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第 4 章 マイクロファイナンスの新しい潮流

第3節 先進国におけるマイクロファイナンス

これまでMFは発展途上国のものだと思われてきた。グラミンバンクと創設者ユヌス氏 のノーベル平和賞受賞のインパクトは、発展途上国における新しい貧困削減対策の幕開け を予感させたし、発展途上国に比べて先進国で日々の生存に困る人々が多いという想像は 難しい。しかし、デイリー=ハリス(2006)によれば、2005 年時点で報告された先進国 のMF借り手数は約345万人に上る120。また管(2008b)は、1990年以降欧米諸国にお いて貧困層・低所得者に金融サービスを提供する試みが行われるようになったと述べた。

ャマイカ、ニカラグア、ネパール、サモア、トンガ、キルギスタン、タジキスタン、ヨルダン、レバノン。うち、モ バイルバンキングサービスが提供されているのは、バングラデシュとフィリピンの二カ国のみである。

116 ケニア、スリランカ、マレーシア、タンザニア、ウガンダ、フィリピン、パキスタン。

117 ただしM-PESAの場合、送金の最高額を35,000ケニアシリング=462ドルに設定しているため、この例ではない

(1ドル=75.65ケニアシリングで算出)。

118 Karanja (2010)

119 GSMA(2010)より筆者算出。

120 デイリー=ハリス(2006)、29頁の表5より。ここでの先進国とは、北アメリカと東西ヨーロッパ、中央アジア を含む。

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総数 国際NGO ローカルNGO 行政 MFI 商業銀行 ネットワーク ウェブリソース コンサルティング Grantmaker・民間基金 ドナー 投資 融資組合・金融協会 技術提供 学術機関 調査機関 訓練機関 その他

アイルランド 1 1

アメリカ 101 9 10 11 1 2 5 8 1 5 12 8 12 7 5 26

イギリス 24 3 1 2 1 1 4 1 1 2 1 5 2 3 2 2

イタリア 8 1 3 3 1 1 2 2

オーストラリア 8 1 1 1 5 5

オランダ 11 1 2 1 2 1 1 3 2 1 1 1

カナダ 7 1 1 3 1 2

スイス 2 1 1 1 1

スウェーデン 1 1

スペイン 1 1 1

デンマーク 2 1 1 1

ドイツ 16 1 1 1 9 1 10 2 1 1

日本 1 1

ニュージーランド 1 1

フィンランド 1 1 1

フランス 5 1 1 1 2 1

ベルギー 3 3 1

ポルトガル 2 1 1 1

195 15 10 1 15 1 10 10 38 5 2 11 13 42 22 14 12 37

表4-3-1は、OECD各国におけるMFIsの数を示す121。UNDP(2008)によればOECD 加盟国の数は23カ国であることから、5カ国においてMFIが存在しないことがわかる。

もっとも登録数が多いのはアメリカの101機関で、次いでイギリス、ドイツ、オランダと 続く。これらは現地の人々に融資を提供するだけでなく、途上国のMFIsに資金を提供す るためのものや、研究機関、技術提供を目的とするものなど様々である。特徴的なのは、

アメリカにおけるローカルNGOとMFIの数の多さで、これらはアメリカにMFの手法が 深く根付いていることを表している。また、ドイツでは組織による直接支援ではなく、技 術協力やコンサルティングなどが盛んに行われていることがわかる。

ユヌス(1998)によれば、先進国でMFを行うにあたって一番の障害となるのは、既存 の福祉法である。貧困層は多くの場合、生活保護法によって一定額を毎月受給されながら 定められた条件の中で生活しており、それらの中には融資の獲得を躊躇させるものがある。

例えば、受けた融資と同額を給付金から割り引いたり、そもそも他の機関から融資を受け ることを禁じている場合がそれにあたる。結果、「ヨーロッパにできた最初のマイクロクレ ジット組織の多くは、実際に法律を破る原因になってしまった。122」とユヌスは述べる。

しかし現在では、アメリカやイギリスに地域の貧困層に融資を行う金融機関や法律が設置 されるなど、自国の貧困層に対する尐額貸付の試みは広まってきていると言えるだろう。

現在25歳以下の失業率が極めて高い EUでは、スペインが中心となって若年層に企業を 進めるためのマイクロローン貸付整備も計画されている123

貧困は貧しい国にあるのだという考えは、日本でも広く信じられていた124。しかし馬場

(2009、12頁)は、「年功序列・終身雇用の崩壊、銀行などの金融機関の倒産、土地の不 動産の暴落など挙げればきりがないが、それと同時に「貧困消滅神話」も、もろくも崩壊

121 これらはMicrofinance Gatewayに登録されたMFIの数であるため、実際にはこれ以上の数の機関があることも考 えられる。

122 ユヌス(1998)247頁。

123 Tasovac (2010).

124 例えばWebcat Plusで日本に関する出版物を検索するとその数は外国語のものを含めて16件しか検出されない

(2009930日時点)。

4-3-1:OECD諸国のマイクロファイナンス機関

(出所)Microfinance Gatewayより作成

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した(後略)。」と述べる。戦後著しい経済成長を遂げた日本にとって、貧困とは労働の欠 落の結果生み出されるものであり、そこには何か特別な理由があると考えられていた。確 かに、一般的に想像される日本の貧困家庭といえば、その多くは「被保護世帯」、「高齢者」、

「母子世帯」、「障害者」などの労働の担い手を制限された世帯のことで125、同時に所得源 も限られていた。特に濱田(2009)は、これまで日本の貧困について行われたパネル分析 をまとめ、他のOECD諸国に比べて特にひとり親世帯の貧困リスクが高いと述べている。

加えて近年では、規制緩和や世界経済の流れと共に、特に非正規雇用に従事する若年層人 口が増えつつある126

こうして労働の欠如と低所得による貧困が主であった日本であるが、その内実は複雑化 していると言えよう。中川(2009)は現代日本の貧困の特徴として、卖一の尺度や視点か ら貧困を定義することが困難になっていると述べる。これは野上(2009)も同様で、貧困 を多次元的に見ることの重要性を指摘する。そもそも所得とは人々が持ちうる選択肢の代 替指標として用いられてきたが、ライフコースの多様化によってそれだけでは捕捉できな い様々な要因が貧困リスクとなるのが現代の日本なのではないだろうか。

こうした貧困に対して、MF はどう対忚することができるだろうか。管(2008a)は日 本でのMFの対象として「自分の能力を活用できる貧困層127」を挙げ、小規模事業の起業 が可能であるとしている。また同時に被雇用者には、敷金や礼金を含む住宅確保、職業能 力開発・研修費、スーツなど衣類への支出、交通費、最初の給料日までの生活費等を挙げ ている。これらはホームレスやワーキングプアと呼ばれる人々にとって再就職までの助け になるだけでなく、雇用から雇用の間のセーフティネットとして機能することになるだろ う。日本におけるMFの適用については未だに研究がごくわずかでしかなく、他の先進国 同様調整と導入が期待される。

結びに

本章の目的は、MFが直面している批判や変化を確認することにある。そのため第1節 では、MFの商業化と批判について紹介した。投資資金の巨大な流入を受けて、MF がそ の社会的意義を失うのではないかという懸念は強い。また、そもそもMFが貧困を削減し、

女性のエンパワーメントに貢献しうるという期待も、的外れであるという批判もなされて いる。これらは主に、MFを具体的に批判したDichter(2007)やBateman(2010)に強い。

MFに関する研究は数多く存在するが、体系的に批判をまとめて行った研究は限られてい る。ベイトマンとディヒターの批判は事実として否定しようがなく、MF のマイナス面と 呼ぶことができるだろう。特に、借り入れられた資金のサイズが小さいことで、事業収益 が裏庭産業の枠を超えることができないという批判には、十分な対策がなされるべきであ る。なぜならボスニアやセルビアの例にもあるように、零細企業への投資の過度な集中は、

事業がより大きな中小企業、そして大企業へと成長する過程において資金不足をもたらし、

結果としてコミュニティ内の経済発展を阻害するばかりか、世帯における負債増加という

125 中川(2009)は、1970年代の国民生活白書がこれらの4つを社会変動に適忚しにくい世帯であるとしたことから、

貧困が低所得だけでなく変動への対忚の可能性も含むことを指摘した。

126 本田(2004)。

127 就労の意欲と能力はあるが貧困状態にある人々のこと。管(2008b)、133頁。

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悪影響をもたらしかねない。MF が真に貧困層の助けとなるため、ベイトマンの批判を基 に対策を必要とする部分も存在するだろう。次の第2節では、通信機器を利用したMFの 動きについて紹介した。インターネットを介して個人が融資を行う Kiva では、投資先と 投資家の間が透明化される。Kivaを通して集められた資金はそのまま現地機関を補助する ものとなり、さらにそこに利子を加えることで現地機関の新たな収入源となる。すなわち、

投資の容易さと投資先の明確化が、MFIs に新たな活動資金源をもたらし、より多くの貧 困層へ融資を可能にするのである。さらに、携帯電話を用いたモバイルバンキングは近年 最も注目を集めているMFの一つである。モバイルバンキングが提供している者は銀行口 座で、預け入れ、引き出し、送金、支払いなどを、携帯メールと通話時間の購入によって 取引が行われる。すなわち、銀行の支店から離れた所に住んでいようとも、安全に資金を 管理運営することができるのである。こうした動きは、MFが金融商品であるという垣根 を越え、第3者の存在を巻き込みながら一大産業として成長していることの表れではない だろうか。最後の第3節では、先進国におけるMFの展開について紹介した。発展途上国 のMFIsを援助する立場として、コンサルティングや技術提供を行うことが多く、実際に 国内でMF活動を行っている組織は尐ない。自国内での貧困層を支援するためには、現在 途上国で行われているような事業融資だけではなく、再雇用に至るまでの生活や就職活動 に関する支援として用いられる必要があるだろう。