(14)記述そ の 14:「実際個人主義 、 自由主義、立憲 主義 、人権 、平等、 自由、法 の支配 な どが他 の文 明圏で広 く受 け入れ られ てい るわ けでない」
(15)記述そ の 15:「ある研 究者 は西欧世界 で最 も重要 な価値観 は他 の地域 では最 も低 い重 要度 しか与 え られ て いない と結論つ けてい る」
(16)記述その16:「近代的な民主政府 とい う概念 は西欧 を起源 としてお り、 これが非西欧社 会に導入 されたのは、おおむね西欧文明の植 民地主義、あるいは強要 を通 じてである」
(17)記述そ の 17
:
「今後人 々が文明 を軸 として 自己 と他者 を区別す るよ うになれ ば多様 な 文明 を内蔵す る国家 は解 体す る運命 にある」。以上幾つ かの問題 点 を含む記述 をみたが、その論法 は学術 的 と言 うよ り、プ ロパ ガ ンダ 的であるO ある現象 の一部 の面 に当てはまる面 を拡大、一般 化 し、特 定論点 を支 える とい う手法 で ある。 また、 「近代 的 な民主政府 とい う概念 は西欧 を起源 と してお り、 これ が非
基盤 (A) IT等 の科 学技術 の視 点 を踏 ま えたイス ラム問題 の現状 と今後 の展 開 に関す る研 究
西欧社会 に導入 され たのは、おおむね西欧文化 の植 民地主義 、 あるいは強要 を通 じてであ る」 との論点 は後 に見 る米 国 に よる米 国の政策 「強制」 を支持す る論法 で あ る。
‑ ンチ ン トン論文 は こ うして、文 明間の異 な りの中で妥協 ,協調 はあ り得ず、武力対立 は 自然である との論 を展 開 した。 しか し、ハ ンチ ン トン論 文は学術 的論文 としては問題 は 抱 えつつ も、その後 の国際情勢 の展 開では正 しい予言 を下 した とい う現象 を生み 出 した。
それ は ど うしてなの か。
ソ連封 じ込 め政策 をⅩ論文 で提言 した として著名 なジ ョー ジ ・ケナ ンは後 、 自叙伝等 で
「自分 の提 言が政策決 定者 達 に影 響 を与 えた とい うよ りは、政策決定者 が望む方 向の論 文 を記述 したので この論 文が重用 され た」 と記述 してい るが、ハ ンチ ン トン論文 も同 じよ う な要素 を有 してい る。 ハ ンチ ン トン論文の理解 には この時期 の米 国の安全保 障の考 え方 を 見 る必要 があ る。
3.1990
年代前半の米国安全保 障政策
ソ連 の崩壊 は米 国の国防政策 の根本 を変 えた。 この時期米 国は如何 な る安全保 障政策 を 築 いていったか、見 てみ たい。
(1) 国家安全年 次報告 の動 向
1986年の ゴール ドウオー ター ・ニ コラス法 によ り米 国大統領 は国家安全年次報告 を義務 付 け られ てい るが、国防省 、NSCに勤務経験の ドン ・スナイ ダーは次の記述 を してい る。
1990年版 :ソ連 、東欧 圏 の急変 に、報告 は混乱
1991年版 :軍事 的観 点 では地域紛争 を米 軍事能力 の焦点 と した。政治的には軍備 管理 を 東西 関係 か ら南北 関係 に重 点 の変化 を行 った。
1993年版 :共和党政権 の最 後 と して大統領選挙後発表。 「民主的平和」 とそ の達成 のた めの米 国の圧倒 的指導 力 を強調。2
この国家安全年次報告 を見 る限 り、米 国は南北関係 に軍事焦点 を移 行 してい る。 ここで の南北関係 はイ ス ラム圏 を中心 とす る国々を対象 としてい る。従 って、ハ ンチ ン トン論文 が発表 され る以前 にお いて、軍備 関係 の問題 か ら南北間、特 にイ ス ラム諸国 との間で緊張 が出 るのは米 国安全保 障者 間で の認識 であ る。
(2) アス ピン国防長官発表 BOTTOM‑UPREVIEW
BOTTOM‑UPREVIEWは米 国の主要 国防対象 で あった ソ連 が崩壊 し冷戦 が消滅 した後 、
孫崎 享 「文 明 の衝 突」 と米 国軍事戦 略
米 国国防省 が取 り纏 めた体系 的方針 であ る。冷戦大戦後 の米 国姿勢 を形成す る重要方針 と なってい る。 このREVIEW は 1993年 3月 アス ピン国防長 官 に よって着手 され 1993年 9月 発表 され た もの で あ る。
(ア)BOTTOM‑UPREVIEWの主要 内容
・米 国の戦略 、軍事力等 の決 定 に重 要 な役割 を演 じた ソ連 は消滅 し、冷戦後 国防 を ど うす るか との新 た な課題 がで た。
・脅威 を分 類 す る と下記 の な る。
旧 :ソ連 か らの核 、通 常兵器 に よる脅威
新 :核 ・生物 化学兵器 の拡散 、主要地域勢力 の侵 略 ない し民族 的宗教 的紛争 、 旧 ソ連そ の他 の地域 にお け る民主化 の失 敗 、強 固で発 展 的米 国経 済建 設 の失 敗
・民主 的原則 、 自由市場 経 済 、法 の支配 等 に よって導 かれ る国家 群 は大 き く拡 大 出来 る
・この戦 略 は脅威 の抑 止 と国 際 的パ ー トナー シ ップ追求 とい う特 質 を持 つ
・我 々は米国の よ り低い コス トで、米国の指導力 を維持す る手段 を見つ けなけれ ばな らない。
・民主 的価 値 及 び機 構 の拡 大 を奨励 しな けれ ば な らない。
(イ)BOTTOM‑UPREVIEW に対 す る コメン ト
・ カール ・コネ ッタの下院議 会 証言 :
今 日米 軍 の軍事介 入 をす る地域 は欧州 を除 き朝鮮 半 島 と湾 岸。BOTTOM‑UPREVIEWは 1992年 か らの 国防省 、研 究所 の報告 の延 長線 上。 湾岸 の危 険 を過 大 評価 。3
・ CSBA研 究所 報告 :
"EmphasizesplannlngtOreflghttheGulfWarmoreeffectivelyratherthanpreparlngforthechallengesof thenextdecade.M 4
(イ) BOTTOM‑UPREVIEW と中東 の関連 に関す る評価
BOTTOM‑UPREVIEW は ク リン トン政権 下の国防費 削減 の動 き と連動 して い る との評価 (@rJ‑Aperceptionisspreadingthat,nomatterwhatMr.As pinclaims,mi litaryrequirementsdonotmatter much.Onlythemoneymatters.Pressuresarebuildingalreadyformoreanddeeperdefensecuts‑5)が存在
し、消極 的性 格 を持つ と見 な され てい るが、中東 に関 しては、米 国 は民主主義拡大 を積極 的 に遂行 す る、生物化学核 兵器 を重視す る、危険 の事前抑止 を行 うとの評価 が あ り、対 中 東積 極 的 関与策 が見 え る。
基盤 (A) IT等 の科 学技術 の視 点 を踏 ま えたイ ス ラム問題 の現状 と今後 の展 開 に関す る研 究
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ハ ンチ ン トン論文 と米 国国防政策 立案 との関係
2においてハ ンチ ン トン論 文 は分析 において多大の欠陥 を持 ってい るが、国際政治の大 きな流れ を読む とい う点で成功 を収 めてい るこ とを、3にお いて米 国国防政策面では中東 に積極 関与 してい く米 国国防政策 の流れ を見た。
この両者 を見 る と、 明確 にな って くる こ とがある。 ハ ンチ ン トン教授 は従 来 の研 究業 績 、人的 コネ クシ ョンか ら言 って米 国軍部の動 向に精通 してい る。 しか し、 中東、アジア の専門家 ではない。従 って 中東 、アジアの記述 において問題 点 が多々出 るのは 自然 である が、米 国軍部 が どの様 な行動 に出 るかには精通 してい る。 BOTTOM‑UPREVIEWにみ られ る如 く、米 国が中東 において米 国流 の民主主義拡大 を積極 的 に遂行す る とい う行動 に出れ ば、ハ ンチ ン トンの表現 を借 りれ ば、 「強 く強調 してお くべ きは、西欧文 明諸 国が民主主 義 ・リベ ラ リズ ムを普遍 的価値 として促進 し、軍事 プ レゼ ンス を維持 し、 自らの経済的利 益 の促 進 を図 ろ うとすれ ば、逆 に他 の文 明の反発 を招 く危 険 が あ る とい うこ とだ」で あ る。 この こ とは別 の表現 を行 えば、 中東 において他 の介入 な く独 自に現状 か ら紛争 、衝突 の危機 が発 生 してい るので はな くて、米国が 自己が崇 高 と見 な してい る 目的達成 のため、
能動 的行動 を とるこ とに よって紛争 、対立の危機 が訪れ る とい うこ とである。ハ ンチ ン ト ン教授 は安全保 障、米 国の姿勢 か ら米 国 ・イス ラム社会の対立 が到来す る とい う米 国の安 全保 障者 間の共通認識 を文明 とい う点で翻訳 を試みた と言 える。 地域情勢、特 に争点の中 東、アジアの研 究 を専 門に していないハ ンチ ン トン教授 には この翻訳 は無理 であった。他 方通常、一般市民は米 国安全保 障関係者 の動 きに充分精通 してい るわけでない。 この層 に
とってはハ ンチ ン トン論 文 は大胆 な予測 と見 える結果 となった。
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軍事 ドク トリンー
COmPellence( 強制) ‑の意義
冷戦時、主要 な軍事 ドク トリンはdete汀enCe(抑止)であるが、冷戦後compellence(強制) が米 国内で議論 され る。 この思想 は 日本 では馴染 み薄 く、米 国での議論 を紹 介す る。
(1) カーネ ギー財 団ペ ーパ ー6
・ 抑止 :敵対勢力 に対 して軍事侵 略 は利益 を もた らす よ り遥 か に大 きい損害 を もた らす ことを知 らしめるこ とに よ り、敵対勢力 が軍事力 に よって 自己の 目的 を達成せ ん とす るの