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遡「玉

第2節 モデルの構築

 まず、これまで分けて考察してきた「儀礼主義」と「冷却理論」との関連性 について述べてみたい。儀礼主義についての「マートンの定義」(1)と、冷却 理論についての「竹内の定義」(2)から、儀礼主義は、文化的目標が一(拒否)

であるため、狭義の「冷却」と関連があるように思われる。しかし、制度的手 段は+(承認)であるため、逃避主義(場合によっては「反抗」)とは異なり、

リアリティの変換をともないながらも、制度的手段には、いやおうなしに固守 されている状況が考えられる。そして、この儀礼主義と冷却理論の複合化した メカニズムから、無気力が起こると考えられる。ここで、このモデルを図示

(3)しておく。

文化的目標=主要科目く知的教科〉の偏差値く学業成績〉

       ・

       〈学力遅滞(不足)〉

       ・

〈儀礼主義〉

文化的目標の矛盾 隠れたカリキュラム 管理主義教育

二次的調整(適応)

私化(私事化)現象

〈冷却理論(冷却)〉

工隔

       予言の自己成就        ダブル・バインド        ・セオリー

L一一一一一一一一一N一一.一

 ・ 無気力

 前ページのように図示することによって、明らかになったことを、簡潔な具 体例をはさみながら、さらに、検討を加えたい。

 文化的目標=主要科目く知的教科〉の偏差値く学業成績〉の状況下で、学力 格差く学力遅滞〉に陥った高校生は、予言の自己成就と連動させながら(「勉 強しても、どうせわからないだろう」)、冷却されていく(「まったく、勉強 する気にならない」)。すなわち、文化的目標が一(拒否)になるわけである。

しかし、友人関係(「学校で、友だちとワイワイ話すのが楽しい」)や学歴取 得(「今の社会では、高校ぐらい出ていないとマズい」)のために、退学や登 校拒否になることはない。すなわち、制度的手段は+(承認)であるために、

いやおうなしに固守されているわけである。このようにして、儀礼主義に陥っ ていく。この儀礼主義下の状況は、学校側、教師側からは、文化的目標の矛盾

(「受験指導が優先してしまう」)、隠れたカリキュラム(「言外にどうしょ うもない現実や本音がちらつく」)、管理主義教育(「言う事をきかせたり、

勉強させたりするために、押さえつける」)、再加熱(「少しは勉強しろ」

「君たちもやればできる」)が行われ、これらダブル・バインドな状況(「矛 盾した言動や本音と建て前の錯綜」)に対し、高校生側は、二次的調整く適応

〉(「授業を受けたふりをする」「教師の言う事を聴いているふりをする」

「心の底では、教師を信用していない」)と私粘く私事化〉現象(「学校行事 は嫌いだが、一応、参加する」)で対応している。

 以上、考察した状況は、少なくとも、教師側からみれば、無気力ととらえら れるものと思われる。

 次に、このモデルを演繹的に適応し、その理論的仮説の適合性と妥当性を検 討してみたい。例えば、ある調査(4)では、大阪の府立高校生(全日制)のう

ち、「現在、勉強する気がある」と答えた者は43%であり、半数以上が「勉強 する気がない」と答え、約1割は小学校で、約2割は中学校で「勉強する気」

をなくし、6割以上は学校以外のところでは「ほとんど勉強しない」と答えて いる。約4割が部活動をし、日常的にアルバイトをしているの者は約3割であ る。主な楽しみは友達との関係や趣味であり、悩みとしては「進路」「学習・

成績」が圧倒的に多い、と報告している。この調査結果を解釈すると、「勉強 する気がない」もしくは「学校以外のところでは、ほとんど勉強しない」生徒

は、文化的目標は拒否しているように思われる。そして、約1割は小学校で、

約2割は中学校で、約3割は、高校入学後に冷却されたのであろう。しかし、

この冷却された生徒たちのなかで、退学したり、不登校になったりすることは

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なく、部活動やアルバイトなどが代替的加熱として機能している者がいるはず であろうが、残念ながら、この調査だけでは、その交差した部分は判明できな い。しかし、リアリティの変換をともないながらも、「学習・成績」に悩んで いるという生徒については、制度的手段には、いやおうなしに固守している状 況だということになるであろう。さらに、アルバイトは、大阪の府立高校では、

発覚すれば停学処分になる学校もあるようである。そのアルバイトを日常的に 行っている約3割の生徒たちは、非行化とはいえないが一いえないからなおさ

ら一学校や教師に対しては、儀礼主義的に対応している者が多いと考えられる。

そして、このような生徒たちは、教師からみれば、無気力に映るのであろう。

 さらに、門脇の公立の総合高校に対する調査研究(5)を例にあげてみたい。

調査結果を紹介すると、高校進学の経緯と理由については、「高校ぐらいは出 ておいた方がマシ」(51%)であり、入学後の評価については、「つまらない 毎日だが、たまには楽しいこともある」(37%)、「けっこう楽しいが、時に は学校に行くのが嫌になる」(34%)で、門脇は、二つの感情のはざまにゆれ ながら通学している生徒が大半であると解釈している。また、「(これまで)

退学したいと考えたことがある」(64%)で、うち、四人に一人(16%)はい まも退学を考えている。そして、九割近く(89%)の生徒が「卒業証書を手に するには、一応授業だけはでないとまずい」と考えて通学し、机に座り続けて いるのだということである。授業に対し否定的で、「やる気なし」、「ついて いけない」、「あきらめている」といった事態に至っている生徒が相当数(計 98%)いる。なお、対象校が独自に行った調査によれば、生徒の68%までが中 学二年の秋夕までに数学と英語の授業が理解できなくなっていたということで あり、なかには小学校高学年で授業が理解できなくなっていた生徒もいたとい う結果が出ている。さらに、この学校の生徒はダメな生徒が多く(計八割ほど)

教師のまた信用し頼りにできる存在ではない(例:「生徒のことはわかってお らず」87%、「熱心に勉強を教えてくれず」62%、「生徒の相談にのってくれ ない」68%)、という思いを強く持ち通学しているということである。ちなみ に、先生をなぐりたいと思った生徒が六割以上(62%)、実際に なぐったこと がある生徒が3%という自己申告である。最後に、自分への自信の有無は、

「さほど自信がない」(51%)、「不満があっても自分の力だけではどうしょ うもない」(91%)である。この調査結果を解釈すると、約7割の生徒が、小 学校高学年から中学二年の秋頃までに、勉強に対して、冷却されてきたのであ ろう。さらに、予言の自己成就と連動して、約8割ほどが、この学校の生徒は

ダメな生徒が多いと思っている。これは、とりもなおさず、自分も含めてとい うことになるであろう。よって、98%もの生徒が、授業に対し否定的で、文化 的目標が一(拒否)になるわけである。しかし、約7割が、勉強以外で、「た まには楽しいこともある」「けっこう楽しい」と感じており(この調査では、

その内容までは不明だが)、学歴取得に関しては、なんと9割近くの生徒が

「卒業証書を手にするには、一応授業だけはでないとまずい」と考えて通学し 続けているのだということである。したがって、制度的手段は+(承認)であ

るために、いやおうなしに机に座り続けているのである。

 このようにして、儀礼主義に陥っていく(「不満があっても自分の力だけで はどうしょうもない」〈91%〉)。この状況のもとで、教師に対しては、約9 割が、「生徒のことはわかっておらず」と感じ、約6割が、先生をなぐりたい と思ったことがあるのである。以上のような生徒たちに対して、教師からみれ ば、無気力に映るであろうことは明白であると考えられる。

 この2例からは、これ以上詳細には読み取れないが、少なくとも、儀礼主義 と冷却理論の複合化したメカニズムから、無気力が起こるという解萩は可能で あり、さらにそのなかに、文化的目標の矛盾、隠れたカリキュラム、管理主義 教育、二次的調整(適応)、私化(私事化)現象、予言の自己成就、ダブル・

バインド・セオリーを取り入れて分析すれば、現実をより深く解釈ないし分析 できるものと思われる。

 次章では、これを発展させて、その成果と課題について述べてみたい。

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〈第4章 注釈〉

(1)これについては、第2章第1節で論述した。

(2)これについては、第3章第1節で論述した。

(3)→は因果関係を、←うは共変(相関)関係を示す。

(4)安村博文他  「高校生の生活実態に関する調査〜中途退学問題とかかわっ   て〜」大阪府科学教育センター研究報告集録 108号 1993年3月

  pp.107 t−v118

  調査概要については、対象:大阪府立高等学校(全日制)20校の2年生  (各校3クラス)、方法:学校において集団記入調査、時期:平成3年10月

〜11月、有効回答数:2599人(ただし、うち231人分は学校の都合により3 年生で調査)である。

(5)門脇厚司・陣内靖彦編  『高校教育の社会学 〜教育を蝕むく見えざるメ  カニズム〉の解明』 東信堂 1992年pp.173〜178 〈門脇厚司〉

  なお、対象の高校については、普通科の他に農業科や園芸科、家政科も擁  し、関東のある県の南部にあり、創立は大正15年4月に町立の農業補習学校  として発足、父兄の職業は会社員がもっとも多く(35%)、次いで農業(32

%)。卒業生のほとんどは就職し、進学率(各種学校、専門学校を含めて)

20%足らずで、この地区の底辺校の一つとみられている。

  また、調査は、各学年と四つの学科の人数が同じになるように調整したも  のである。

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