第 5 章 人型ロボットの適切な社会的態度 58
5.2 実験で使用するロボットとシステム
本章で行う実験で使用するロボットとそのシステムについて詳述する.本章で行う実験 では第4章で行った実験で使用したロボット“Robovie II”の後継機にあたる“Robovie-R
ver.2”を使用する.本研究で行う実験では社会的なロボットと人との対話実験を行うため,
この社会的な振る舞いを本ロボット上で実現するためのロボットシステムを開発した.ま た,本実験では対話の様子をモーションキャプチャシステムを使用し,この対話における 人とロボットの身体動作を記録する.これらについて詳述する.
5.2.1 コミュニケーションロボット“Robovie-R ver.2”
本研究で行う実験で用いる人型ロボット“Robovie-R ver.2”のハードウエア構成につい て簡潔に述べる.このロボットは4.1.1項で取り上げたRobovie IIをもとに設計されてい るため,基本的には同等の機能を有す.
図5.3左に,Robovie-R ver.2の外観を示す.本ロボットは,人とコミュニケーションす
図5.3: Robovie-R ver.2の外観
るために人に類似した上半身を持つヒューマノイドロボットである.3自由度の首,片側 4自由度の腕と,人が視覚・触覚・聴覚をもつようにカメラ,マイク,接触センサなどの 様々なセンサを持つ.このような人に類似した身体とセンサを用いて人とのコミュニケー ションに必要な様々な音声とゼスチャを交えた人と同様の対話的行動を生成することがで きる.また,本体上部に搭載された無線LANにより,他のコンピュータやインターネッ ト等にアクセスすることができる.本来Robovie-R ver.2は自律的に行動することが可能 であるが,本システムでは無線LANにより外部からコントロールされる.
5.2.2 ロボットシステム
本研究で行う実験に使用するロボットシステムについて詳述する.本ロボットシステム はあらかじめ意味づけされたロボット用モーションファイルを組み合わせて自動で実験シ ナリオを生成するものである.本研究で行う実験ではロボットが人間関係を操作可能かど うかを検証することを目的としている.このため,実験者が恣意的にロボットを操作する ことで実験を操作することを不可能とするために実験シナリオの自動生成システムを開発 した.また,本システムは後述する遠隔操作によりロボットの発話タイミングに限って操 作することが可能である.
社会的な振る舞い
本ロボットシステムではあらかじめモーションを定義したものを再生させることでロ ボットを動作させている.そのため,ロボットに対して社会的な振る舞いをさせるための モーションを作成する.
表 5.2: 用意するモーションファイル
質問 賛成条件 反対条件 不平等条件 その他
通常 不平等 賛成 反対 賛成 反対 賛成 反対 あいさつ 曖昧な態度
30 30 3 3 3 3 2 2 2 4
用意するモーションファイル
上記を満たし,かつ本実験内容に則したモーションファイルの具体的な制作方法につい て述べる.モーションファイルの作成にはATR-Robotics社のロボビーメーカー1を使用 した.
ロボットモーションを全部で82個用意する.その内訳を表5.2に示す.本実験ではロ ボットのあいさつに始まり,その後ロボットから被験者に対して質問をし,その返答を待っ てロボットの態度を示す.このため,まず“あいさつ”のモーションを用意する必要があ る.次に,ロボットが質問をするため,この“質問”をアンケートで用意する項目分,計 30パターン用意する.この質問の答えに対してロボットの態度を賛成条件においての賛成 と反対,また反対条件においての賛成と反対の場合に分けてそれぞれについて3パターン ずつ用意した.さらに,不平等条件ではロボットの向きを変え,常に1人の被験者のみと 対話を行うこととなるため,これらの動作に関して質問30パターン,賛成と反対の態度 についてそれぞれ2パターンずつ用意した.最後に,質問に対する答えとして“曖昧な態 度”を取る必要もあるため,これらを4パターン用意した.
ロボットの発話内容を付録Bに示す.これは上で示したモーションファイルに対応した 発話内容となっている.ロボットから発声される音声については,実験者の音声を変更し たものを用いた.実験者は男であったため,Adobe社のAuditionを用いて音声のピッチ を3程度上げ,低音成分を大幅にカットした.
シナリオの自動生成
本研究で行う実験では実験条件に合わせてロボットの態度を変化させる.このロボット の態度を実験者がその場で変化させることは非常に困難である.なぜなら,80を越える ファイルを実験条件に合わせて選択することは非常に困難であると考えたためである.こ のため,実験の内容に則したシナリオを自動生成することとした.
シナリオは実験条件に合わせて3種類のシナリオを生成する.以下にそれぞれのシナリ オの内容を示す.
賛成シナリオ ロボットが2人の被験者に対して同様に賛成するシナリオ 反対シナリオ ロボットが2人の被験者に対して同様に反対するシナリオ 不平等シナリオ ロボットが片方の被験者にのみ賛成するシナリオ
1http://www.atr-robo.com/
5.1.3節で示したように,実験ではロボットが12項目の質問をし,被験者の回答に対し てその態度を示すが,この内2項目に関しては実験条件に合わない態度を示すこととした.
具体的には,賛成シナリオにおいては反対の態度を示し,反対シナリオにおいては賛成の 態度を示す.また,不平等シナリオにおいては片方の被験者に賛成するのではなく両方の 被験者に対して賛成することとした.さらに,質問の答えに対して条件とは反対の態度を とるだけではなく曖昧な態度を示す場合も含めた2つの実験条件に合わない態度をとるこ ととした.
これらの2つの実験に合わない態度を2項目に対して組み込んだ.これはつまり,必ず しも1つのシナリオでこれらの2つの態度が組み込まれることはないということである.
遠隔操作によるロボットの半自動制御
本ロボットシステムで生成されるシナリオは被験者の態度に合わせて自動的に再生する ことができない.そのため,実験者が実験の様子を観察しながら遠隔操作によりシナリオ を進めることとした.具体的には対話シナリオを再生するためのソフトウェアを開発し,
実験者が遠隔操作インタフェース上のボタンをクリックすることでシナリオを進めること ができるようにした.これはつまり,実験者はロボットの操作を行うが,ロボットの発話 のタイミングしか制御できないこととなる.
ロボットの発話のタイミングをロボット自身で判断し,対話シナリオを進めるという手 法も考えられるが,現在のロボットのハードウェア,ソフトウェアの仕様上これは非常に 難しいことであるため,今回の実験では遠隔操作によるロボットのシナリオ遷移を行う手 法を用いた.
また,遠隔操作によってロボットを操作する上で,実験者が恣意的にロボットを操作す ることがないよう実験におけるロボットの発話タイミングに関してあらかじめルールを設 定し操作した.具体的なルールを以下に示す.
1. 実験開始時に一度「挨拶ファイル」を再生する 2. 「質問ファイル」を再生する
3. 被験者の答えを待って「態度ファイル」を再生する
4. 態度ファイルを再生し終えたらすぐに2の「質問ファイル」を再生する
5. すべての質問が終わったら,実験の終了を表す再度の「挨拶ファイル」を再生する.
以上のルールにもとづいてロボットの操作を行う.
5.2.3 モーションキャプチャシステム
本実験では対話中の人の身体動作をモーションキャプチャシステムで記録する.本章で行 う実験では 4.1.2節で用いたシステムと同じくVicon Motion Systems社製のシステム2で
2http://www.vicon.com/
ⵍ㛎⠪ ⵍ㛎⠪ A Robot Robot
ⵍ㛎⠪ ⵍ㛎⠪ B Robot Robot
1 1
2 3
図5.4: 2者対話の組み合わせによるバランス理論
あるが,赤外線照射機能つき赤外線カメラを6台使用したシステムとなっている.本シス テムでの時間分解能は120 [Hz]であり,空間分解能は約1 [mm]で計測可能である.本実 験では2人の人に対してそれぞれ44点,ロボットに対して24点のマーカーをつけ,これ を記録する.ここで得られたデータは実験における身体動作量の分析に使用する.