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ホットスタンプにおける合金化溶融亜鉛めっき鋼板の 液体金属脆性 (LME) 現象の解析

ドキュメント内 著者 ?橋 克 (ページ 46-72)

3.1. 緒言

第2章ではZnめっき鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いて,HSの加熱時 間を変化させた後V曲げ成形を行い,LMEクラックの発生と加熱によるめっき皮膜の化学組 成・相変化との関係を調査した.クラックは地鉄の旧 γ粒界に沿って発生すること,クラックは めっき皮膜に生成した液体Znがγ粒界に直接侵入することで発生することを明瞭に示した.

加熱時の最高到達温度とめっき皮膜の平均 Zn濃度が,Fe-Zn二元平衡状態図1)上の液体 Zn生成領域内に位置する場合にLMEクラックが発生することを示し,その裏付けとしてめっ き皮膜内に液体Znの痕跡である高Zn濃度部の存在を指摘した.またLMEクラックの最大 深さが,めっき皮膜の液体Zn量に対応することも明らかにした.

めっき皮膜から地鉄のγ粒界に液体Znが侵入することは明らかになったものの,めっき皮 膜は加熱時に Fe-Zn 二元平衡状態図にしたがって液体 Zn と Fe-Zn ferrite に分相し

(Fig.2.12),その後にめっき皮膜に生成する液体Znがどのような経路で地鉄のγ粒界に侵入

するのか,その侵入要件やLMEクラックの発生頻度および伝播・停止機構等に関しては,こ れまで系統的な研究はなされていない.

そこで本章では液体Znと地鉄のγ粒界が接触している界面付近と,クラック周辺部の地鉄 に焦点をあて金属組織の断面観察・解析を行い,前記の疑問点とLMEクラックの発生・頻度 および伝播・停止の機構に関する知見を得ることを目的とした実験を行ったので報告する.

3.2. 実験方法

3.2.1. 供試鋼板および試料作製時の加熱成形条件

鋼板は第 2章と同様の板厚 2.6 mmの GAを用いた.HSにおける加熱は第 2章と同様 900 °Cに設定した燃焼ガス炉内に試料を挿入し加熱した.加熱時間は90 s, 120 s, 150 s, 180 s, 195 s, 210 s, 225 s, 240 sとし,炉内から試料を取り出した後にV曲げ成形を行った.

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試料の温度履歴はFig.2.1に, V曲げに使用した金型はFig.2.2に,成形条件は第2章に 記載した通りである.また本章で解析を行った試料の加熱時間と最高到達温度と成形開始 温度の関係についてはTable 3.1 に示した通りである.

3.2.2. 試料の断面観察,金属組織調査および硬さ測定

V 曲げ試料(以下 試料)の断面調査は,第 2章に記載の方法と同様の方法で行った. V 曲げ中央部から試料の長辺に平行に(V曲げ稜線に垂直に)試験片を切り出し,樹脂埋込後,

断面研磨,カーボン蒸着を行い観察試料とした.試料の V 曲げ外面側1/4 円周部に沿い,

走査型電子顕微鏡にて反射電子像(以下 BSE 像)を得た.その後カーボン蒸着層除去のた めバフ研磨を行ってから,金属組織現出のためピクリン酸エッチングを行い,再びカーボン 蒸着を行って金属組織観察試料とした.その後二次電子像(以下 SEM 像)を得た.クラック 近傍の地鉄の金属組織推定のためビッカース硬さを測定した.荷重は0.03 kgf(0.294 N)とし ビッカース圧痕の直交対角線長の平均値からビッカース硬さを算出した.

3.2.3. 金属組織の解析

めっき皮膜と地鉄の旧γ粒界の位置関係を示す模式図をFig.3.1Fig.3.2に示す.金属 組織とめっき皮膜の構造上の特徴的な箇所・点・長さを以下にて説明する.試料のV曲げ頂 部に発生した LMEによる大きなクラック近傍の模式図をFig.3.1に示す.ピクリン酸エッチン グ後のめっき皮膜は,第2章で説明したように主にFe-Zn ferrite粒からなっている.“L”は加 熱時に液体Znが存在したと考えられるFe-Zn ferrite粒間の隙間である.液体Znが成形時 に急冷され固化した Zn と Zn-Fe 金属間化合物が,ピクリン酸エッチングにより溶出し,SEM 像撮影時に隙間として見えた箇所に相当する(以下“L”: 液体 Zn 痕跡部).“A”は図の左側 の地鉄に侵入したクラックの起点となった点である(以下“A”: クラック侵入起点).この箇所は めっき皮膜と地鉄の界面(以下 界面)で地鉄の旧 γ 粒界と“L”とが接する点でもある.“B”は 界面で旧 γ 粒界と“L”が一致するが,クラックが発生しなかった箇所(以下“B”: 一致点)であ る.“C”は地鉄の旧γ粒界が界面に接するが“L”と接しない点である(以下“C”: 旧γ粒界接 点).“D”は“L”が界面で接するが地鉄の旧γ粒界と接しない点である(以下“D”: 液体Zn痕 跡部接点).金属組織推定のためクラック側壁部とクラック底部付近にかけてクラック周辺部

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Table 3.1 Maximum specimen temperatures during heating, and specimen temperatures at the start of hot stamping, for the respective tests.

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Fig.3.1 Schematics of Zn-coating/metal-substrate interface of heavily-cracked specimen, showing various contact sites of liquid Zn with the metal substrate. These were examined by SEM.

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Fig.3.2 Schematics of Zn-coating/metal-substrate interface of moderately-cracked specimen, showing coating separation and crack opening. These were examined by SEM.

γ γ

Fe-Zn ferrite

γ γ γ

γ

Zn coating Metal substrate

Crack

Fe-Zn ferrite

Fe-Zn ferrite

>5μm

"R":

Remained interface after hot stamping

"P":

Width of crack opening

"Q":

Width of coating separation

47 の地鉄のビッカース硬さを測定した.

LMEにより発生した軽微なクラック近傍の模式図をFig.3.2に示す.“P”は深さが5 μmを 超えるクラックの開口幅である(“P”: クラックの開口幅).“Q”はめっき皮膜の Fe-Zn ferrite 粒 が成形時の引張応力により図の水平方向に開いた開口幅である(“Q”: めっき皮膜分離部 開口幅).“R”はめっき皮膜と地鉄とが成形後も界面を形成している部分である.

3.3. 実験結果

3.3.1. クラックの深さとクラック形状におよぼす加熱時間の影響

各試料のV曲げ外面側1/4 円周部において,めっき皮膜と地鉄の界面から地鉄に侵入し たすべてのクラック深さを計測した.加熱時間と最大クラック深さの関係をFig.3.3に示す.第 2章で説明したように,加熱時間が90 sの試料は最高到達温度が763 °Cであり,包晶反応 温度未満であるためLMEは生じなかったと考えられる.そのため最大クラック深さは約5 μm と小さい.一方最高到達温度が包晶反応温度を超える加熱時間が120 s〜180 sの試料では,

最大クラック深さは100 μmを超えた.その後の加熱の継続で最大クラック深さは徐々に小さ くなり,加熱時間が240 sで5 μm未満となった.このクラック深さは加熱時間が90 sの試料よ り小さい.そこで5 μmを超えるクラックが発生し,LMEを示す明瞭な結果が得られた加熱時

間が 120 s〜225 s の試料についてより詳細な調査を行うこととした.加熱時間の経過による

最大クラック深さの減少は,地鉄のFeがめっき皮膜に拡散することで,めっき皮膜の液体Zn 中のFe濃度が上昇し,めっき皮膜にFe-Zn ferriteの析出量が増加し,一方で液体Zn量が 減少したためであると考えられる(Fig.2.13参照).SengokuらはGAを900 °Cの炉内で加熱 し,めっき皮膜の変化を詳細に調査した.その結果,Fe-Zn ferriteは2種類の析出形態があ るとしており,地鉄表面を析出サイトとして成長するものと,液体 Zn中に核生成が起こり球状 粒子として析出するものがあるとしている2).加熱時間が120 s〜225 sの試料のうち,最大ク ラック深さが最も大きい加熱時間が 150 s の試料と,最大クラック深さが小さい加熱時間が

210 sの試料について,V曲げ外面側の断面観察を行った.結果をFig.3.4に示す.加熱時

間が150 sの場合,深さが100 μm超の大きなクラックがV曲げ外面側全体にわたり発生し

ている.一方,加熱時間210 sの試料では,めっき皮膜の凹凸と深さの小さいクラックが混在

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Fig.3.3 Maximum crack depth of the V-bent specimens, as a function of heating time.

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Fig.3.4 Cross-sectional BSE (backscattered electron) images of the tip-surfaces of V-bent specimens, heated for (a) 150 s, and (b) 210 s.

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していた.両試料のクラックは,それぞれ深さは異なるものの,文献等で LME による特徴的 なクラックとして紹介されている稲妻形状ではなく (例えば参考文献3) の図2参照) ,その底 部は滑らかな円弧状を呈した.この底部の形状から,クラック底部よりさらに地鉄側への Zn 侵入とクラック伝播が起きていないことが示唆された.また図示していないが加熱時間が90 s

〜225 sの試料のV曲げ成形がなされてないフランジ部でクラックの発生は無かった.Fig.3.4 に図示した試料を含め断面研磨試料をバフ研磨後ピクリン酸エッチングを行い,走査型電 子顕微鏡で二次電子像を撮影した.

3.3.2. クラック近傍の金属組織解析

加熱時間が 150 s の試料の表面付近の SEM 像を Fig.3.5 に示す.対応する模式図は

Fig.3.1 である.めっき皮膜と地鉄界面は明瞭で,地鉄にはマルテンサイトとそれを取り囲む

旧γ粒界が観察された.めっき皮膜は粒径が約10 μm超の等軸晶とその隙間で構成された.

等軸晶のZn濃度は33〜34 wt.%であり,Fe-Zn二元平衡状態図1)からFe-Zn ferriteと判断 される.なおFe-Zn ferrite粒の間に観察される隙間は,エッチング前には観察されなかった.

試料温度が包晶反応温度を超える場合,成形後に低融点の η 相やδ 相が XRD で検出さ れる(Fig.2.2).Sengokuらの研究でも GAを 900 °Cに加熱した試料のEBSD解析でFe-Zn ferrite粒間にΓ相が確認されたこと2)等を踏まえると,Fe-Zn ferrite粒間はFig.3.1で説明し た“L”に相当する箇所と考えられ,加熱時に液体 Zn が存在したと考えて自然と思われる 4). 液体Znが成形時に冷却され生成するZnおよびZn-Fe金属間化合物相はFeとFe-Zn ferrite に比べ卑な電位を示す 5)6)ことから,これらの物質がピクリン酸により溶損して Fig.3.5 の隙間 を形成したと考えられる.

Fig.3.5で“A”, “B”, “C” , “D”として示した点は,Fig.3.1の模式図で説明したクラック侵入 起点,一致点,旧 γ粒界接点,液体 Zn 痕跡部接点の各点に相当する.Fig.3.5の左側のク ラック側壁と現出した旧 γ粒界の形状から,クラックは地鉄の γ 粒界に沿い伝播したことがわ かる.“A”は“L”と旧 γ 粒界が界面で一致した点であることから,加熱時に“L”に存在した液 体ZnをZn供給源として,Znが地鉄のγ粒界に侵入してクラックを発生させたと考えられる.

クラックに侵入したZnは“A”点からクラック側壁を介し,連結している旧γ粒界にも侵入したこ とが確認できる(Fig.3.5矢印).本結果から,加熱時にFe-Zn ferrite粒間に存在する液体Zn

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Fig.3.5 Cross-section of the Zn-coating/steel-substrate interface, adjacent to an open crack, of the specimen heated for 150 s. The specimen was etched by picric acid to highlight prior austenite grain boundaries.

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が地鉄の γ 粒界と界面で一致することが,LME によるクラック発生の必要条件の一つと考え られた.本試料で発生したクラックが,γ粒界に侵入したZnが粒界に沿ってFe-Zn ferrite膜 を生成して粒界強度を弱めた結果発生したとするChoらの研究結果7)と合致するかどうかは 判断できなかった.すなわち地鉄の旧γ粒界に沿って見られたFe-Zn ferrite膜の生成が,ク ラック発生の原因なのか結果なのかは明らかにできなかった.一方 Fig.3.5 に示す“B”点は 界面で“L”と旧γ粒界が一致するLMEの必要条件を満たすがクラックが発生しない点であっ た.Fig.3.5中にも“B”に相当する点は複数存在することがわかる.

加熱時間が150 sの試料のクラック側壁部と底部を拡大したSEM像をFig.3.6に示す.ク ラック底部は滑らかな円弧状を呈した.図左側のクラック側壁の金属組織は,旧γ粒界とマル テンサイト組織が明瞭に観察される.一方クラック底部では図の左右方向,すなわち試料の 引張応力方向に伸びた層状組織が多く見られる.この層状組織が見られる部分では旧 γ 粒 界とマルテンサイト組織共に不明瞭である.クラック側壁部と底部の金属組織の違いを推定 するため,ビッカース硬さを測定した.結果を Fig.3.6 内に示した.側壁部では硬さが 418〜

438と22MnB5に相当する一般的な1500 MPa級のHS用鋼板で得られる約450に近い硬

8)であるのに対し,底部では309〜347 と軟らかかった.金属組織と硬さの結果から,クラッ ク底部では成形時すなわち冷却時に塑性変形が付与されることで,フェライト変態あるいは ベイナイト変態のいずれかあるいは両方がクラックの側壁部に対してより促進された 9)ことが 推察される.

加熱時間が210 sの試料について,めっき皮膜と地鉄の界面の一例をFig.3.7に示す.対 応する模式図は Fig.3.2である.図に示すようにFig.3.5およびFig.3.6に比べクラック深さは 小さかった.図左のクラック“p”は少し開口しており深さが約10 μm 強で,旧γ 粒界に沿って 伝播していた.Fig.3.5 と同様 LME による軽微なクラックが発生したと判断される.なお図中 の“P”は Fig.3.2 で示したクラック開口幅に相当するものである.一方 Fig.3.7 のクラック“q1”,

“q2”, “q3 ”はクラック深さが1 μmに満たないためLMEによるクラックではないと判断した.こ れらは隣接する Fe-Zn ferrite 粒の輪郭が対応することから,成形時の引張応力により,めっ

き皮膜が Fe-Zn ferrite 粒界に沿って図の左右方向に分離し,地鉄が露出した部分と推定さ

れた.“Q”はFig.3.2で説明しためっき皮膜分離部開口幅に相当するものである.またFig.3.6

のクラック底部で観察された層状組織に似た組織が,地鉄の界面付近に観察される.

ドキュメント内 著者 ?橋 克 (ページ 46-72)