第2章 グラミンバンクにおけるマイクロファイナンスの効果
第3節 グラミンバンクメンバーへのインタビュー調査について
2-3-1 調査について
本論文で用いるデータは、筆者が2005年9月の1ヶ月間GBのインターンに参加した 際行った調査で収集したものである。筆者は期間中農村の支店に滞在し、午前中はセンタ ーミーティングに訪れた女性メンバーを対象に、また午後は支店を訪れる女性メンバーを 対象に通訳を介したアンケート調査を行った。調査開始時に目標標本数は定めなかったが、
限られた期間内で可能な限り多く取ることを目指した結果、100 名の女性にインタビュー が可能となった。
調査地はパイロット調査としてダッカ近郊ガジプールゾーン60のカリヤプール支店、バ ングラデシュ北西部タンガイルゾーンのドゥバイルデルドゥバイル支店、单東部ノハカリ ゾーンのムンシハットポシュラン支店、北東部ナラヤンガンジゾーンのシェケッチャール 支店、单西部フォリドプールゾーンのボホルプールバリアカンディ支店である。これらの 県を選んだのは、インタビュー地選定に際して主要産業の違いと地理的バイアスを考慮す る目的に加え、また休日や安全性61なども考慮してインターン生受け入れ可能な支店を探 した結果、GBから提案されたのがこの5支店であったためである。ガジプールは車で一 時間ほどのダッカ近郊にあり、タンガイルはバスで3時間ほどの伝統的な機織物が盛んな 地区である。また、ノハカリは商業の盛んなバスで4時間程度の单東部にあり、ナラヤン ガンジは繊維産業の工場が立ち並ぶバスで1時間程度の工業地区で、フォリドプールは地 図上ではダッカに近いものの、車や船、バス、人力車を乗り継いで4時間の場所にあった。
それぞれ位置関係は図2-3-1に示されている。
60ゾーンとはGBの使用する地域区分の呼び名のこと。最小卖位はセンターで、その上にブランチ(支店)、エリアが あり、その上にゾーンが設けられている。Grameen Bank(2011a)によれば、ゾーン数は36に上る。
61筆者が出発する前に、バングラデシュの別のNGOの支店で何者かによって爆弾が仕掛けられるという事件があった ためであると考えられる。
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(出所)白地図専門店とGrameen Bank(2006)より作成
また、表2-3-1はゾーン名と各ゾーンのダッカから見た方角、抱える支店数と各支 店のメンバー数、さらにその下には筆者が実際に訪れた支店に所属するセンター数とメン バー数、インタビューを行ったメンバーの数、各支店での主要なローンの用途とその割合 が示されている。
表2-3-1:ゾーンごとの概況
ゾーン名 ガジプール タンガイル ノハカリ ナラヤンガンジ フォリドプール
産業 .. 工業 商業 工業 農業
位置 北 北西 南東 北東 南西
支店数'軒( 80 86 89 87 85
支店毎の平均メンバー数(名( 3961 3272 2930 3823 3177
支店名 カリヤプール ドゥバイデルドゥアイル ムンシハットポシュラン シェケッチャール ボホルプールバリアカンディ
センター数'件( .. 69 69 82 57
メンバー数'名( .. 3565 3215 4279 3185
インタビュー数(名( 3 12 29 28 25
ローンの主な用途 .. 耕作'25%(、藤細工'17%( 耕作(60%)、食料品店(20%) 縫製(80%) バン引き(20%)、土地貸し(15%)
(出所)Grameen Bank(2006)と支店マネージャーからの聞き取りにより作成
(注)ガジプールのデータは手に入らなかったためここには示さない。
この表からは、主要産業とメンバーの行っている経済活動がある程度一致していること 図2-3-1:調査地
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がわかる。商業の盛んなノハカリ県では用途の20%が食料品店62経営のために、近年縫製 工場の建設が著しいナラヤンガンジでは80%が縫製(特に糸紡ぎ)に、農業中心で交通の 不便なフォリドプールではバン63引きや土地貸しに使われている。しかし、留意しておき たいのは、一部の地域を除き、幹線道路や中心地から一歩踏み入れればそこは農村で、人々 のほとんどが農業に従事しながら日々の生活を営んでいることである。ポスト BRICs と
してNEXT11の一つに数えられるバングラデシュであるが、未だ多くの人が農村に住み、
まさにそこがGrameen(ベンガル語で「村の」)バンクの活動地なのである。
また、各支店の3,000人以上というメンバー数に比べ、筆者のインタビュー数はわずか ではあるが、一部の傾向をつかむことはできると考える64。当初の希望であったバングラ デシュの「東西单北」と「産業の違い」は調査地に盛り込むことができたが、移動時間の 削減と、インターン受け入れ可能な支店の有無との関係から、首都から遠く離れた土地で の調査は実行できなかった。加えて、午前中の調査は自らインタビューに答えてくれるメ ンバーや、行員に推薦されたメンバーからインタビューを始め、その後、その女性、また は引き続き行員に次のメンバーを紹介してもらう、という雪だるま式を取った。従ってど うしても地域的な、または人間関係に対し一定の偏りがあることは否定できない。しかし、
午後の調査は支店を訪れるメンバー全員を対象とし、全インタビューにおけるその割合は 52%であったため、ある程度の無作為性は保たれたと考える。
さらに今回のように短期の滞在でインタビュー調査を行う場合、回答者が調査者に対し てどれほど真実を語っているかということには十分留意する必要がある。当事者にしてみ れば突然やってきて自分を長時間拘束し、時にはプライベートな質問を行う外部者に対し て、常に真実を答えることは、彼らの合理に適っているだろうか。NGO に長年加盟し、
メンバーの中でも中心的な役割を果たすようになっている参加者が、特に外国の調査者か らの質問に対して、「好ましい」と思われる役割を演じその通りの回答をするという事例は、
実際に現地に赴く者の中でまことしやかにささやかれており、今回の筆者の調査もその可 能性を十分に排除することはできない。これは、発展途上国であろうと先進国であろうと 場所を問わず発生する懸念であり、調査結果とそこから導かれる帰結に対して常に冷静な 目を持つ必要がある。ここではその危険性を念頭に置きながら、得られたインタビュー調 査の結果について分析と考察を行っていきたい。
2-3-2 対象者の概要
表2-3-2はインタビューを行った女性について表したものである。年齢、融資期間、
教育レベル共に全ての段階において同じだけの人数にインタビューすることが好ましいが、
年齢では30代と40代に、融資期間では10年以上15年未満に、教育レベルでは未就学か ら初等教育65に偏りがある。GBが正式に発足して24年、既に一つの支店で担えるメンバ ーの数は限界を迎え、誰かの退会を待つ「メンバー予備軍」が発生していることを考慮す ると、これから女性が新規に加盟する機会は非常に限られており、結果、年齢も融資期間
62バングラデシュの農村では、イギリス植民地時代の名残からか食事の後や午後にお茶を飲む習慣があり、農村でも お菓子や果物、お茶などを売る小さな商店がしばしば見られる。
63大型の人力車。
64 なお、ガジプールでのインタビューはパイロット調査であったため、本稿ではここでの3名について分析では用い ない。
65 そのうち14名が5学年まで進級している。
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も偏ったと考えられる。年齢に関して言えば、GB はメンバーを公平性を保つという理由 で一世帯から二人以上加えることを禁じており、年齢の若いメンバーにとってそれは結婚 を意味している。テレビなどで幼児婚に対する啓蒙活動が頻繁に行われているバングラデ シュで、年若のメンバーが比較的尐ないということは、それらが広く認識され、幼児婚に 対する問題意識が農村においても共有されていることの表れであるとも解釈できよう。ま た教育レベルでの偏りに関しては、近年ようやく女性の学習に対する環境が整い始めたこ とから、教育サービスが提供される前に成人した女性たちが多く含まれると推測できるだ ろう。しかし中には大学を卒業して修士号を取得したメンバーもおり、農村女性の全てが 教育を受けていないというわけではない。
表2-3-2:女性メンバーについて
10代 1名 5年未満 13名 未就学 38名
20代 10名 6年以上10年未満 9名 初等教育(5学年まで・義務教育) 31名
30代 37名 10年以上15年未満 39名 中等教育(10学年まで) 22名
40代 34名 15年以上20年未満 23名 上級中等教育(12学年まで) 2名
50代 10名 20年以上 9名 学士 1名
60代 4名 修士 1名
年齢 加盟期間 教育レベル
(出所)インタビュー結果より作成
(注)回答を行っていないメンバーがいたため、各項目において回答者の数が異なる。
さらに年齢層が偏ってしまったもう一つの理由として、特に教育を受けていない女性た ちが、自分の本来の年齢に対し正確な知識を持っていなかった可能性もある66。子供の年 齢や本人の教育レベル、結婚した年齢なども合わせながら導き出した年齢であるが、年齢・
融資期間共に本来の姿を映し出しているとは限らない。