第2章 グラミンバンクにおけるマイクロファイナンスの効果
第4節 グラミンバンク加盟の世帯経済の変化
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も偏ったと考えられる。年齢に関して言えば、GB はメンバーを公平性を保つという理由 で一世帯から二人以上加えることを禁じており、年齢の若いメンバーにとってそれは結婚 を意味している。テレビなどで幼児婚に対する啓蒙活動が頻繁に行われているバングラデ シュで、年若のメンバーが比較的尐ないということは、それらが広く認識され、幼児婚に 対する問題意識が農村においても共有されていることの表れであるとも解釈できよう。ま た教育レベルでの偏りに関しては、近年ようやく女性の学習に対する環境が整い始めたこ とから、教育サービスが提供される前に成人した女性たちが多く含まれると推測できるだ ろう。しかし中には大学を卒業して修士号を取得したメンバーもおり、農村女性の全てが 教育を受けていないというわけではない。
表2-3-2:女性メンバーについて
10代 1名 5年未満 13名 未就学 38名
20代 10名 6年以上10年未満 9名 初等教育(5学年まで・義務教育) 31名
30代 37名 10年以上15年未満 39名 中等教育(10学年まで) 22名
40代 34名 15年以上20年未満 23名 上級中等教育(12学年まで) 2名
50代 10名 20年以上 9名 学士 1名
60代 4名 修士 1名
年齢 加盟期間 教育レベル
(出所)インタビュー結果より作成
(注)回答を行っていないメンバーがいたため、各項目において回答者の数が異なる。
さらに年齢層が偏ってしまったもう一つの理由として、特に教育を受けていない女性た ちが、自分の本来の年齢に対し正確な知識を持っていなかった可能性もある66。子供の年 齢や本人の教育レベル、結婚した年齢なども合わせながら導き出した年齢であるが、年齢・
融資期間共に本来の姿を映し出しているとは限らない。
41 2-4-1 所得に起こった変化
表2-4-1は、加盟前と 2005 年の一世帯当たり・一人当たり所得の最低額と最高額 をそれぞれ示したものである。一世帯当たり所得はメンバー女性の所属する世帯の毎月の 所得であり、一人当たり所得ではそれをメンバー、夫、その時点で生存していた子供の数 等の合計人数で除して求めた67。この表によると、一世帯当たり所得も一人当たり所得も 最低額・最高額共に、GB 加盟後上昇しているように見える。しかし、この最低額と最高 額を稼得するメンバーはそれぞれ同一人物であり、所得の上昇はあったとしても、その結 果が元々の所得に依存している可能性がある。
表2-4-1:所得の最低額と最高額(卖位:タカ)
最低額 最高額
加盟前一世帯当たり 0 1162.8
2005年の一世帯当たり 5.4 1079.1
加盟前一人当たり 0 193.8
2005年の一人当たり 1.1 179.9
(出所)インタビュー結果より作成
(注)所得がゼロという回答は、当時世帯に現金収入が無かったという状態を示す。こ の場合、家族や周囲からの支援や庇護によって生活していたと考えられる。
所得変動に関しては、72世帯で一世帯当たりの所得が上昇し、減尐したのは僅か22世 帯であった。また、一人当たり所得がGB 加盟後に上昇した世帯は94世帯中54世帯で、
減尐したのは40世帯であった68。GBのメンバーになったからといって、それがそのまま 所得の上昇や貧困の克服を表しているわけではないことは、返済率約98%、言い換えれば
約 2%の女性が返済不可能な状態にあることからも明らかであろう。自らのビジネスによ
って稼得を目指す女性たちの所得は、世帯人員の増加や家族の結婚、病気、天候不順など 様々な要因で激減する可能性を秘めている。従って、一時的であれ恒常的であれ、何らか の理由により所得を減尐させてしまう女性たちは存在する。GB が始まって以降これまで 貧困ラインを越えたメンバーが全体の68%近くであることを考えると、貧困からの脱却は 容易ではなく、筆者が調査を行った女性たちも例外でない。
表2-4-2:貧困ライン以下のメンバー数
加盟前 2005年 バングラデシュ全体
一日一ドル未満 72世帯'約76.5%(63世帯'約67.0%( 36.0%
総合貧困ライン'upper(以下 44世帯'約46.8%(10世帯'約10.6%( 49.8%
(出所)インタビュー結果とUNDPウェブサイトより作成
表2-4-2は筆者がインタビューを行った世帯とバングラデシュ全体における貧困ラ
67 夫が死亡などをしている場合は、その時期に合わせメンバー女性と子供のみで計算した。
68 「加盟前の所得」はパイロット調査後に付け加えられた項目であること、さらに自らの所得を把握していない女性 メンバーもいたことから、本稿で用いる観測数の最大値は94名である。
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イン以下の世帯数、もしくは人口の比率を示したものである69。多くの国民が貧困に苦し むバングラデシュでGBメンバー女性たちも例外ではなく、全体の76.5%を占める72世 帯が加盟前に一日1ドル以下で生活していた。また、加盟後もその数はわずか9世帯しか 減尐しておらず、この値は 2005 年バングラデシュ全体の 36%をはるかに上回っている。
しかし、バングラデシュ自身の定めるCost Basic Needs法による貧困ライン(upper)70未 満の世帯数をみると、それらは44 世帯(46.8%)から10世帯(10.2%)へと激減してい る。これはバングラデシュ全体の比率49.8%を大きく下回り、GB 加盟の所得上昇効果を 読み取ることができるのではないだろうか71。
図2-4-1:GB加盟前と現在の一世帯当たり所得額の移行
0 10 20 30 40 50 60 70 80 世帯数' 軒(
所得' タ カ(
加盟前 2005年
(出所)インタビュー結果より作成
図2―4-1は、毎月の一世帯当たりの所得の推移を表したもので、横軸に所得を、縦 軸に世帯数を置いたこの図を見ると、加盟前と加盟後で形状が大きく変化している72。加 盟前ではほとんどの世帯が約 61 タカ未満に集まっているが、加盟後はそれにばらつきが 生まれ、加盟前より高い水準に山の頂点が移動している。また約5.3タカ未満の世帯もな くなっていることから、押しなべて世帯の所得が上昇していること、つまり確実に一世帯 当たりの所得について底上げがなされていると言うことができる。同時に、GB 加盟後著
69 加盟前の為替レートについてはそれぞれの加盟年度に忚じた値を用い、加盟後は2005年で統一した。
70 バングラデシュの定める貧困ライン。生存に必要なカロリー摂取量を購入するのに必要な分に加え、生活必需品の 価格を上乗せして計算された毎月当たりの所得額。upper poverty line(以下upper)とlower poverty lineがあり、
upper以下が絶対的貧困であるとされている。1995年から5年ごとに計算されているが、幅広いデータが手に入らな
かったためここでは加盟前、加盟後とも1995年度で代用した。14の地方ごとにライン額が設定されており、ここで は絶対的貧困を表すupperを使用した。額はそれぞれ以下のとおり。これに更にGDPデフレーターを用いて物価の影 響を調節している。詳しい算出方法はWorld bank (1998)に記載。
タンガイル ノハカリ ナラヤンガンジ フォリドプール
604タカ 638タカ 661タカ 582タカ
World Bank(1998) p.58より作成
71 バングラデシュの定める貧困ラインとドルベースの貧困ラインの間の乖離に関しては、為替レートの影響が大き いためと考えられる。
72 ここでは分布の傾向を詳しく知るため特に高い所得を得ていたメンバー二人を除いている。
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しく所得を伸ばした世帯が多数あることも窺えるが、それは裏を返せば、世帯ごとの所得 に格差が発生し、貧困に苦しんでいた人々の中でも比較的余裕のある世帯とそうでない世 帯が出現していることも明らかにしている。
2-4-2 消費における変化
次に消費に関しても所得と同様に物価による調整を行った結果、実際にデータ採取が可 能であった90名のうち、47名が消費額を増加させ、残りの43名が減尐していることが わかった。図2-4-2は、毎月の消費額の推移を表したもので、所得と比べて大きな変 化は見られないが、同様に消費額の底上げが見られる。また、110 タカ以上の消費を行う 世帯は加盟以前に比べて確実に増加している 。メンバー加盟期間の増加につれて世帯人員 変動の可能性があるため、消費額の増加がそのまま世帯の生活の変化を示していると一概 に述べることはできないが、Khandker(2003)の例やインタビューの中で食糧を自給し ている例もいくつか見られたことから、より高価な財の消費を行うようになった世帯が発 生したと考えられる。
図2-4-2:GB加盟前と加盟後の一世帯当たり消費額の移行
0 10 20 30 40 50 世帯数' 軒(
消費額' タカ(
加盟前 2005年
(出所)インタビュー結果より作成
2-4-3 貯蓄における変化
さらに貯蓄額を見ると、加盟前に貯蓄がマイナスであったメンバー数は16名から2005 年には4名に減尐し、また、貯蓄がゼロのメンバー数は加盟前に27名であったのが、2005 年には7名まで減っていた。また図2-4-3からは所得と同様、貯蓄額の底上げが起こ っていること、より貯蓄が高い方向へ押しつぶされたような形になっていること、より高 い貯蓄を行っている世帯とそうでない世帯が生じていることがわかる。