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ホットスタンプにおける亜鉛めっき鋼板の液体金属 脆性に関する研究

著者 ?橋 克

著者別表示 Takahashi Masaru

雑誌名 博士論文本文Full

学位授与番号 13301甲第4818号

学位名 博士(工学)

学位授与年月日 2018‑09‑26

URL http://hdl.handle.net/2297/00053034

doi: 10.2355/tetsutohagane.TETSU-2017-076

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

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博 士 論 文

ホットスタンプにおける亜鉛めっき鋼板の 液体金属脆性に関する研究

Liquid metal embrittlement of hot-stamped galvanized boron steel sheet

金沢大学大学院自然科学研究科 物質化学専攻

学 籍 番 号 1 5 2 4 0 2 2 0 0 7

氏 名 髙 橋   克

主 任 指 導 教 員 名 大 塚   伸 夫

提 出 年 月 平 成 3 09

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目 次

1 章 序 論 1

1.1. ホットスタンプについて 1

1.2. ホットスタンプ用めっき鋼 板 について 1

1.3. 液 体 金 属 脆 性 について 7

1.4. 本 研 究の目 的 と構 成 13

参 考 文 献 14

2 章 ホットスタンプにおける合 金 化 溶 融 亜 鉛めっき鋼 板の 17 液 体 金 属 脆 性 (LME) におよぼす加 熱 時 間の影 響

2.1. 緒 言 17

2.2. 実 験 方 法 17

2.3. 実 験 結 果 21

2.4. 考 察 32

2.5. 結 論 38

参 考 文 献 40

3 章 ホットスタンプにおける合 金 化 溶 融 亜 鉛めっき鋼 板の 42 液 体 金 属 脆 性 (LME) 現 象の解 析

3.1. 緒 言 42

3.2. 実 験 方 法 42

3.3. 実 験 結 果 47

3.4. 考 察 58

3.5. 結 論 65

参 考 文 献 66

(4)

4 章 ホットスタンプにおける合 金 化 溶 融 亜 鉛めっき鋼 板の 68 液 体 金 属 脆 性 (LME) におよぼす成 形 ひずみの影 響

4.1. 緒 言 68

4.2. 実 験 方 法 68

4.3. 実 験 結 果 69

4.4. 考 察 83

4.5. 結 論 90

参 考 文 献 91

5 章   液 体 金 属 脆 性 (LME) に よ る 液 体 金 属 の 92 結 晶 粒 界 侵 入 機 構 の 解 析

第 一 原 理 計 算 を 用 い た hcp-Zn/fcc-Fe 界 面 エ ネ ル ギ ー の 評 価

5.1. 緒 言 92

5.2. 計 算 方 法 94

5.3. 計 算 結 果 98

5.4. 考 察 105

5.5. 結 論 112

参 考 文 献 112

6 章   総 括 115

本 論 文に関 する発 表 論 文 118

(5)

1

1 章 序論

1.1. ホットスタンプについて

自動車部品には衝突安全性と燃費向上のため高強度化と軽量化が強く求められている.

高強度化手段としては,素材として強度が高い高張力鋼板を成形する方法と,鋼板を成形し た後に熱処理によって高強度化する方法がある.前者は,プレス成形性および形状精度を 高強度化と両立させることが課題であり,成形性の良い高張力鋼板 1)とそれを使いこなすプ レス成形技術2)が開発されている.熱処理強化の一種であるホットスタンプ(Hot Stamping 以 下 HS)はプレス成形と熱処理の両工程を同時に行う工法であり,工程省略が可能であるとと もに,熱処理歪みが小さく良好な形状精度を有する部品が得られるという特徴を有している

3)4).具体的な工法について,Fig.1.1 にて説明する.約0.2 wt.%程度C を含有するフェライ ト・パーライト鋼板のブランク(以下ブランク)を加熱炉で約 900 °C に加熱してオーステナイト

(以下 γ)化し,軟化したブランクを高温のまま金型でプレス成形すると同時に,金型への熱伝

導を利用して成形品を急速冷却してマルテンサイト組織に変態させ,1500 MPa級の部品強 度を得る.HS 部品の需要は,近年の軽量化ニーズ増大に伴い急速に拡大している. 2011 年時点での調査および予測によれば,全世界での需要量は2006年で1億個に満たない程 度であったのが,2015年には6〜7億個と予測されており(Fig.1.2)5),そのトレンドから今後の 需要の増加が期待される.

1.2. ホットスタンプ用めっき鋼板について

HS の加熱において非めっき鋼板を大気中で加熱すると,表面に酸化鉄からなるスケール が生成し,成形時に脱落し金型を摩耗させる.加熱は非酸化雰囲気で行われるため,スケ ール生成は若干抑制されるものの,炉からブランクを取り出し,金型まで搬送中にブランクが 大気に触れることでも若干酸化する.一般に自動車部品は成形後にスポット溶接性や塗装 密着性等が要求されるが,スケールが表面に付着した部品は,それらの性能を満足できな いことが多い.そのため,Fig.1.1に示すように成形品表面のスケールをショットブラスト等によ

(6)

2 Fig.1.1 Schematic process of hot stamping.

(7)

3

Fig.1.2 Forecast of global demand of hot stamped parts.

(reproduced from ref. 5))

(8)

4

り取り除く.しかし成形品のショットブラストは,工程負荷となることからその省略が望まれてい た.また HS 部品を自動車用防錆部位へ適用するための耐食性向上のニーズも高まりつつ あり,ショットブラスト省略と耐食性向上の要望等から HS 用鋼板に各種めっきを施した鋼板 が開発された.代表的なめっき鋼板として,アルミニウムめっき鋼板(以下AL)6),合金化溶融 亜鉛めっき鋼板(以下 GA)7),および溶融亜鉛めっき鋼板 8)(以下 GI)が実用化されている.

その他Zn-Ni合金めっき鋼板9)やAl-Zn合金めっき鋼板10)なども研究されている.HS用め っき鋼板の種類およびその特徴を,Fanらの総説11)を元にTable 1.1に示した.

HS 部品は,自動車用構造部材として使用されるため,部品内で一定以上の硬さを得るこ とが必要である.その観点から,HS の加熱時に鋼板中の鉄炭化物(パーライト)を溶体化して,

鋼板組織の γ 化を促すことが成形後に十分な硬さを得るために必要である. 1500 MPa 級 HS用鋼板として代表的な22MnB5 12)に相当する鋼板のAc3点は831 °Cとされる13)ため,γ 化にはそれより高い温度,例えばFig.1.1で示した900 °C近辺で加熱されることが必要であ る.実生産では,鋼板成分の他,炉の加熱能力やブランクの昇温挙動,生産性等を考慮し た加熱温度と加熱時間が設定される.

一方,HSにめっき鋼板を使用する場合,加熱時に上記のγ化反応が進行するのと並行し て,鋼板の地鉄とめっき皮膜の合金化反応や,めっき表面の酸化反応等が生じる.そのため,

めっき皮膜の結晶相,組成,表面状態等が加熱中に刻々と変化する 11).これらの変化は,

加熱後の成形性や得られる部品の特性に影響する. Znめっき鋼板を例にとると,加熱条件 によって成形品表面に液体金属脆性(Liquid Metal Embrittlement 以下LME)によるクラック が発生したり,加熱時に溶融軟化しためっきが,成形時に金型に付着する問題が生じる.ま た部品特性である前述のスポット溶接性や塗装密着性に加え,耐食性等にも影響を与える.

これらの特性変化は,加熱中のめっき皮膜の相構造変化や表面酸化等によりもたらされる.

特に前者は鋼板の加熱履歴と対象金属の平衡状態図に基づいた理解が必要である.

Zn めっき鋼板の場合,Fe-Zn 二元平衡状態図がその理解のためよく用いられる.代表的 なFe-Zn二元平衡状態図14)Fig.1.3に示す.Znの融点は419 °Cであるが,地鉄からZn めっき層へのFe拡散により,めっき皮膜にZn-Fe金属間化合物が形成する.金属間化合物 としてFe濃度が低い順に,ζ (FeZn13)15),δ 16) (FeZn10 1p) 17), FeZn7 1k) 17)),Γ1 (Fe3Zn10)18) が生成する(なおFig.1.3の状態図はδ1pとδ1kを区別せずδとして表記している).Fe濃度の

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5

Table. 1.1 Comparison of the different coating systems for hot stamping applications (reproduced from ref. 11)).

Type of coating

<Coating composition>

Adavantages Disadvantages References

Aluminized coating(AL)

<Al-7~11wt.%Si>

・Good oxidation

resistance

・Good barrier

corrosion resistance

・No LME

・Brittleness of coating

・Liquid Al adhesion

・No cathodic corrosion protection

4), 6), 26)

Galvanized coating(GI)

<Zn-0.2wt.%Al>

・Cathodic corrosion protection

・LME

・Liquid Zn adhesion

・Need to remove oxides

8)

Galvannealed coating(GA)

<Zn-10wt.%Fe-0.1wt.%Al>

・Cathodic corrosion protection

・LME

・Brittleness of coating

7), 28), 29)

Zn-Ni alloy coating

<Zn-11wt.%Ni>

・Higher melting point

・No LME

・Cathodic corrosion protection

・Higher cost 9)

(10)

6

Fig.1.3 Representative binary Fe-Zn phase diagram (reproduced from ref. 14)).

(11)

7

増大により溶融相の融点が上昇し,Γ1 の融点は最高782 °Cをとる.それより温度が高くなる とΓ1は包晶反応により分解し,液体Znと固体のフェライトに分離する.以降782 °Cを包晶反 応温度と表記する.またこのフェライトは,鉄のフェライトに Zn が固溶した構造をとるため 7), 以下区別して本論文ではFe-Zn ferriteと表記する.

代表的なHS用鋼板である22MnB5のAc3点は前述のように831 °C であることから13), 鋼板のγ化には前述のFe-Zn二元平衡状態図の包晶反応温度を超える温度で加熱が必要 であり,加熱時にめっき皮膜に液体 Zn が生成する.HS は加熱後成形を行うため,めっき皮 膜に液体Znが生成かつ残留した状態で成形による引張応力が印加されることで,成形品に LMEによるクラックが発生することがある.HS用Znめっき鋼板のLMEに関する研究につい ては,次節でLMEの全体的な説明を行った後,1.4で詳しく述べる.

1.3.   液体金属脆性について

1.3.1. 液体金属脆性の概要および実例

LME は延性を示す金属が,液体金属薄膜に覆われた状態で引張応力が印加されると脆 性破壊を起こす現象と定義されている 19),20).その脆性破面の多くは結晶粒界であるが,結 晶粒内で破壊する場合もある(cleavage fracture).LMEは金属脆化現象であり,その特徴は 破断応力や破断歪が顕著に低下する点にある.他の機械的性質,たとえば耐力や弾性率 などは影響を受けないとされている.LME のクラック伝播に必要な引張応力は,クラックの起 点発生に必要な応力より格段に低いとされる.すなわちクラックが一旦生じると急速に伝播 する.ちなみにLMEのクラック伝播速度は0.1 〜数m/s と見積もられることから19),破局的 (catastrophic)な破壊という表現で説明がなされることがある.破面では液体金属薄膜が破面 全体を被覆している状況が観察される.

LMEが工業的にクローズアップされた例として,溶融Ga による航空機材料損傷や,化学 プラントに使用されたステンレス鋼の溶融Znによる損傷事例(英Flixborough化学プラントで の大規模火災)があり21),その後精力的な研究が欧米を中心になされた19-22)

国内におけるLMEの検討例を以下に紹介する.わが国ではLMEはろう接の際に材料に クラックが発生する現象として古くから知られ,「はんだ脆性」と呼ばれた23).はんだ脆性は曲

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8

げ加工などにより鋼に残留応力が存在する条件下で,融点の低いCu合金系ろう材を用いて ろう接すると鋼が割れることから命名された23).他の例としてはSUS304と軟鋼をCu板でろう 接するケ−スや,軟鋼や合金鋼を黄銅やCuでろう接するケ−スがある. 

他のLMEの例として,Cu添加鋼を熱間圧延すると鋼材表面にひび割れが生じる現象(赤 熱脆性,Cuチェッキングと呼ばれる)や,鋼表面にCuやZnなどが付着した状態で鋼を溶接 すると残留応力により溶接熱影響部(Heat Affected Zone  以下HAZ)にクラックが発生する現 象などがある.鋼構造物を溶融 Zn めっきする際に発生するクラックは,総称して「Zn めっき 割れ」とされ,熱応力 24)と溶接時の残留応力起因のクラックが課題となった.「Zn めっき割れ」

の例は後の1.3.3節で紹介する.また工具等(プレスのZnめっき金型や溶接時のCu製裏当 金,溶接トーチのCuチップ等)から混入するZnやCuの屑に起因し,その後の加熱や溶接 による残留応力等で鋼にクラックが発生する事例23)も多く,それぞれ対策がとられた.

1.3.2. 液体金属脆性の現象と機構

LME は,その現象として金属の腐食や溶解すなわち化学反応や電気化学反応,粒界拡 散による金属原子の侵入などではなく,脆性破壊の一種と考えるべきで,起点となる欠陥が 必要との主張がなされている 19).また LME は引張応力が印加されないと生じない現象であ り,液体金属に固体金属が接触するだけで,液体金属が固体金属内に侵入するとの報告は ない.一般的にLMEは液体金属の凝固温度直上でもっとも激しく生じ,温度上昇とともに抑 制されるとされる 19).すなわち LME は一定の温度域で発生することが多く,この温度域は ductility through(樋)と呼ばれることがある.これは金属の靭性がある一定温度域で低下する ので,温度と靱性の関係のグラフは樋の形状になることから,そのように呼ばれた21)

LME が生じる前提条件として以下二つの要件が知られている 19).一つ目は金属が塑性 変形するだけの引張応力が必要なことである.弾性変形範囲の引張応力では LME は生じ ない.二つ目は,液体金属原子と引張応力が印加される固体金属原子とが直接接触するこ とである21).固体金属のクラック最先端に液体金属原子が存在しなければLMEによるクラッ クはそれ以上伝播せず,液体金属原子が枯渇するとクラック伝播は停止する.

液体金属と固体金属とが接触すると,液体金属と固体金属のすべての組合せで LME が 生じる訳ではなく,LMEが生じる組合せと生じない組合せがある22).鋼にLMEを生じさせる

(13)

9

液体金属としては,Cd,In,Li,Te,Zn等が知られる.Al合金でLMEが生じる液体金属とし て,Ga, Hg, Na, Sn等が知られるが,これらの液体金属に対して鋼はLME感受性を示さない.

液体Inと液体Znは鋼でもAl合金でもLMEが生じる.このように,LMEが生じる液体金属 と固体金属には特定の組合せが存在する.LMEが生じる条件として,(a)金属の相互の固溶 度が低いこと,(b)金属間化合物を形成しないこと,の二条件が液体金属と固体金属の「濡れ 性」に相関すると考えられ提案された19).しかし液体Znによる鋼のLMEのように,いずれの 条件に当てはまらないケースもあり,上記の(a)(b)の2条件が「濡れ性」と必ずしも関係しない ことが判明した22)

JosephらによればLMEによるクラック発生に関して,以下説明する4つの説が提案されて

いる 20).クラック先端における固体金属の溶解・拡散説(Robertson & Glickman),脆性破壊 説(SJWK,Stoloff-Johnson-Westwood-Kamdar),延性破壊説(Lynch & Popovich),と液体金 属の結晶粒界侵入説(Gordon)である.以下各説についてそれぞれ説明する.

Robertson & Glickmanは引張応力が印加された状態の,LMEによるクラック伝播速度の 導出式を示した.まず彼らは液体金属への固体金属の溶解速度が引張応力の印加で増大 する点に着目した.応力が集中するクラック先端部の固体金属の溶解量を,キャピラリ−効 果(液体金属と固体金属の界面エネルギーに起因する効果)を勘案し求めた.この溶解量を 応力集中がない部位と比較し,液体金属への固体金属の溶解量の差異(濃度勾配)が引き 起こす固体金属の液中拡散流束からクラック伝播速度を求めた.彼らの計算結果は,液体 HgによるCuのLMEクラック伝播速度と概ね合致したが,LMEにおよぼす固体金属の飽和 溶解度依存性や,クラック伝播速度の温度依存性の説明が困難であった.なお本説はクラッ ク伝播については述べているもののクラック発生について述べていない.

Stoloff-Johnson-Westwood-Kamdar(SJWK)らによる脆性破壊説について説明する.この 説はクラック先端部に液体金属原子が化学吸着することで,クラック先端部を構成する固体 金属の原子間結合エネルギーが弱められ,引張応力により原子間結合が切断されて,クラッ クが発生・伝播するとの考えである.本説は固体金属の原子間結合の弾性変形を前提とす るもので,破壊応力値におよぼすLMEの温度やひずみ速度,固体金属の結晶粒度やすべ り面の影響が説明される.しかし LME は脆性破壊であり,実験で得られる破壊応力値は SJWK説で計算される値より顕著に低く,破壊応力値も一致しない欠点があった.

(14)

10

Lynch & PopovichはRobertson & Glickmanの固体金属の溶解・拡散説をもとに,クラック 先端部の固体金属に原子間結合エネルギーの弱化を通じて転位が導入され,転位面のスリ ップを経て空孔(void)が形成し,破壊が進行するクラック伝播機構を提案した.転位の導入 により比較的低い外部応力でもクラック先端部が容易に塑性変形してクラックが伝播するモ デルは,LME が固体金属の塑性変形時にしか生じないという実験事実と矛盾しないもので ある.

Gordon は LMEにより脆性破壊に至るまで潜伏期間を示す,いわゆる「遅れ破壊」挙動を

示す液体金属と固体金属の組合せを対象とし,潜伏期間におよぼす温度変化の影響に着 目して検討を行った.LME に見られる潜伏期間は,液体金属が固体金属の結晶粒界内を,

表面張力を駆動力とする液体金属の「流れ」で侵入するとしたが,この説ではLMEにおよぼ す引張応力の影響が説明されていないとの指摘がある.

上記で説明した四説についてまとめると,LME のクラック発生と伝播機構は,液体金属と 固体金属の組合せにより種々異なると考えられる.本研究で取り扱う液体 Zn と鋼の組合せ によるLMEの場合,Lynch & Popovichの考え方,すなわちクラック先端部における液体Zn 原子の化学吸着が,割れ先端を構成する Fe 原子間の結合エネルギーを弱めることで鋼に 転位が導入され,クラック先端部の鋼に延性破壊が発現するとの理解が現時点では妥当と 判断される(Fig.1.419)).LME クラックの発生・伝播機構について本節ではこれ以上触れない が,LMEの機構究明に向け今後の更なる検討が待たれる.

1.3.3. 液体 Zn と鋼の組合せによる液体金属脆性の実例

本節では本研究で取り上げる液体Znと鋼の組合せで生じるLMEの代表例である送電鉄 塔部材の「Znめっき割れ」の研究例を中心に説明する.

鉄塔部材の「Znめっき割れ」は,鉄塔部材を溶融Znめっき浴(450〜470 °C)に浸漬した際 に,溶接熱影響部(HAZ)でクラックが発生する現象である.LME 感受性におよぼす鋼の化 学成分や冶金的因子の影響がこのケースについて系統的に調べられた25).鋼に添加される 合金元素はそれぞれ影響度に差があるものの,炭素を含めてすべてが LME 感受性を高め るとされ,なかでもBの影響が特に大きいとされた.合金元素はおそらく部材のHAZを硬化 させることで溶接残留応力を増大させると考えられることから,結果としてLME感受性を高

(15)

11

Fig.1.4 Schematic illustrating displacement of atoms at the crack tip proposed by Lynch and Popovich. The bond A-A0 constitutes the crack tip, and B is the liquid metal atom.

(reproduced from ref.19))

(16)

12 めたものと推察される.

武田によると 25)「Znめっき割れ」は,溶融 Zn めっき温度と鋼材の不純物元素の偏析等の 相乗作用により結晶粒界が脆化するのではなく,鋼の結晶粒界にZnが拡散侵入し,引張応 力印加により粒界が脆化して,クラックが伝播するとの説を提案した.本説は結晶粒界にお ける Zn濃度が臨界値に達すると,引張応力により結晶粒界が開口してクラック発生に至ると するものである.すなわちクラック発生に先行して鋼の結晶粒界にZnが拡散侵入し,粒界強 度を低下させる.この場合クラックの伝播速度より Zn の粒界拡散速度の方が速いとした.彼 は溶融Znめっき浴への鋼材浸漬時間が1〜3週間の試験結果をもとにZnの粒界拡散説を 主張したが,本研究および後述するZnめっき鋼板におけるHSのLMEの研究例において は,液体Znと鋼の接触時間が短い(本研究での最長の加熱時間は300 sであった)場合にも,

LMEによるクラックは多く発生しており,実験事実を総合的に説明できるLMEの機構が必要 であると考えられる.

1.3.4. Zn めっき鋼板のホットスタンプにおける液体金属脆性について

1.2.節で説明したように,HS部品のショットブラスト工程省略および耐食性向上等を目的と

し,HS 用めっき鋼板の適用ニーズが高まっている.Zn めっき鋼板は,従来から自動車およ び建材等に防錆鋼板として広く利用されており,HS への適用検討も精力的に行われてきた.

その中でLMEに関する課題が浮き彫りとなり,実用化に向けた開発と並行して研究も多く進 められた.

DrilletらはHS後のGIおよびGA成形品表面に発生する「マクロクラック」が,地鉄の旧γ

粒界への液体Znの侵入によるものであると指摘し26),以降Znめっき鋼板のLMEに関する 研究が多く進められた 26)-35).Lee27)  らは GI を用いて,Akioka28)29),Kojima30),Nakata31)

Takahashi32)らは GA を用いて,鋼板の加熱を適切に行えば,めっき皮膜の一部が液体状態

となる包晶反応温度を超える温度で成形加工を行っても LME によるクラックを防止できるこ とを示した.

Lee27),Akioka29),Nakata31),Takahashi32)らは,LME によるクラックが発生した試料には,

液体Znの痕跡としてη 相およびδ相29) ,Γ相27)31)32)がめっき皮膜に存在することと,十分 な加熱時間を確保することで,それらの検出量等が小さくなれば顕著なクラックは発生しな

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13 いことを報告した29)31)32)

HS時のZnめっき鋼板のLMEクラックの発生・伝播に関する研究は, GI を用いて前記 Lee ら 27)お よ び Cho ら 33)が 報 告 し て い る . HS 用 鋼 で は な い が 高 Mn TWIP (Twinning-Induced Plasticity) 鋼を用いたKang らの報告34)もある.LeeらはGIを850 °Cで 加熱し,加熱直後,あるいは700 °Cまで冷却後に引張試験を行い強制空冷した試料を作成 した.彼らは 850 °C で引張試験を行った試料のみが脆化するとした.また断面観察の結果 から,包晶反応温度を超える温度に加熱されためっき皮膜に液体Znが生成し,その後引張 による塑性変形を付与することで γ粒界強度が低下した結果,クラックが発生したと推察した

27).Cho らは,GI を加熱後引張試験を行った試料に発生したクラックの TEM 観察および EBSD解析を行った.クラック側壁に薄いFe-Zn ferrite膜が存在したことから,地鉄のγ粒界 に Znが侵入してFe-Zn ferrite膜を形成するが,その強度が地鉄のγ相より小さいので,引 張による塑性変形によりクラックが発生するとした 33).Kang らはクラック最先端部に Г 相

((Fe,Mn)3Zn10)を検出し,その先の地鉄の結晶粒界に Zn の拡散痕跡を確認した.この結果

からγ粒界へのZn侵入は液体Znの侵入説およびZnの粒界拡散侵入説のいずれにも整 合するとした 34).Cooman らは 35)今後も議論の余地があるとしたものの,Cho らの示した旧 γ 粒界に見られた Zn の粒界拡散痕が,Rabkin ら 36)により提唱された液体 Zn による粒界の

“Pre-wetting” によるものであるとした.それにより粒界への液体Znの侵入が毛管現象により 促進され,LMEが生じたとしている.

1.4. 本研究の目的と構成

Znめっき鋼板を用いた直接成形による HSは 21世紀初頭の2003年に国内で初めて確

立された 28)29).その後,部品は順次自動車に搭載・実用化され,国内外で自動車の衝突安

全性向上および軽量化による燃費改善に大きく寄与している.その技術確立にあたり,鋼に 対する液体 Zn の LME は避けて通れない大きな課題であり,先人たちの努力により克服し てきた経緯がある.

主に1.3.4.節で説明したように,HSにおけるZnめっき鋼板のLMEについては,工業的な

実用化を背景としたLMEクラックの発生要件(あるいは防止要件)の研究とLMEクラックの発

(18)

14

生・伝播機構に着目した研究に大別される.しかし前者と後者の因果関係,すなわち生産現 場で遭遇するLMEの発生要件とLMEクラックの発生・伝播機構を関連付ける研究例は,あ まり見当たらない.工業製品の品質に影響する LME クラックの発生・頻度,そしてクラック伝 播・停止も含めた総合的な機構解明に関する研究は十分になされているとは言い難い.これ らの課題に対して本研究で取り組んだ内容を以下紹介する.

第2章ではZnめっき鋼板としてGAを用い,HSにおけるLMEクラックの発生をめっき皮 膜での液体Znの生成に関連付けて調べた.第3章ではめっき皮膜から地鉄のγ粒界へ液 体Znが侵入する要件を詳細に調べた.第 4章では LMEクラックの発生におよぼすHS時 の成形ひずみの影響を調べた.

液体金属が固体金属の結晶粒界になぜ侵入するかという,LME の駆動力について検討 した研究例は少ない.液体金属が固体金属の結晶粒界に侵入しなければ,LME は生じな い訳であり,液体金属が結晶粒界を通じて,クラックに侵入する駆動力が何に基づくかを理 解することは,LMEを理解する上で重要と思われる.そのような認識から,第5章では,液体 ZnとFeの組合せの界面エネルギーを求めるための第一原理計算を行い,Feの結晶粒界に 侵入した場合のZnの安定性について評価した.第6章では, 総括として第2章から第5章 の研究を総括し,今後の展開について述べた.

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13) T. Nishibata and N. Kojima: Tetsu-to-Hagane, 96 (2010), 378.

14) B. P. Burton and P. Perrot in: Phase Diagrams of Binary Iron Alloys, ed. by H. Okamoto, ASM International, Materials Park, Ohio, (1993), 459.

15) P. J. Gellings, E. W. D. Bree and G. Gierman: Z.Metallkd., 70 (1979), 315.

16) G. F. Bastin, F. J. J. Loo and G. D. Rieck: Z.Metallkd., 68 (1977), 359.

17) M. H. Hong and H. Saka: Scr. Mater., 36 (1997), 1423.

18) J. K. Brandon, R. Y. Brizard, P. C. Chieh, R. K. McMillan and W. B. Pearson: Acta Crystallogr. B, 30 (1974), 1412.

19) M. H. Kamdar: ASM Handbook, Vol.13 Corrosion, ASM International, Materials Park, OH, (1987), 171.

20) B. Joseph, M. Picat and F. Barbier: Eur. Phys. J. Appl. Phys., 5 (1999) 19.

21) M. G. Nicholas and C. G. F. Old: J. Mater. Sci., 14 (1979), 1.

22) F. A. Shunk and W. R. Warke: Scr. Metall., 8 (1974), 519.

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24) M. Kikuchi: Tetsu-to-Hagane, 68 (1982), 1870.

25) T. Takeda: J. Jpn. Weld. Soc., 71 (2002), 234.

26) P. Drillet, R. Grigorieva, G. Leuillier and T. Vietoris: Proc. GALVATECH 2011 Conf., Genova, Italy, (2011), 371.

27) C. W. Lee, D. W. Fan, I. R. Sohn, S. J. Lee and B. C. D. Cooman: Metall. Mater. Trans. A, 43A (2012), 5122.

(20)

16

28) K. Akioka, K. Imai, S. Sudo, M. Ichikawa and A. Obayashi: Materia Jpn., 51 (2012), 70.

29) K. Akioka, K. Imai, M. Matsumoto, T. Nishibata, N. Kojima, T. Takayama, H. Kikuchi and Y. Yoshikawa: Proc. JSAE Annual Congress (Spring), Yokohama, Japan, 21-11 (2011), 1.

30) N. Kojima, T. Nishibata, K. Imai, K. Akioka, K. Hikita, K. Hayashi and H. Kikuchi: Hot Sheet Metal Forming of High-Performance Steel, Proc. 3rd Int. Conf., Verlag Wissenschaftliche Scripten, Auerbach, Germany (2011), 511.

31) M. Nakata, K Akioka, M. Takahashi, H. Takebayashi, K. Imai, T. Takayama and N.

Kojima: Proc. FISITA 2012 World Automotive Congress, Vol.11, Springer-Verlag, Berlin Heidelberg, Germany, (2013), 111.

32) M. Takahashi, K. Akioka, H. Takebayashi, K. Imai, T. Yonebayashi, M. Nakata, T.

Takayama and N. Kojima: Hot Sheet Metal Forming of High-Performance Steel, Proc.

4th Int. Conf., Verlag Wissenschaftliche Scripten, Auerbach, Germany, (2013), 453.

33) L. Cho, H. Kang, C. W. Lee and B. C. D. Cooman: Scr. Mater., 90-91 (2014), 25.

34) H. Kang, L. Cho, C. W. Lee and B. C. D. Cooman: Metall. Mater. Trans. A, 47A (2016), 2885.

35) B. C. D. Cooman, W. Jung, K. R. Jo, D. H. Sulistiyo and L. Cho: Proc. GALVATECH 2017 Conf., Tokyo, Japan, (2017), 790.

36) E. I. Rabkin, V. N. Semenov, L. S. Shvindlerman and B. B. Staraumal: Acta Metall.

Mater., 39 (1991), 627.

以上

(21)

17

2 章 ホットスタンプにおける合金化溶融亜鉛めっき鋼板の 液体金属脆性 (LME) におよぼす加熱時間の影響

2.1. 緒言

Zn めっき鋼板を HS に適用する場合,加熱条件により成形品表面にクラックが発生する.

Drillet らは 1)加熱時にめっき皮膜に液体 Zn が生成する条件で液体金属脆性(以下 LME)

によるクラックのリスクの可能性を指摘した.めっき皮膜に液体Znが生成して,地鉄のγ粒界 に侵入することで LME が生じると説明したが,めっき皮膜に液体 Zn が生成し,その試料で 実際に LME が生じたかどうか,また加熱によりめっき皮膜の化学組成がどのように変化し LMEに影響するかは示されていない.さらにめっき皮膜に生成した液体Znが地鉄のγ粒界 に侵入したとする実験事実も示されていない.

そこで本章では,合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)のHS時の加熱時間を系統的に変化さ せ,めっき皮膜の化学組成変化と LME によるクラック発生を関連付けるとともに,クラックの 発生箇所を解析することで,めっき皮膜の液体 Zn生成条件と地鉄におけるZn侵入箇所に 関する知見を得ることを目的に実験を行ったので報告する.

2.2. 実験方法

2.2.1. 供試鋼板および試料作製時の加熱成形条件

HS 用合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)として 2.6 mm 厚のものを用いた.鋼の化学組成 は0.21 wt.%C -0.24 %Si -1.3 %Mn -0.0018 % B であり,1500 MPa級HS用鋼板の標準的 な鋼種である22MnB5に相当する2).金属組織は通常の炭素鋼と同様のフェライト−パーラ イト組織 2)であった.GA のめっき付着量は片面 61 g/m2 で,めっき皮膜の Fe 濃度は 12 wt.%であった.めっき皮膜厚はおよそ9 μmで,そのほとんどがδ相(FeZn7あるいはFeZn10) からなり,若干のΓ1相(Fe3Zn10)とわずかなη相を含むことをX線回折分析(以下 XRD)で確 認した.鋼板から60 mm × 40 mm の試料を切断し,900 °Cに設定した実験室の燃焼ガス加 熱炉にて加熱した.

(22)

18

加熱時の試料の代表的な温度履歴をFig.2.1に示す.試料は加熱炉内に挿入後90 sから

300 s の範囲で加熱した後,炉から取り出しV字金型に移し速やかにV曲げを行った.成形

は液圧プレス機を用い成形速度を 100 mm/s,下死点での成形力を 40 kN,下死点保持時 間を30 sとした.V字金型の先端角度は90 °とし,パンチ先端半径は0.5 mmとした.ダイス の金型内部に水路を設け,連続通水を行うことで常に冷却された状態とした.金型の模式図

Fig.2.2 に示す.成形による真ひずみを測定するため,試験前の鋼板に予めビッカース圧

痕を付与し圧痕が V 曲げ中央部となるように成形を行い,成形前後の圧痕径の変化から真 ひずみを求めた.その結果,試料のV 曲げ部の真ひずみは0.45であった.炉から試料をと り出してから成形までの時間はおよそ7 sから9 sの間であった.試料の鋼板端面に熱電対を 直接接続し,加熱開始から成形終了後までの間の温度履歴を連続測定した.

2.2.2. 試料の断面観察,金属組織調査および分析

試料は試験後に試料長辺と平行かつV曲げ稜線に垂直に切断し,樹脂に埋め込んだ後 研磨を行って断面観察に供した.走査型電子顕微鏡を用いて,試料の V 曲げ外側面の二 次電子像(以下 SEM像)と反射電子像(以下 BSE像)を撮影した.断面観察は試料の V曲 げ外側面中央部を挟んだV曲げ部約1/4円周分の約4 mmについて行った.断面観察試 料の一部はピクリン酸でエッチングを行い地鉄の金属組織と旧 γ粒界を現出させた.電子線 マイクロアナライザー(以下 EPMA)により試料の一部から Zn のマッピング像を得た.めっき 皮膜のZn濃度を測定するため,顕微鏡に付属しているエネルギー分散型X線元素分析器

(以下 EDS)を用いた.励起電圧は15 kVとし,めっき皮膜中央部の8 μm × 10 μmの領域に

おけるZnとFe濃度を分析した.分析は同一試料でめっき皮膜の5箇所について行い,Zn 濃度の平均値を求めた.まためっき皮膜のEDS点分析を行い,皮膜内の局部的なZn濃度 を測定した.試料で成形の影響がおよばないフランジ部のXRDをCo Kα線源を用いて行っ た.各金属間化合物相および回折強度は以下の2 θ領域から回折される1秒間あたり強度 を積算して求めた.Γ1相は2 θで93 °から95 °間で回折が見られる{721}面を3).δ相は2 θ で48.5 °から49.2 °間で回折が見られる{1412}面を4) ,η (hcp-Zn)は2 θで63.5 °から64.5 ° 間で回折が見られる{1012} 面をそれぞれ用いた 5).なおバックグランド強度は回折強度か ら除いた.

(23)

19

Fig.2.1 Representative temperature history of a tested sheet specimen upon heating and stamping.

(24)

20

Fig.2.2 Schematic illustration of the hot V-bend test.

Water Cooling Channel

(25)

21

2.3. 実験結果

2.3.1. 試料の断面観察結果

各加熱条件における試料の最高到達温度と成形開始温度をTable 2.1に示す.試料は加

熱開始後180 sで890 °C付近に到達した.成形開始温度は加熱時間が195 sで最高到達

温度の800 °Cに到達し,以降781 °Cから800 °Cの範囲内に留まった.

加熱時間を90 sから240 sに変化させた試料断面BSE像をFig.2.3に示す.90 sと240 s の試料はめっき皮膜にのみクラックが観察された.これらの試料では地鉄にクラックは観察さ れなかった.加熱時間が120 sと180 sの試料では,地鉄にクラックが明瞭に発生しており,

その深さはめっき皮膜厚より大きかった.加熱時間が120 s, 150 s, 180 sのそれぞれの試料 について観察された大きく深いクラックの断面SEM像をFig.2.4Fig.2.5に示す.各試料は 顕微鏡観察前にピクリン酸エッチングを行って地鉄の旧 γ 粒界を現出させた.その結果,め っき皮膜と地鉄の界面が明瞭に観察された.めっき皮膜は粒径が約 10 μm 超の Fe-Zn ferrite の等軸晶結晶粒からなっていた.Fe-Zn ferrite 粒間の「隙間」は.成形により Fe-Zn

ferrite結晶粒界が拡げられたか,加熱時にめっき皮膜に存在した液体Znが成形時に冷却さ

れ,金属ZnとZn-Fe金属間化合物に変化して,ピクリン酸の腐食により溶出したかのいずれ

かあるいは両方の要因で形成したと考えられる.地鉄のクラックは成形により生じたと考えら れ,クラック起点は加熱時にめっき皮膜に液体Znが存在した場所に対応するものと考えられ た6).Fe-Zn二元平衡状態図7)によると液体Znは冷却により金属ZnとZn-Fe金属間化合物 およびFe-Zn ferriteとして固化するが,金属ZnとZn-Fe金属間化合物はFe-Zn ferriteに比 べて電位的に卑である8)9)ため,ピクリン酸により腐食されやすい.したがってこれらの物質が 優先溶解し,Fe-Zn ferriteからなる結晶粒が残されたと考えられる.めっき皮膜に近い地鉄の 金属組織は旧 γ 粒界に囲まれたマルテンサイト組織であり,クラック側壁から地鉄側に食い 込んでいる部分の先端は地鉄内部に伸びた旧 γ 粒界の始点となっていた(Fig.2.5(a) の白 矢印を参照).クラックはめっき皮膜のFe-Zn ferrite結晶粒の隙間に存在した液体Znが.め っき皮膜と地鉄の界面を起点として地鉄の旧γ粒界に沿って侵入していた(Fig.2.5(b)の黒矢 印を参照).したがってクラック発生は,めっき皮膜から供給された液体Zn による LME が直 接的な原因であることがわかった1)10).以降本章において地鉄に侵入したクラックのうち,深

(26)

22

Table 2.1 Maximum specimen temperatures upon heating and specimen temperatures at the start of hot stamping for respective tests.

(27)

23

Fig.2.3 Cross-sectional BSE (backscattered electron) images of the surface portion at the tip of the bent specimens heated for (a) 90 s, (b) 120 s, (c) 180 s, and (d) 240 s.

(28)

24

Fig.2.4 Cross-sectional SEM images of the hot-stamped specimens heated for (a) 120 s, (b) 150 s, and (c) 180 s. These specimens were etched by picric acid before SEM imaging.

(29)

25

Fig.2.5 Magnified SEM images of edges of the large cracks in Fig.2.4 for specimens heated for (a) 120 s, (b) 150 s, and (c) 180 s.

(30)

26

さが5 μmを超えるクラックをLMEによるものとして取り扱うこととする (理由は後述する).

加熱時間が180 sの試料の断面SEM像と対応する箇所のZnマッピング像をFig.2.6に 示す.地鉄に侵入したクラック側壁に Zn 濃化が確認された.したがってめっき皮膜で液体 Znが生成し,液体Znが地鉄のγ粒界に侵入することでクラックが発生したものと考えられた.

本章で議論する地鉄内に侵入したクラックは液体ZnによるLMEが原因で発生したと結論付 けられる.

GAを加熱する際に, ZnとFeの合金化反応でめっき皮膜と地鉄界面に形成するいわゆ る「反応相11)」は今回観察されなかった.この理由として地鉄すなわちγ-Fe内のZnの拡散 距離が非常に小さいことによると考えられる.したがってクラックの発生は「反応相」が起点で はなく,液体Znを含むめっき皮膜と地鉄とが直接接する箇所が起点である可能性が高く,ク ラックはめっき皮膜に生成した液体Znにより発生したことが妥当と判断される.そこでめっき 皮膜の化学組成,結晶相を中心とした調査を行った.

2.3.2. クラック深さにおよぼす加熱時間の影響

Fig.2.7の定義に基づき,Table 2.1に示した各試料のV曲げ外面側1/4円周部に発生し

たクラックの深さと幅を測定した.クラック深さとその最大値,クラック幅とその最大値を加熱時 間に対してプロットした結果をFig.2.8Fig.2.9に示す.加熱時間が90 sの試料はクラック深 さが5 μm以下と軽微だが,加熱時間が120 sから195 sまでの試料では,深さ50 μmを超え る大きなクラックが確認された.最大クラック深さは加熱時間が 150 s を超えると減少傾向に 転じ.240 s以上の試料で再び軽微になったことから,最大クラック深さが5 μm以下の試料で は LME が生じていないと判断した.クラック幅とクラック深さは共に同様の加熱時間依存性 を示した.なお最大深さを示したクラックは,試料の V 曲げ外面側曲げ中心部に存在した.

めっき皮膜の平均Zn濃度と,Zn-Fe金属間化合物と金属Znに相当する化学種のXRD強 度をTable 2.2に示す.加熱時間が90 sの試料の平均Zn濃度は75 wt.%であったが,加熱 時間の経過によりZn濃度が減少し,加熱時間が300 sの試料では29 wt.%となった.Zn濃 度の減少は,加熱時間の経過に伴う地鉄からめっき皮膜へのFeの拡散によると考えられる.

なおめっき皮膜から地鉄へのZnの拡散は本実験条件下では以下の概算により考慮しなくて よいものと考えられる.γ-Fe中のZnの拡散係数に関するデータはほとんど無いので,557 °C

(31)

27

Fig.2.6 EPMA mapping of zinc and cross-sectional SEM image of a crack generated in a specimen heated for 180 s. EPMA mapping was performed for a cross-section of an as-polished specimen, and the SEM image was obtained after etching the specimen by picric acid.

(32)

28

Fig.2.7 Definition of crack depth and width employed in this study.

(33)

29

Fig.2.8 Changes in the tested specimen crack depth as a function of heating time in the furnace. Numbers in the figure designate the maximum crack depth. Closed marks show the maximum crack depth, whereas open marks indicate the respective depth of cracks that penetrated the metal substrate. Asterisks denote the absence of LME.

(34)

30

Fig.2.9 Changes in the tested specimen crack width as a function of heating time in the furnace. Numbers in the figure designate the maximum crack width. Closed marks show the maximum crack width, whereas open marks indicate the respective crack width. Asterisks denote the absence of LME.

(35)

31

Table 2.2 Average zinc concentrations obtained by EDS and XRD intensity of the identified phases in the coating layer.

Γ1 δ η

(s) (wt.%) (cps) (cps) (cps)

As received 88 53 631 23

90 75 276 12 <5

120 44 125 62 12

150 39 57 52 12

180 35 19 29 8

195 36 9 20 <5

210 34 <5 10 <5

225 35 <5 8 <5

240 31 <5 6 <5

270 32 <5 <5 <5

300 29 <5 <5 <5

Heating time in the combustion

gas furnace

Zinc concentration

Xray diffraction intensity

(36)

32

から791 °Cの範囲でZn濃度 20 wt.%を含むα-FeにおけるZnの拡散係数12)を使用して 評価した.このデータを900 °Cに外挿し,900 °Cで210 s加熱した場合のα-Fe中のZnの 拡散距離を算出したところ0.5 μmの値を得た.γ-Fe中のZnの拡散はα-Fe中に比べてさら に遅いと考えられるので,γ-Fe中のZnの拡散距離はさらに小さい値となり,本実験条件下に おいてめっき皮膜と地鉄界面でFe-Zn ferrite層が実質形成されないと考えてよいことがわか った.Fig. 2.5 でも,めっき皮膜と地鉄の界面に第三相となる層は確認されていない.めっき

皮膜のFe-Zn ferrite粒と直接接触する地鉄の金属組織はマルテンサイト組織であることから,

めっき皮膜が地鉄のマルテンサイト変態に影響をおよぼしていないことは自明である.したが って加熱時にめっき皮膜と地鉄は「直接」接触した状態にあり,めっき皮膜の一部が分解・溶 融して液体Znを生成し,液体Znが地鉄のγ粒界に侵入し地鉄にクラックを発生させた可能 性が高い.

実験に使用した加熱前のGAのめっき皮膜はその大部分がδ 相からなり,その他少量の Γ1 相とη 相(液体Zn凝固相)を含む(Table 2.2).δ 相とη 相は90 sの加熱でΓ1 相に変化 し,その後120 sの加熱でΓ1 相は分解して液体Znが生成するため,冷却後はΓ1 相,δ 相 とη 相が同定される.その後の加熱時間の経過に伴い,Γ1 相とδ相は減少し,270 s以上の

加熱でZn-Fe金属間化合物はXRDで検出されなくなった.液体Znの凝固相であるη 相は

XRDで加熱時間は120 sから180 sの試料にのみ検出され,195 s以降では検出されなくな った.

2.4. 考察

  Drillet らの研究1)を参考に,HS用Znめっき鋼板の加熱時にめっき皮膜で生成する液体

Zn起因のLME挙動について考察する.液体Znはめっき皮膜のFe-Zn ferrite粒間に生成 するが,めっき皮膜の平均Zn濃度をFe-Zn 二元平衡状態図7)上にプロットすることでめっき 皮膜の液体Znの生成有無に関する情報を得ることができると考えた.めっき皮膜の平均Zn 濃度と成形開始温度をプロットした結果をFig.2.10に示す.Fig.2.10の各プロットには加熱時 間を付記した.明らかにFe-Zn 二元平衡状態図で示される包晶反応温度の782 °Cより低い 成形開始温度でもLMEが生じる結果になった.液体Znが無い状態でLMEが生じることは

(37)

33

Fig.2.10 Average composition of the coating layer at the time of hot stamping and the specimen temperature at the start of stamping superimposed on the binary Fe-Zn phase diagram7). Open marks show the occurrence of LME, whereas closed marks indicate its absence. The numbers in the figure denote heating time in the furnace.

(38)

34

考えにくいので,加熱時に生成した液体Znが成形時にも固化が終了せず残存していること が示唆される.そこでめっき皮膜の平均Zn濃度と試料の最高到達温度を同様にプロットした

結果をFig.2.11に示す.加熱時間が90 sのLMEクラックの発生が無かった試料の場合,め

っき皮膜は主としてΓ1相であることが示唆され,XRDの結果と一致した(Table 2.2).加熱前 試料のめっき皮膜のZn濃度は88 wt.% であることから,めっき皮膜は地鉄からのFeの拡散 を受けてZnが希釈され,Γ1相が生成したと考えられる.加熱前試料のめっき皮膜はδ 相が 主であるがTable 2.2に示すように加熱によりδ 相は著しく減少した.試料の最高到達温度の

763 °Cは包晶反応温度の782 °Cより低い.したがって液体Znは成形時に生成しておらず,

LMEによるクラックが発生しなかったと考えられた.

  次に加熱時間が 120 s と 150 s の試料について考察する.最高到達温度はそれぞれ 834 °Cと878 °Cであり,めっき皮膜に液体ZnとFe-Zn ferriteの生成が示唆される.すなわ ち加熱中にめっき皮膜に生成した液体 Zn が成形時に残存し,LME によるクラックを発生さ せたと理解することは可能と思われる.各試料の成形開始温度はそれぞれ750 °Cと761 °C であり,包晶反応温度の782 °Cよりも低いが,XRDにおいてδ 相とη 相が確認されたこと から,成形時の液体 Zn の存在と矛盾しない.加熱炉から金型へ試料を移動するのに要した 時間は約7 sから9 sであったが,その間に以下の反応が十分に進行せず,めっき皮膜の液 体Znがすべて固化しなかったことが示唆された.

Fe-Zn ferrite + Liquid Zn → Fe-Zn ferrite + Γ1

加熱時間が 180 s と195 s の試料についても,めっき皮膜が加熱炉内で液体 Zn および

Fe-Zn ferriteの二相共存域にあったことがFig.2.11から判る.これらの試料の成形開始温度

はそれぞれ785 °C と 800 °Cであり,包晶反応温度の782 °Cを超えていた.しかしFig.2.8 においてクラック深さが減少傾向にあるものの,XRD から δ 相および η 相両相が存在し液 体Znの存在が裏付けられるため,加熱時間120 sと150 s の試料と同様にめっき皮膜に残 存した液体Znが成形時にLMEを生じさせたと考えられる.

加熱時間が210 sと225 sの試料では,めっき皮膜の平均Zn濃度はFig.2.11に示すよう に,液体ZnとFe-Zn ferriteの二相共存域とFe-Zn ferrite単相域の境界近くに位置し,発生

(39)

35

Fig.2.11 Average composition of the coating layer at the time of hot stamping and the maximum specimen temperature in the furnace superimposed on the binary Fe-Zn phase diagram7). Open marks show the occurrence of LME, whereas closed marks indicate its absence. The numbers in the figure denote heating time in the furnace.

(40)

36

したクラックは浅かった.めっき皮膜の平均Zn濃度は加熱炉内の最高到達温度計測時点に おける分析値でないことから,成形時にZn濃度が若干高かった可能性があり,ごく微量の液 体Znがめっき皮膜に存在していた可能性がある.ごく微量の液体Znが地鉄に軽度のLME を生じさせクラックが発生したと思われる.

加熱時間が 240 s とそれ以上に長い試料では LME によるクラックは観察されなかった.

Fig.2.11 によると,めっき皮膜はFe-Zn ferrite 単相であると考えられ,地鉄からめっき皮膜に Feが拡散流入して液体Znは全て固化したと考えられる.XRDではめっき皮膜にδ 相がごく 少量存在するだけで,Γ1 相とη 相は存在せず,液体Znがほぼ固化したことを裏付けている.

また240 s以上加熱されたこれらの試料は,LMEによりクラックが生じた加熱時間が120 s〜

225 sの試料と加熱初期に同じ温度履歴を経て,成形された試料であることが強く指摘される.

すなわち今回の実験で試料のめっき皮膜に液体 Zn が生成しその後消失するプロセスが加 熱中に連続して進行したことになる.めっき皮膜に液体 Zn が生じたときにのみ成形時にクラ ックが発生し,液体 Zn が消失するとクラックが発生しなくなる挙動は,本研究における LME 現象の本質を表していると考えられ興味深い.

LMEによりクラックが発生した試料で,加熱中めっき皮膜に液体Znが生成したことを確認 するため,成形時に大きなクラックが発生した加熱時間が120 sと150 sの試料の非成形部の 断面を走査型電子顕微鏡にて観察した.得られたSEM像をFig.2.12に示す.めっき皮膜に 割れが見られるものの地鉄にクラックは観察されず,LME は生じていない.めっき皮膜は SEM 像において白色相と淡い灰色相の二相からなっていた.EDS 分析によれば白色相は Zn濃度が高く,加熱時間が120 sの試料ではZn濃度は76〜85 wt.%,150 sの試料で85 〜

90 wt.%であった.Zn濃度の高い相は加熱時に生成した液体Znに由来すると考えられ,そ

の濃度はZnめっき皮膜の平均Zn濃度よりもかなり高い(平均Zn濃度は加熱時間120 sの 試料で44 wt.%,150 sの試料で39 wt.%).Fig.2.12の白色相のZn濃度はΓ1 相のZn濃度

の 75 wt.%より高く,試料が加熱された際に包晶反応温度を超えてめっき皮膜に液体 Znが

生成したことを支持する結果である.

Fe-Zn二元平衡状態図7)によると,試料のめっき皮膜で同定されたδ 相は,672 °C以下で

液体Znから生成すると考えられる.η 相も液体Znが固化し生成すると考えられる.そこで

Table 2.2.に示すδ 相とη 相のXRD強度の和を,成形直前にめっき皮膜に存在した液体

(41)

37

Fig.2.12 BSE images and spot EDS zinc concentrations for coating layer of non-deformed as-polished specimens heated for 120 and 150 s.

(42)

38

Zn量と相関する指標と考えた.この指標に対して各試料の最大クラック深さをプロットし

Fig.2.13に示した.η 相とδ 相のXRD強度の和の増加に伴い最大クラック深さは増加しそ

の後飽和した.LMEにより生じた最大クラック深さは,成形直前のめっき皮膜の液体Zn量と 相関しており,

(a)顕著なクラック発生には一定量以上の液体Zn量が必要なこと

(b)液体Zn量の増加と共にクラック深さは深くなるが,その最大値に上限があり,

上限値を超えて液体Zn量を多くしても最大クラック深さが変化しないこと

がわかった.また本実験条件における最大クラック深さは127 μmであった.

2.5. 結論

ホットスタンプ(HS)におけるGA の LME挙動を調べる目的で,V曲げ成形時に地鉄のク ラック発生におよぼす HS 時の加熱時間の影響を調査した.クラックの幅と深さ,めっき皮膜 の Zn 濃度と構成される金属および金属間化合物相,めっき皮膜と地鉄の金属組織を調べ 以下の結論を得た.

1. 加熱時間が120 s〜225 sの試料で,めっき皮膜から地鉄にクラックが発生して伝播した

加熱時間90 sと240 s以上の試料では,地鉄にクラックは発生しなかった.これらの試料

ではめっき皮膜に割れが生じたが,クラックはめっき皮膜に留まり,地鉄への伝播は見 られなかった.

2. 試料をピクリン酸で腐食後,断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ,めっき皮膜は 結晶粒径が約10 μmより大きいFe-Zn ferrite粒と隙間部から構成された.地鉄の金属 組織は旧γ粒界で囲まれたマルテンサイト組織であった.

3. クラックが発生した試料では,クラック側壁部は旧γ粒界の輪郭と一致し,クラック側壁に Znの濃化部が観察された.クラックはめっき皮膜の液体Znが成形時に地鉄のγ粒界に 侵入してLMEが生じたため発生した可能性が高いことが判明した.

4. LMEによるクラックは,めっき皮膜の化学組成と炉加熱時の最高到達温度がFe-Zn二

(43)

39

Fig.2.13 Maximum crack depth as a function of the total X-ray diffraction intensity of δ and η phases in the coating layer. Open marks show the occurrence of LME, whereas closed marks indicate its absence.

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40

元平衡状態図上の液体ZnとFe-Zn ferriteの二相域に位置する場合にのみ生じた.す なわちLMEは炉加熱時にめっき皮膜に液体Znが存在する場合にのみ生じることがわ かった.液体 Znは炉加熱中に生成し,成形時にもめっき皮膜に残存した可能性がある ことがわかった.

5. 加熱時間の経過により,めっき皮膜のZn濃度は地鉄からのFeの拡散流入により希釈さ れた.断面観察でめっき皮膜と地鉄の界面に反応層は明瞭に確認されなかった.文献 値から判断するとγ-Fe中のZnの拡散は極めて遅いことから,めっき皮膜と地鉄の反応 生成物は,今回の実験条件では明瞭に生成していないと考えられる.地鉄のクラックの 起点は地鉄とFe-Zn ferrite層の接点ではなく地鉄とめっき皮膜中に生成した液体Znと の接点が起点と考えられた.

6. クラックが発生した試料では,めっき皮膜のδ 相とη 相のXRD強度の和の増加に伴い LMEによる最大クラック深さは大きくなり,127 μm程度で飽和した.δ 相とη 相のXRD 強度は加熱時にめっき皮膜に生成した液体 Zn 量を反映する指標と考えられる.LME によるクラックはめっき皮膜に液体Znが生成すると発生し,液体Zn量が増えるとともに クラックは深くなるが,液体 Zn 量が一定量以上存在してもクラックはそれ以上伝播しな い挙動を取ることがわかった.

参考文献

1) P. Drillet, R. Grigorieva, G. Leuillier and T. Vietoris: Proc. GALVATECH 2011 Conf., Genova, Italy, (2011), 371.

2) H. Karbasian and A. E. Tekkaya: J. Mater. Proc. Technol., 210 (2010), 2103.

3) JCPDS card No. 33 - 697

4) P. J. Gellings, E. W. Bree and G. Gierman: Z. Metallkd., 70 (1979), 312.

5) JCPDS card No. 4 – 831

6) A. Sengoku, H. Takebayashi and K. Matsumura: Hot Sheet Metal Forming of High-Performance Steel, Prof. 5th. Int. Conf.,Verlag Wissenschaftliche Scripten, Auerbach, Germany (2015), 363.

(45)

41

7) B. P. Burton and P. Perrot in: Phase Diagrams of Binary Iron Alloys, ed. by H. Okamoto, ASM International, Materials Park, Ohio, (1993), 459.

8) R. Mishra: Metall. Mater. Trans. A, 39A (2008), 2275.

9) H. Schwinghammer, G. Luckenender, T. Manzenreiter, M. Rosner, P. Tsipouridis and T.

Kurz: Hot Sheet Metal Forming of High-Performance Steel, Prof. 4th. Int. Conf., Verlag Wissenschaftliche Scripten, Auerbach, Germany (2013), 527.

10) C. W. Lee, D. W. Fan, I. R. Sohn, S. J. Lee and B. C. D. Cooman: Metall. Mater. Trans. A, 43A (2012), 5122.

11) R. Kainuma and K. Ishida: Tetsu-to-Hagane, 91 (2005), 349.

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Kazma, Vol. 1, 1989, recalculation of the data presented by S. P. Gupta, F. T. Parthiban, Z.

Metallkd., 76 (1985), 505.

以上

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42

3 章 ホットスタンプにおける合金化溶融亜鉛めっき鋼板の 液体金属脆性 (LME) 現象の解析

3.1. 緒言

第2章ではZnめっき鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いて,HSの加熱時 間を変化させた後V曲げ成形を行い,LMEクラックの発生と加熱によるめっき皮膜の化学組 成・相変化との関係を調査した.クラックは地鉄の旧 γ粒界に沿って発生すること,クラックは めっき皮膜に生成した液体Znがγ粒界に直接侵入することで発生することを明瞭に示した.

加熱時の最高到達温度とめっき皮膜の平均 Zn濃度が,Fe-Zn二元平衡状態図1)上の液体 Zn生成領域内に位置する場合にLMEクラックが発生することを示し,その裏付けとしてめっ き皮膜内に液体Znの痕跡である高Zn濃度部の存在を指摘した.またLMEクラックの最大 深さが,めっき皮膜の液体Zn量に対応することも明らかにした.

めっき皮膜から地鉄のγ粒界に液体Znが侵入することは明らかになったものの,めっき皮 膜は加熱時に Fe-Zn 二元平衡状態図にしたがって液体 Zn と Fe-Zn ferrite に分相し

(Fig.2.12),その後にめっき皮膜に生成する液体Znがどのような経路で地鉄のγ粒界に侵入

するのか,その侵入要件やLMEクラックの発生頻度および伝播・停止機構等に関しては,こ れまで系統的な研究はなされていない.

そこで本章では液体Znと地鉄のγ粒界が接触している界面付近と,クラック周辺部の地鉄 に焦点をあて金属組織の断面観察・解析を行い,前記の疑問点とLMEクラックの発生・頻度 および伝播・停止の機構に関する知見を得ることを目的とした実験を行ったので報告する.

3.2. 実験方法

3.2.1. 供試鋼板および試料作製時の加熱成形条件

鋼板は第 2章と同様の板厚 2.6 mmの GAを用いた.HSにおける加熱は第 2章と同様 900 °Cに設定した燃焼ガス炉内に試料を挿入し加熱した.加熱時間は90 s, 120 s, 150 s, 180 s, 195 s, 210 s, 225 s, 240 sとし,炉内から試料を取り出した後にV曲げ成形を行った.

Table 2.1  Maximum  specimen  temperatures  upon  heating  and  specimen  temperatures  at  the start of hot stamping for respective tests
Table 2.2  Average  zinc  concentrations  obtained  by  EDS  and  XRD  intensity  of  the  identified phases in the coating layer
Table 3.1  Maximum specimen temperatures during heating, and specimen temperatures at  the start of hot stamping, for the respective tests
Table 3.2  The number of characteristic points at the Zn-coating/metal-substrate interface,  of heavily-cracked specimens
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参照

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