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1 総合考察

 本研究の目的は,親を対象にSWRを使ったペアレントトレーニングを実施 し,育児ストレス,育児効力感,自己効力感,セルフモニタリング,親の養育 行動,子どもの行動の変化について,自己評定の観点から検証するとともに,

親の行動や子どもの行動について検証することであった。

5−1−1親による自己評定

 ペアレントトレーニングに参加した親の育児ストレス尺度等の平均点を見る 限り,育児ストレス等の自己評定に及ぼすSWRを使ったペアレントトレーニ ングの効果は十分なものではないように思う。

 そのため,ペアレントトレーニング実施前の育児ストレス尺度の得点の高さ による効果の違いを検討した。その結果,育児ストレス下位項目の「育児に伴 う不安感」では,L群のペアレントトレーニング前において, SWR群の得点は STR群の得点より有意に高く,SWR群において,ペアレントトレーニング後

とフォローアップ得点は,ペアレントトレーニング前得点より有意に低かった。

 「育児環境の不備」では,SWR群において,ペアレントトレーニング後とフ ォローアップ得点は,ペアレントトレーニング前得点より有意に低かった。

 育児効力感下位項目の「自分の子育てを周囲は認めてくれる」では,H群に おいて,SWR群の得点はSTR群より有意に高かった。また,STR群において,

L群の得点はH群より有意に高かった。

 津田・田中・高原・橋本(2012)は,高機能広汎性発達障害のある就学前幼児

トレーニング後,有意に高くなったことを報告している。

 本研究においても,育児ストレスの高いH群において,育児効力感の得点が 上昇したことが示された。

 SWR群のH群において,育児効力感の上昇が示された理由として2点考え られる。第1に子ども役を演じ,客観的に母役を演じるスタッフを見ることで,

参加者との子育てへの一体感を感じたという点が考えられる。第2に,リハー サルで演じたプレイに賞賛や励ましを受けたということが子育てへの自信や安 心感につながったではないかと考える。STR群に有意な効果が見られなかった 理由として,演じたプレイを通して家での様子を参加者で共有したが,ロール

プレイにはアセスメントとしての役割が多く,共感や一体感が少なかったと考 えられる。共感や一体感を得て育児への理解を深めるためには,和やかな雰囲 気の中で交流の時間を多くとる必要がある。

 佐藤・植田・小川(2010)は,ADHD児の保護者に対するペアレントトレーニ ングを実施し,トレーニング開始後,参加者の不安が低減したことを報告して

いる。

 本研究においても,育児ストレスの低いL群において,育児に伴う不安感の 得点が減少したことが示された。SWR群のL群において,育児に伴う不安感 の減少が示された理由として3点考えられる。第1に,アンケートに「『しか る』『指示する』ではなく,『ほめる』『共有する』が多くなった」といった記述 もあり,子役を演じることで,子どもの立場に立った関わりが身に付き,ほめ ることが増え,親子関係が良好になったという点である。第2に,ロールプレ イで,よい関わりを遂行し賞賛される経験をすることが,子どもへの関わり方 の安心感につながったのではないかと考えられる。また,第3に,記録をもと に,子ども役を演じることで,より正確に子どもの行動特徴を知ることができ た点である。そしてロールプレイを通してわかった子どもの行動の特徴や,標        42

的行動に対する適切な支援をスタッフと話し合いながら,養育スキルを身につ けることで,育児に対する不安が軽減したと考えれられる。STR群に有意な効 果が見られなかった理由として,ロールプレイが標的行動のアセスメントの役 割を持ち,子どもの視点に欠けた振り返りである事があげられる。夘木・島谷

(2005)は,ロールプレイで自分の役を演じることは,状況を一方向的に自分の 立場からとらえ,ある意味,自己中心的な見方をすると述べている。今後は,

もともとストレスの少ない群であることを考えると,標的行動の再現に役割交 換を取り入れ,養育スキルを高める場面設定の必要性が示唆される。

5−1−2 親の行動評定

 ロールプレイ,リハーサルによる標的行動の再現が親の行動にどのような影 響をおよぼすか,第3者による行動評定による観点から検討した。「視線の量」

「表情の変化」 「声の抑揚」「積極性」のいずれの得点においても,SWR群の フォローアップ得点はペアレントトレーニング前より上昇が認められた。検定 の結果,いずれも3回目に望ましい方向に変化していた。アンケートに「今ま では(やらないことに)怒ってしまっていて,違う言い方もあるんだというこ

とがわかった」といった記述もあり,子どもの気になる行動に目を奪われ,良 い行動に目を向ける事が大切であることと知りつつ,怒る以外の方法に躊躇し がちであったと考えられる。本研究では,ペアレントトレーニングによって,

こうした不安が軽減されることが明らかになったが,これは役割交換をしなが ら,具体的な行動を繰り返しリハーサルし,賞賛など好ましいフィードバック を得ることによって,養育スキルの向上が見られたと推測される。さらに,自 分だけでなく参加者すべてがトレーニングを経験し,視線の量や積極性といっ た同じスキルの必要性を共有したことが,実際に望ましい行動を促進したこと

5−1−3 CBCL

 SWRを使ったペアレントトレーニングの実施により,子どもの行動にどのよ うな影響を及ぼすのか,親の評定による観点から子どもの行動を検討した。

SWR群の内的尺度得点については,ペアレントトレーニング後の得点とフォロ ーアップの得点は,ペアレントトレーニング前より減少が認められた。以上の 点から,SWRを使ったペアレントトレーニングの実施により,SWR群において,

CBCLの内的尺度の減少の傾向が認められることが示唆された。得点の減少が 見られた親の評定を見ると,不安や抑うつといった領域の「よくすねる」 「こ わがり」といった項目の得点が減少していた。 「子どもの困った行動に対する 対応の仕方も,自分の行動を客観的に振り返ることで見えてきた」といった記 述もあり,親の養育態度の変化が,子どもの望ましい行動を促進するとともに,

さまざまな行動の「気になる」程度を減少させたと考えられる。

2 本研究の限界と今後の課題

 本研究の限界と今後の課題を5つ述べる。

 第1に母親教室に集まった対象者にペアレントトレーニングを行った場合,

標的行動は個別で,それらをすべて統制してロールプレイの効果を計ることが 困難である点である。この点を改善するためには,2群に分けて時期をずらし て介入を行う多層ベースラインデザインを導入することや,介入と除去を交互 に繰り返すABABデザインを実施することなどペアレントトレーニングの実施 方法を工夫することが課題であると考えられる。

 第2にSWRにおける役割交換が,セルフモニタリングに影響を与えるという 仮説を立て,役割交換のあるSWR群と,役割交換のないSTR群の親の自己評定        44

を調べた。育児ストレスの不安においてはストレスの低いL群においてSWR群 に効果が認められたが,自己監視(セルフモニタリング)スキルを高める効果 が十分に得られないことが示された。上野・野呂(2010)は,ビデオフィードバ

ックのあるペアレントトレーニングにおいて,親が自身の行動をビデオで観察 し(自己観察),それについて言語で記述し(自己記録),自己監視(セルフモ ニタリング)スキルの形成を促進したことを示している。ペアレントトレーニ ングにおける自己監視スキルを高めるために,役割交換のあるロールプレイを 改良し,親が自身の行動を振り返るプログラムを構築することが今後の課題で ある。また,STR群とSWR群の両群の違いは,ロールプレイの種類の違いであ ることを仮説として立てたが,STR群ではアセスメントの1回に対し, SWR群 ではアセスメント,モデリング,リハーサルの3回で,両群には,ロールプレ イの回数の違いがある。SWRの効果としては,ロールプレイの種類の違いと同 時に,回数の差も要因として考えられた。よってSWRの効果を調べるためには,

ロールプレイの種類以外の要因を統制して実施することが,課題であるといえ

る。

 第3にSWRを使ったペアレントトレーニングを実施したが,SWRのないペア レントトレーニングにおいても,親の育児ストレスの軽減は示され(佐藤・植 田・小川2010),養育に関する効力感が高まっている(井澗・上林2011)。今 後,SWRを使ったペアレントトレーニングを実践するにあたり,その効果を調 べる尺度を工夫することが課題である。

 第4に教員が学校で実施するペアレントトレーニングについては,参加者は 子どもを学校に送りに来て,そのまま学校内で参加できるように開催日時を設 定した事から,参加者の出席率が高い結果となったといった利点が挙げられて いる(島宗・竹田2010)。しかし,島宗・竹田(2010)によると,教員へのア

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