第 5 章 人型ロボットの適切な社会的態度 58
5.5 考察
本章ではロボットの振る舞いや態度が人に与える影響を確かめるためにバランス理論を 用いた人とロボットの対話実験を行った.予備実験として2者対話の組み合わせによるバ ランス理論の成立を検証する実験を行い,本実験として3者対話によるバランス理論の成 立を検証する実験を行った.この結果の分析から,予備実験ではバランス理論の成立が示
図5.21: 被験者の様々な社会的態度
表5.15: 条件ごとの対話時間平均
同意条件 反意条件 不平等条件 対話時間の平均(標準偏差) 183.40 (13.623) 192.92 (27.42) 175.17 (12.317) 最短対話時間 160.5417 154.8083 155.9583 最長対話時間 206.2417 231.95 207.0167
(n.s.): 有意ではない(+):有意傾向(∗):有意p < .05 (∗∗):有意p < .01
唆され,本実験ではバランス理論が成立したことが示された.これにより,ロボットが人 間関係に影響を与えることができることを確認した.
これらについて質問紙分析の結果と身体動作分析に分けて考察していく.
5.5.1 質問紙分析の考察
質問紙分析の結果から,バランス理論の予測にもとづく他者に対する印象の形成が見ら れた.このことから,ロボットはその振る舞いや態度によって人とロボットの印象だけで はなく,人と人の印象に対しても影響を与えることができることを確認した.これはつま り,一般的な社会的対話である多対多の対話にロボットが参加する際には,ロボットは人 間関係に対して影響を与えることができるということである.
質問紙分析の項目を詳しく見ていくと,質問項目1,2,3に比べて4,5,6のほうがプラス評 価グループとマイナス評価グループでは平均値が近い値を示している.これは質問項目の
1,2,3が考えや態度の類似性についての質問であるのに対し,4,5,6は相手の魅力について
の質問であることが関係していると考えている.社会的関係を形成する際には他者との類 似性や,他者の魅力が大きく関係していると言われている.このため,今回行った実験で はこの類似性と魅力についての質問を行った.この結果としては,ロボットと意見が一致 した場合は類似性の項目の得点が高くなり,一致しなかった場合はこれが低くなる傾向が 現れた.また,ロボットと意見が一致した場合は魅力についての項目に関しても点数が高 くなることがわかった.これは意見が一致する他者に対しては類似性も魅力も増すという ことを確認した.逆に,意見が一致しない他者に対しては類似性も魅力も減るということ を確認した.予備実験では意見が一致しないロボットに対しても魅力が高くなる傾向があ ることを確認したが,これは被験者がロボットという存在に興味を示したということが考 えられる.これが原因となって,ロボットを魅力的に感じたということが考えられる.
社会心理学では類似性や魅力が高ければ印象が良くなり,良い関係が形成されることが 知られているが,これは人同士の対話において生じる現象であった.今回の実験では人と ロボットとの対話においても同様の現象が生じるということが確認された.この結果,ロ ボットの社会的な振る舞いや態度が,対話における複数の人の印象を操作することができ たのであろうと考えている.
5.5.2 身体動作分析の考察
身体動作分析の結果から,ロボットに意見を賛成される被験者の身体動作量やロボット との身体的な距離の変化が見られた.これは質問紙分析の結果から,類似性や魅力の増加 によりロボットに対する印象が良くなったために,親近感が増したためであると考えられ る.特に,人とロボットの距離に関してはロボットに賛成される被験者がロボットとの身 体距離を縮める例もあり,この結果からも被験者がロボットに対して良い印象を持ったこ とが示唆される.
また,身体移動量の分析からもロボットに意見を賛成されることにより,これが増加す る例があったことが確認された.これに関してもロボットに対する印象の変化したことを 支持する結果であると考えられる.
ビデオ分析においては,被験者の社会的態度の分析を行った.この結果から,ロボット に賛成される被験者の身体動作がロボットに同調するといった協調的な身体動作が確認さ れた.これは第4章で議論したように,被験者がロボットに対して良い印象を持っている ということを支持する現象であると考えている.つまり,被験者がロボットに対して興味 を示しているということを伝えているということが考えられる.
また,被験者の社会的態度の分析においては,実験中の被験者の様々な態度が観察され た.ロボットに賛成された「喜ぶ」といった態度は現れることが予想されるが,ロボット を「叱る」,「困る」といった態度は現れるとは予想されなかった.不平等条件ではロボッ トはいわゆる非社会的な態度として,意見を不一致される被験者を無視するような態度を 示した.この態度に対して,賛成される被験者がロボットを叱り,態度を変化させようと したことは,ロボットを1人の社会的な対象として見なしていると言える.また,同様に 自分の意見のみに賛成するロボットに対して困っているような態度を示した被験者に対し ては,自分のみが賛成されることで,他の被験者との関係が悪くなることを防ぐために現 れた態度であると考えられる.
特に,実験に関する「文句を言う」点においては,この被験者はロボットを社会的な対 象として認知していることを表している.具体的にはこの文句は実験が終わったあと,ロ ボットから立ち去るさいに現れた.つまり,ロボットの目の前で文句を言ったわけではな いという点において,このロボットを社会的な対象として見ていると考えている.
5.5.3 実験全体の考察
以上2つの考察により,ロボットの社会的な振る舞いによって人に対する印象や,人同 士の関係に対してまで意図的に影響を与えることが可能であることを確認した.これによ り,ロボットが人にとっての対話可能な他者として認知されたと考えている.なぜなら,
ロボットが目の前に居る状態では,人は人同士でロボットの評価に関する会話をすること がなかったということが観察されたためである.つまり,自分の発言はロボットに対して も有効であり,このため,人の社会性を誘発したと考えている.
本章で使用したロボットは,特定の環境でしか動作することができず,とても人の社会 性に匹敵するものであるとは言えないが,人の社会性を引き出すことができた.これは,
インタラクティブシステムとしてのロボットが実体を伴って対話を行うためであり,この 実体こそが社会性に対して重要であると考えられる.ここでの実体は,もしかすると,3 次元立体映像でもかまわないかもしれない.また,ロボットの大きさについても重要であ ると考えられる.明らかに小さいロボットに対して人々(特に大人)が社会的に対応するか 否かについては疑問がある.Goldsteinらは人が小さなコンピュータに対しては社会性を 持って対応しない可能性があることを示唆している[13].このため,人は小さなロボット に対しても社会性をもって対話しない可能性もある.ロボットの社会性にはその外見も大 きな要因があると考えられるため,これらについても調査・研究する余地があるように思 われる.
また,ロボットの対話能力を高めることにより,さらに社会性を高めることができると 考えている.このため,さらに高度な社会性を持ったロボットを実装し,実験室ではなく,
実際に人の活動する社会においてロボットの社会性の評価をすることも重要になると考え
ている.特に,ロボットの社会的振る舞い,態度の重要性を確認するためにはこのような フィールド実験は今後重要となってくるであろうと考えている.