第2章の行動実験において、morphineによる種々な作用を金牛草が抑制するという興 味ある知見が得られた。従って、本結果のメカニズムを解明するために、PT-E投与にお
けるmorphine血漿中濃度の変化を、高感度蛍光発色法を用いてHPLCで測定した。
第1 節 マウス血漿中morphine の蛍光定量法
Morphineの定量法については、これまでに多くのHPLC法が開発されてきたが、感度、
選択性、操作時間、再現性の面などに欠けていたケースが多い。その中から、morphine がベンジルアミンと選択的に反応し、強い蛍光誘導体を生成するという方法を利用して、
血漿中morphine濃度の測定方法を確立した。本方法は、高感度(検出限度は10 fmolで
ある、S/N=3)、再現性が優れ、試薬と反応溶液が安定で、操作が簡便などの特性が持て る。
1.1 実験材料および実験方法 1.1.1 試薬
標準溶液: 塩酸モルヒネ(武田薬品工業)を水に溶かして0.01 Mになるように調整し、
冷暗所保存。使用前にそれぞれの濃度に水で希釈して使用。
0.5 MベンジルアミンDMF溶液: ベンジルアミン53.6 µlにDMF溶液を加えて全量を 1.0 mlに調整。
100 mMフェリシアン化カリウム溶液: フェリシアン化カリウム32.9 mgを水1.0 mlに 溶解し、遮光して1日以内に使用。
20 mMホウ酸塩緩衝液 (pH 7.0): ホウ酸124 mgに水を加えて全量100 mlに調整した 水溶液と、4ホウ酸ナトリウム(10水和物)763 mgに水を加えて全量100 mlに調整した 水溶液を混合し、pH 7.0とする。
15 mMリン酸塩緩衝液 (pH3.0): リン酸二水素ナトリウム(2水和物)4.68 gに水を加 え全量2 Lに調整した水溶液と、リン酸 (85%) 435 mlに水を加え全量500 mlに調整した 水溶液を混合してpH 3.0とする。
1.1.2 HPLC条件
送液ポンプ: LC-10AD
カラム: Cadenza CD-C 18 (150 × 4.6 mm, 粒径3 µm)
移動相: アセトニトリル-15mMリン酸塩緩衝液(pH 3.0)[7:13 (v/v)]
流速: 1.0 ml/min 検出器: RF-10AXL
蛍光検出: Ex. 348 nm, Em. 467 nm
1.1.3 基本操作
morphine添加の血漿50 µl + エタノール100 µl
3分間撹拌
3000×gで5分間遠心分離をして除タンパク
上清部をO−リング付きスクリューキャップチューブに取る
+ 0.5 MベンジルアミンDMF溶液100 µl + 20 mMホウ酸塩緩衝液 (pH 7.0) 200 µl + 100 mMフェリシアン化カリウム液100 µl
100℃で50 分間反応
最終反応液を氷水で冷却し反応を停止 その50 µlをHPLCに注入
1.2 実験結果
上記の方法により、HPLCクロマトグラムでは血漿中のmorphineはきれいに分離され、
定量を妨害するようなピークは観察されなかった (Fig. 28)。また、morphine標準溶液を 本方法に従い反応させ、濃度に対するピーク面積から検量線を導いた。少なくとも2-10 µMの範囲で良好な直線性を示した (y = 23185χ - 682 r = 0.999)。
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
morphine
A B
Time (min) Time (min)
Fig. 28. Chromatogram of Drug Free Plasma (A) and Morphine Added Plasma at 1.0 nmol/ml (B)
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20
morphine
A B
Time (min) Time (min)
Fig. 28. Chromatogram of Drug Free Plasma (A) and Morphine Added Plasma at 1.0 nmol/ml (B)
第2 節 マウス血漿中morphine 濃度に金牛草の影響
第1節で確立した血漿中morphine濃度の測定方法を用いて、金牛草投与によるマウス 血漿中morphine濃度の変化を測定した。
2.1 実験方法
2.1.1 実験動物: 6週齢のddY系雄性マウス(25-30g;九動、佐賀)を用いた。
2.1.2 薬物および投与方法
塩酸モルヒネ、PT-Eの調製および用量は第2章第1節と同様である。
マウスにmorphine 10 mg/kg を皮下投与 (s.c.) し、その30 分前に予めPT-E 300 mg/kg を経口投与 (p.o.) しておく。また、比較対照群には、morphine 10 mg/kg のみ投与した。
2.1.3 採血および処理法
Morphine投与30, 60, 90, 120, 180 分後に、前もってヘパリン注射液を注射筒内に塗布 しておく注射器を使って、それぞれ心臓採血を行う。採取した血液をシリコンコーティ ングしたマイクロチューブに移して、4℃, 5000 rpmで10 分間遠心分離を行い、上清の 血漿を -40℃で保存する。
2.1.4 基本操作
第1節と同じ要領で採取したマウスの血漿中morphine濃度を測定した。
2.1.5 結果の統計処理: Mann-Whitney’s U testを使用した。
2.2 実験結果
マウス血漿中のmorphine濃度は、morphine投与後30 分をピークとして平均6 µMま で上昇するが、その後徐々に減少して、180 分値では全く0.5 µM以下になった。それに 対して、PT-E 300 mg/kgを前処置すると、morphine投与30 分後には4 µMになり、有意 に抑制された。180 分値では完全に体内から消失していた。
Concentration (µM)
Time (min)
morphine (n=10)
morphine+PT-E 300 mg/kg (n =10)
Fig. 29. Influence of PT-E on Concentration of Morphine in Mice Plasma
0 2 4 6 8
0 30 60 90 120 180
∗p< 0.05, ∗∗p< 0.01 vs. morphine
Concentration (µM)
Time (min)
morphine (n=10)
morphine+PT-E 300 mg/kg (n =10)
Fig. 29. Influence of PT-E on Concentration of Morphine in Mice Plasma
0 2 4 6 8
0 30 60 90 120 180
∗p< 0.05, ∗∗p< 0.01 vs. morphine
第3 節 血漿中Morphine のHysteresis
これまでに、金牛草がmorphineの鎮痛作用ならびに血中濃度に対する影響効果につい て検討した。その結果を利用して、morphine 血中濃度と作用効果との時間的ずれを検討 するために、縦軸に第1章でmorphine の鎮痛作用の結果を薬物効果として、一方、横軸 に血中濃度に対してプロットした。その結果、反時計回りのhysteresis loopになった。ま
た、morphine および金牛草の作用部位は、鎮痛効果と血中濃度が相対的ではないことか
ら、血液 compartment に含まれないことが分かった。
2.0 4.0 6.0 8.0
10 20 30 40 50 60 70
0
Latency (sec)
Serum concentration (µM)
morphine (n=10)
morphine+ PT-E 300 mg/kg (n=10)
Fig. 30. Hysteresis Plots
2.0 4.0 6.0 8.0
10 20 30 40 50 60 70
0 2.0 4.0 6.0 8.0
10 20 30 40 50 60 70
0
Latency (sec)
Serum concentration (µM)
morphine (n=10)
morphine+ PT-E 300 mg/kg (n=10)
Fig. 30. Hysteresis Plots
第4 節 第 3 章の小結
第2章の結果から、金牛草はmorphineの種々な薬理作用を抑制することがわかった。
その作用メカニズムは、これまでの実験からoppioid µ 受容体に直接作用するとは考え難
く、morphineの吸収もしくは代謝過程に作用するものと推測された。従って、本章では、
マウス血漿中morphine濃度を測定し、金牛草の作用メカニズムを検討した。
Morphine濃度の定量では、種々の方法がある。本実験で用いたベンジルアミンと
反応させる蛍光測定法は優れている。また、通常のfilterろ過より、実験に用いたエタノ ール除タンパク法はmorphineの吸着を防ぐ長所もある。
マウス血漿中morphine濃度は、morphine投与後30 分に、およそ6µMでピークとなり、
60 分で半分まで減少し、180 分後には0.5 µM以下となった。この値は文献29, 30) とほぼ 一致した。これに対して、金牛草を前処置しておくと、30 分値から有意に抑制され、120 分にはほとんど消失した。血漿中morphine濃度は、金牛草により低下し、徐々に消失す る形態から、金牛草morphine解毒作用のメカニズムの一つとして、morphine吸収阻害、
もしくはmorphine代謝促進に働くことが明らかとなった。さらに、薬物動態学的な検討
を行ったところ、薬効(縦軸)は血中濃度(横軸)に対してプロットし、測定時間の順 に点を結ぶことにより描いた線が反時計回りのhysteresis loopになったため、金牛草の作 用部位は血液 compartment 以外にあることが推測でき、脳あるいは髄液中などに作用す ると考えられる。
以上の結果から、金牛草の作用メカニズムの一つに、morphine吸収の阻害または
morphine代謝の促進に働くことが明らかとなり、血液循環促進作用などによって腎血流
の促進に伴う尿中排泄、腸管循環の促進による便排泄などが推測された。