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人型ロボットの実在感とインタラクション

第 7 章 総合的な議論 107

7.3 人型ロボットの実在感とインタラクション

ここまでに本論文で行ってきた研究に関して大まかな議論を行ってきた.ここでは人型 ロボットを用いた意味と,本研究の適用可能性について述べる.

7.3.1 人型ロボットである意味

本論文で行ってきた3つの研究では常に人型ロボットを使用してきた.本論文における ロボットの定義は第1章の最初で述べたようにロボットとはその外見によらず,入力機構 と出力機構を持つ自動機械であるとした.この中でも,人に近い身体を持ったロボットは 人と同じような対話が可能であるという印象を人に与える.人が人に対して話しかけるよ うに,人が人型ロボットに対して話しかけることは,人型ではないロボットに対して話し かけることよりも容易であるだろう.人型ロボットとインタラクションを行う前までは,

人にとって人型ロボットは人と同等の対話能力を有する存在であるからである.

人と密に関係するロボットの外見は人型,ないしは人酷似型であるアンドロイドである ことが求められると考えられる.現在ではまだ動作や外見から人型ロボットはロボットで あるととらえられるであろうが,技術が発展するに従って全く人と区別が付かない人型ロ ボットが登場することが考えられる.この時点に至った際には,人と日常的に関わり合い を持ち共同作業を行うロボットや,人の介護を行うロボットの外見は人型であることが自 然であろう.介護をしてもらう側の人間としては機械に介護をしてもらうよりは,やはり 人(ないしは,人に近い外見を持ったロボット)に介護をしてもらうことのほうが心理的な 安心感につながると考えられるためである.

しかし,街のゴミを拾うようなロボットや危険区域の調査を行うロボットが人型である 必要はないであろう.これはつまり,ロボットはその役割に応じた外見が必要となるとい うことである.

本論文で行った研究では人型ロボットが人と日常的に関わり合いを持つ,ロボット共存 社会へ向けた人型ロボットの動作・行為の設計と評価を行うことを目的としていた.つま り,対話ロボットに関する研究を行ってきた.この点においては本論文で行った研究にお けるロボットは人型である必要があり,またこれによりロボットの応用可能性について示 すことができたと考えている.これらの理由から本論文で行った研究では人型ロボットで ある必要があったと考えている.

7.3.2 対話可能な他者としての人型ロボット

ロボットは機械であり,モノである.しかし,我々は動くモノを見て,その意図を読み 解こうとする.また,これらを見て人のようにコミュニケーションすることができるので はないかと考える.猫のようなロボットを見れば,猫であると判断できるし,完全に猫と 同じ質感ではなく,猫に近いものであれば気持ち悪いと感じることもある.

身体性インタラクティブシステムとしてのロボットは身体を持ったコンピュータである と捉えられることについては先に述べた.この身体を持ったコンピュータと人はそれなり に対話を行うことができる.人に対して応答的に振る舞うこともできるし,人に対して物 理的な支援を行うことも可能であろう.ただ,我々はこのような行為や期待を当たり前の ようにするが,我々はどのようにコンピュータを対話を行うことができると判断している のであろうか.つまり,人はどのようにしてモノであるロボットを対話をすることができ る他者であると認めているのであろうか.

映画・2001年宇宙の旅に登場する宇宙船の主であるHAL9000は完全な人工知能を持っ た存在として描かれた.「彼」は宇宙船のすべてを司るだけではなく,乗組員とチェスをす るなど,人以上の能力を持った存在である.「彼」はこれまで人工知能研究の目標であると 考えられてきた.確かにHAL9000は完全な人工知能であり,目標であるかもしれないが,

疑問点も存在する.HAL9000と乗組員は常に自然なコミュニケーションを行っているよ うに描かれていたが,果たしてそれは本当に自然なコミュニケーションであったのであろ うかという疑問である.

HAL9000の体は宇宙船そのものである.宇宙船には人らしい対象物はなく,映画中で

描かれているのは赤いランプのみである.HAL9000の発する声は宇宙船のどこからでも 聞こえるようなシステムとなってはいたが,スピーカのようなデバイスに関してはなにも 描かれていない.乗組員はどこからか聞こえるHAL9000の声に対してランプに話しかけ ることで対話を行っているが,ランプが無い部屋においても宇宙船自体に向かって話しか けることによって対話を実現していた.

対話が可能であるということは,その対象を他者として認めていることであると言うこ とができる.これは人の行為と,それに対して対象が返す結果の因果関係が成立した場合 に認められるのであろうと考えられる.これはすなわち,人と対象のインタラクション(相 互行為,相互作用) が成立した場合ということができる.また,人同士であればはじめか ら顔を合わせた他者を対話が可能であると認知するであろう.これは経験ではなく生得的 な現象であると考える.

本論文で行ってきた研究では人型ロボットを使用した.人型ロボットの前に立つ人はそ の外見から人のような対話が可能であると想像する.この点において,この人型ロボット

は対話の当初から対話可能な他者として認知されていることを示している.しかし,イン タラクションの行為と結果の因果関係が人と異なる場合,また,質が低い場合においては,

人は人型ロボットを対話が可能ではないと判断することもあるであろう.人に対して人型 ロボットが対話可能な他者であると認知されるためには現在の自律行動技術では非常に難 しい.このため本論文で行ってきた研究ではすべて人型ロボットを遠隔操作することで対 話の成立を試みた.対話可能な他者であると認められるということは,その対話が不自然 であってはいけないということも言える.この点において,本論文で行った研究では多く の場合,人(被験者)は人型ロボットを対話可能な他者として捉えていたと言うことがで きる.

7.3.3 本研究の限界と適用範囲

本研究では対話メディアとしての人型ロボットの有効性を検証する実験を行った.これ にはこれまでに多くの場面で用いられてきた対話メディアであるテレビ会議や電話などと の比較実験を行った.しかし,オンスクリーンエージェントのようにコンピュータの画面 上ではあっても身体を持ち,人と対話するメディアも存在する.今後バーチャルリアリティ などの技術が発展するなかで,人の目前に現実と同等の臨場感や質感を持ったエージェン トを表示させることも可能となるかもしれない.

技術が発展し,バーチャルな対象であったとしても人の眼で知覚される情報が現実と全 く同等の質感を持った場合,人は何を感じるであろうか.人の感覚は視覚だけに寄らない が,もし,脳に直結されたシステムが人のすべての感覚を与えうるモノであった場合,人 はそれを現実として捉えるであろう.これは視覚に依存したバーチャルな対象であっても 同等であると考える.

本論文で行ってきた研究においては,人にとって現実であると考えられる環境での対話 実験を行った.この点において,技術が発展しバーチャルリアリティ技術が現実と同等の 質感を人に対して提示することが可能となった段階では本研究の成果を適用可能であると 考える.すなわち,本研究では人がその対象を現実であると思い,対話メディアであると 判断した際の振る舞いについて検証を行うことができたと考えている.人にとって目前の 対象が対話可能な他者であると認識された場合,人は本研究で得られた結果のように行動 することが予想される.これは同時に,たとえバーチャルリアリティの世界においても,

相互作用の対象が人型ロボットであると人に認知される限りは,本研究の結果が適用可能 であるということである.

もちろん,バーチャルリアリティが完成するまでにはまだ多くの時間を必要とするであ ろう.この過程においては,やはりバーチャルな対象は現実感の不足から人にとって対話 可能な他者として認知されることが難しいことが考えられる.この現実感と実在感は実際 に存在するロボットが有意に大きいため,たとえば,対話メディアとしてこれら対象に関 する比較実験を行った場合にはロボットのほうが有意に強いメディアであると評価される であろうと考えられる.対話メディアとしての影響力はその実在感に影響されることが考 えられるためである.

以上から,本研究の結果は人にとって現実であると信じられる対話メディアとの対話に は適用可能であると考えられるが,この現実感の薄い対話メディアには適用が難しいこと